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前進した日本の国防戦略、その欠陥をあえて指摘する
新「戦略」「大綱」「中期」を読んで見えてきたこと
2014.01.29(水)冨澤 暉
昨(2013)年12月17日に「国家安全保障戦略」(以下「戦略」と略称)と「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下「大綱」と略称)と「平成26年度〜平成30年度・中期防衛力整備計画」(以下「中期」と略称)が同時に閣議決定された。
これら「戦略」「大綱」「中期」を通して読んでみると、それぞれの内容に、国民の理解し難い問題点がいくつかあり、さらに3点セットの間に平仄の合わない部分も発見される。
既に決定され修正できないものではあるが、今後の運用と国民の理解のために、以下、特に気がついた点を述べておきたい。
1. 国家安全保障戦略について
海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」の進水式(2013年8月)〔AFPBB News〕
(1)本「戦略」は「国防の基本方針(昭和32年)に代わるもの」と説明されている。しかし、元々「国防の基本方針」は戦略とは言えないものであったのだから「代わる」という表現には違和感を覚える。ここはあくまでも「国防の基本方針は廃止」とすべきであった。
(2)「国防の基本方針」は事実上廃止としたものの、「その他の基本方針(1-専守防衛 2-軍事大国とならない 3-非核三原則 4-文民統制の確保)」は不変である。
「国防の基本方針」無用化の原因である近年の情勢変化が、なお「その他の基本方針」を変更させない理由が不明である。まずは「専守防衛」「軍事大国」とは何か、の説明が必要ではないか。
(3)安全保障環境について、「大量破壊兵器等の拡散」と「国際テロ」の2つを「脅威」とし、「グローバルコモンズ」と「グローバル経済」については「リスク」とし、「人間の安全保障」については「課題」と分けて表現した真意が、読者には分からない。
また、昨(2013)年6月の「自民党・新防衛大綱提言」では「テロ・ゲリコマ」と表現していたものを「国際テロ」に絞り、その対策として情報収集・分析強化には触れたものの、対応行動については全く述べていない、これはなぜか。さらに中国自身が自認する三戦(世論戦、心理戦、法律戦)に全く触れていないことも理解できない。
2. 新防衛計画の大綱について
(1)「戦略」が「大量破壊兵器の拡散」と「国際テロ」を「脅威」と述べているのに、「大綱」ではいずれも「懸念」「課題」とし、「核ミサイル対応」に伴う国民保護の具体策などには一切触れていない。それは民生の範疇のことであり、防衛の問題ではないということなのであろうか。
(2)「弾道ミサイル攻撃から我が国を多層的に防護しうる機能を備えたイージス・システム搭載護衛艦を保持する」という記述があるが、多層的とはどういうことか。このイージス艦の主目的は、1-全国土防衛なのか、2-要域防衛なのか、それとも 3-日米艦隊防衛なのか。可能なものに絞って、自衛隊に任務を明示し、国民に分かりやく説明してほしい。
(3)「国際テロ」については「差し迫った課題」とはしつつも、その対応については何ら言及がない。この問題についての検討の跡は全くなく、「戦略」と「大綱」に一貫性が見られない。
(4)世界でも日本でも「正規戦」に比べて「テロ・ゲリラ戦」の生起公算が大きい。だからこれに対応する準備が必要なのだが、その対応は「警察・海上保安庁で十分であり、自衛隊に期待するところはない」と考えているのであろうか。
テロ・ゲリラ対策にはともかく人手がいる。自衛隊の人員増強をしないのであれば警察・海保の大増員をしなければならないのだが、政府にその準備があるのだろうか。これはまさに領域警備の問題であり、グレーゾーン事態の問題でもあるのだ。
(5)「ISR(常続監視)活動を行い、対処態勢の構築を迅速に行って、防衛意思と高い能力を示し、事態の深刻化を防止する」のは良いことだが、事態が深刻化してしまった後の決戦態勢への言及が極めて曖昧である。
その間、「シームレスかつ機動的に対応する」のも分かるが、この3点セットのすべてに多用された「シームレス」という言葉の意味が国民一般には理解できない。
このシームレスとは 1-時間的 2-地域的 3-任務上 4-組織間(特に、陸・海・空か自衛隊・他官庁自治体か日・米か)のどれを指すのか。状況によってはシームレスであるよりスレッシュホールド(敷居)が明確な方が政治的決断をしやすい、ということもあるのではないか。
(6)法制上の問題、特に、1-グレーゾーン事態対処を効果的にするための法制(領域警備法の制定)、2-日米安保を効果的にするためには、集団的自衛権行使認定だけでいいのか、多国籍軍、有志連合軍参加を可能にする法制も必要なのか、3-オーストラリア・インド・韓国・東南アジア各国軍との共同訓練・行動の根拠法制を何に求めるのか、などについてその方向を示してほしかった。
(7)「主に冷戦期に想定されていた大規模な陸上兵力を動員した着上陸侵攻のような侵略事態への備えについては、不確実な将来情勢の変化に対応するための最小限の専門的知見や技能の維持・継承に必用な範囲に限り保持することとし、より一層の効率化・合理化を徹底する」という文言は、かつての「基盤的防衛力」を想起させ、その趣旨はよく理解できる。
しかし、技能の維持・継承には、最小限、大・連隊レベルの部隊訓練が必要であり、情勢変化に応じ戦力を拡張(エキスパンド)するためには、さらに新編成・装備増産・大部隊訓練のための資金と時間が必要となる。
政府は情勢変化と戦力拡張の時間間隔をどのように見積もっており、これについて専門家たる自衛官の意見を十分に聞いているのであろうか。
(8)「島嶼部に対する侵攻があった場合にはすみやかに上陸・奪回・確保する」と言うが、尖閣諸島のような無人島の場合には、その島に侵攻した敵を撃滅するだけでよく、確保する必要はない。
航空優勢の常時確保は、彼我共に困難なので、互いにその上陸部隊撃滅作戦を繰り返すこととなり、それは無意味である。
ただし人口があり、港湾・空港を有して基地となり得る沖縄本島・宮古・石垣などの島嶼は全く別である。それらを弁別した防衛力整備と運用を示すべきである。
その沖縄本島の対着上陸防御については過去の戦史から大いに学ばなければならないが、その前に沖縄独立運動に絡む外国の三戦(世論戦、心理戦、法律戦)への対策を確立することこそが先決である。
(9)昨年6月の自民党・新防衛大綱提言においては「敵ミサイル基地攻撃力の保有」という項目があったが、「大綱」では「日米同盟全体の抑止力の強化のため、我が国自身の抑止・対処能力の強化を図るよう、弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる」と記述している。
これには、米国が賛成しない可能性があるため、本年内決定を予定する日米防衛協力指針(仮称14ガイドライン)での互いの任務・役割・能力(MRC)検討待ちということのようである。
しかしそれ以前に認識すべきは、対象国のミサイルは移動式発射装置に搭載され、山岳地帯の地下施設に配備しているということである。米国ですら目標情報がよく掴めないと嘆いている現状で、日本が独自に目標情報を得ることは至難であり、それ以上に問題なのは現在の日韓関係が日本の「攻撃能力保持」を許すかということである。
3. 中期防衛力整備計画について
(1)これは、各官省等が調整して作り上げたものなので、我々自衛隊OBからとやかく注文すべきものではない。ともあれ、前中期に比し所要経費が1.8%とわずかながらも増加したことを喜びたいが、これまでの10年以上、世界各国の軍事費に比し圧倒的に伸び率が低かったことを、国民にはよく承知してもらいたい。
(2)陸上総隊を創設した意義についての説明が不十分である。例えば、1-これにより陸・海・空幕僚監部の任務・役割・組織はどう変わるのか、2-南西地域の作戦は統・連合作戦になるだろうが、その統合部隊司令官選定に、この陸上総隊司令官や各方面総監はどう絡むのか、といったことを一般国民に分かりやすく説明してほしい。
(3)14ガイドラインの検討結果により、この中期は変更されることがあるのか、あるいはその結果は次期中期防に組み込まれるのか、が不明である。明確にしてほしい。
4.ガイドラインはどうなるのか・・・着意すべきこと
(1)78ガイドラインは対ソ作戦協力指針であり、97ガイドラインは対北朝鮮作戦協力指針であった。14ガイドラインは対中国作戦協力指針となるのか、その場合、97ガイドラインの内容をさらに発展させてこれに含めるのか。
(2)これまで「米国の矛、日本の盾」でやってきた。これは「自衛隊は米軍の露払いだ」ということでもあるが、今後は日本も矛の部分を担当すべきなのか。それはアジアの公海部分のみならず、グローバルコモンズ(世界共通領域)と認められる全領域に及ぶことなのか、また形態として、多国籍軍のみならず有志連合軍の形まで認めるものなのか、という問題でもある。
日本が矛の役割をすることになると中・北・韓が反発するので、米国はそれを望まない可能性がある。また、矛の部分を充実させるためには膨大な予算が必要になるが、日本の財政はそれを許さないという問題がある。
(3)いずれにせよ、この3点セットは「14ガイドライン」によって裏打ちされることとなる。「3点セット」と「ガイドライン」の間に乖離が生じると、そこが日米協力の弱点となる。極めて難しい局面である。
おわりに
現政権は、明らかに良い方向に向かって力強く前進している。今後とも、上記問題点などを調整しつつ14ガイドラインを策定し、一貫した4点セットを確立して、これに基づいた防衛政策の実行を着実に進めていってほしい。 |
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2014年06月10日
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