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米陸軍が国防費枯渇で存亡の危機に、
立ちはだかる中国の「A2/AD戦略」 2013.09.05(木)北村 淳
先週、アメリカ・バージニア州フォートベルヴォア陸軍基地の将校クラブで、米陸軍、米海兵隊、米特殊作戦軍が主催する「戦略的陸上戦力」に関するカンファレンスが研究者なども招いて開かれた。
この会合は、陸軍が中心となって呼びかけられた。陸軍は、自分たちが打ち出そうとしている「戦略的陸上戦力」という新しいコンセプトを、陸上での戦闘に関わっている海兵隊と特殊作戦軍と共に盛り上げて、海軍と空軍を利する「エアシーバトル」(AirSea Battle)に対抗して陸軍の存在意義を高めようと考えた。なぜならば、強制財政削減の直撃を受けたアメリカ全軍の中でも、存在価値まで問われだしたのが極めて巨大な組織(予備役・州兵を加えると兵力およそ110万5000名)である米陸軍──“大”陸軍──だからである。
存在理由を問われている米陸軍の思惑 「戦略的陸上戦力」とは、いまだに具体的な戦略を伴った構想が確立されているとは言えないが、「イラクやアフガニスタンでの10年以上にわたる戦争はなぜ失敗に終わったのか?」という反省から引き出された教訓をもとに“大”陸軍を生まれ変わらせようとする構想である。
すなわち、これからアメリカが直面するであろう軍事行動には、敵の軍事目標を殲滅する「太い棍棒の領域」だけではなく、現地の言葉はもちろん文化や習慣、それに現地の人々の考え方や感情などを理解し現地の社会に溶けこみ協働する「人間的領域」に対処する備えが必要である。「これら2つの領域での作戦を同時にこなしていくためには、やはり大規模な陸軍が必要なのである」というのが、米陸軍が言わんとしたいところである。
そこで、イラクやアフガニスタンの人々の間に入り込み、現地の言葉で会話を交わし、現地の人々の考え方を理解し、現地の人々が何を欲しているのかを把握したうえで様々な作戦を実施してきた「人間的領域」のエキスパートである特殊作戦軍と、イラクやアフガニスタンで陸軍部隊の“戦友”として陸上戦闘に従事してきた海兵隊を“仲間”に加えて、「戦略的陸上戦力」を表看板に掲げて、陸軍の存在価値を政府や連邦議会、そしてアメリカ社会に認識させようというのである。
陸軍と組む必要がない海兵隊 特殊作戦軍は、自らの“おはこ”である「人間的領域」への対処を強調する「戦略的陸上戦力」の考え方には当然のことながら乗り気である。しかしながら海兵隊があまり陸軍に協力的でないのは明らかである。なぜならば、フォートベルヴォアでの会議には海兵隊からの出席者は少なく、発言も極めて控えめであったからである(ちなみに、この種の戦略的テーマに関する会議では、通常最も雄弁を振るうのは海兵隊というのが定評になっている)。
海兵隊としては、これまでのイラクやアフガニスタンでの擬似陸軍部隊的な作戦行動から、「(海兵隊本来の)海から陸へ」、すなわち水陸両用作戦を表看板にかけ直そうという取り組みの最中であり、なにも陸軍と協力して再び陸上戦闘部隊の側面を強調する気はない。
そしてなにより、海兵隊は海軍が主導する「エアシーバトル」構想においても重要な役回りを与えられるはずである。そうであるならば、陸軍とはイラクとアフガニスタンでまさに戦友として数々の激戦や厳しいパトロール活動を共にくぐり抜けてきたとはいっても、得体の知れない「戦略的陸上戦力」などという概念を振りかざす“大”陸軍と同盟する必要性は乏しいのである。
「アジアシフト」に立ちはだかる中国人民解放軍 そもそも「戦略的陸上戦力」というのは、オバマ政権による「アジアシフト」に勢いを得て注目を浴びている「エアシーバトル」に対抗するためにアメリカ陸軍が打ち出そうとしているコンセプトである。
その「アジアシフト」を露骨な言葉で表現するならば、「中国人民解放軍を打倒することを念頭に置いた軍事的準備態勢を取る」ということになる。
中国人民解放軍の対アメリカ軍事戦略は「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」と呼ばれている。すなわち、アメリカ軍とその同盟軍が中国人民解放軍による作戦海域に侵攻してくることを阻止し、もし作戦海域に外敵が侵入した場合には外敵の自由な作戦行動を阻害する、といった基本方針である(作戦海域は、まず「第1列島線」と呼ばれる東シナ海や南シナ海などの海中・海上・上空から始まり、将来的には地上発射型対艦ミサイル最大射程圏あるいは「第2列島線」と呼ばれる西太平洋やフィリピン海へと拡大する。下の地図参照)。
このような「A2/AD戦略」に立脚する中国人民解放軍との軍事衝突が避けられなくなった場合に想定される主戦場は海洋(海上・海中・上空それに域内の島嶼)ということになる。そこで、「A2/AD戦略」を念頭に置いてアメリカ海軍が中心となって編み出してきたのが「エアシーバトル」構想である。したがって「アジアシフト」を標榜するオバマ政権の軍事戦略の支柱として「エアシーバトル」が採用されたのは当然の帰結と言える。
中国人民解放軍を打ち破るのは海軍か陸軍か 「エアシーバトル」構想では中国人民解放軍を撃破する主役となるのは米海軍と米空軍ということになり、限定的には米海兵隊も活躍することになる(例えば中国軍が宮古島を占領した場合の奪還作戦は、米海兵隊と米海軍水陸両用戦隊、それに新設自衛隊水陸両用戦部隊が実施する)。
しかし、大規模陸上戦闘部隊、すなわち米陸軍の出番はない。
米陸軍が生み出した「エアランドバトル」(AirLand Battle)が主役であった湾岸戦争やイラク戦争それにアフガニスタン戦争ではほとんど“出番がない”状況が続いていた米海軍にとって、「アジアシフト」は、強制財政削減という大逆風の中とはいえ、“主役”に躍り出るチャンスなのである。
一方の陸軍は、「エアシーバトル」では活躍の場がなくなるだけでなく、イラク戦争やアフガニスタン戦争での惨憺たる失敗の詰め腹を切らされかねない状況に直面しており、さらには強制財政削減措置(これは陸軍だけの問題ではないのであるが)というダメ押しまで加わってしまった。
その結果、これまでアメリカ海兵隊がいくども経験してきた組織存在の危機に、今度は“大”陸軍が直面することになったのである。
(例えば第1次世界大戦後、「海兵隊は陸軍と変わりがないから陸軍に編入すべきである」との声が高まり、海兵隊の消滅は免れたが、海兵隊将校団定数は半分以下になり、下士官兵定数は25%以下の規模にまで減らされた。その後も海兵隊は、この種の組織存続の危機に幾度かさらされた)
米陸軍は、オバマ政権の「アジアシフト」に関連して、「アジアには海も多いが広大な陸地があるため、アジアシフトはエアシーバトルを意味することにはならず、広大なアジアの大地で中心となって活動できるのはやはり陸軍である」と主張している。それとともに、「人間的領域」それに対サイバー戦などに対応できるのは「何と言っても“大”陸軍である」ことを強調し「アジアシフト」から陸軍力を除外する傾向に異を唱えている。
しかしながら、中国の基本戦略が「A2/AD戦略」である以上、中国人民解放軍を打倒するには何と言っても「エアシーバトル」に軍配が上がるのは避けられない。
この種の議論から日本が学ぶべき点 強制財政削減措置によりアメリカ国防予算は大幅に縮小されつつあり、各軍とも未曾有の危機に直面している。中でも、上記のように、米陸軍はこれまでに経験したことがない組織の存在意義そのものを問われるという事態に直面している。
しかしながら、限られた予算を最大限に効率よく分配して国防の任務を全うするのは、国防当局の責務の第一歩である。特に現在は、機械化・ハイテク化により、ますます多額の予算が必要な状況となっている。そのため、それぞれの組織(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)の存在理由から問い直して必要な規模や内容を抜本的に見直す作業は、苦しくとも避けては通れない道である。
これは日本にとっても決して他人事ではない。米国に比べると極めて貧弱な国防予算しか割り当てられていない日本国防当局としては、アメリカ国防当局以上に各自衛隊の存在理由を再検討して、限られた国防費によって最大限の効果を上げる方向性を模索するのが当然の姿であろう。
何と言っても日本はアメリカよりも直接中国人民解放軍の脅威にさらされ、領土・領海失陥の危機にさえ直面しているのは大多数の日本国民が実感しているところである。
中国の「A2/AD戦略」にせよ、アメリカの「エアシーバトル」にせよ、それらの戦略的概念においては日本は主たる戦域に組み込まれている。それどころか日本の航空基地や海軍基地はアメリカ空軍・海軍・海兵隊にとっては「エアシーバトル」遂行にとって欠かせない存在である。もちろん、それらの基地は中国の「A2/AD戦略」にとっては真っ先に無力化してしまいたい目標である。
したがって、日本としては、唯一の同盟軍が打ち出している「エアシーバトル」と連動させ、さらには台湾、フィリピン、オーストラリア、ベトナムといった友好国をも巻き込んだ形で、当面の軍事的脅威である「A2/AD戦略」に対抗し得る基本戦略を打ち出す必要がある。それとともに、各自衛隊の存在理由・存続価値といった国防政策の第一歩から問い直して、限られた国防予算(たとえ倍増されたとしても国際水準からすれば依然として“貧弱”の域を出ない)をどこに最大限有効に割り当てるか、という、厳しいが必要な作業に取り組まねばならない。
JBpress.ismedia.jpより引用
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米陸軍
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