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日露の戦略的和解の必要性と
北方領土返還への道筋 2013.04.01(月)矢野 義昭:プロフィール (2)からの続き
4 北方領土返還の方法とプロセスの比較検討
帰属問題と関連したもう1つの問題は、返還の方法とプロセスである。この問題は上に述べた北方四島の帰属問題とも密接に関連している。
日本側として受け入れる余地のある北方領土返還案としては、(1)四島一括返還、(2)二分割、残余継続交渉、(3)三島先行返還一島継続交渉、(4)二島先行返還二島継続交渉、(5)二分割で妥結、(6)三島返還で妥結、(7)二島返還で妥結などの案が考えられる。
これらの案のうちでは、番号が少ない方が日本にとり有利である。四島の帰属先が日本であることに日露間で合意が成立するか、その見通しがあれば、(1)から(4)のいずれかが採用されることになる。
帰属先を明確にせず、妥結を急ぐならば、四島全島返還を要求せず、(5)から(7)のいずれかで妥結することになるであろう。以下は、帰属問題とは別に、返還方式の観点からその是非を分析する。
このうち、(1)は日本側にとり最も望ましいが、ロシア側としては受入れも交渉もできない案であり、交渉は、平行線をたどることになるであろう。その間に元島民は多くが亡くなり、占領の既成事実化だけが進むことになる。その案では、いつまでも問題の解決はできないであろう。
逆に(7)は、歯舞、色丹の面積比率は北方四島の7.0%に過ぎず、それで妥結することは日本側として了解できない案である。二島返還後も最低限継続交渉は認められるべきである。即ち(4)を追求しなければならない。
(5)と(6)については、択捉島の面積が3184平方キロあり、北方四島の全面積5036平方キロの過半数を占めていることから、(5)の二分割案は(6)の三島返還よりも返還面積が大きく、日本側に有利である。
ただし、(5)の場合は、択捉島に地続き国境ができることになる。地続き国境が日露間に生ずることは、新しい日露対立の原因にもなる。特に、経済難民、不法入国者、亡命者などの発生が予想され、日露間の外交関係も再度悪化するおそれがある。
また防衛警備の観点からも、第二次大戦末期にソ連軍が樺太の日ソ国境線からも奇襲的に南進を開始したように、奇襲侵攻を誘発しやすくなるという問題点が生ずる。
そのような事態を回避するためには、この(5)の場合、択捉島は日露共同管理としてかつ非武装化し、択捉島の北の択捉水道の潜水艦などの出入りをロシア側に保証するなどの措置が必要になるであろう。
オホーツク海のロシア側にとっての弾道ミサイル搭載原潜の展開水域としての価値は今後とも不変と見られることから、二分割案に継続交渉を加えた(2)の案でも、交渉で択捉水道の通峡確保の権利をロシア側が譲る可能性はなく、(5)の結論とほぼ同じ結果になる可能性が高い。そうであれば、(5)で早期に妥結するのが賢明と言えるかもしれない。
また(5)の二分割案は、中露間の河川国境の画定などでも中露が合意している解決策であり、日本側にとっては択捉島主要部のロシアによる占拠継続への不満を別にすれば、国際的にもよくみられる領土紛争解決策である。その点では、ロシア側を説得する余地はある。
(6)の三島で妥結する場合は、国後島の北に国境ができることになるが、ロシア側の合意を得る可能性は、二分割案よりも高い。しかし択捉島は返還が困難になる。その周辺の漁場なども利用できず、国後島と択捉島の交流も閉ざされることになるかもしれない。
この場合の対策として、択捉島に対する日本側の人の往来、入漁権、投資の権利などをロシア側に認めさせ、共同管理に近い形にするということも考えられる。その場合逆にロシア側の国後などへの往来、漁業も認めることになろう。
二分割案よりも日本側の譲歩幅は大きくなる。それだけロシア側は同意しやすい案である。また地続き国境がなく、国境警備に関連する事案、亡命者や不法入国者の取締りなどの問題も対処はしやすくなるという利点もある。
また日本側が最も有利な(1)の四島一括返還が実現したとしても、ロシア人島民を全面的に退去させることは非現実的であり、少なくとも混住の権利、あるいは二重国籍などを認めなければならないであろう。もちろん主権は日本に属することになるが、その場合の統治形態は、実際上は、上の(5)または(6)に近くなるであろう。
これらを総合的に考慮すると、ロシア側との妥結が容易で国境紛争も起こりにくい、(6)の三島返還でいったん妥結したのち択捉島の共同統治を併用するという、(3)に近い案が現実的でありかつ日本にもロシアにも容認できる案ではないかと思われる。
この場合も、(3)を採り択捉島の帰属問題を継続交渉とすることを交渉成立条件とするか、(6)のように妥結を先行させるかという問題は残るが、共同統治形態をとれば、実質的な意味合いは薄まり、たとえ継続交渉になっても深刻な紛争原因にはなりにくいであろう。
ただし、(5)の二分割案も有力な案であり、択捉島の共同管理と非武装化という制約条件をつけで、ロシア側の合意を引き出すこともできよう。
またこれらの交渉の前提として、先に述べた北方四島に対する日本の帰属権を国際的に認知させる努力を北方への防衛力増強と並び、主導的に展開し、日本の交渉力を高めることが必要である。
そのような相対的なパワーを有利にするための実効性のある措置をせず、単に二分割案や三島返還案を出せば、ロシア側に主導権を奪われ、ロシア側の思惑通りの解決案を強要され、不利な国境線を固定化される兼ねないことには、十分な留意が必要である。
今は、日露間で北方領土問題について、双方の指導者が国内に対して説明が可能な方法で問題解決の糸口を見出し、日露が和解に踏み切る戦略的好機である。
5 日露の戦略的和解の波及効果
もしも日露間で平和条約が締結されれば、北東アジアにおけるバランス・オブ・パワーは日露双方にとり有利な方向に転換し、中国は軍事的、準軍事的パワーを中露国境正面にも割かざるを得なくなり、日本の尖閣諸島はじめ東シナ海などの海洋正面にかかる中国側の圧力は緩和されるであろう。
尖閣での日中衝突の可能性は遠のくかもしれない。竹島問題でも前進が見られるようになるかもしれない。
日本としては、北方領土問題、竹島問題、尖閣での日中対立という、同時3正面の情勢悪化を連動させてはならない。その中でも最も古い北方領土問題で前進が見られれば、その他の問題への影響も大きい。
日本は対応能力を他の正面に集中できるようにもなる。他方ロシアにとっても日本との和解により、極東開発の資本と技術、IT分野などのイノベーションが可能となり、またシベリアの資源の新たな輸出先を確保できることになる。
もしも日露で平和条約が締結されれば、様々のプラスの波及効果が予想される。経済面では、日本はこれまで、経済援助は領土問題解決が前提との政経不可分の原則と、ロシア以外からの石油などの輸入が可能であったこと、インフラ整備に資金を要しリスクが大きいなどの理由から大規模な極東開発への投資を拒んできた。
もしも北方領土の帰属問題で前進が見られたならば、日露間の信頼感が高まり、ロシアの極東開発に日本側の資本と技術が提供されることになるであろう。日露間の文化、学術交流なども本格化するであろう。
極東開発では当面は、現在すでに進展しているサハリンのガス田の開発及びシベリアからの石油パイプラインの敷設事業への協力を進めるのが現実的であろう。
特にパイプラインについては中国と競合しているが、対中輸出向けよりも先行して、対日、対太平洋輸出用のパイプラインを敷設させることが重要である。その際にリスクをヘッジするため、これらの経済協力に欧米資本も参加させることを考慮すべきかもしれない。
また北方領土、極東における軍事的な信頼醸成措置、軍備管理交渉なども併行的に行い、軍事的な圧力の低減をロシア側に履行させるための保障措置を進めることも必要である。日本側の北海道の防衛力強化もそのための条件づくりとして必要な措置である。
ロシアとの領土問題の交渉に際しては、ロシアの極東地域の住民、地方政府要人、軍関係者等に対して、過去の正しい歴史、条約上の法的義務などを説明し、日本側の正当性を認識させることが重要である。
また欧米の世論、マスコミ、国連などの国際機関及び韓国、中国、台湾など周辺諸国の世論と政府に対しても、北方領土問題における日本の立場を説明し日本の正当性を明確にすることが必要である。
以上の総合的施策をとれば、北方領土問題が国際化され、新しい解決の道筋が見えてくるであろう。またロシアとの交渉に際しては、日本自らが防衛、経済、金融、技術、広報など総合的な国力を蓄えることが必要である。
外交上も、米英のほか、ロシアとの間で領土問題を抱える他の諸国との連携にも努力をすべきであろう。
また、北方領土問題での前進は、竹島問題、尖閣での日中対立にも前進をもたらすであろう。元島民も年々高齢化している。元島民の帰還のためにも、北方領土問題の早期の解決が望まれる。 JBpress.ismedia.jpより引用
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