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自衛隊は「オスプレイ」を使いこなせるか?
ハードウエア以上に行動哲学・組織論が大切
2013.06.27(木)北村 淳:プロフィール アメリカ海兵隊中型輸送機「MV-22Bオスプレイ」が海上自衛隊の「しもきた」や「ひゅうが」に着艦したり「ひゅうが」の格納庫に収納したりする訓練は、「ドーンブリッツ2013(夜明けの電撃戦2013)」における数々の水陸両用作戦訓練の中でも注目度が最も高い訓練の1つであった。
そのため、アメリカ海兵隊のウェブサイトでもトップ扱いになったり、海兵隊が撮影した着艦や格納シーンの写真や動画が多数掲載されて関心の高さを示している。
オスプレイの「ひゅうが」着艦をトップで伝える海兵隊公式サイト
もちろん、日本と違って「オスプレイの危険性」といった過去の神話など話題にしていないアメリカ軍が関心を示しているのは、海兵隊の虎の子であるオスプレイが初めて日本の軍艦に着艦し、さらには格納庫に収納までした、という「歴史的」出来事に対してである。
島嶼奪還にオスプレイが必要? 昨今、自民党などを中心に「自衛隊にもオスプレイを配備すべきではないだろうか」といったアイデアが現実味を帯びて議論されるようになってきている。
「ひゅうが」に着艦し折り畳みを開始したオスプレイ(写真:米海兵隊)
「オスプレイを導入すべきである」という議論の多くは、中国の露骨な尖閣諸島確保の動きに関して、島嶼(離島部)防衛のためには島嶼奪還能力が不可欠であり、そのためには水陸両用部隊が必要となり、そのような部隊にとってオスプレイはなくてはならない装備である、といった理由により自衛隊にもオスプレイを導入すべきであると主張している。このような主張をより単純化して、中国の東シナ海進出に対する抑止力強化のためにオオスプレイを導入せよ、といった論調も少なくない。
オスプレイは日本でどのように役立つのか折り畳んで「ひゅうが」の格納デッキに
収納したオスプレイ(写真:米海兵隊)
この時の「日本へのオスプレイ導入」は、単なる話題にすぎなかったのだが、海兵隊・海軍関係者はともに日本周辺の作戦計画に精通しており、日本周辺の防衛事情のエキスパートである。そんな面々を前に、ベル・ボーイング社幹部は「日本への売り込みは、当然視野に入れている」と語っていた。したがって、単なる“茶飲み話”以上に内容のあるものであった。
「しもきた」に着艦するため接近するオスプレイ(写真:米海兵隊)
そして、なんといっても国土が狭いが細長い島嶼地形である日本での「迅速さ」が決め手となる災害救援活動をはじめとする自衛隊部隊急速展開にとって、オスプレイはこの上なく有用な輸送機である。その理由こそ、ベル・ボーイングが日本に売り込む際に準備すべき説明資料の根幹をなすべきであろう、ということになった。
オスプレイ導入で島嶼奪還能力が身につくわけではない「しもきた」に着艦したオスプレイ(写真:米海兵隊)
例えば日本の離島が中国に占領され、それを奪還する作戦が現実のものとなった場合、従来はCH-46あるいはCH-53といった輸送ヘリコプターを使用していた場面にオスプレイを投入すると、時間も距離も格段と有利となり、作戦全体に利することになる。
このように、確かにオスプレイは従来の輸送ヘリコプターに比べて格段に島嶼奪還作戦を含んだ水陸両用作戦を向上させることには疑問の余地がない。
だからといって、オスプレイを自衛隊に導入すれば、水陸両用作戦能力はもとより島嶼奪還能力が身につくわけではない。オスプレイという装備が「まず、ありき」ではなく、水陸両用作戦能力が備わっている組織が「まず、ありき」であることは自明の理である。
したがって、自衛隊の現状を知る彼らが、水陸両用・緊急展開作戦を実施する専門組織がないという現時点で日本がオスプレイを手にするとした場合、どのような作戦に最も貢献するのか? という視点から考えると、大規模自然災害などに対する救援支援活動に大活躍をする、という答えになったわけである。
海兵隊の行動哲学と組織論を学べ アメリカ海兵隊は水陸両用作戦のエキスパート組織であるとともに、世界中に海軍水陸両用戦隊とともに出動する緊急展開軍として位置づけられている。そのアメリカ海兵隊の特徴をより強化するために計画された21世紀型海兵隊の“三種の神器”とも言えるものが、「新型中型輸送機」「新型水陸両用強襲車」「新型エアークッション揚陸艇」であった。
しかし、予算や技術的問題によって、新型エアークッション揚陸艇は現行のエアークッション揚陸艇(LCAC)に延命補修を施すにとどまり、新型水陸両用強襲車は計画が頓挫して現行の水陸両用強襲車(AAV-7)を延命改修するとともに、より廉価版新型車両(ACV)の開発に着手したという状況である。したがって、海兵隊の夢が実現したのは、現在のところ新型ティルトローター中型輸送機MV-22Bオスプレイだけということになった。
このように、なかなか計画したように装備を手にすることができなくとも、なんとか現在手にしている装備をやりくりして水陸両用作戦・緊急展開作戦をこなしてきたのがアメリカ海兵隊である。
これはなにも上記の21世紀型三種の神器だけでなく、海兵隊の歴史をひもとけば、常に陸軍よりも旧式の小銃を装備させられたり、旧式の戦車を装備させられたりしていたにもかかわらず、アメリカの先鋒部隊として戦ってきた伝統が理解できるであろう。要するに、アメリカ海兵隊の真髄は、その装備ではなく行動哲学と組織論に依存しているのである。
いくら、水陸両用作戦や緊急展開作戦に有用な最新装備を身につけていても、海兵隊独特の行動哲学(これは「WARFIGHTING」という海兵隊ドクトリン総論に記されている)と、海兵隊が自らの経験から生み出した作戦組織構造である海兵空地任務部隊(「MAGTF」マグタフと呼称される)を身につけなければ、アメリカ海兵隊的な作戦行動を実施できる組織にはなり得ない(拙著『アメリカ海兵隊のドクトリン』芙蓉書房出版参照)。
もちろん、水陸両用・緊急展開作戦を実施するのはアメリカ海兵隊だけではない。そのため、例えば日本が独自の行動哲学と組織構造を生み出して、より効率的で精強な水陸両用・緊急展開作戦を実施する軍事組織を構築できる可能性もゼロではない。しかし、現状では世界最強の水陸両用・緊急展開作戦能力を保持しており様々な実績を残しているアメリカ海兵隊から多くを学び取る必要があることには疑問の余地はない。
忘れてはならないソフト面の導入 したがって、日本がオスプレイを導入するのは、もちろん日本独自の水陸両用作戦能力を構築するための一助になることは間違いはないが、オスプレイがなければ水陸両用作戦はできないというわけではない。
6月6日の本コラム(「自衛隊の歴史的快挙、水陸両用戦隊が『夜明けの電撃戦』に参加」)でも登場したニューシャム海兵隊大佐は「自衛隊は水陸両用作戦に必要な装備の80%以上をすでに手にしている。あとは、それらの装備を活用して水陸両用作戦を実施するノウハウを習得して、徹底して訓練すれば自ずと水陸両用作戦能力が構築できる」と口癖のように語っており、アメリカのメディアに対してもこのようなコメントを述べている。
もちろん武器・兵器は重要な軍事能力の要素であることは否定できない。しかしながら、日本では水陸両用作戦に限らず軍事能力というとハードウエアにばかり話題が集中してしまうが、アメリカ海兵隊の歴史は、ハードウエア以上に大切なのが行動哲学・組織論といったソフトウエアの側面であることを忘れてはいけない。そのことを上記のニューシャム海兵隊大佐のコメントは述べているのである。
オスプレイ導入論者は、オスプレイ導入と並行あるいは先行して、水陸両用・緊急展開作戦実施組織に必要な行動哲学や組織論の導入も推進することを忘れないでほしい。それによって初めて、この極めて多様性があり有能な輸送機であるオスプレイの能力を生かし切ることができるのである。 JBpress.ismedia.jpより引用
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