ロシア
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日露の戦略的和解の必要性と
北方領土返還への道筋 2013.04.01(月)矢野 義昭:プロフィール (2)からの続き
4 北方領土返還の方法とプロセスの比較検討
帰属問題と関連したもう1つの問題は、返還の方法とプロセスである。この問題は上に述べた北方四島の帰属問題とも密接に関連している。
日本側として受け入れる余地のある北方領土返還案としては、(1)四島一括返還、(2)二分割、残余継続交渉、(3)三島先行返還一島継続交渉、(4)二島先行返還二島継続交渉、(5)二分割で妥結、(6)三島返還で妥結、(7)二島返還で妥結などの案が考えられる。
これらの案のうちでは、番号が少ない方が日本にとり有利である。四島の帰属先が日本であることに日露間で合意が成立するか、その見通しがあれば、(1)から(4)のいずれかが採用されることになる。
帰属先を明確にせず、妥結を急ぐならば、四島全島返還を要求せず、(5)から(7)のいずれかで妥結することになるであろう。以下は、帰属問題とは別に、返還方式の観点からその是非を分析する。
このうち、(1)は日本側にとり最も望ましいが、ロシア側としては受入れも交渉もできない案であり、交渉は、平行線をたどることになるであろう。その間に元島民は多くが亡くなり、占領の既成事実化だけが進むことになる。その案では、いつまでも問題の解決はできないであろう。
逆に(7)は、歯舞、色丹の面積比率は北方四島の7.0%に過ぎず、それで妥結することは日本側として了解できない案である。二島返還後も最低限継続交渉は認められるべきである。即ち(4)を追求しなければならない。
(5)と(6)については、択捉島の面積が3184平方キロあり、北方四島の全面積5036平方キロの過半数を占めていることから、(5)の二分割案は(6)の三島返還よりも返還面積が大きく、日本側に有利である。
ただし、(5)の場合は、択捉島に地続き国境ができることになる。地続き国境が日露間に生ずることは、新しい日露対立の原因にもなる。特に、経済難民、不法入国者、亡命者などの発生が予想され、日露間の外交関係も再度悪化するおそれがある。
また防衛警備の観点からも、第二次大戦末期にソ連軍が樺太の日ソ国境線からも奇襲的に南進を開始したように、奇襲侵攻を誘発しやすくなるという問題点が生ずる。
そのような事態を回避するためには、この(5)の場合、択捉島は日露共同管理としてかつ非武装化し、択捉島の北の択捉水道の潜水艦などの出入りをロシア側に保証するなどの措置が必要になるであろう。
オホーツク海のロシア側にとっての弾道ミサイル搭載原潜の展開水域としての価値は今後とも不変と見られることから、二分割案に継続交渉を加えた(2)の案でも、交渉で択捉水道の通峡確保の権利をロシア側が譲る可能性はなく、(5)の結論とほぼ同じ結果になる可能性が高い。そうであれば、(5)で早期に妥結するのが賢明と言えるかもしれない。
また(5)の二分割案は、中露間の河川国境の画定などでも中露が合意している解決策であり、日本側にとっては択捉島主要部のロシアによる占拠継続への不満を別にすれば、国際的にもよくみられる領土紛争解決策である。その点では、ロシア側を説得する余地はある。
(6)の三島で妥結する場合は、国後島の北に国境ができることになるが、ロシア側の合意を得る可能性は、二分割案よりも高い。しかし択捉島は返還が困難になる。その周辺の漁場なども利用できず、国後島と択捉島の交流も閉ざされることになるかもしれない。
この場合の対策として、択捉島に対する日本側の人の往来、入漁権、投資の権利などをロシア側に認めさせ、共同管理に近い形にするということも考えられる。その場合逆にロシア側の国後などへの往来、漁業も認めることになろう。
二分割案よりも日本側の譲歩幅は大きくなる。それだけロシア側は同意しやすい案である。また地続き国境がなく、国境警備に関連する事案、亡命者や不法入国者の取締りなどの問題も対処はしやすくなるという利点もある。
また日本側が最も有利な(1)の四島一括返還が実現したとしても、ロシア人島民を全面的に退去させることは非現実的であり、少なくとも混住の権利、あるいは二重国籍などを認めなければならないであろう。もちろん主権は日本に属することになるが、その場合の統治形態は、実際上は、上の(5)または(6)に近くなるであろう。
これらを総合的に考慮すると、ロシア側との妥結が容易で国境紛争も起こりにくい、(6)の三島返還でいったん妥結したのち択捉島の共同統治を併用するという、(3)に近い案が現実的でありかつ日本にもロシアにも容認できる案ではないかと思われる。
この場合も、(3)を採り択捉島の帰属問題を継続交渉とすることを交渉成立条件とするか、(6)のように妥結を先行させるかという問題は残るが、共同統治形態をとれば、実質的な意味合いは薄まり、たとえ継続交渉になっても深刻な紛争原因にはなりにくいであろう。
ただし、(5)の二分割案も有力な案であり、択捉島の共同管理と非武装化という制約条件をつけで、ロシア側の合意を引き出すこともできよう。
またこれらの交渉の前提として、先に述べた北方四島に対する日本の帰属権を国際的に認知させる努力を北方への防衛力増強と並び、主導的に展開し、日本の交渉力を高めることが必要である。
そのような相対的なパワーを有利にするための実効性のある措置をせず、単に二分割案や三島返還案を出せば、ロシア側に主導権を奪われ、ロシア側の思惑通りの解決案を強要され、不利な国境線を固定化される兼ねないことには、十分な留意が必要である。
今は、日露間で北方領土問題について、双方の指導者が国内に対して説明が可能な方法で問題解決の糸口を見出し、日露が和解に踏み切る戦略的好機である。
5 日露の戦略的和解の波及効果
もしも日露間で平和条約が締結されれば、北東アジアにおけるバランス・オブ・パワーは日露双方にとり有利な方向に転換し、中国は軍事的、準軍事的パワーを中露国境正面にも割かざるを得なくなり、日本の尖閣諸島はじめ東シナ海などの海洋正面にかかる中国側の圧力は緩和されるであろう。
尖閣での日中衝突の可能性は遠のくかもしれない。竹島問題でも前進が見られるようになるかもしれない。
日本としては、北方領土問題、竹島問題、尖閣での日中対立という、同時3正面の情勢悪化を連動させてはならない。その中でも最も古い北方領土問題で前進が見られれば、その他の問題への影響も大きい。
日本は対応能力を他の正面に集中できるようにもなる。他方ロシアにとっても日本との和解により、極東開発の資本と技術、IT分野などのイノベーションが可能となり、またシベリアの資源の新たな輸出先を確保できることになる。
もしも日露で平和条約が締結されれば、様々のプラスの波及効果が予想される。経済面では、日本はこれまで、経済援助は領土問題解決が前提との政経不可分の原則と、ロシア以外からの石油などの輸入が可能であったこと、インフラ整備に資金を要しリスクが大きいなどの理由から大規模な極東開発への投資を拒んできた。
もしも北方領土の帰属問題で前進が見られたならば、日露間の信頼感が高まり、ロシアの極東開発に日本側の資本と技術が提供されることになるであろう。日露間の文化、学術交流なども本格化するであろう。
極東開発では当面は、現在すでに進展しているサハリンのガス田の開発及びシベリアからの石油パイプラインの敷設事業への協力を進めるのが現実的であろう。
特にパイプラインについては中国と競合しているが、対中輸出向けよりも先行して、対日、対太平洋輸出用のパイプラインを敷設させることが重要である。その際にリスクをヘッジするため、これらの経済協力に欧米資本も参加させることを考慮すべきかもしれない。
また北方領土、極東における軍事的な信頼醸成措置、軍備管理交渉なども併行的に行い、軍事的な圧力の低減をロシア側に履行させるための保障措置を進めることも必要である。日本側の北海道の防衛力強化もそのための条件づくりとして必要な措置である。
ロシアとの領土問題の交渉に際しては、ロシアの極東地域の住民、地方政府要人、軍関係者等に対して、過去の正しい歴史、条約上の法的義務などを説明し、日本側の正当性を認識させることが重要である。
また欧米の世論、マスコミ、国連などの国際機関及び韓国、中国、台湾など周辺諸国の世論と政府に対しても、北方領土問題における日本の立場を説明し日本の正当性を明確にすることが必要である。
以上の総合的施策をとれば、北方領土問題が国際化され、新しい解決の道筋が見えてくるであろう。またロシアとの交渉に際しては、日本自らが防衛、経済、金融、技術、広報など総合的な国力を蓄えることが必要である。
外交上も、米英のほか、ロシアとの間で領土問題を抱える他の諸国との連携にも努力をすべきであろう。
また、北方領土問題での前進は、竹島問題、尖閣での日中対立にも前進をもたらすであろう。元島民も年々高齢化している。元島民の帰還のためにも、北方領土問題の早期の解決が望まれる。 JBpress.ismedia.jpより引用
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日露の戦略的和解の必要性と
北方領土返還への道筋 2013.04.01(月)矢野 義昭:プロフィール (1)からの続き
3 北方領土問題解決と日露の戦略的和解の可能性
北方領土問題解決の糸口を見出すためには、日本としてはまず、関係国相互間の国益の一致点と対立点に注目し、関係諸国間及びそれら諸国と日本の相対的なバランス・オブ・パワーの推移を慎重に見極めなければならない。
しかし日本の交渉力に限界があることは、ソ連崩壊後のロシアの経済が疲弊し政治的にも弱体であり、日本の経済力も充実し、もっとも日本が優位に立てたはずのボリス・エリツィン政権期ですら、ロシア側から実質的譲歩は勝ち取れず、「東京宣言」のレベルにとどまったことでも明らかである。
最近もドミトリー・メドベージェフは大統領および首相として国後島訪問を重ねている。このメドベージェフの国後訪問の背後にはプーチン政権としての一貫した戦略があるはずである。
その第1の狙いは、力による占拠という現実を日本側に見せつけることにより、日本側にロシアとの交渉への意欲を高めさせることではないかと推測される。
その際に、メドベージェフの強硬姿勢と対照的なウラジーミル・プーチンのソフトイメージを浮き上がらせ、日本側にプーチンとの交渉へのインセンティブを高めさせるとの心理的追い込み効果も狙っているのであろう。
仮に日本側が交渉に応じないとしても、国内外に北方領土支配の意志と能力を見せ付けることはでき、支配の既成事実化を強固にするとともに、地元サハリン州の領土返還への不安を払拭し国内的な指導部への支持を高めるという狙いは達成できる。
どちらにしてもロシアの利益にとり損失はないとの判断に基づいてとられた行動であろう。近年のプーチン政権の動きには、対日関係打開の可能性を探ろうとする意図がうかがわれる。
今年2月、安倍総理の特使としてモスクワに派遣された森喜朗元総理はプーチン大統領と会談した。席上、プーチン大統領は、「引き分け」とは、「勝ち負けなしの、双方にとり受け入れ可能な解決を意味する」と語った。また同大統領は日本とのエネルギー分野や農業分野での協力について、自ら言及している。
このようなロシア側の戦略的な動きに対し、日本が主導性を発揮するには、長期的な一貫した戦略と政策が不可欠である。日本としては、歴史的経緯とこれまでの交渉内容及び国際法的な準拠に照らして、四島一括返還の方針を基本的には崩すべきではない。
特に、「日ソ共同宣言」と「東京宣言」の合意を前提として交渉を進めるべきである。前述した将来の日露間のバランス・オブ・パワーの推移に基づけば、日本側として、これらの合意内容を交渉の前提として利用できる機会が訪れるかもしれない。
ただし、ロシア側との力関係を冷静に評価せず、まだロシアが優位にある時に、例えば二島返還継続交渉案で妥結すれば、ロシア側が二島返還後に実質的な逃げ切り、問題解決済みとの姿勢を強行する恐れがある。
日本側の国力とソフトパワー、とりわけ交渉力が高まり、国後、択捉の返還についても交渉を継続するとの確実な保障措置がとれるような力関係になれば、そのような案も現実的な解決策になるであろう。
北方領土をめぐるロシアとの交渉における最大の課題は、日本側が北方四島に対して主権を持っていることをロシア側にどのようにして認めさせるかということである。この点を解決できれば、その後の返還の方法と手順についても合意できるであろう。
北方領土が日本に帰属することを認めさせるための1つの方法として、北方領土帰属問題についての国際会議を開催し、法と正義に基づき判断すれば、北方四島は日本に帰属するとの結論を引き出し、それをロシア側に認めさせるというアプローチが考えられる。
国際法上、過去の交渉経緯から明らかなように、北方領土のうち、歯舞・色丹は千島列島ではなく北海道の一部であり、直ちに返還されるべきことは言うまでもない。
さらに、国後・択捉については、日本がサンフランシスコ平和条約締結に伴い放棄した千島列島の一部に含まれるが、ソ連に領有権が渡されたわけではなく、領有権は帰属未定のままであり、ソ連が事実上の不法占領を継続しているに過ぎない。
この事実を、国際会議の場でロシア側に認めさせる可能性を追求すべきであろう。もともと日本は、ヤルタ会談での密約に拘束される立場ではない。したがって、千島列島の帰属問題を議題とし、日本以外に、密約に関わった米英露の3国からなる国際会議を開催し、国後、択捉も含めた千島全島の帰属先について協議するべきであろう。
米英を日本の呼びかける国際会議にいかに参加させるかも問題である。しかし、もともと北方領土問題の淵源はヤルタ会談にあり、日本は北方領土問題の解決について、米英に対し歴史的な責任を果たすため、その解決に協力するよう要求し得る立場にある。
日本としては、米国の財政赤字改善に伴う対日防衛負担の肩代わり、ユーロ危機に対する金融支援など、欧米の財政危機に対する支援を交換条件として提示し、会議への参加を要求することもできるであろう。
北方領土の帰属をめぐる国際会議の場に米英を取り込むことにより、日本側の交渉の立場は強化される。日本が国際会議を主導して、法と正義と歴史的事実を訴えれば、米英を説得し日本の立場への賛同を得て、帰属権を取り戻せる可能性が生まれるであろう。
特に日本としては同国際会議の場において、サンフランシスコ平和会議における吉田茂全権の発言でも明らかにされたように、「千島南部の国後、択捉両島が日本領であることについては、帝政ロシアもなんら異論を挿まなかった」のであり、もともと日本固有の領土であること、および北千島諸島は1875年の千島・樺太交換条約に基づき樺太南部を露領とする代償として平和裏に取得したものであり、カイロ宣言に言う、武力により「奪取しまたは占領した」領土ではないことを再度強く主張すべきである。
この主張が認められれば、帰属不明とされたままの国後、択捉両島の日本帰属は認められ、場合により得撫島以北の千島諸島も帰属が日本にあることの正当性も認められるかもしれない。
国際会議の結果、帰属先は日本にあるとの結論が出されれば、ロシアがたとえ結論を受け入れなくても、日本の主張に対する国際的な支持が高まり、日本の対露交渉力も強化されるであろう。
もしロシアが結論に同意すれば、日露領土交渉は一気に進展することになる。いずれの場合も、日本にとり損失はない。またロシア指導部にとっては、たとえ結論を受け入れても、国際的な協定に基づく義務という説明ができることになり、彼らの国内での指導力に致命的な打撃を与えないような口実にもなり得る。
ただし、国際会議の結論がこのような方向になる可能性が高ければ高いほど、ロシア側が、このような国際会議への参加に応じる可能性は少なくなる。ロシア側を会議参加に応じさせるには、単なる外交上の呼びかけだけでは不十分である。
力を信奉するロシアを交渉に応じさせるためには、外交交渉と併行して、北海道の道北、道東への自衛隊の配備を増強して対露防衛警備態勢を強化し、会議の成否に関わらず日本は領土を守り抜く意志と能力を持っていることをロシア側に印象付け、交渉に応じるよう圧力を加えることが必要である。
このような圧力を加えなければ、ロシア側は日本が本気で交渉に取り組むとは解釈せず、従来通りの問題先送り、既成事実の強化という高圧的な姿勢をとり続けるであろう。
いずれにしても、ロシア側が長期一貫した戦略で交渉に臨むのであれば、日本側としても、このような具体的な戦略をもって臨み、相手をこちらの作った場に引き込むよう主導性を発揮しなければならない。 (3)へ続く
JBpress.ismedia.jpより引用
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日露の戦略的和解の必要性と
北方領土返還への道筋 2013.04.01(月)矢野 義昭:プロフィール 中国が台頭し、米中、中露間のバランス・オブ・パワーが大きく変化しつつあるなか、日露間の戦略的和解の必要性は高まっている。その最大の障害となってきた北方領土問題解決への道筋について、現実的な対案を模索する。
1 日米と中国の間のバランス・オブ・パワーの変化
米中の相対的なバランス・オブ・パワーが中期的には中国側に有利になると予想される。中国は、2030年以降急速な高齢化時代に入り人口も減少期に入る。その結果、経済的にも2030年以降は低成長またはデフレ経済になり、軍事力の伸びも抑制されるかもしれない。
しかしそれまでは、共産党の独裁体制が維持され、経済成長も続き、軍事力も増強近代化されると見るべきであろう。少なくともそのような事態を前提にして2030年頃までの対中戦略は立てなければならない。
現在すでに尖閣問題での中国の強硬姿勢に表れているように、中国の経済力と技術力の高まりを背景とした軍事的台頭が顕著である。
米国が指摘しているように、中国は南シナ海、東シナ海を自国の統制下に置き、他国の軍事的進出を排除しようとしている。いわゆる「接近拒否」戦略をとろうとしている。その背景には、米国との相対的なパワーが今後中国に有利に推移するとの見通しに裏づけられた自信があると思われる。
他方の米国は巨額の財政赤字に苦しんでいる。そのため、国防費も大幅削減が見込まれている。米国の国債債務残高は2011年度末には10兆8560億ドル(GDPの72.0%)に上り、国防総省は今後10年間で約4900億ドル(約37兆円)の軍事費削減を迫られており、同省は地上戦力の主力の陸軍を現在の57万人から49万人に削減する方針である(『時事通信』、2012年1月6日)。
米国防予算は、2012年度は6710億ドルと11年度に比べて5%の減少に転じている。ただし、バラク・オバマ大統領は、2012年2月に発表された『新国防戦略』では、「アジアでのプレゼンス(存在)を強化し、この極めて重要な地域の予算は削減しない」と明言。レオン・パネッタ国防長官も「アジア太平洋の米軍の前方展開能力と抑止力を強化する」と述べている。
新戦略は、米国と同盟国の繁栄のために航行の自由を米軍が守る重要性を強調する一方で、中国とイランを名指しし、「精密誘導兵器やサイバー攻撃で米国の前方展開に対抗する手段を追求し続けている」と指摘。米軍の接近を拒む戦略に対処するために、ステルス爆撃機の開発やミサイル防衛の能力を向上させるとしている(同上、2012年2月13日)。
このように「アジア太平洋重視」は明示され、この正面での米軍戦力は維持するとしているが、国防費削減の結果、米国の軍事的能力は今後少なくとも十年程度の間、低下することは避けられないであろう。
さらに米国も高齢化と社会保障費の増加に直面しており、2030年頃まで厳しい財政再建圧力にさらされると予想されており、その頃までは国防費の大幅増額は困難であろう。
安全保障面では、オバマ政権は、2010年5月に発表された『国家安全保障戦略』でも述べているように、米本土防衛とテロとの戦い及び核拡散の防止を国家安全保障上、最も重視している。
そのため、大洋を超えて戦略輸送により軍を派遣するための軍事能力、例えば長距離輸送機、戦略輸送を護衛する新型駆逐艦とF-22ステルス戦闘爆撃機、戦略空輸に適し軽量だが打撃力のある陸軍の新型ストライカー部隊などの予算を大幅に削減している。
その結果、アジア太平洋正面の予算や部隊はたとえ維持されても、米本土からの戦略展開能力は低下する可能性が高い。このような米本土重視の安全保障戦略は、米国の経済、財政事情から必要やむを得なく採用されている戦略とも言え、今後米国は世界の警察官の役割から降りて、国内の経済と財政の立て直しを優先することになると見られる。
他方、中国は、米国防総省による米議会への中国の軍事力に関する報告などによれば、射程1700キロ以下の日韓台を射程下に入れる各種の弾道ミサイル、低空を飛行する巡航ミサイルなどを陸海空の部隊に配備し、増強近代化を続けている。
その結果、米国では、在日、在韓米軍基地は有事には、サイバー攻撃、特殊部隊の攻撃と併用された各種ミサイルの集中攻撃にさらされる危険性が高く、基地機能を喪失するのではないかと憂慮されている。
それに対抗して、海空の統合部隊を主体にして反攻作戦を行うとの「海空統合戦闘概念」が唱えられている。しかしこの概念では、陸上部隊は、海兵隊による敵ミサイル基地の破壊程度の運用にとどまり、大規模な地上軍の長期派遣は見込まれていない。
米軍主力は一時的に安全なグアム、ハワイまで後退して再編することになると予想され、その間の自国領域の防衛も侵略された領域の奪還も、それぞれの同盟国が自力で行わねばならなくなるであろう。
このような事態に備え、韓国、台湾、インド、豪州などの各国はすでに2000年頃から国防費の増額や装備の近代化に努めている。しかし、日本はその間、一方的に防衛費も自衛官の定員も削減してきた。
他方の中国は1989年以降、ほぼ毎年年率1割以上のペースで軍事費を増額しており、この30年間で約30倍に急増している。そのため、これまですでに日中の軍事的バランスは日本側に不利になってきている。
今後、米国の国防費が減額するとすれば、日本はそれを補うために防衛費も増額し、自衛官も増員しなければ国土防衛は全うできないであろう。現在ような状態を続ければ、日中米の間のバランス・オブ・パワーも、今後10年から20年は日米の力が相対的に低下し、中国の力がさらに優位になる可能性が高い。
総合的に見れば、海洋正面のみで中国の覇権拡大を有効に阻止することは、相対的なパワーの推移をみる限り容易ではないと予想される。
2 日露双方にとっての戦略的和解の必要性
中国のパワーをバランスさせるには、日本としてはロシアとの関係を強化し、対中パワーバランスを有利にすることが戦略上必要になる。地政的な視点から見ても、周辺海域への中国の進出圧力を緩和する最も効果的な方法は、地続き国境の背後から中国を軍事的に牽制することである。
そのための地政的な位置関係において最善の位置を占めているのが、ロシアである。地政的視点から見ても、日本としてはロシアとの関係を改善し、中国を背後から牽制する態勢を取ることが望ましい。
他方のロシアにとっても、日本との和解の必要性は高まっている。その背景には、日本とロシア、特に極東ロシアとのバランス・オブ・パワーの推移が、今後ロシア側の不利に傾く可能性が高いという事情がある。
ロシアでは少子高齢化が進行し、中でも極東地域では人口の流出も重なり、大幅に人口が減少し現在660万人程度に減っている。年間で延べ70万人以上の中国人労働者がロシア領内に入り、農業、漁業、建設事業などを支えており、ロシアは中国の人口圧力にさられている(野村充「ロシア極東地域の人口問題と労働力―日露極東シンポジウムのハイライト」環日本海経済交流センター『環日本海専門情報News』No. 2、7頁)。
またロシア経済は、石油、天然ガスなどの資源輸出に依存しており、資源価格が高騰すれば経済力も高まる構造になっている。その点で、近年シェールオイルが北米、ブラジル、中国などで発見され、その膨大な埋蔵量が確認され、採掘コストがバーレル70ドル程度とみられ、長期的には30ドル程度まで下落するとの見方もある。
そのため原油価格が長期的に高騰する可能性がなくなってきたことから、ロシア経済の資源依存体質では経済の高度成長は期待できなくなっている。特に、極東ロシアの経済は中国から輸入された食糧、日用品、軽工業製品などへの依存を深めている。
これらからロシアが、中国の人口と経済進出の圧力に直面し、劣勢に立たされていることは明らかである。資源依存経済から脱却するためプーチン政権は経済のハイテク化、IT化を推進しようとしているが成功せず、欧州経済も停滞していることから、日本の資本と技術への期待が特に極東開発では高まっている。
軍事面では、少子高齢化と人口流出により極東での徴兵対象者数が今後も大幅に減少すると見られている。装備の近代化も見込まれているが、そのために必要な先端技術の研究開発と装備化は容易ではない。これらの趨勢は、日露の相対的なパワーが日本側に今後有利になっていくことを示唆している。
したがって北方領土問題では日本としては、今後の特に極東での中露の経済関係、人口問題、沿海州などをめぐる潜在的な領土問題、朝鮮半島への影響力をめぐる対立など、中露間の相対的なバランス・オブ・パワーと日露の力関係をともに注目しつつ、ロシアが対中劣勢に立ち日本との連携を必要とし、日本側も対露優位にある、最も日本側にとり有利な時期に北方領土問題の主動的な解決を図るべきであろう。
ただし、日本も少子高齢化、財政赤字、長期デフレと産業の空洞化などの深刻な問題を抱えている。ロシアは日本にはない、戦略核をはじめとする米国に次ぐ軍事力と外交能力、世界一の広大な領土と豊富な埋蔵資源などの強みを持っており、今後とも世界的な大国の1つにとどまるであろう。
これらを総合的に勘案すれば、時間とともに一方的に日本のパワーが有利になると楽観的に見ることはできない。
また米国は、日露の接近に対しては本来警戒的である。例えば、1956年、日ソが歯舞、色丹の二島返還を条件に対日平和条約締結の交渉を進めていた際に、ダレス国務長官が、日本が二島返還で妥結するなら沖縄を返還しないと発言して日本側に圧力を加え、日ソ平和条約締結を妨害している。
しかし現在では米露は、戦略兵器削減交渉、テロとの戦いなどにおいて戦略的パートナーシップを築いており、かつての米ソ関係のような敵対的関係にはない。また、オバマ政権のアジア太平洋重視方針の背景には、近年、南シナ海、東シナ海などに排他的支配権を力ずくで確立しようとしている中国に対する警戒感がある。
したがって、米国としても日露の接近を歓迎すると見られる。また、中国の南シナ海での力ずくの領土拡張に対して反発と警戒を強めているベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国も、中印紛争で領土を奪われアジアの新興大国として中国と競合関係にあるインドも日露の接近を歓迎するであろう。 (2)へ続く
JBpress.ismedia.jpより引用
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日本との緊密な関係構築を望んでいるロシア
ウラジオストックのアジア太平洋安全保障会議に出席して
2013.01.29(火)山崎 眞:プロフィール (1)からの続き
今回は、CMCとロシア科学アカデミーが中心的役割を果たした。開催に当たってロシア科学アカデミーのビクター・ラーリン所長が挨拶を述べた。
その趣旨は、アジア・太平洋は今センターステージに立っており、もはや第二線ではないこと、時代が変わりアジア・太平洋の協調が重要になってきたこと、しかしながら先般のウラジオストックAPECにより何が残ったのか分からないこと、アジア・太平洋において今後ロシアの果たすべき役目は何かなどについてであった。
会議は、4つの連続したパネルから成り、「パネル1」の議題は「アジア・太平洋地域における21世紀の安全保障についての見方」であり、その討議項目は次の通りである。
(1)アジア・太平洋地域の国々の安全保障に対するチャレンジは何か?
(2)これらのチャレンジの方向性についてどのような変化が起きつつあるか? (3)これらのチャレンジにどのような優先順序をつけるか? (4)アジア・太平洋地域の安全保障の見方と世界の安全保障の見方をどのように関連づけるか? (5)アジア・太平洋の安全保障は国際関係の何処に位置づけられるか? 「パネル2」は「アジア・太平洋の安全保障に関して、各国は如何なる安全保障政策を取っているか?」であり、その討議項目は次の通りである。
(1)アジア・太平洋各国は国家安全保障のチャレンジに如何に対応しているか?
(2)国家間の考えにどのような相違があるか? (3)アジア・太平洋各国間の緊張と紛争の理由は何か? (4)このような緊張はどのようにして除去できるか? (5)緊張を和らげられなかった時、紛争の結果はどうなるか? このパネルにおいて、私が「日本の海洋戦略」についてパワーポイントを使用して発表した。重点事項は、1998年以来、ロシア海軍と海上自衛隊は友好関係を維持し、共同訓練も実施していること。
リンパック12に初参加したロシア艦隊が、8月から9月にかけて舞鶴を訪問したこと、動的防衛力等防衛大綱の考え方と内容、日本の海洋権益、兵力整備の考え方、海上自衛隊の国際的活動等とした。ここで、海洋権益に関連して領土問題に対する我が国の主張についても発言した。
「パネル3」は「北東アジアにおける安全保障要因としてのロシアのエネルギー資源」であり、その討議項目は、アジア・太平洋における価値ある安全保障部分となるエネルギー分野で次のようなテーマで討議した。
(1)いかにして協調を成し遂げるか?
(2)エネルギーの供給者と消費者の利益をいかにして調和させるか? (3)これに関して、ロシアの役割と責任はどのようなものか? 最後の「パネル4」は、翌17日に場所を変えてホテル・ベルサイユにおいて開催された。ヒュンダイと違い歴史を感じさせる重厚なホテルであった。会場は、少し狭くなったがホテル・ヒュンダイと同様のセッティングであった。
「パネル4」の議題は、今回の会議の最終目的とも言うべきもので「アジア・太平洋の地域安全保障フレームワークに向けて」であった。
討議項目は次の通り。
(1)アジア・太平洋地域のために包括的な地域安全保障フレームワークが必要か?
(2)このようなフレームワークを作ることが現実的か? (3)これはどのようなものでどのような機能を持つものか? (4)EASI(Euro-Atlantic Security Initiative)の経験がよい事例になるか? (5)アジア・太平洋地域において如何にしてスタートできるか? 会議は、1日半をかけて順調かつ活発に経過した。この間、昼食会と夕食会が開催され、昼食会においては在ウラジオストック米国総領事のスピーチがあった。夕食会は金角湾内を一望できる見晴らしの良いレストランにおいて開かれたが、ロシアではつきもののウオッカによる乾杯合戦はなく、ワインとロシア料理を中心にした極めて和やかな懇親会であった。
会議後、17日午後には市内のバスツアーがあったが、私はこれには参加せず、10年来の友人であるポルートフ博士夫妻、ソツコフ元海軍少将と市内見物、会食をエンジョイした。
ここでは、昼間からウオッカの一気飲みをやって思い出話に花を咲かせた。ソツコフ少将がアイフォーンでモスクワに在住しているザハレンコ大将を呼び出してくれ、久しぶりに彼の豪快な笑い声を聞くこともできた。
会議における各国の発言は、それぞれの国の立場がうかがえる大変興味深いものであった。ここで個々の発表・発言を挙げることはできないが、今回の会議のまとめは、次のようになる。
●2012年のロシアAPECは、単なる政治的アピールの場であり、中身はなかった。
●中国とロシアの同盟については、レシピがない。 ●中国とロシアは戦略的パートナーであるが、それがどのようなものかは依然として模索中のままである。
●中国の極東ロシアへの経済的進出、人口流入、軍事的増強等に対して、ロシアの警戒心が強い。 ●中国は軍事力を増強し、拒否的なアクション・リアクションを繰り返しつつあるが、これは危険なサイクルである。「近接阻止・領域拒否(A2/AD)」は軍事衝突の危険性を増している。
●米国と中国の間の軍事チャンネルは後退しており、冷戦時と同じ接触である。現実には戦争に向かっている。 ●米国、中国共に「米中軍事関係の構築」が安全保障上の鍵であり、アジアの安全保障の将来を決めるという認識である。
●中国は、米国に対しては軍事的協調、ロシアに対しては平和的協調を唱えており、ロシアと同様に国境での脅威の存在を感じている。 ●北朝鮮の新戦略、外交上のアプローチの変化について、各国が注目している。
●中国は、6カ国協議を開催し、北朝鮮を招くのがよいと考えている。 ●ロシアは、債務問題によりEUでのエネルギー資源の輸入が減少したことにより、アジアへエネルギー市場を転換した。
●ロシアは、日本に対するエネルギー資源の輸出拡大に期待している。 ●日本の石油・ガスの国内消費量の約10%はロシアから輸入するに至っている。
●今回、ロシアが開催国であるにもかかわらず、ロシアの安全保障についての発表がなかったことは残念であった。 ●ただし、ロシアはアジア・太平洋の安全保障について、もっとアクティブになり、何らかの役割を果たし存在感を強めることを望んでいる。
●今回のような安全保障に関するオープンな国際会議をロシア主催で開催したことは、それ自身大きな価値があったものと考える。 あとがき 会議がつつがなく終了し、10月18日朝帰国の途に就いた。帰りも幸い河東元大使と一緒の便であった。CMCが準備した車で再びアムール湾大橋を渡ってウラジオストック空港に着いた。準備された航空券は、帰りは来た時と違って成田直行便ではなく、ハバロフスク経由の便であった。
車中で、河東元大使はハバロフスク経由と知ったときはやや不安を覚えたと言われた。氏は過去にロシア国内便で何度も散々な目に遭ったと言うのだ。6〜7時間の遅れは日常茶飯事であり、その説明のアナウンスもなくただじっと我慢して待つしかないということだ。
我々の便はハバロフスク空港で4時間待ちとなっていた。ウラジオストックからは定刻に到着し、いざ乗り換えの段になるとどこへ行けばよいのか表示がない。もちろん英語の表示も全くない。
私はロシア語が読めないから元々何も分からないわけであるが、河東元大使が女性の係員に流暢なロシア語で聞いても要領を得ず、ただ遠くを指差して「あっち」と言うだけである。
ソ連時代の面影を残して、しゃべるのも超過勤務という感じである。河東元大使の長年のロシア勘で、恐らくあの建物だろうということで、教会のような形をした水色の特徴ある建物に向かって2人でスーツケースを引っ張りながら凸凹道を歩くこと数分、その建物には人の気配がなかったがガラスドアを思い切って開けてみると確かに成田行きの受付があってホッとした。
荷物のチェックをする武装した女性係員たちは意外とにこやかで愛想が良かった。若干の椅子があったのでチェックイン開始まで小一時間暇をつぶし、チェックイン後は待合室で待機した。簡単な売店もあった。
3時間ほど待つ間に、青空がにわかに暗くなり吹雪が吹きだした。さすがにハバロフスクはもう寒かった。この間、また大使との会話が弾んで時間を持て余すことはなかった。天候も回復して、成田行きA300は定刻に離陸した。4日間のロシアでの出来事を思い返しているうちに疲れが出たのか深い眠りに落ちていた。 JBpress.ismedia.jpより引用
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