ミッドウェー海戦研究所

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米国の言いなりではなく
防衛能力強化は自主的に進めよ
2014.01.09(木)北村 淳
「永遠の友もなければ、永遠の敵もない」
 
 アメリカ海兵隊などで常にアメリカの敵に備えて警戒態勢を整えておくための戒めとして用いられる格言である。
 
 もちろん、できうるならば地政学的(というよりは自然地理的)に「敵」としてはならない「自然な同盟相手(natural ally)」というものも存在する。太平洋を隔てて“隣接”するシーパワーである日本(現状では不完全なシーパワーであるが)と米国、そして大西洋を挟んで隣接するシーパワーの米国と英国などは“natural ally”の典型例である。
 
 このような“natural ally”としての日米同盟を実質的に強化し、永続的な同盟関係を維持しなければならないと考える戦略家はアメリカ海軍や海兵隊には少なくない。しかしながら、米国財政削減による実質的な軍事力の低下や、尖閣諸島を中心とした中国と日本による東シナ海支配権を巡る対立の表面化以降、日米同盟の現状維持あるいは強化に関して疑問を呈する戦略家やいわゆる東アジア専門家が目立つようになってきた。
 
 そして、昨年末の安倍晋三首相の靖国神社参拝を受けて、日中韓の間のゴタゴタに米国は巻き込まれたくはないと考える勢力からは、「永遠の友もなければ、永遠の敵もない」を日米同盟に当てはめる論調すら表面化してきた。
 

自主防衛能力構築の動きは外圧によるものなのか

 筆者は本コラムや拙著などで、日本がある程度強力な自主防衛能力を保持するためには、「統合運用能力+即応能力+水陸両用(厳密には水陸空併用)作戦能力」を兼ね備えたアメリカ海兵隊的な軍事能力を構築することが不可欠であると主張してきた(ただし、これ以外にも強化せねばならない能力はある)。また、日本はアメリカ海兵隊的能力を保持すべきであるといったアメリカ海兵隊や海軍関係者などの声も紹介してきた(『写真で見るトモダチ作戦』並木書房、『米軍が見た自衛隊の実力』『尖閣を守れない自衛隊』宝島社などを参照していただきたい)。
 
 幸いなことに2013年末に安倍内閣の下で決定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」において、我々が常々主張してきたアメリカ海兵隊的能力を自衛隊に保持させる方向性が、調達する装備も含めてある程度具体的に打ち出された。
 
 このような水陸両用戦能力の構築、そしてその前提となる統合運用ならびに即応能力の強化を安倍政権が正面切って強調したのは、自主防衛能力構築に本気で取り組み始めた具体例とも見なせるかもしれない。
 
 しかしながら、水陸両用戦能力の構築が主として米側の外圧に突き動かされた結果であるならば、それは緊縮財政下で苦悩するオバマ政権の都合に迎合させられたことになってしまう。
 

緊縮財政下における米国国防戦略

 強制財政削減措置まで発動せざるを得なくなったオバマ政権は、超緊縮財政下における国防戦略、すなわち「可能な限り国防予算を使わずにアメリカ軍事力を弱体化させない方策」を模索している。
 
 様々なシンクタンクなどの研究によると、「軍内部の効率化を図る」といった「言うは易し、行うは難し」の“お決まりの”提言が考察されているが、それらと並行して(1)同盟国や友好国の“アウトソーシング”を活用する、(2)主たる仮想敵国との交渉を開始する、といった戦略が歴史的事例から極めて現実的であると指摘されている。
 
 そしてアメリカの財政が急転直下好転する可能性がゼロである以上、東アジア方面でのアメリカの軍事的影響力を維持していくために、(1)日本の軍事力を強化させるというアウトソーシングの活用と、(2)軍事的脅威として急浮上してきた中国との様々な対話のチャンネルを構築するという主たる仮想敵国との交渉、という戦略をオバマ政権が併用するのは、ごく自然の成り行きと言えよう。
 
 実際にアメリカ側が、日本がこれまで保持してこなかった水陸両用戦能力を構築するように熱心に働きかけてきているのは事実である。
 
 つい数年前までは、島嶼国家日本が保持しているべき水陸両用戦能力をはじめとするアメリカ海兵隊的能力を保持することに関して、アメリカ海兵隊や海軍の中にも積極的に支持する人々とともに、「同盟軍である我々(アメリカ海兵隊)が存在するのであるから、何も日本が(財政的にも技術的にも教育訓練的にも)大変な思いをして水陸両用戦能力を希求しなくてもよいのではないか?」という懐疑的な声も存在した。
 
 しかし、日本に海兵隊的能力を持たせようという動きが名実ともに強化され始めた一昨年頃からは、少なくとも対東アジア戦略に関与している人々の間では、日本の軍事力強化に関する懐疑論は姿を消している。
 
 それは、明らかに緊縮財政下では「アウトソーシング」を活用するという戦略に則った傾向である。「この際、信頼に足る同盟国である日本の軍事力を強化し、アメリカ財政が復活してアメリカ自身の軍事力弱体化に歯止めがかけられるまでは、なんとか持ちこたえさせよう」という戦略の一環こそ、アメリカ側による自衛隊水陸両用戦能力構築のプッシュと言えよう。
 
イメージ 1
緊縮財政のあおりで開発が打ち切られた新型水陸両用戦闘車EFV
(写真:米海兵隊)
 
 このような外圧に突き動かされたにせよ、あるいはアメリカ側の声は声として日本自身の戦略的判断に拠って打ち出したにせよ、いずれにしてもアメリカ海兵隊的能力、つまり「統合運用能力+即応能力+水陸両用(水陸空併用)作戦能力」は、日本の自主防衛能力にとって欠かせない要素の1つである。
 
 そして、日本自身の自主防衛能力が強化されることは、アメリカのアウトソーシング活用戦略にとっても有用である、といった意味においては、日米同盟の強化につながる。
 

米国の高額兵器売り込みに流されてはいけない

 アウトソーシング活用戦略を推進するアメリカ側は、水陸両用戦能力構築だけでなく様々な分野での要求や、関連する装備の売り込みなどを強力にねじ込んでくるものと思われる。
 
 アメリカの基幹産業である軍需メーカーとしては、自国での兵器武器システムの需要が緊縮財政下で萎縮している以上、日本のような超高額装備購入のポテンシャルがある市場に押しかけるのは当然の判断と言えよう。
 
 すでに、水陸両用戦能力構築に関連してAAV-7水陸両用強襲車やMV-22Bオスプレイ中型輸送機の調達が打ち出されている。しかしながら、実際に戦場でAAV-7やMV-22Bを使用しているアメリカ海兵隊関係者たちと話し合うと、もちろん基本的には水陸両用強襲車やオスプレイは日本防衛にとって有用であるものの、これらの“お買い物”に若干の疑問を投げかけざるを得なくなる。
 
 すなわち、AAV-7はすでに(相当以前から)旧式装備と見なされている。アメリカ海兵隊としては新型水陸両用強襲車の開発を10年以上も前から熱望し続けていたものの、アメリカのメーカーによる新型車の開発は失敗に終わってしまった。そこに財政削減による軍事費の大幅カットが追い打ちをかけ、旧式AAV-7を「使い続けざるをえない」状況に陥ってしまったのである。
 
イメージ 2
水陸両用強襲車AAV-7(写真:筆者)
 
 そのような旧式AAV-7の中古車両を52両も調達するくらいならば、ある程度の数量の調達は水陸両用強襲車要員育成のために急務ではあるものの、アメリカのメーカーが失敗した新型AAVの開発を日本のメーカーに行わせて、少なくとも旧式AAV-7よりは近代化した日本製AAVの開発・調達を推進すべきではなかったのではなかろうか。このような検討なしで多数の中古AAV-7を輸入するのでは、自衛隊は旧式中古車の引取先になってしまう。
 
 MV-22Bオスプレイに関しては、拙著『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)や本コラムでもしばしば日本防衛や災害救援に対して絶大な威力を発揮する点は指摘した。したがってオスプレイの調達そのものは歓迎すべき動きではある。
 
イメージ 3
MV22Bオスプレイ(写真:筆者)
 
 だが、実際のユーザーである海兵隊将校の中には「日本はオスプレイ要員の訓練や実際の運用に莫大な経費がかかるのを認識しているのであろうか?」という疑問を口にする人々が少なくない。実際に、安倍政権下における国防予算は増額といえども微増の域にとどまっており、駆逐艦や潜水艦の建造、F-35A戦闘機の購入、それに燃料費の高騰や円安の影響などを考えると、オスプレイ17機の購入というのは“金食い虫”になりかねない。
 
 そして、そのF-35Aの購入であるが、将来的に水陸両用戦能力を本格的に構築する戦略が日本に存在するならば、水陸空戦闘能力を併用する現代水陸両用作戦に不可欠な海兵隊仕様であるF-35Bを購入すべきである。それにもかかわらず、結局、航空自衛隊の作戦のみに必要なF-35Aを購入することになってしまった。この点を捉えて、海兵隊関係者たちが「日本は水陸両用戦能力を本気で構築しようとしているのか?」と筆者にこぼしていた。
 

外圧は利用しても一方的に利用されるな

 アメリカの外圧を利用して日本の自主防衛能力を強化し、同時に日米同盟も強化する、という戦略は確かに日米両国の国益に合致する。しかしながら、それはアメリカ側の外圧や売り込みに唯々諾々と従うことを意味しない。あくまで、日本国民の税金で組織を構築し、装備を購入あるいは開発するのだから、日本自身の自主防衛能力の構築・強化という点を最優先にして、その観点から決して逸脱してはならない。
 

 上述したように、アメリカ政府が緊縮財政下の国防戦略で用いる方策は、同盟国日本の軍事力強化に期待する「アウトソーシング活用戦略」だけではない。軍事的脅威となりつつある中国との各種対話を活発化させる「主たる仮想敵との交渉戦略」も併用しつつあることを念頭に置いておかねばならない。


JBpress.ismedia.jpより引用
 
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