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オバマ大統領はなぜ尖閣問題に「無言」だったのか
日米同盟の強化とは無縁だった安倍首相の訪米
2013.02.28(木)北村 淳:プロフィール 安倍晋三首相の訪米に関して、訪米前よりトップニュース扱いをしていた日本のマスコミは、アメリカのマスコミも高い関心を示しているかのようなニュアンスで報道していた。だが、実際にはアメリカでの関心は低調であった。ただし例外的に「ワシントン・ポスト」が安倍首相への単独インタビューを掲載したが、その記事に対して中国政府が反発した模様が若干の関心を引いていた程度であった。
その安倍首相訪米に関して、アメリカ政府が公表した公式な声明は3つである。まず、安倍首相とオバマ大統領が主に安全保障問題に関して話し合った後に、公式記者会見ではなく記者を前にして共同で「談話」の形として発表した声明。次に、日本のTPP交渉参加に関する「日米共同声明」。それに首脳会談後の岸田文雄外相とケリー国務長官との会談前に行われた共同記者会見での声明であった。
それらのうち、オバマ大統領の声明とケリー国務長官の声明の中で、アメリカ側は日本の安全保障に関して言及した。まずは、それらの安全保障に関する公式表明を見てみよう。
共同談話中の安全保障に関するオバマ大統領の声明 「日本はアメリカにとり緊密な同盟国の1つであり、日米同盟は太平洋地域におけるアメリカによる地域安全保障と様々な活動の根幹をなしていることは明らかです。そしてその親密な関係は政府間にとどまらず国民の間にも広がるものであります。
安倍首相自身はアメリカにとって見知らぬ人ではありません。彼と私は、同じような時期にカリフォルニアで学んでいたと記憶しております。そして今回のオーバルオフィス訪問は首相にとって初めてではありません。したがって、私たちが、あらゆる分野にわたって非常に強固な職務上の関係を築くことを期待しております。
われわれは、幅広い安全保障問題に関して、とりわけ北朝鮮が取り続けている挑発的行動に対する懸念とそれに対する強固な対抗措置の決定について、緊密な協議をいたしました。
また、私たちは広範囲にわたり多国間問題に関して話し合い、アメリカのアフガニスタンでの活動やイランでの核問題解決に対する取り組みなどに対して日本が行った支援に対する私からの感謝を伝えるとともに、アルジェリアのBP施設での人命の犠牲に対してお互いに弔意を表明し、これによってより強力な対テロ対策に関する協力を促進することを約束しました」
ケリー国務長官の会談前の安全保障問題に関する声明 「世界のトップ3の経済大国のうちの2カ国であるわれわれが、そして非常に強い同盟に基づくとりわけ特別な友人同士としてここに会しています。(日米)同盟は、アジア太平洋地域の平和と安全保障にとって欠かせない世界的規模での協力関係へと発展しつつあります。
私は、数多くの世界的諸問題、つまりテロ対策、日本が主たる協力者であったアフガニスタンに対する努力、そして最近においては残念ながら犠牲者が出てしまったマリでの取り組みなどに関して日本が行った絶大な協力に対し、日本の人々と指導者の方々に大いなる謝意を表明します。
また、私たちはイナメナスの施設で10名もの日本市民が犠牲となったことに対して大いなる哀悼の意を表明いたします。さらに、日本は核不拡散に対しても熱心に活動してきております。日本の人々はイランからの燃料の使用や輸入・購入を削減するための重要なパートナーであります。日本は、制裁実施にとって欠かせません」・・・・
「日米関係の重要性を強調することとして、言うまでもなくすべての人が尖閣諸島を巡っての緊張を意識しています。そして私は、この問題が決定的な対決へと燃え上がらないようにするための日本の努力と、日本が示している抑制的行動を称賛いたしたいと思います。
さらには、近頃、核実験という無謀な振る舞いを敢行した北朝鮮に関して、われわれは日本との同盟関係が強固であり、アメリカによる日本の安全保障への責務は本物であり、アメリカは日本を支援する、ということを表明いたします」
アメリカのメディアの関心の低さ 安倍首相とオバマ大統領の共同談話の模様に始まり、TPPに関する共同声明を中心に日本の報道機関はトップ扱いで報じた。安全保障問題に関しては、オバマ大統領からの言及があまりなかったため、ケリー国務長官の声明や会談内容を日本のマスコミは断片的に組み替えて伝えるしかなかったようだ。
とりわけ、尖閣問題に関してアメリカの後ろ盾にすがりつこうという姿勢で自主防衛能力構築の気概に欠ける一部マスコミは、ケリー国務長官が尖閣諸島問題に対するこれまでの日本の自制的対応を(上記のように)評価したことを紹介するとともに、外相との会談の中で「尖閣諸島が日米安全保障条約の適用範囲にある」との「アメリカの揺るぎない立場」を強調している。
一方、アメリカのマスコミの対応はどうであったか。一言で言うと、外相会談の内容はもとより首脳会談の結果に関してもほとんど関心を示さなかった。
会談当夜や翌日の主要テレビ放送局のニュース番組ではほとんど取り上げられず、PBS(公共放送サービス)のように例外的に数分間の時間を割いて取り上げたとしても、主たる内容は「なぜ日本と中国が揉めているのか?」という視聴者の大半が知らない尖閣諸島問題についての解説であった。
実際に、オバマ大統領やケリー国務長官の日本を巡る安全保障に関する声明や談話に関して論じている英文メディアは日本関係メディア(例えば「Daily Yomiuri」「JIJI」「Japan Times」)、あるいは中国メディアの英語版といったところであり、アメリカのメディアによる関心の低さを物語っている。 (2)へ続く
JBpress.ismedia.jpより引用
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アメリカ
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クリントン発言の歪曲報道に要注意
「ともかく平和的に解決してほしい」というのが本音
2013.02.08(金)北村 淳:プロフィール オバマ政権の2期目がスタートして、銃規制問題と移民法改正問題が財政危機克服以上にアメリカのマスコミの話題となっている。そして、オバマ政権(1期目の)誕生に際しての大統領指名獲得を巡ってはバラク・オバマの最大の政敵であったにもかかわらず、オバマ政権の国務長官として大統領の右腕として手腕を振るったヒラリー・クリントンが国務長官から退き、「次のステップへ向かうのか?」という話題も大きな関心を集めている。
そのヒラリー・クリントンが国務長官を退任する前に最後に日本と関わったのは、岸田文雄外務大臣が訪米して会談した際の共同記者会見における尖閣問題をはじめとする諸懸案に関するコメントであった。
尖閣問題に言及したヒラリー・クリントン 記者会見においてヒラリー・クリントンは、自らが国務長官に就任して初めての公式外国訪問は、それまでの国務長官が伝統的にヨーロッパ諸国を歴訪したのと違い、21世紀におけるアメリカの国益にとり最も重要であるアジア、それも「何の疑いもなく、最初の訪問国には日本を選んだ」という思い出を述べた。
そして、「最初の訪問の際に東京で述べたように、われわれ(日本とアメリカ合衆国)の同盟関係は、アメリカ合衆国の(東アジア)地域への関与にとっての土台となり続けている」と日米同盟関係の重要性を再確認し、「日米における同盟関係への強調と関与に関して、私は日本の人々ならびに指導者たちにお礼を申し上げたい」という日米関係の重要性を讃えた。
引き続き、北朝鮮に対する危惧、尖閣諸島問題、普天間基地移設問題それにTPPに関してそれぞれ簡潔な公式声明が述べられた。
それらのうちで尖閣問題に関してのコメントは、以下のようなものであった。
「私は、尖閣諸島に関して、アメリカ合衆国が伝統的に維持し続けてきた政策とわれわれの(日米安全保障条約上の)義務に関して繰り返して再度述べさせてもらいました。以前にも私が何度も申し上げたように、アメリカ合衆国はこれらの島々(尖閣諸島)の究極的な主権に関しては立場をはっきりさせないが、それらの島々が日本政府の施政下にあることを認識し、日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対し、全ての関係当事国に偶発的事件を回避し異議申し立て事案を平和的手段によって処理するように強く要請いたします」
岸田外相の声明に引き続いて報道陣と取り交わされた質疑応答の最後で、クリントン国務長官は尖閣問題に関して再度以下のように言及した。
「私は、中国の友人たちにも言ったように、日本と中国がこの問題(尖閣諸島問題)を対話を通して平和裏に解決することをわれわれ(米国)が期待しており、安倍政権が早い時期に中国政府と接触し話し合いを始めることをわれわれは歓迎する、ということを岸田外相にも再度述べました。われわれは、日本と中国双方の新しい指導者たちに(東アジア地域の)全地域における安全保障のために、互いに幸先の良いスタートを切ることを期待しています」
「われわれは、いかなる国によるどのような行動といえども東アジア地域の平和と安全保障と経済発展を弱体化させることは望まない、ということを明確にしました。われわれは、(尖閣問題での)緊張を緩和し、事態の悪化を防ぎ、日本と中国が互いの国益にとって重要なその他の様々な諸懸案に関しても対話を促進することを可能にするように、引き続き日中が協議を行うことを望んでおります」
アメリカが日本を軍事支援するとは言っていない このようなヒラリー・クリントンの尖閣問題に関するコメントについて、日本のマスコミの多くは「(尖閣諸島に対する)日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対」するとの一節を取り上げて、「尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象になる」とのアメリカ政府の立場を再確認したと指摘するとともに、中国による尖閣諸島周辺での挑発的行動を従来より踏み込んで牽制した、といった趣旨の報道をなした。
例えば「米長官が初明言 『日本脅かす、いかなる行為にも反対』 日米外相会談」といった見出しで、記事は以下のようになる。「平和的解決を訴える米政府が尖閣諸島をめぐり、中国の挑発行為に反対の意思を示したのは初めて。米議会も昨年11月末、国防権限法に尖閣防衛を明記しており、政府と議会が一体となって 中国を強く牽制(けんせい)した格好だ」
これではいかにも、尖閣諸島問題がきっかけとなり日中間に武力紛争が勃発した場合には、アメリカが日本側に直接的軍事支援を行い中国を追い払う、といったニュアンスを与えかねない報道姿勢である。
確かにヒラリー・クリントンの上記のコメントは、2013年度国防権限法に盛り込まれた尖閣諸島関連条項(ウェッブ修正条項)の内容とオーバーラップするものであり、アメリカ連邦議会の意見表明(なんら直接的法的拘束力があるわけではない)であるウェッブ修正条項を、再度アメリカ政府が国務長官の公式コメントによって確認したものと言うことができる。
【参考】2013年度国防権限法ウェッブ修正条項 しかしながらウェッブ修正条項にもクリントン国務長官のコメントにも、なんら尖閣諸島を巡っての日中軍事衝突に対するアメリカの直接的軍事介入を示唆する言葉は存在しない。
それだけでなく、首尾一貫して「第三国間の領土問題には介入しない」という米国外交の伝統的鉄則に従って、「アメリカ合衆国は尖閣諸島の究極的な主権すなわち領有権に関しては立場を明確にしない」と繰り返し述べている。
そして、「日本の施政権は認知する」という表明により、アメリカ政府は現時点では中国よりは日本の肩を持つとのニュアンスを明らかにしているが、現に同盟関係にある日本と、アメリカとは同盟関係にない中国が、アメリカ政府自身には態度を明確にできない領有権問題に関して対立している場合に“アメリカ政府・議会が完全な中立よりは日本寄り”といった立場を表明するのは当然であり、このことをもって「万が一日中軍事衝突が勃発した場合には日米安全保障条約第5条に基づいてアメリカ救援軍が駆けつける」と考えるのは、あまりに自己中心的な思考と言わざるを得ない。
「挑発的防御策をとるべきではない」と予防線 日本のマスコミが飛びついた「(尖閣諸島に対する)日本の施政権を弱めるためのいかなる一方的な行為にも反対」するというくだりは、ヒラリー・クリントンのコメント全体から判断すると、「ともかく、平和的に解決する努力を、日中双方は早急にかつ粘り強く展開すべきであり、偶発的な軍事衝突が起きかねないような挑発行為は厳に慎まねばならない」という趣旨である。日本に対しても「中国の挑発に対応して挑発的防御策はとるべきではない」と予防線を張っていると理解しなければならない。
アメリカはアフガニスタンから戦闘部隊を撤退させるとはいっても、イスラエル周辺諸国やイランを巡っての軍事衝突も予想されるし、アルジェリア事件で日本の人々にも知れわたったように北アフリカでの対テロ戦争も激化の一途をたどっているうえ、北朝鮮をめぐる朝鮮半島問題も深刻化している。
そうした状況で、尖閣問題が引きがねとなって日中が軍事的緊張状態に突入した場合には、アメリカ政府としては手の施しようがなくなるのは必至である。
「少なくとも日本と中国にはこれ以上軍事的緊張だけは高めないで、有耶無耶な状況でもよいから、現状を維持していてほしい」というのがアメリカ政府の本音であると考えなければならない。 JBpress.ismedia.jpより引用
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「米軍が尖閣防衛に駆けつける」は早合点、
ウェッブ議員の“置き土産”の本当の中身とは 2012.12.10(月)北村 淳:プロフィール アメリカ連邦議会で審議中の「2013年度 国防権限法」に、ウェッブ上院議員(注)が中心となってマケイン上院議員、インホッフ上院議員、リーバーマン上院議員らと提議した「尖閣諸島を巡る状況に関する補足 第1246条」が、11月29日に全会一致で可決された。
この条項を一言で言うならば、これまでしばしばアメリカ政府高官(例えばクリントン国務長官やパネッタ国防長官)が公言している「尖閣諸島の領有権に関しては中立的立場を維持するが、尖閣諸島が日本の施政下にあることは認めている」というアメリカ政府の立場を、アメリカ連邦議会でも明確に宣言するという趣旨である。
(注)ウェッブ上院議員は海軍兵学校を卒業し、アメリカ海兵隊に入隊。海兵隊将校としてベトナム戦争に参加し、数々の勲功を挙げ、「Navy Cross」を含む6個の勲章を授与された。ベトナム戦争後、法律家に転身して連邦議会や連邦政府の仕事に就き、1987年にはレーガン政権下で海軍長官(アメリカ海軍とアメリカ海兵隊を統括する海軍省のトップでシビリアンのポスト)を務めた。上院では、軍事委員会(人事小委員会委員長)や外交委員会(東アジア・太平洋地域小委員会委員長)などを兼任してきた。今期で上院議員を引退する。
「尖閣諸島は日本の施政下」「日米安保条約第5条の規定を再確認」と記述 条項は下記のような内容であり、7項目から構成されている。
【第1246条:尖閣諸島情勢に対するアメリカ合衆国上院の意見】
アメリカ合衆国上院の意見は下記の通り:
(1)東シナ海は、アジア太平洋地域の全ての諸国家に利益をもたらす重要な海上航路帯・通商路を有するアジアの“共有の海”の一部である。
(2)東シナ海における領有権ならびに管轄権に関する紛争の平和的解決は、紛争を複雑にする、あるいは増長したり地域を不安定にする様々な行動に関与する全ての当事国の自制に基づいた行動が要求されている。そして相違点は、普遍的に認められている慣習国際法の原則に従った建設的方法で処理されるべきである。
(3)アメリカ合衆国は、尖閣諸島の究極的領有権に関しては立場を明確にはしないが、尖閣諸島が日本の施政下にあることは認めている。
(4)第三国による一方的な行動は、尖閣諸島が日本の施政下にあるというアメリカ合衆国の認識になんらの影響も与えない。
(5)アメリカ合衆国は、航行の自由、平和と安定の維持、国際法の遵守、そして合法的通商の自由に対して国益に関わる利害関係を持っている。
(6)アメリカ合衆国は、脅迫なしで領有権紛争を解決しようとする当事者間の協調的外交プロセスを支援し、東シナ海における主権や領域を巡っての諸問題を解決するために当事国が脅迫しようとしたり、軍事的恫喝をしたり、軍事力を使用することに反対する。
(7)アメリカ合衆国は「締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する」という日米安保条約第5条における日本政府に対する責務を再確認する。
歓迎すべきだが単純に受け取るのは誤り アメリカ上院がこの第1246条すなわち“ウェッブ修正条項”を採択したことは、「日中間尖閣論争」が「日中間軍事衝突」に発展した場合にはアメリカの同盟国である日本をなんらかの形で支援することを、アメリカ政府同様アメリカ議会も明言したわけであり、日本にとってはもちろん歓迎すべき条文である。
ただし、日本の多くのメディアは、「国防権限法」とはどのような法律であるのか、また“ウェッブ修正条項”は“Sense of Senate”という追加条文であることを説明していない。
そして、あたかも「尖閣問題で中国が日本に武力攻撃を仕掛けたらアメリカは日本防衛のために中国と戦うよう『国防権限法』で定められた」、あるいは「尖閣諸島をアメリカ軍が防衛する義務が『国防権限法』で定められた」といったニュアンスを与えかねない論調で報道している。
これでは、日本の国防をアメリカに頼り切ることに疑問を感じない人々が、「尖閣問題が引きがねとなって中国が日本に武力攻撃を加えたら、アメリカが日本を守ってくれるから『とりあえずひと安心』だ」、そして「『日米同盟の危機』などと言っているが、日米同盟は見事に機能しているじゃないか」などと思い込んでしまいかねない。
しかしながら、そのような具合に単純に受け取るのは大きな誤りと言わねばなるまい。
“ウェッブ修正条項”は、今期をもって上院から引退するウェッブ上院議員の日本に対する“置き土産”のようなものである。ただし後述するように、日本が自主防衛努力を真剣に進めるならば置き土産となり、そうでなかった場合は“鍵が開かない箱”となってしまう。
ウェッブ修正条項は意見表明であって法的拘束力はない そもそも「国防権限法」と和訳されている“National Defense Authorization Act”(通称「NDAA」)は、アメリカ連邦議会が毎年国防総省(陸軍・海軍ならびに海兵隊・空軍を含む)の予算の大枠を決定し、認可する法律である。したがって、NDAAは「国防歳出認可法」と和訳した方が実体を表象するものと筆者は考える。
「予算の大枠」を規定するといっても、かなり具体的な内容まで盛り込まれているため、国防権限法は極めて厖大な文書となっている。ちなみに現在審議中の「2013年度 国防権限法」は、第1246条が加えられる以前でも本文596ページ、表70ページであり、これにいくつかの修正条項が加えられるためにさらに厚手の法律となる。
「2013年度 国防権限法」は間もなく上院を通過した後、下院との協議(両院協議会)を経てオバマ大統領が署名して法律となる。つまり、この法律に基づいた国防予算の執行にゴーサインが出るわけである。
この中に含まれる“ウェッブ修正条項”は、その表題に「上院の意見表明(SENSE OF THE SENATE)」という文言が付せられている条文であって、法的拘束力がある項目は含んでいない。
アメリカ連邦議会では、上院、下院、議会全体の意見表明としての「意見表明決議(“SENSE OF”resolution)」がなされることがある。また、独立した「意見表明決議」ではなく、法案の中に上院、下院、議会全体の意見表明としての「意見表明条項(“SENSE OF”section)」を盛り込む場合も少なくない。
とりわけ、法的拘束力を持たせるのが難しい外交問題で、アメリカ政府や関係諸国に対して連邦議会によるメッセージを公にしておきたい場合に、“SENSE OF”が用いられる場合が多い(もちろん、内政に関するものも少なくない)。
まさに“ウェッブ修正条項”は、この種の外交問題に関する意見表明条項の典型例である。
あくまでもホワイトハウス・国務省・ペンタゴンが状況を判断する 意見表明としての“ウェッブ修正条項”そのものはなんら法的拘束力は持たないが、安保条約第5条は条約上の拘束力があるため、間接的に法的拘束力を生ぜしめている意見表明ということになる。その結果として、「“ウェッブ修正条項”によって、アメリカは尖閣防衛義務が生じた」といった類いの単純な理解が生じてしまっているわけである。
“ウェッブ修正条項”にせよ、クリントン国務長官やパネッタ国防長官の表明にせよ、中国が尖閣問題を口実に日本に対して武力攻撃を実施した場合には、安保条約第5条が適用される趣旨を確認しているのであり、アメリカ軍による中国軍に対する反撃が自動的に実施されることを保証しているわけではない。
なぜならば、日米安保条約第5条(前段)によれば、「アメリカ合衆国憲法ならびに法令の規定と手続きに従って、中国軍による対日武力攻撃に対処する」ということになるのであって、場合によっては米中戦争を前提にした核攻撃が実施されるかもしれないし、場合によっては全くアメリカ軍が動かないかもしれない。あくまでもホワイトハウス・国務省・ペンタゴンの状況判断によりけりということになる。
これは、日米安保条約第5条前段と一見似通っているが大きく異なっているNATO条約第5条前段と比べてみると、よく理解できるところである。
すなわち、NATO条約第5条前段には、条約締約国に対して武力攻撃がなされた場合には「武力の行使を含む必要と認める行動を、個別的ならびに他の締約国との共同で直ちに実施して、攻撃を受けた締約国を援助する」と、条約加盟国による軍事的反撃義務が明確に規定されている。しかしながら、日米安保条約にはこのような規定は存在しない。
日本の自主防衛努力が大前提 それでは、中国軍が尖閣諸島領有権紛争解決を口実に日本に武力攻撃を仕掛けた場合に、アメリカ軍が日本防衛のために送り込まれることになる条件はいかなるものであろうか?
結論を一言で言うと、「日本救援のためにアメリカ軍が出動し、少なからぬアメリカ軍将兵が死傷し、アメリカ軍装備が損耗し、アメリカ国民の税金が投入されるという状況をアメリカ国民が是認するであろう」と、ホワイトハウスや連邦議会が確信するような状況が必要である。
NATO条約と違って、日米安保条約には攻撃国に対して自動的に反撃する義務が課せられていない。そのため、あくまでアメリカ軍による戦闘を伴う反撃という形での日本保護、すなわち“参戦”はホワイトハウスと連邦議会の決断が必要である。そうである以上、アメリカ国民の意向を尊重せざるを得ないのである。
そして、アメリカ国民が支持する大前提は、同盟国日本の軍隊そして国民が中国軍の攻撃に対して果敢に抵抗しているものの、苦戦を強いられ、アメリカ軍の援助を求めている、という構図が見て取れる状況なのである。
しかしながら「アメリカ軍は『槍』、自衛隊は『盾』」と公言して外敵に対する反撃能力を極小に抑え込み、自主防衛能力構築を蔑(ないがし)ろにしているのが日本の現状である。その結果、国際常識から判断すると異常に低い国防費しか支出せずに、当初よりアメリカ軍による直接軍事介入を前提としており、自主防衛という意識すら希薄な状況が日本社会に定着してしまっている。
このように自主防衛能力が弱体である現在の日本の国防状況が続いている限り、ウェッブ上院議員による“置き土産”であるべき第1246条は“鍵の開かない箱”となってしまい、アメリカによる直接的軍事介入は現実のものとはならないことは必至である。 JBpress.ismedia.jpより引用
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このままでは中国の言い分が「事実」になっていく
尖閣紛争を取り上げた米国政策諮問委員会の問題点
2012.11.30(金) 北村 淳:プロフィール 毎年11月中旬に、アメリカ連邦議会の政策諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会は連邦議会に対して報告書を提出する。
この調査委員会は上下両院超党派の代表によって指名された12名の委員から構成されている。それぞれの委員は、専門職の政策ならびに事務スタッフの補助を得て、米中間の経済問題全般ならびに米国に影響を与える中国が関与する安全保障問題に関する調査を実施し、連邦議会に報告する。政策スタッフは、中国あるいは台湾の貿易、経済、武器拡散、外交政策に関する専門家集団である。
先日(11月14日)、「米中経済安全保障調査委員会2012年版年次リポート」がアメリカ連邦議会に提出された。
このリポートの中には、アメリカの安全保障に対する中国の影響に関して2012年にはどのような動きがあったのかを概観する節(第2章・第1節)がある。その節の中で、最もスペースを割かれているのが「東シナ海における防衛問題の動向」と題する項目であり、主として尖閣諸島を巡る領有権論争に関する記述がなされている。
その概要は、以下のような具合である。
「アメリカ政府の立場は明瞭」と記述 「東シナ海に浮かぶ3つの小島を日本政府が20億5000万円で日本人の所有者より購入した。日本では尖閣、中国では釣魚島、台湾では釣魚台と呼ばれる資源(筆者注:海底資源)が豊富な諸島は日本によって支配(管理、administer)されていたものの、1970年代より中国や台湾によっても領有権が主張され始めた。日本政府による国有化が発端となり、これらの島を含む尖閣諸島の領有権を巡る日本と中国(それに台湾)の間の論争は急速に激しさを増した」
「中国政府は国連やその他外交の場で、日本政府による国有化は茶番劇でありなんら歴史的背景に影響するものではない旨を繰り返し主張している。また、中国国内では反日暴動や日本製品ボイコット運動なども含めて日本ビジネスに対する攻撃が行われた。さらに、中国海洋監視船による尖閣諸島周辺海域での“領海防衛行動”も繰り返し実施されている」
「台湾の馬政権も尖閣諸島の領有権は台湾にある旨を強調するとともに、尖閣諸島周辺海域で操業する台湾漁民保護のために沿岸警備隊巡視船を派遣した。日本政府の尖閣諸島国有化に先立つ8月、馬政権は『東シナ海平和構想』を打ち出した」
「中国の非難や反日行動に対して野田政権は、石原都知事が購入するだけでなく扇動的行動に出るのを防止するために日本政府による購入を急いだのだ、と説明している。しかしながら中国側はそのような説明を受けつけず、野田政権の欺瞞にはだまされないと主張している」
「尖閣諸島論争は、歴史的ならびに地政学的理由によって極めて微妙な日中間に横たわる問題である。中国側は日本による尖閣諸島支配を日本帝国時代の残滓と見なしている。しかしながらアメリカ政府の立場は明瞭である。すなわち、尖閣諸島は日本が管理しているのであるゆえ、日米安全保障条約の範疇に入っている。2010年に国務長官ヒラリー・クリントンは、『米国は領有権に関しては立場をはっきりさせてはいないが、尖閣諸島が日米安保条約と日本防衛義務の一部であることは明らかである』と明言している」
初めて正面から取り上げられた尖閣問題 米中経済安全保障調査委員会年次報告では、中国の経済的あるいは軍事的問題のうちアメリカに直接的間接的に影響を及ぼすであろう問題にのみ関して分析されている。したがって、日中間に尖閣諸島の領有権を巡る論争があっても、それがアメリカに影響を及ばさない問題である場合には触れられないのである。
2005年から毎年発行されているこのリポートで、初めて日中間の尖閣諸島領有権論争の存在を取り上げたのは2006年版である。ただし半ページにも満たない記述であった。2007年版には紹介もされなかったが、2008年版ではやや詳しく(といっても合わせて1ページ程度の分量だが)尖閣諸島と排他的経済水域(EEZ)に関する日中間のトラブルを解説した。それ以降は、領有権論争の存在を紹介する記述があるのみで、なんら分析がなされることはなかった。すなわち、米中経済安全保障調査委員会にとっては、尖閣問題がアメリカに何らかの影響を及ぼすとは見なしていなかったのである。
ところが、「2012年版リポート」がまとめ上げられる直前に日本政府による尖閣諸島国有化に端を発した中国政府による過剰な反応と中国での反日暴動や日本製品ボイコット運動など急激に日中関係が悪化したのを受けて、米中経済安全保障調査委員会も初めて正面から尖閣問題を取り上げるに至ったのである。
とはいっても、本文だけで450ページのリポートのうち、3カ所で触れられ、合計でも5ページには満たない程度の分量であり、独立した節を設けて分析されている南シナ海における領域紛争とは比べるべくもない扱い方である。
要するに、国際社会から見て異常な中国側の反応によって、日中間の尖閣諸島領有権論争はアメリカにとっても何らかの影響を受けざるをえない深刻な領域問題である、との注意をアメリカ連邦議会に対して喚起したという程度の段階にとどまっていると言うことができる。
「対外発信の強化」が必要 そして、領有権論争の本質についての詳細は「2012年版リポート」ではほとんど触れられていない。もっとも「2008年版リポート」では、「中国政府は、尖閣諸島は1895年の下関条約という不平等条約によって日本領に組み込まれた、と主張しているのに対して、日本政府はその条約以前より日本の支配下にあった、と反論している」と日中双方の主張が簡単に紹介されているから、今回のリポートでは省略したのかもしれない。
ここで、われわれが注意しなくてはならないのは、これらのリポートが用いている情報ソースである。例えば、上記「2008年版リポート」での日中間論争内容の出典はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)アジア研究センターで発表されたドリフト氏の「東シナ海での日中領域論争: 軍事的対峙と経済的協力の狭間」という報告書であり、日本政府や日本の研究機関が作成した資料は含まれていない。
この他にも、尖閣諸島や東シナ海を巡る日中間トラブル、とりわけ軍事外交的側面に関する分析に用いられている刊行物や証言には、日本から発信(英語で)されたものがほとんど見当たらない。中国側あるいは中国人研究者や著者によって発信された資料の方が目立っているというのが現状である。
もちろん、発信されたからといって専門家が内容を精査しないで信じることはないにしても、情報発信量の差が大きければ、それだけ受け入れられる可能性も大きくなるのは当然である。
例えば上記の引用に関しても、下関条約などは国際社会では知られていないため、中国側が「不平等条約である下関条約」と発信し続け、それに対して日本側がなんらの反論や訂正を発信しなければ、国際社会では「下関条約は不平等条約である」ということになってしまうのである。
同様に、「不平等条約下で尖閣諸島を日本が奪取した」あるいは「明の時代から尖閣諸島は中国の領土だった」などと中国側が発信し続け、日本側の発信がほとんどなされなければ、尖閣諸島の位置も知らなければ、下関条約も日清戦争も知らず、明王朝など聞いたこともない人々にとっては、発信量で圧倒する中国側の言い分が歴史的事実と映ってしまうのである。
尖閣諸島の領有権や東シナ海の日中境界線確定といった第三国にとってはなかなか理解し難い日中対立に関して、国際社会に日本の主張が正しいとの理解を促進させるために、日本政府が様々な広報手段を用いて国際社会に向けて発信することは、軍事的対抗手段を整備することに劣らず重要な責務である。
JBpress.ismedia.jpより引用
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