ミッドウェー海戦研究所

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海自もぜひとも保有したい「病院船」
米中がフィリピン救援活動に派遣
2013.11.28(木)北村 淳
ィリピンを襲った巨大台風から2週間経った11月22日、中国海軍の病院船が船山軍港を出発しフィリピンに向かった。24日にタクロバン沖に到着した模様であり、本コラムが掲載される頃には、乗船している100名ほどの医師をはじめとするスタッフによる被災者への医療活動が本格化しているものと思われる。
 
 この中国海軍病院船の派遣に関しては、アメリカ軍事関係者の間でもちょっとした話題になっている。
 

アメリカと日本が救援活動「レース」に圧勝

 フィリピンでの発災直後から迅速な救援活動を開始した米軍とは対照的に、南シナ海でフィリピンとの対決を強めている中国は“形ばかりの”支援金(世界第2の経済大国とは思えないほどの金額)を拠出したものの、救助隊や救援支援隊などの派遣は一切実施しなかった。
 
 「敵に塩を送る」といった武士道精神など持ち合わせていない共産党政府としては当然の措置と言えよう。しかし、自衛隊がヘリ空母・輸送揚陸艦・補給艦をはじめとして各種航空機や陸上支援部隊を含んだ大規模救援隊を派遣したため、さすがにアジアの盟主を気取ることが脅かされると考えたのか、あわてて海軍病院船ならびに輸送揚陸艦を派遣して、医療活動をはじめとする支援活動を実施することとなった。
 
 フィリピン救援に関しては(今回のフィリピン巨大台風だけではなく、世界各地での大規模災害に対する国際救援活動では常に行われることではあるが)、国際軍事界では展開規模と展開速度に関する“レース”を注視していた。
 
 結果は、相互救援協定があるアメリカは例外的存在ではあるが、アメリカそして日本が中国に圧勝したということになった。一方、中国が急速に拡張し続けている海軍力は、日本やフィリピンをはじめとする中国周辺諸国を軍事的に威嚇する目的であったことが誰の目にも明らかになってしまった。
 
 アメリカ海軍病院船は発災から5日目にはカリフォルニア州サンディエゴを出発したが、到着は12月に入ってからである。そのため、被災地では中国海軍病院船の方が先に医療活動を開始することになる。
 
 もっとも、先週の本コラムで紹介したようにアメリカ海軍空母ジョージ・ワシントンには立派な医療施設と医療スタッフが揃っており、オスプレイやヘリコプターが被災地から患者を空母に搬送して医療活動を実施しているため、アメリカ海軍が中国海軍の医療活動に後れを取ったことにはならない。
 

船はあっても体制が整っていない中国

 その中国海軍病院船(タイプ920病院船、識別番号866)であるが、中国海軍での呼称は「岱山島号」という。今回の災害救援支援医療活動のような非戦時出動に際しては「和平方舟」(Peace Ark)という船名を名乗ることになっている。
 
 2008年12月22日に就役した「岱山島号」の排水量は1万4000トンで、全長は178メートル。病床数300で、集中治療室を20、手術室を8備えており、大規模手術を1日に40ケース施すことが可能とされている。また、15名分の担架を搬送可能な救難ヘリコプターZ-8JHを搭載し、格納設備も備えている。
 
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中国海軍病院船「岱山島号」(写真:CDB)
 
 中国海軍によると、病院船「岱山島号」を保有することで、世界中の被災地などに人道支援災害救援活動に駆けつけることが可能になるということであった。しかし、今回のフィリピン巨大台風発災後の対応からは国際救援活動に対する準備が(少なくとも政治レベルにおいては)いまだ整っていないことが明らかになった。
 
 これまでに「岱山島号」が出動したのは、2010年9月から11月にかけてアデン湾での海賊対処活動に派遣されたときである。その際には海賊対処に従事していた中国海軍に対する支援活動に加えて、ジブチ、タンザニア、ケニア、セーシェルそしてバングラデシュにおいて人道支援活動を実施した。そして、今回のフィリピンへの出動は、2度目の国際人道支援活動ということになる。
 

タンカーを改造したアメリカ海軍病院船「マーシー」

 上述したようにアメリカは、中国海軍に先立って海軍病院船「マーシー」(T-AH-19)をサンディエゴからフィリピンに向けて出港させた。だが、海軍の船とは言っても病院船の航行速度は速くないため、被災地沖への到着は12月にずれ込む予定となっている。
 
イメージ 2
サンディエゴを出港する「マーシー」(写真:米海軍)
 
マーシーは、現在アメリカ海軍が運用している2隻のマーシー級病院船の1隻で、アメリカ海軍第3艦隊の本拠地であるサンディエゴを母港としており、主として太平洋・インド洋を活動範囲としている。
 
 姉妹船「コンフォート」(T-AH-20)もマーシーも、ともにタンカーを改造して病院船へと姿を変えたため、中国海軍「岱山島号」と比べると巨大な船で、排水量は6万9360トン、全長272.5メートルである。そして、マーシーの最大病床数は1000と「岱山島号」の3倍以上となっている。
 
 海軍病院船である以上、マーシーは当然のことながらアメリカ軍ならびに同盟軍の戦闘活動の後方支援に従事することが主たる任務である。実際に1990年の湾岸戦争に出動して、半年近くにわたりペルシア湾に滞在し、アメリカ軍ならびに多国籍軍の将兵を受け入れ、数千名の“外来”(戦場よりヘリコプターで搬送された)患者を治療し、300件以上の手術を実施した。
 
イメージ 3
マーシーの緊急手術室(写真:米海軍)
 
イメージ 4
マーシーの放射線科治療室(写真:米海軍)
 
 ただし湾岸戦争終結後は、マーシーのほとんど全ての出動が人道支援災害救援活動である。2004年末にインドネシア沖で発生した巨大地震・津波による東南アジア諸国の大災害に際しても派遣され、10万8000名の患者を受け入れ治療活動を展開した。
 
イメージ 5
インドネシア沖津波救援活動中のマーシーと空母エイブラハム・リンカーン
(2005年1月、写真:米海軍)
 
 その後マーシーは、2006年、2008年、2010年、2012年と2年ごとに、アメリカ海軍が主導し太平洋周辺諸国家の軍隊や政府組織、それにNGOなども参加して実施される「パシフィックパートナーシップ」と命名されている大規模な人道支援活動に毎回参加している。そして現在、マーシーは太平洋をフィリピンに向け航行中である。
 

病院船は積極的平和主義の目に見えるツール

 マーシーの出動事例でも明らかなように、海軍病院船は戦時での後方支援活動が主たる任務であるとは言っても、大規模な医療設備・要員を海を利用してあらゆる地域へ派遣することができるため、災害救援活動や人道支援活動に絶大な威力を発揮する。まさに病院船は、安倍政権が打ち出している積極的平和主義の目に見えるツールとして適任と言えよう。
 
 残念ながら日本には海上自衛隊という立派な海軍組織が存在するにもかかわらず、これまでのところ病院船は建造されなかった。だが、ようやく保有する方向性で調査が開始された。
 
 中国は、いくら立派な病院船を保有していても国際協力活動に対する運用体制が整備されていなかったことがさらけ出された。日本の病院船建造は、中国に対抗する意味においても、歓迎すべき動きである。
 
 もちろん、いくら立派な病院船を建造しても、専属の医療スタッフを十二分に確保しなければ、中国同様に「病院船を持っているのに救援活動に急行できない」二流海軍ということになってしまう。そのための予算と人材確保が海上自衛隊病院船建造の先決問題と言えよう。


JBpress.ismedia.jpより引用
 
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