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NSCと新安保戦略、新大綱、中期防で日本を盤石に
2013.12.31(火)山下 輝男
 

1 初めに

12月17日、安倍内閣は、午前の国家安全保障会議(NSC)と閣議で、「国防の基本方針」に代わる歴史的文書とも言うべき、外交と安全保障政策の包括的指針となる「国家安全保障戦略」、新たな「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画(2014〜18年度)」を決定した。
 
 安保戦略は、初めての策定であり、意義深いものであり、また防衛計画の大綱も厳しさを増す我が国周辺の安全保障環境に的確に対応することを狙いとした時宜に適したものであると評価し得る。
 
 本稿では、3点セットとも言うべき「新安保戦略」「新大綱」及び「中期防」の意義や特色を瞥見する。
 
 12月に創設された日本版NSCと新3点セットで、日本の安全保障は盤石になることが期待されるが、あと一歩の感なきにしもあらずである。それらを考察したい。
 
 いずれにしろ、今までのこれら計画が、どちらかと言うと曖昧な面を残し、いずれの国にも遠慮しながらの内容となっていた嫌いがあるが、今回は我が国の国家意思が明確に述べられているのが最大の特色である。
 

2 初めての体系的な国家安全保障戦略の策定

 旧態依然たる「国防の基本方針」(昭和32年制定10行余り4項目のみ)から脱却して、我が国の理念→国益の検証→国家安全保障の目標の設定→安全保障上の課題摘出→対応策の策定という一連の戦略的アプローチで戦略を策定したのは、極めて意義深い。それだけにボリュームもA4版32ページと、国防の基本方針とは比較にもならない。
 
 さらに、戦略をより具体化する形での防衛計画の大綱の策定、そしてそのマイルストーンである中期防の決定という体系的な枠組みが確立された意義は大きい。
 
 また、本戦略の指針は、外交・防衛にとどまらず、国政全般に及ぶものとされていることも画期的である。すなわち、本戦略は国家安全保障に関連する分野はもちろん、国のほかの政策実施に当たっても国家安全保障上の観点を考慮するように求められており、我が国もやっとまっとうな国になったと言うべきだ。
 
 修正・見直しについても明確に記述しており、国際情勢などは変化するものであり、それに柔軟に対応するためにも、必要な記述と言えよう。
 

3 理念としての「積極的平和主義」:責任を持って果たせ!

 一国平和主義と揶揄された従前の原則から脱却し、国際社会において、相応の役割を果たすことを国際社会に闡明し、理解を得ようとしている。
 
 国際社会とアジアの平和と安定に積極的に関与しようという方向性は、日本の置かれた立場や国力、今までの実績から妥当なものであり、日本が責任ある役割を果たすことは、一部の国を除いて、幅広い支持と理解が得られよう。
 
 責任ある役割を果たすことは、ある意味では国民や自衛隊に相応の負担を強いることにもなりかねず、政府はその覚悟と理解を国民に求める努力をすべきだろう。社会基盤(後述14項参照)とも関連した国民の啓蒙が必要だ。
 

4 総合的な防衛体制の構築、政治のリーダーシップに期待

 「一層厳しさを増す安全保障環境の下、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用に努めるとともに、平素から、関係機関が緊密な連携を確保する。また、各種事態の発生に際しては、政治の強力なリーダーシップにより、迅速かつ的確に意思決定を行い、地方公共団体、民間団体等とも連携を図りつつ、事態の推移に応じ、政府一体となってシームレスに対応し、国民の生命・財産と領土・領海・領空を確実に守り抜く。(以下略)」(関係文引用、太字は筆者)としている。
 
 以前の大綱よりも、意思が明瞭・堅確であり、その決意が伝わってくる。特に政治の強力なリーダーシップにより云々には、今般創設された、国家安全保障会議(NSC)の的確な運用が期待されていると考えられる。
 
 決断できなかった政治からの脱却の宣言にほかならないが、この文言を確実なものにするためのNSCの運営とそれを支える国家安全保障局に大いに期待したい。
 
 しかしながら、情報機能について弱体との懸念があるので、その懸念を払拭するための体制整備を是非ともお願いしたいものである。特定秘密保護法の成立は慶賀すべきことであり、同盟国との情報共有も進捗しよう。
 

5 統合機動防衛力の構築と各自衛隊の体制について

 安保戦略においては、以前の「動的防衛力構想」を廃して、「統合機動防衛力」とのコンセプトを掲げた。
 
 これは、「今後の防衛力については、安全保障環境の変化を踏まえ、特に重視すべき機能・能力についての全体最適を図るとともに、多様な活動を統合運用によりシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行い得る実効的なものとしていくことが必要である。このため、幅広い後方支援基盤の確立に配意しつつ、高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靱性及び連接性も重視した統合機動防衛力を構築する」と説明される。
 
 防衛力の役割、想定される各種事態に対する能力評価の結果を踏まえ、南西地域の防衛体制の強化を図った。海・空優勢の確実な確保を重視・優先させ、機動展開力の整備も重視することとした。
 
 離島奪回に任ずる「水陸機動団」の新設と水陸両用車52両やオスプレイ17機の導入、空自那覇基地への1個戦闘機部隊の増勢、「F-35A」の整備、小型の「新型護衛艦」の導入などを進めることとしている。陸上総隊の創設は実効的な統合運用に有効であろう。
 
 元陸上自衛官としては、陸上戦力のシンボルである戦車の削減は断腸の思いであるが、現下の情勢では止むを得ないのだろう。情勢の変化に応じ戦力整備の優先順位が変化するのは必至であり、受け入れざるを得ないだろう。
 
 ただし、戦力整備には相当長期の期間を要するものであり、それをも踏まえた合理的な戦力整備がなされなければならない。
 
 留意して頂きたいのは、ゲリラやコマンド攻撃が起きた場合や原発など重要施設の警備任務が付与された場合には、現状の陸上戦力では全く不足であるということだ。陸上自衛官の編成定数が維持されたのはゲリラなどの対処にも遺憾なきを期すべしとの意があると考えるのは考え過ぎか?
 

6 対中抑止(包囲網)戦略の闡明化!

 異形の大国中国の近年の動向に強い懸念を表明し、「我が国の能力・役割の強化・拡大」を先ず対処の重視事項とするとともに、日米同盟の強化と併せて、韓、豪、ASEAN(東南アジア諸国連合)およびインドなどの普遍的価値と戦略的利益を共有する国々との外交・安全保障協力を強化することを明らかにした。
 
 安倍晋三首相の総理就任以来の外国訪問の成果もあり、着実に成果が上がりつつある。本戦略に基づき、経済・投資・文化など他の分野においてもこれ等諸国とのさらなる連携強化が重要である。
 
 韓国側の偏執狂的な反日・侮日からの速やかなる脱皮と大局観ある対応を望みたい。
 

7 北朝鮮への対応、踏み込み不足の感は否めず!

 北朝鮮の軍事力の増強と挑発行為、特にミサイルや核の脅威は深刻であるとの認識に立ち、対処能力の総合的な向上を図るとしているが、敵基地攻撃の是非や能力保持については検討のうえ、必要な措置を講ずるとしているのみで、明確ではない。
 
 報道によれば、敵基地攻撃に慎重な公明党に配慮したとされるが、早急に検討し、結論を得て、所要の体制整備をしなければ間に合わない可能性もある。
 

8 日米同盟強化に異論はない、集団的自衛権の解釈変更は物足りず!

 我が国自身の能力・役割の強化・拡大の次に、1項を設けて日米同盟強化について述べ、国家安全保障の基軸とその地位を明示している。そのうえで、幅広い分野における日米間の安全保障・防衛協力の更なる強化及び安定的な米軍プレゼンスの確保を掲げている。
 
 このため、ガイドラインの見直しを進め、防衛協力を強化することとし、同時にグレーゾーンの事態における協力を含めた平時から各種事態までのシームレスな協力体制を構築するとしている。さらにはその他の分野における協力の強化・拡大にも取り組むことを明らかにしている。
 
 これらは、総じて、従来路線の延長線上での強化に過ぎないとも思われるが、正しい方向性である。ただし、九仞の功(きゅうじんのこう)を一簣(いっき)に欠いたとも思われるのが、集団的自衛権の承認による、より一層の日米同盟強化を決断し得なかったことである。来年以降の検討課題とのことだが、懸案事項の先送りとの批判は免れないであろう。
 
 中国の対米硬軟両様の戦略を考えるならば、日本としては、日米安保・同盟のさらなる深化に真剣に取り組まなければならない。ある日突然、臍を噛むことのないように願いたいものだ。不断の努力なくして、同盟は永続しない。これが鉄則だ。
 

9 国際公共財(グローバルコモンズ)に関するリスク対応をさらに進めよ!

 近年における、“海洋”“宇宙空間”“サイバー空間”といういわゆる国際公共財に対する自由なアクセスおよびその活用を妨げるリスクの拡散・深刻化を重視し、これらに対して、それぞれ「海洋安全保障の確保」「サイバーセキュリティーの確保」および「宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進」に関する施策を例示している。
 
 安全保障上の脅威を幅広く捉えた慧眼は高く評価できるものであり、新たな脅威は今後安全保障上のメーンの脅威になり得る可能性を秘めており、国家としての明確な政策の確立と早急なる実行が望まれる。日本一国のみで対応できるものではないが、この地域におけるリードオフマンになるべきだろう。
 
 中国のこの分野に対する資源投資は目を見張るものであり、その成果は月面着陸に成功した月面探査機「嫦娥」と探査車「玉兎」に顕著に表れており、我が国に対する熾烈なサイバー攻撃を行っているとの疑念は払拭できない。海洋覇権を狙った海洋進出は言うまでもないだろう。
 

10 グレーゾーン対処への国家意思の明確化を!

 アジア太平洋地域の戦略的環境の特性上、「・・・領域主権や権益などを巡り、純然たる平時でも有事でもない事態、いわばグレーゾーンの事態が生じやすく、これがさらに重大な事態に転じかねないリスクを有している」と述べている。
 
 その認識には全く異論はないが、その具体的な対処体制などについては十分な具体化が図られているとは言い難い。緊急事態基本法や領域警備に関する枠組みを早急に検討する必要があろう。
 
 テロについては、国際テロへの対処についての言及はあるものの、国際テロ組織だけが対象なのかも疑問あり、記述も少なく、安保戦略及び防衛大綱の計画上は軽い扱いを受けているような気がするがどうだろうか?
 

11 「安全保障上を支える国内基盤の強化」等を真剣に進めるべきだ!

 安保戦略 IV項 我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチの第6項において「国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進」との項を設け、(1)防衛生産・技術基盤の維持・強化(2)情報発信の強化(3)社会基盤の強化(国家安全保障を身近な問題として捉え、その重要性や複雑性を深く認識ための施策等の推進)(4)知的基盤の強化(高等教育機関における安全保障教育の充実・高度化等による人材の層を厚くする施策の推進)を列挙説明しているが、今まで折に触れその重要性が叫ばれながらも、等閑視されていた事項にスポットライトを当てているのは秀逸である。
 
 防衛生産・技術基盤の空洞化や消滅の危険性もあり、世界最高水準のコアとなる技術を開発するとともに、防衛産業の強化に関する抜本的な施策が求められる。情報発信は当然だ。日本は中国や韓国の後塵を拝しているのが現状だ。そんなにお金をかけないでできる施策ではないか、さらに推進すべきだ。
 
 愛国心・郷土愛や国を守る気概を持つことはソフトパワーとして極めて重要である。これに目を向けたことは高く評価したい。
 
 安全保障に関する大学の講座はあっても微々たるものであり、安全保障に関する高い知見を有する人材を育成することは重要だ。大学や研究機関の意識改革を促すべきだ。
 
 防衛装備・技術協力において、国際共同開発の進展や費用の高騰等に対応するために、武器輸出三原則に代わる新たな原則を定めることとしているのは十分に理のあることであるが、慎重な姿勢に少々物足りなさを感じる。
 

12 着実かつ前倒しの防衛力整備を!

 南西諸島方面の情勢は全く予断を許さない、非常に緊迫している。本性を剥き出しにし始めたと考えるべきだろう。
 
 同じく北朝鮮においても権力構造の変換が行われ、予測不可能な状況が惹起しつつある。
 
 これらの状況に対し、議論好きの民主党政権のように侃侃諤諤と議論している余裕はないのかもしれない、それほど切迫している。今ただちに、大綱などに示された体制整備を行わないと取り返しのつかない事態を招来するかもしれない。
 
 政権の決断を望みたい。
 

13 他省庁も本戦略に基づく戦略の策定と実行を

 今回閣議決定された安保戦略は、国家の外交・安全保障に関する最上位の戦略・指針書であるが、それにとどまらず、国政全般にわたり本戦略・指針に十分留意して施策することが求められている。
 
 国家運営の最上位の指針でもある。経済政策、広報、文化、環境、ODA(政府開発援助)など、対外的な政策のみならず、国内政策においても国家安全保障上の観点からもそれなりに考慮すべきであり、関係省庁においてはそのような方向性を持って対応して頂きたいものである。
 

14 終わりに

 初めて策定された安保戦略とそれをより具体化した防衛大綱等に関する所見を述べたが、本戦略や大綱等をより広く内外に周知し、理解を得ることが肝要である。


JBpress.ismedia.jpより引用
 
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