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中国の「張り子の虎」空母が生み出す将来の脅威
実戦用空母の運用に備えて遠洋訓練を開始
2013.12.12(木)北村 淳
予定されていたバイデン米副大統領の日本・韓国・中国訪問に時を合わせたように、中国は中国版防空識別圏(一方的制限空域宣言)を東シナ海に設定した。
日本や韓国ではバイデン副大統領に対中圧力を期待したが、筆者周辺のアメリカ軍関係者たちが嘆いているように、バイデン副大統領は予想通りの“バランス”のとれた外交によって、日本にも(韓国にも・・・若干疑問符がついたが)そして中国にも配慮し、結果的には中国に対しては実質的には圧力をかけなかった。
予想されていたこととはいえ、このようにアメリカの出方が甘かったため、中国共産党政府そして人民解放軍は安心して次の手を打つことができることとなった。
中国海軍空母艦隊の南下 防空識別圏の設定宣言と時を同じくして青島海軍基地から空母「遼寧」がミサイル駆逐艦2隻とミサイルフリゲート2隻を伴って南シナ海での訓練航海に向かった。当初この空母訓練艦隊は、防空識別圏設定宣言と相まって、東シナ海を尖閣諸島方面に向かい、沖縄島と宮古島の間を西太平洋に出て台湾・フィリピン間のバシー海峡を抜けて南シナ海に至る、という挑発的行動を実施するのではないかとの憶測を伝えたメディアもあった。
実質的には日本をターゲットにした防空識別圏宣言は、日本の圧力によって中国が自ら撤回しない限り、その空域でのスクランブルをはじめとする各種運用の実際如何にかかわらず中国が防空識別圏を設定しているという事実は存続する。したがって、中国政府にとっては防空識別圏の宣言をなした現在、それ以上の挑発的行為は、せっかく妥協的態度に落ち着いているオバマ政権の対中態度を悪化させないために無用であった。
そして中国海軍空母訓練艦隊は、アメリカはもちろんのこと日本、それに台湾をも挑発しないように、青島から東シナ海を中国大陸沿いに航行して台湾海峡の中国大陸側水域を南下して南シナ海に抜けた。11月29日、遼寧をはじめとする中国艦隊は、海南島三亜に建設された空母用基地に到着した。この三亜空母基地を本拠地にして、空母練習艦隊は南シナ海において艦載各種資機材兵装の訓練や艦隊防空訓練それに対潜水艦戦訓練などを実施中である。
この空母艦隊の訓練は遼寧の初の長距離航海訓練であり、中国海軍当局のコメントのように「訓練航海に関して“考えすぎる”必要はない」、すなわち日本や台湾それにフィリピンなどを挑発する目的は有さず単なる遠洋航海訓練にすぎないというのが、アメリカ海軍関係者の解釈でもある。
米衛星がとらえた空母「遼寧」(写真:US.DOD)
現時点の「遼寧」は名実ともに訓練空母 母港青島基地から三亜基地へとおよそ1500海里を航海し、南シナ海で訓練を実施中の空母・遼寧に関しては、日本の一部マスコミや評論家を中心に「米海軍はもちろんのこと、海上自衛隊にとっても何ら恐るるに足りない“張子の虎”にすぎない」という指摘がなされている。
空母には力を入れていなかった(入れられなかった)ソ連海軍が設計した空母「ヴァリヤーグ」は、ソ連の崩壊とともに未完成のままロシア海軍によって完成させられることなくウクライナに係留されていた。ウクライナ政府は「ヴァリヤーグ」から機関システムを撤去して船体はスクラップにして売却しようとしたところ、中国海軍系企業が海上カジノとする名目で購入して2002年に大連に回航された。
その後しばらくは、中国海軍も本格的に空母として完成させる動きは見せなかったが、2008年、機関システムと兵装を施して空母として完成させる試みが始められた。大連造船所ならびに大連船舶重工集団の手により2011年8月に空母が完成し、公試が開始され、2012年9月には中国人民解放軍海軍に引き渡され「遼寧」と命名された。
このような経緯で中国海軍が手にした遼寧は、そもそも空母大国アメリカ海軍の空母と比較すること自体がナンセンスな空母であることは誰の目から見ても明らかである。もちろん中国海軍・中国共産党政府としてもそれは心得ていることであり、遼寧を正規の戦闘用空母としては考えておらず“訓練空母”として位置づけている。
このことは、アメリカ海軍情報部関係者も確認しており、なにも中国海軍関係者たちが遼寧を「本当は実戦に投入したいのだが、それができないため面子を保つために訓練艦と称している」というわけではなく、名実ともに訓練空母と考えなければ、中国海軍を侮り対中戦略的ミスを犯す原因になってしまうと語っている。
空母・遼寧は、アメリカ海軍空母のようにカタパルト(艦載機発進加速装置)を持たないため、アメリカ海軍のように強力に武装した戦闘機や、警戒範囲が広い早期警戒機、それに対潜哨戒機や電子戦機など多種多様の航空機を搭載することができない。スキージャンプ台と呼ばれる飛行甲板を持つ遼寧からは軽量の(すなわち軽武装で作戦行動範囲も短い)艦載機か、アメリカ海兵隊が使用しているハリアーや導入中のF-35Bのような短距離離陸垂直着陸機(V/STOL機)が必要である。V/STOL機の開発にはいまだ時間がかかる中国海軍は中国海軍は「J-15」と呼ばれる軽武装の艦載戦闘機を開発して遼寧への搭載を開始した。
「遼寧」への着艦に成功した「J-15」(写真:人民解放軍)
このように、空母の“命”である艦載機一つをとってみても、確かに“張子の虎”にすぎないと馬鹿にされるだけのレベルであることには疑問の余地はない。
もちろんそれはアメリカ海軍空母という超強力軍艦と比較した場合であって、フィリピン海軍やマレーシア海軍それにベトナム海軍などから見れば、遼寧といえども大きな脅威であることは事実である。しかし、アメリカ海軍はもとより精強な海上自衛隊を有する日本にとっては、虚仮威しの遼寧プラスJ-15の空母戦力はさしたる脅威ではないこともまた事実である。
中国が実戦用空母を運用する日 ただし、遼寧を“張子の虎”と呼んで馬鹿にする日本やアメリカの一部評論家や軍関係者たちは、遼寧が正規の戦闘用空母ではなく練習用軍艦であり、J-15も訓練空母での各種訓練用に急遽開発された訓練用艦載機であることを忘れているようである。
アメリカ海軍関係者も、「現時点で遼寧を対日戦・対米戦に投入したならば、遼寧やJ-15、それに遼寧機動部隊が“標的艦隊”となってしまうことは間違いない。しかし訓練空母を実戦に投入することなど絶対に中国海軍はしないし、訓練空母はあくまで訓練のためのものにすぎない。それらを“張子の虎”と呼んで、現時点での中国空母や空母艦隊の実力(訓練が開始されたばかりで実力などゼロに近い)を取りざたすること自体全く無意味である」と、アメリカ海軍やシンクタンク関係者にも存在する“張子の虎論者”に対して警告を発している。
確かに、いくら遼寧は虚仮威(こけおど)しの空母であるとは言っても、空母関係将校はじめ空母操艦要員・艦載機発着オペレーション要員・艦載機搭乗員など多数の空母関係将兵を育成するには、洋上で行動できる空母と艦載機が絶対に必要である。そして遼寧は曲がりなりにも航空母艦であり、J-15も艦載戦闘機であることには違いない。
現時点では遼寧、J-15を中心とする訓練空母部隊を実戦に投入することは不可能であっても、それらにより実戦に投入可能な本格的空母の将校・要員を養成することは十二分に可能である。
実際に、中国海軍は遼寧とはレベルが違う実戦用空母を建造中であり、やはり実戦に投入されるであろう艦載機も開発中である。それら実戦用空母・艦載機が姿を見せるまでには、少なくともあと数年は要するため、その間に中国海軍は訓練空母・遼寧によって空母要員を養成し、各種技術の習得に邁進することは間違いない。その第一歩が、現在南シナ海で実施されている遼寧訓練艦隊の遠洋訓練なのである。
このように空母・遼寧も艦載機・J-15も訓練用である以上、なんら恐るるに足らないのは当然のことであり、訓練空母を“張子の虎”と侮って対策を怠っていると、その訓練空母艦隊で空母運用ノウハウを身につけた中国海軍が、遼寧で養成された空母要員・艦載機搭乗員が乗り込む実戦用本格空母を登場させた際に、慌てふためくことになってしまう。
そのような段階に至って押っ取り刀で対抗策をとろうとしても「完全に手遅れ」になることを認識しておかねばならない。 JBpress.ismedia.jpより引用
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