本書の題名は、『太平洋戦争 日本の敗因〈2〉ガダルカナル 学ばざる軍隊』である。
では、果たして旧日本陸軍は「学ばざる軍隊」であったのだろうか?
答えは容易に出る。それは「否」である。
まず、このドキュメンタリーのナレーションで安易に(ソ連軍は)「近代装備が勝敗を決した第一次世界大戦の経験を十分に生かしたのです」という言葉が使用されている。
では、「第一次世界大戦の教訓」とは何なのだろうか?
それは、火力支援の限界である。
戦車が世界で始めて使用され、第一次世界大戦中に一日で攻撃側の最大の戦死者を出した「ソンムの戦い」を例を見れば、それを容易に理解できる。
1400門からなるイギリス軍の砲兵隊が、フランス北部にあるソンムのドイツ軍の塹壕に対して、6日間に渡って173万発の砲弾を休むことなく24時間連続で砲撃を加えたが、ドイツ軍の塹壕の破壊に失敗し、ドイツ軍の塹壕へ殺到したイギリス兵の損失が戦死19,240人、戦傷57,470人、行方不明者2,152人に上った。
攻撃指揮していた英第4軍の司令官ローリンソン将軍は、第一回の攻撃の失敗は、長時間に渡る準備射撃が秘匿性と奇襲性を損なった事実を認め、わずか五分間の準備射撃後に夜間奇襲作戦を行い一定の戦果を収めることに成功した。
この教訓を見ると、ガダルカナルにおける日本陸軍の用兵が必ずしも理に適っていないとの批判は出来ないであろう。 むしろ、良く教訓を取り入れているとも言える。 つまり、解説は明らかに間違っていると断言できる。
では何故、日本陸軍の攻撃が失敗したのか?
理由は単純で、第一次世界大戦時の広大なヨーロッパと異なり、密林地帯では攻撃経路が自ずと限定されて、攻撃側の兵力が密集するため、簡単に待ち伏せして、火力を集中できるからである。
つまり、攻めるに難く守るに易き地形だからに他ならない。
番組中のナレーションを引用して表現するならば、「近代兵器による次元の違う戦いに入ったこと」を認識しているはずのアメリカ軍も、1944年11月に生起したヨーロッパ西部戦線のヒュルトゲンの森の戦いでアメリカ陸軍第28歩兵師団が、ドイツ軍によって文字通り壊滅した。
戦いの経緯はガダルカナルの日本陸軍とほぼ同じ形で、鬱蒼とした密林地帯に波状攻撃を加え、壊滅したのである。
これらガダルカナルとヒュルトゲンの森の戦訓は、攻撃側に不利な地勢で第二次世界大戦当時の装備や戦術レベルの小細工で野戦築城された陣地を突破することは、至難であると証明されたに過ぎない。
それをあたかも日本陸軍(というより日本人の)固有の瑕疵による敗因の追求は、批判のための批判と言っても過言ではないだろう。
番組中に「敵を侮り」との言葉も容易に使用しているが、戦時中に士気を鼓舞するために使用された言葉を、そのまま敵を侮る証拠とすれば、第二次世界大戦に参戦した全ての国家が当てはまるだろう。
将兵の前では楽観論を唱えるのは、全ての国家で行われた行為だからである。
むしろ、歴史を侮って学ばざる組織は、NHKの取材班の方ではないだろうか?