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台湾有事は日本有事と心得よ
その時に、わが国はどう備えなければならないか?
2012.03.22(木)樋口 譲次:プロフィール 中東における対テロ戦に一応の決着をつけた米国は、戦略の重点をアジアへ向けて急転換している。その矛先は、21世紀の東アジア/アジア太平洋地域において、安全保障・防衛上の最大の懸念材料となっている中国である。
アジアを主戦場とした「米中冷戦」はすでに始まっている 中国は、2007(平成19)年2月、対米衝突を想定した衛星破壊兵器(ASAT)の実験を敢行した。また、中国のサイバー戦専門部隊による米国の軍や公共機関のコンピューターネットワークに対するサイバー攻撃は、米国では2000年代初頭から公式に指摘されようになったが、すでに常態・多発化する傾向にあって、重大な脅威と認識されるに至っている。
地図中の赤い線、左が第1列島線、右が第2列島線
(ウィキペディアより)
台湾有事などの際には、中国軍は第1列島線を突破して第2列島線まで進出し、でき得れば第2列島線以遠、やむを得ない場合でも第1列島線以遠に米海軍の接近・進出を阻止することを目標としている。
当該地域から米国の影響力を排除して同エリアを支配し、自国の意図のままに、その意思や要求を周辺諸国に押し付けんがためである。当然ながら、日本列島は、中国が目指す戦略の主要な標的として組み込まれている。
これに対し、米国は、電力、通信、輸送などの国家的インフラや国家機構への大規模なサイバー攻撃は、国家の関与なしには成し得ないとして、それを「戦争行為」と定義し、ミサイルなどによる報復攻撃も辞さない構えである。宇宙・サイバー空間では、米中の熾烈な戦いが繰り広げられている。
また米国は、中国の「接近阻止・領域拒否」戦略に対抗する相殺戦略(offset strategy)として「エアシーバトル(Air-Sea Battle、空海戦)構想」を打ち出した。そして、2011年末、アジア回帰・アジア重視の姿勢を鮮明にするとともに、オーストラリアへの米海兵隊の配置、ミャンマーとの関係改善、東南アジア・インドとの協力強化など、矢継ぎ早に対中戦略態勢の構築に動いている。
一時期、米中間は、経済的相互依存の深まりを重視して戦略的互恵関係を標榜しつつも、水面下では静かな戦いが進行しているという意味で、「米中静戦」との見方もあった。しかし、上記のように、すでにその段階を優に超えて「米中冷戦」は始まっているのである。
東西冷戦間、アジアには、朝鮮戦争とベトナム戦争に代表されるように冷戦が熱戦化した歴史がある。そのいずれにも、米中は、敵対する関係で直接的・間接的に関与した。特に、朝鮮戦争において、両国は直接戦火を交え、1年数カ月にわたって死闘を繰り返した。
当時、中国(共産党)指導部には、北朝鮮の金日成による南進統一の前に「台湾解放」を先行すべしとの意見(「台湾解放」先行論)があった。しかし、ソ連のスターリンは、自国の支援下に、中国が台湾解放に向かえば米国との対立は避けられないと判断し、世界大戦に発展することを極度に恐れてこれを拒否した。台湾を舞台とした本格紛争はひとまず回避されたが、以来、「台湾解放」あるいは「台湾統一」は常に燻り続けてきた問題なのである。
アジアでは、冷戦はいまだ完全に終わっていない。朝鮮半島そして台湾問題に象徴されるように、冷戦がもたらした国家の分断に起因する一触即発の厳しい軍事的対立が存在し、米中間の確執は依然として解消されていない。そして今日、米中冷戦が再燃し、新たな局面を迎えている。しかも、東西冷戦は欧州が主戦場であったが、米中冷戦はアジアが主戦場である。
中国は、台湾を「核心的利益」とし、「台湾統一」は最優先課題であると主張している。一方、米国は「台湾関係法」によって中華民国・台湾の立場を擁護しており、両国の歴史的また基本的対立の根深さについて改めて意識せざるを得ない。
この台湾問題は、中国と台湾の当事国(地域)をはじめ、米国、その同盟国日本を含めた東アジア諸国の動向いかんによって、いつ熱戦に発展するか分からない不安定、不透明な状況下に置かれている。そして、いったん台湾有事になれば、中国が宿敵として構える日本に及ぼす影響は計り知れないほど大きいのである。
台湾有事は起こり得るのか? 中国が海洋進出を模索し始めたのは、1970年代にさかのぼる。当時、中ソ対立は依然深刻な状況にあったが、両国の国境画定のための協議・交渉は続けられていた。国境問題が解決しない限り、中ソとも大規模な陸軍兵力を国境沿いに張り付けなければならないからである。
そして、中国は、1985(昭和60)年、陸軍を主体とする100万人の兵力削減を発表した。まだ、中ソ国境協定の締結(1991年)には至っていなかったが、海洋進出の主役となる海空軍や核・ミサイル戦力などの増強近代化へ転換できる基本情勢が整いつつあると判断したからだ。
4000年の歴史を語るだけあって、中国の海洋進出の戦略は、相当以前から始動した息の長い、また壮大なものであることを認識し、その対応に遺漏のないようにしなければならない。
中国の海洋方面に対する戦略は、一言で表現すると「覇権的拡大戦略」であり、下記の4つを目標としていることは間違いない。
(1) 海洋方面における防衛線をより遠方に広げ、安全保障の緩衝地帯を拡大すること
(2) 黄海から東シナ海、南シナ海へ連なる中国近海周辺における資源エネルギーなどの海洋権益を排他的・独占的に確保すること
(3) 中国の周辺諸国を自国の意思や要求に従わせ、地域覇権を確立すること(中華的地域統合)
(4) 米国主導によって出来上がった現行の国際秩序(国際法を含むシステム)を覆し、自国に都合のいい国際秩序に置き換えること(世界的影響力の拡大)
その中で、中国は、台湾を第一の「核心的利益」に位置付け、台湾が独立を宣言したり、外国勢力が介入した場合には軍事力で台湾を制圧することを公言するとともに、その能力保有を軍事力増強近代化の最大の理由としている。
中国の国防費は、過去二十数年にわたって毎年概ね2桁の伸び率を記録し、過去5年間で2倍以上、過去20年間で約18倍の規模に拡大している。その結果、中国と台湾(両岸)の軍事バランスは、明らかに中国優位に傾き、台湾の軍事的抑止力は年々急速に低下している。
中国の武力による台湾統一の最大の障害は、言うまでもなく米国の存在である。その障害を排除するため、中国は米国の軍事介入を阻止する「接近阻止・領域拒否」戦略を掲げ、米軍との直接対決にも勝利し得る能力を急速に構築しつつある。 |
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2012年03月27日
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