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中国の「真珠の首飾り」戦略は機能するのか(中)
インドネシアを敵に回す理由〜中国株式会社の研究(135)
2011.11.04(金) 宮家 邦彦:プロフィール 今回はインドネシアのジャカルタでこの原稿を書いている。日本ではあまり知られていないが、当地にはASEAN(東南アジア諸国連合)の本部が置かれている。久しぶりで再訪したこの赤道直下の大都会は過去10年間に見違えるほどの経済発展を遂げていた。今回のテーマはインドネシア・中国関係である。
南シナ海問題 中国の「真珠の首飾り」戦略の東半分は南シナ海だ。ここは中国が領有権を主張する海域であり、多くのASEAN諸国にとっては頭痛の種でもある。
2015年にも予定される「ASEAN共同体」の設立に向け域内協議を加速すべき今、南シナ海島嶼領有権問題はそのプロセスを遅らせる可能性があるからだ。
言うまでもなく、南シナ海にはいまだ領有権が確定していない南沙、西沙、東沙、中沙各諸島があり、中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイがそれぞれ領有権を主張している。
各国の主張を書くだけで1回分の字数を超えてしまうので、今回は詳細な説明を省略させていただく。
今回ジャカルタに来て改めて認識したことがある。インドネシアは現在問題となっている南シナ海島嶼の領有権を主張していないことだ。
確かに、地図を見る限り、インドネシアは南シナ海から遠く南に離れており、少なくとも中国とは領土問題を抱えていない。実に幸運なASEANの国である。
それではインドネシア・中国関係は良好なのかと問われれば、とんでもない。それどころか、中国にとってインドネシアは中国人が理不尽と思うほどの「反中」国家であるらしい。
なぜそうなのか、今回知り合った当地オピニオンリーダーの1人がその背景を詳しく解説してくれた。
インドネシアが反中となった理由クビライ汗(ウィキペディア)
インドネシアの小学校教科書が1290〜93年に起きたあの忌まわしい歴史的事件のことを今も克明に記述しているためらしい。
物語の概要は次の通りだ。
●1290年、元のクビライ汗が当時ジャワ島の支配を確立していたシンガサリ王国に使節を送り、元朝に対し朝貢するよう強く求めた。
しかし、シンガサリの国王はこの要求を断固拒否し、使者の顔に刺青を入れて送り返した。これに怒った元朝は1293年、同国王を懲らしめるためジャワに大軍を派遣する。
●ところが、元の遠征軍がジャワ島に到着する前に、シンガサリ王国では謀反による政変で新国王が即位していた。
前国王の義理の息子は元軍と結んでシンガサリ王国を滅ぼし、さらに、その後元軍の幹部たちを招いた宴席でこの中国の「客人たち」を全員毒殺し、新たにマジャパヒト帝国を建国する。
●マジャパヒト帝国は近隣諸島の王朝を次々と征服し、14〜15世紀に大いに栄え1500年頃まで続いた。この時代はインドネシア史上「黄金の時代」と言われている・・・。
要するに、インドネシアの黄金時代を築いた皇帝は、ジャワ島を武力で征服しようとした中国の侵略を見事に撃退した英雄なのだ。
インドネシア人の中国嫌いは1965年の共産党クーデター事件が原因だと思っていたが、どうやらこれは13世紀末の歴史的記憶に基づく、より根の深い国民感情のようである。
インドネシアをさらに怒らせた中国 これほど潜在的「反中意識」の高いインドネシアだから、中国側ももう少しインドネシアの国民感情に配慮すればいいと思うのだが、実態は全く逆らしい。
ジャカルタに到着した11月1日の現地英字紙は最近中国政府系メディアが掲載した南シナ海に関する論評を厳しく批判するエッセイを載せていた。
詳しく読んでみると、原因はやはりあの悪名高い「環球時報」の報道だった。
今回は時間の関係で原文を詳しく検証する時間的余裕がないため、同エッセイが指摘する関連記事の概要を以下の通り簡単にご紹介したい。ASEANの関係者が読めば誰でも激怒しそうな激しい内容である。
●2011年9月29日付環球時報オピニオン欄
(要旨)中国は今こそ南シナ海周辺国、特にベトナムとフィリピンに対し「教訓」を与えるべき時である。中国はこれらの諸国との小規模な戦闘の準備を行う一方、彼らに対し「戦争か平和か」の選択肢を与えるべきである。
●2011年10月25日付環球時報社説
これらASEAN諸国が中国との付き合い方を変えたくないのであれば、彼らは大砲の音を聞く必要が出てくるだろう。南シナ海における問題の解決手段がこれ以外にないかもしれない以上、中国側もそのための準備を始める必要がある。
さらに、このエッセイによれば、中国外交部の報道官は10月25日の社説について、「中国のメディアには報道の自由がある」と述べたそうだ。
今回話すことができたインドネシア人は皆憤慨していた。それにしても、中国政府関係者はその種の高圧的なコメントが逆効果であることにどうして気づかないのだろう。
インドネシアを取り込もうとしない中国今年7月、ASEANは南シナ海の領有問題について高級事務レベル会議をインドネシアのバリ島で開いた〔AFPBB News〕
ジャカルタでこの記事を読んでいると、中国外交が急速に「劣化」していると思わざるを得ない。
1990年代、中国外交部がASEAN諸国に対し「微笑外交」による大攻勢を仕かけ、それまで日本が育んできたASEAN諸国との友好関係に次々と楔を打ち込んできた時代が懐かしくなるほどだ。
昨年も南シナ海の南端にあるインドネシア領ナトゥナ諸島付近のインドネシアEEZ(排他的経済水域)内で中国漁船による違法操業事件が起きた。
なぜ中国側はわざわざインドネシアを刺激するのだろうか。1990年代に見られたあの巧妙で効果的な中国外交は一体どこに行ってしまったのか。
今回は大渋滞の中でジャカルタ市内を比較的ゆっくり見ることができた。同市内には、横浜やサンフランシスコで見られるような、大規模で派手な「中華街」はどこにも見当たらなかった。インドネシア国内に757万人もの華人がいるにもかかわらず、である。
インドネシアと中国の関係はかくも微妙だ。だからこそ、南シナ海問題が注目される中で、中国との領有権問題を抱えていないインドネシアこそ、中国外交が全力を傾注して「取り込み」を図るべき重要な国のはずである。
それにもかかわらず、中国関係者の言動は逆にインドネシアを「反中」に追いやっている。
明日にはジャカルタからシンガポール経由でハノイに飛ぶ。「環球時報」が忌み嫌う2カ国の1つベトナムで「南シナ海の法的地位」に関するシンポジウムが開かれる。次回はその模様をご報告しながら、ベトナム・中国関係の現状につき書くことにしたい。
JBpress.ismedia.jpより引用 |
中国人民解放軍海軍
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中国の「真珠の首飾り」戦略は機能するのか(上)
意外に脆い西半分〜中国株式会社の研究(134)
2011.10.28(金) 宮家 邦彦:プロフィール 中国の「真珠の首飾り」戦略をご存じだろうか。大手全国紙によれば、「インド洋沿岸諸国で寄港地などを確保しシーレーン防衛強化を狙う中国の戦略。中国はミャンマー、スリランカ、パキスタンなどの港湾建設などに関与している。
地図で結ぶと首飾りのように見えることから、米国が名付けた」のだそうだ。
英語では「String of Pearls」。初めて報じたのは2005年1月17日付ワシントン・タイムズ紙。
中国がそのエネルギー権益を守るため、南シナ海から中東に至るシーレーンに沿って各国と戦略的な関係を構築し、各地で海軍基地を確保する「真珠の首飾り」戦略を採用しつつあるという内容だった。
爾来この言葉は独り歩きを始め、南シナ海からインド洋に至る中国海軍力の増強のみならず、中国の対インド包囲網の象徴としても使われるようになった。
この「真珠の首飾り」についてはJBPressでも既に取り上げられているが、今回はその実像と虚像につき改めて検証してみたい。
なぜ「真珠」なのか 冒頭ご説明した通り、「String of Pearls」は中国人民解放軍海軍の用語ではない。新華社系の雑誌「環球」電子版も2年ほど前、「外国メディアは“中国の真珠の首飾り戦略”を派手に報道している」と題する評論を掲載し、西側の「中国外洋海軍脅威論」を強く戒めていた。
ご紹介したワシントン・タイムズ記事によれば、「String of Pearls」なる語は、国防総省ネットアセスメント室(Office of Net Assessment)が2005年国防コンサルタントBooz-Allen-Hamiltonに外部委託した部内報告書「Energy Futures in Asia」の中で初めて使われたそうである。
しかし、筆者が知る限り、当時の「ブーズ・アレン」にそんな気の利いた輩がいたとは思えない。
恐らく本当の名付け親はネットアセスメント室の切れ者の1人ではないか。「ネットアセスメント」と言えば、知る人ぞ知る米国防総省内で最も知的レベルの高い組織だ。
この中長期予測に基づく戦略立案を専門とする優秀な頭脳集団を率いるのは、今や伝説に近い本年81歳のアンディ・マーシャル室長である。
2005年は人民解放軍が「新世紀新段階我軍歴史的使命」を打ち出した翌年だ。解放軍はその新たな歴史的使命に基づき、従来の領域防衛を超え、新たに拡大する国家発展の利益を守るべしと喧伝され始めた、ちょうどその頃である。
中国の海洋進出圧力は強くなっている。写真は中国初の空母「ワリャーグ」〔AFPBB News〕
この「新たな歴史的使命」の海軍版が「真珠の首飾り」戦略なのだろう。
ワシントン・タイムズの記者が如何に優秀でも、この種の内部文書を容易に入手できるとは思えない。
2005年の記事は、スクープというより、中国海軍の動きに懸念を抱いた米政府の誰かが意図的にリークした結果だと筆者は考えている。
いずれにせよ、2005年のワシントン・タイムズの記事以降、米軍を中心に「真珠の首飾り」戦略に関する多くの研究が発表され始めた。
中には、中国がミャンマー、タイ、カンボジア、バングラデシュ、スリランカ、パキスタン、モルジブ、スーダン、ケニヤなどで着々と政治的・軍事的影響力を拡大しつつあると論ずるものも少なくない。
それにしても、中国は本当にインド洋全域でシーレーン確保のために海軍基地を「確保」しつつあるのだろうか。実態を詳しく調べてみると、必ずしもそうではなさそうだ。まずは中国との関係が最も親密と言われるパキスタンの例から検証してみよう。
中国・パキスタン関係の実態 昨今中国・パキスタン「同盟」関係は盤石のように見える。アフガニスタンとアルカイダをめぐり米国との関係がギクシャクする中、パキスタンは経済的にも軍事的にも中国依存を益々深めている。
その象徴がアラビア湾に面するグワダル(Gwadar)港建設に対する中国の大規模な経済支援というわけだ。
本当にそうなのか。筆者は大いに疑問である。そう考える理由は次の通りだ。
(1)中国とパキスタンの戦略的共通利益が「対インド牽制」であることは間違いない。ポイントはそれ以外に両国がどの程度まで利益を共有しているかである。
(2)パキスタンが政治、経済、軍事各分野で中国に深く依存していることは疑いない。問題は中国がパキスタンからそれに見合う利益を得ているか否かだ。実態は中国にとって決して望ましいものではない。
(3)中国にとって最も頭が痛いのは、パキスタンにおいて中国、中国人、特に中国人労働者を標的としたテロがグワダル港を含む各地で続発していることではなかろうか。
(4)この種の対中国人テロは既に2004年5月以降顕在化しており、最近では従業員に対する危険を理由に中国の大手石炭採掘企業が190億ドルもの大規模プロジェクトから撤退を表明しているほどだ。
(5)しかも、最近新疆ウイグル自治区で起きたテロの首謀者の1人がパキスタンで訓練を受けていたことも明らかになっている。パキスタン発の「対中国テロ」は今後も長く続く可能性が高いだろう。
中国のインド洋シーレーン確保は容易ではない 要するに、中国にとって対パキスタン関係は政治、経済、軍事的に見て「持ち出し」があまりに多く、危機の際にパキスタンは信頼できる「戦略的同盟国」とはなりそうもない、ということだ。
今年7月、ほぼ1年ぶりに外相会談を開いたインドのS・M・クリシュナ外相(左)とパキスタンのヒナ・ラッバーニ・カル外相〔AFPBB News〕
そう考えれば、最近の中国・パキスタン関係関連報道の行間も、これまで以上にはっきりと読めてくる。
考えてみれば当然だろう。ヒンドゥー世界から決別したパキスタンは、国家が存在する限り、誰よりも「イスラム的」であり続けることを運命付けられている。そんな国のムスリムの間で「豚肉を食べ、神を恐れない」中国人が尊敬されるとは到底思えない。
一方、パキスタンもインド、米国との関係で中国カードを適宜利用してきた。米国、インドとの関係改善が見込まれるなら、パキスタンはいつでも中国との関係を犠牲にするだろう。
中国側もそのことは当然よく理解している。中国・パキスタン戦略関係と言っても、実のところは自ずから限界があるのだ。
それでは、スリランカはどうだろうか。同国南部のハンバントタ(Hambantota)では大規模な港湾、空港、フリーゾーン整備計画が進められており、中国も参加している。
米海軍関係者の一部には、中国海軍がインド洋シーレーン確保のため、いずれこの港湾施設を利用することになると懸念する声も聞かれる。
しかし、スリランカ人専門家の見方はちょっと異なるようだ。
「ハンバントタはあくまで民間施設で軍事利用はない。・・・スリランカにとって中国は重要だが、インドとは異なる。インドは我々家族の“長兄”であるが、中国はあくまで”長年の友人”でしかない」。実に言い得て妙である。
こう見てくると「真珠の首飾り」戦略の西半分はそれほどしっかりとした作りではなさそうだ。
来週はインドネシアとベトナムに出張する。ハノイでは南シナ海に関する国際会議に出席させてもらうつもりだ。来週と再来週はこの「真珠の首飾り」の東半分の実態について詳しくご報告申し上げたい。 |
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上のおぞましい画像は、発音が「チョウセン」繋がりで検索してヒットしたゲームの画像を選択しました。記事内容とは、微妙に関係がありません!
2011年08月16日14時31分
中国初の空母「ワリャーグ」を販売したウクライナから、中国が追加で空母用エンジンを購入する交渉を行っていることが分かった。 2011年08月16日16時59分
中国は経済成長とともに着実に軍の現代化計画を推進してきた。 先端武器体系のステルス戦闘機の開発、潜水艦能力の増強、対艦ミサイル能力の改善など海・空軍力の先端化を通して周辺国を緊張させている。 特にワリャーグ級空母の試験航海を公開し、「中国空母時代」の開幕を宣布したのがそうだ。 ロシアがインドと開発中のステルス戦闘機スホイT50。 中○日報より引用
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訓練用にしか使えない理由 2011.08.31(水) 阿部 純一 8月10日、中国初の空母「ワリヤーグ」が試験航海を実施した。華々しいセレモニーもなく、また期待された中国海軍艦船としての「命名」もない地味な船出であった。
中国のネットにタグボートから撮影されたと思われる写真が出ていたが、微速前進の慣らし航行といったところだった。そのわずか1週間後の8月18日、ワリヤーグが再び大連のドライドックに入ったところを見ると、まだフル稼働の状態にはなく、今後も慣らし航行とドック入りを繰り返すように見える。
中国・大連の港に停泊中の中国初の空母「ワリヤーグ(Varyag)」(2011年8月4日撮影) (c)AFP〔AFPBB News〕
要するに、まだ訓練用にも使えない状態であり、海軍艦船として「就役」したとは言いがたいのだろう。まともに訓練用に使える状態になって初めて「就役」し、その段階になってから「命名」される段取りなのかもしれない。
しかし、一般の人から見れば、たとえウクライナから買った中古のボロ船とはいえ、10年がかりで修復し、最新のレーダー設備や対空兵装も設置したのだから、実験・訓練用空母にとどめず正式空母として戦力化し運用しないのはもったいない、と思うかもしれない。
満載排水量6万7000トンの巨艦は言うまでもなく中国海軍艦船としては最大であり、中古艦とはいえ、化粧直しで見た目は新造艦そのものである。その「ワリヤーグ」をなぜ中国海軍は実験・訓練用としたのか。
搭載された船舶用ディーゼルエンジンの欠点 その答えになりそうな説明が、米国の軍事安全保障サイト「グローバル・セキュリティー」にあった。
「ワリヤーグ」がウクライナから中国に引き渡された時、エンジンは積載されていなかった。もともとの設計では、蒸気タービンエンジンを2基積載し、29ノットの最高速を出すはずだったが、そのエンジンそのものが積まれていなかったのだ。
しかし、中国は蒸気タービンエンジンや、さらに進んだガスタービンエンジンを国産する能力がなく、結局、船舶用ディーゼルエンジンを積んだという。
船舶用ディーゼルエンジンは燃費はいいが、蒸気タービンエンジンなどよりも容積が大きい上に出力(馬力)が出ない。そのため「ワリヤーグ」の最高速は19ノット(時速約35キロメートル)にとどまるという。
米海軍の空母が30ノット(時速54キロメートル)以上の速力を持つのは、それで向かい風を作り、発進する艦載機に十分な揚力を与えるためである。それができない「ワリヤーグ」は、空母として致命的な欠陥を抱えているということになる。
少ない揚力で艦載機を発艦させるには、艦載機を軽量にしなければならない。つまり、艦載機が携行する対空ミサイルや対艦ミサイルを最小限にしなければならず、場合によっては燃料も減らさなくてはならない。
これでは、空母としての役割を十分に果たすことなどできないだろう。つまり、「ワリヤーグ」にできるのは、艦載機の離発着訓練程度に過ぎないのである。
中国は空母を「旧ソ連的」に運用するのか? もちろん、「ワリヤーグ」はそれ以外にも問題点を抱えている。米ソ冷戦時代に計画されたソ連海軍の空母という出自がまず問題になる。
旧ソ連では、空母はあくまで艦隊に防空戦力を提供するのが役割であった。米海軍空母の役割が「パワープロジェクション」(戦力の遠方投入)であり、対地攻撃がメインであるのと対照的である。
米海軍の空母打撃群に随伴するイージス艦などの役割は、空母を守ることにある。一方、ソ連艦隊の空母は、共に行動する艦隊を守ることが本務とされた。だから空母自身にも対空ミサイル、対艦ミサイルなど攻撃兵器が満載されている。「ワリヤーグ」にもその傾向は顕著であり、まさに空母兼巡洋艦といった趣である。
はたしてこれが中国海軍のニーズに合うのかどうか。それは中国海軍の空母運用思想にかかってくるが、おそらく中国はまだ明確な結論を得ていないのではないだろうか。
大陸国家の海軍として、沿海における制海権を重視するなら、旧ソ連的な空母の運用も合理的な面がある。しかし、将来的に南シナ海における覇権確立を目指し、東南アジア諸国ににらみを利かせるとか、シーレーン防衛を考えてインド洋への展開などを視野に入れれば、旧ソ連的運用でいいのかどうかが問題になる。
航続距離が短い空母艦載機「J-15」 これに関連して問題になるのが空母艦載機だ。中国はウクライナから、ロシアが空母艦載機用に開発した「スホイ33」の試作機を入手し、模倣生産して「J-15」と名づけ、これを艦載機として運用しようとしている。
ロシアはスホイ33を、保有する唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」で運用している。この空母は「ワリヤーグ」と同型艦であり、それだけ考えれば、中国もJ-15を艦載機として運用しようというのは合理的選択のように見える。
しかし、空母の仕様上の制約から生まれたのがスホイ33である。それをコピーした中国のJ-15も同様なことが言えるのだが、空母の運用思想とも関連して、艦隊の防空戦力に位置づけられる戦闘機なので長い航続距離は必要とされていない。
また米海軍空母のようなスチームカタパルト(高圧水蒸気の力を利用して搭載機を加速させ射出する機械)を持たないため、スキージャンプ式の艦首で艦載機の自力発艦能力が求められた結果、燃料積載量を減らして自重を軽くする設計となった。
結果として、スホイ33の航続距離は約2900キロメートルと、ベースになった「スホイ27」の約4000キロメートルよりも大分短くなっている。
これは米海軍艦載機「F/A-18E/F スーパーホーネット」の約3700キロメートルと比べても短い。作戦行動半径となると、 F/A-18でも1000キロメートルあるかないかとされているから、中国のJ-15はせいぜい600キロメートル程度であろう。なお、ミサイル等の積載能力もF/A-18の方が大きいのは言うまでもない。
おそらく中国は、空母「ワリヤーグ」の問題点、艦載機J-15の問題点をすでに十分自覚しているのだろう。だからこそ、「ワリヤーグ」を実験・訓練用空母に位置づけたのだ。
すでに新聞等で報道されているとおり、中国は純国産となる空母を上海で建造中である。おそらく船体の完成までにあと3〜4年を要するだろう。それまでの間に、高出力を確保できる蒸気タービンエンジンあるいはガスタービンエンジンを調達しなければならないが、すでに中国はウクライナとの間で交渉を開始しているとの報道もある。
国産空母が完成するまで、中国海軍は「ワリヤーグ」を使い、空母を運用する上での様々な実験や訓練を行い、そのデータをもとに国産空母にフィードバックし、中国海軍のニーズに合った空母に仕立て上げる算段なのだろう。空母艦載機にしても、J-15より軽量の「J-10」戦闘機の艦載機バージョンの開発なども行われるに違いない。
海軍の軍拡は自らの首を絞めることに こうして検討してみると、中国が空母を実戦で運用するようになるためには、まだ相当の年月がかかるだろうことは容易に想像がつく。
2011年7月末、中国人民解放軍のシンクタンクである軍事科学院の論客として知られる羅援少将は、インドや日本の動向を踏まえ「中国の権利や海洋権益を効果的に守るためには、中国の空母の数は3隻未満であってはならないと思う」と発言している。
羅援少将が空母運用にどの程度の知識を持っているのかは分からないが、空母3隻態勢は空母運用の最低条件だとされる。1隻が作戦任務に就き、1隻が訓練、1隻が補修でローテーションを組めば、常時1隻は活動できるからである。
中国が最初の国産空母を完成させ、就役させるのは2015年頃だろうと米国防総省は予測している。2隻目の国産空母が建造されれば、「ワリヤーグ」と合わせてとりあえず3隻にはなる。
空母は単体では行動せず、機動部隊を編成するから、護衛の駆逐艦や潜水艦、補給艦なども必要になる。結果として、中国海軍は大軍拡路線を目指すことにならざるを得なくなる。それを財政的に賄えたとしても、中国の軍拡に対する周辺諸国の警戒感はこれまで以上のレベルになり、中国が置かれる国際環境が厳しいものになるのは必定である。
「ワリヤーグ」が最初の試験航海に出た直後の8月13日、米海軍は南シナ海で活動中の空母「ジョージ・ワシントン」にベトナムの軍・政府関係者を招待し、米空母の威容と威力を誇示した。南シナ海の領有権をめぐり、中国とベトナム、フィリピンとの緊張が高まる中でのこの米軍のデモンストレーションの狙いが中国を牽制することにあるのは明らかであり、米国と中国との「力の差」が歴然としていることを見せつけるものであった。
中国海軍が東シナ海や南シナ海で領有権をめぐり、強気に出れば出るほど、周辺諸国は米国に接近していくことになる。ベトナムがその好例と言える。
中国は「ワリヤーグ」を持ったことで、逆に米国との軍事的なレベルの違いを思い知らされることになる。それが中国を協調的な方向に導くのか、あるいは米国に対してより対抗的になるのか。
96年の台湾海峡危機などの経緯を考えれば、おそらく後者の道をたどるのだろうが、それは中国の将来を危うくする道でもあることを、中国の指導者は自覚しなければならない。 ↓記事を読み終わりましたら、こちらにもクリックをお願いします。m(_ _)m
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ASEAN、米国との対立深める中国
米中静戦(Cool War)時代の到来(後編)
2011.08.04(木) 金田 秀昭 南シナ海が、また騒がしくなってきた。(前編はこちら)
1970年代から80年代にかけて、中国が強引に、しかし着々と南シナ海全体の実効支配を進めていく動きを見たASEAN諸国は、南シナ海問題についてのASEAN内部での協議を重ね、1992年にASEAN外相会議で「南シナ海に関するASEAN宣言」を発出した。
それ以降は中国当局とも実務的な協議を重ね、2002年には「南シナ海における関係国の行動宣言」が取りまとめられ、中国も署名した。
これにより、南シナ海での領域や海洋権益を巡る中国とASEAN諸国の係争はいったん鎮静化したかに見えたが、南シナ海を巡る米中の駆け引きは水面下で続いていた。
2001年4月、米海軍の電子偵察機「EP‐3」が南シナ海で哨戒行動中、中国海軍の「F-8」戦闘機と接触して中国の海軍基地がある海南島に緊急着陸する事案が発生した。EP-3は当時、中国海軍がロシアから購入したばかりのソブレメンヌイ級(「杭州級」)駆逐艦の情報収集中であったと言われる。
まさに南シナ海は、中国と周辺関係国との領域や海洋権益を巡る対立のみならず、米中にとっての情報収集や存在表明(プレゼンス)を巡る一見クールな戦い、「米中冷戦(Cold War)」ならぬ「米中静戦(Cool War)」の場、となっていたのである。
中国にとって南シナ海は、台湾やチベット同様「核心的利益」(2010年3月「米中戦略・経済対話」における戴秉国国務委員発言)と位置づけられ、海南島の三亜基地を中心として「聖域」化を図り、最新の原子力潜水艦や近代化された駆逐艦などの配備を進めてきた。
一方、米国は、地下基地の建設などを着々と進めて強力な海空軍力の集中を図る中国に対し、南シナ海における「航行の自由」、すなわち存在表明(プレゼンス)の確保は、米国にとっての「国家利益」(2010年7月ARF閣僚会合におけるクリントン国務長官発言)であるとの立場を取るようになった。
こうして、中国と米国の「国益」を巡る決定的な軍事対立が見え隠れするようになった。
米中の南シナ海を舞台とするクールな情報戦は、時にホットな形を取る。2009年3月には、中国原潜の情報収集に当たっていたと見られる米海軍の音響測定艦インペッカブルが、海南島南方の公海上で、5隻の中国海軍の艦艇などに取り囲まれるなどして航行の妨害を受けた。
また同年6月には、フィリピン西方の公海上を航行していた米海軍駆逐艦ジョン・S・マケインが曳航していたソーナーに中国潜水艦が衝突し、破損する事案が発生した。
米中両国は、外務、国防の両側面で鎮静化を図り、再発防止や協力関係強化のための協議を続ける姿勢を見せながら、水面下では「クールな戦い:静戦(Cool War)」を繰り広げてきた。
昨年7月のARF(ASEAN地域フォーラム)におけるクリントン長官の発言以降、中国は南シナ海問題について、米国の関与を伴う多国間による協議を忌避し、従来のように2国間での協議での外交的解決を求める姿勢を随所で露わにしてきたが、ここにきて中国とベトナムおよびフィリピンとの領有権を巡るホットな事案が頻発するようになった。
今年3月には中国艦艇が南沙諸島の係争地域でフィリピンの資源探査船に停止命令を出して妨害し、5月には建造物を建設する動きを見せた。
一方、昨年6月には中国当局がベトナム沖で同国漁船を拿捕する事案が発生していたが、今年5月にはベトナムの石油探査船の探査ケーブルを切断し、6月にも再度妨害行為に出てきた。
こういった行為に対し両国政府は直ちに抗議するが、中国は、1992年の領海法などを盾に、いわれのない非難であるとその都度応酬してきた。
その一方、中国政府は両国に対し、2国間の外交協議での解決を求めている。中国は、いわば硬軟を使い分けて、政治、経済、軍事力の弱い国への圧力を個別にかけ、有利な解決に結び付けようとしているのである。
揺れ動くASEANの対中結束 こういった動きに対し、ASEANは多国間協議を求める姿勢に転じつつある。南シナ海問題の当事国ではないミャンマー、カンボジア、ラオスは、こういった姿勢に消極的と言われているが、ARFでのクリントン発言以来、拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)やその他のASEAN主体の多国間協議の場で、徐々にその機運が醸成されてきた。
南シナ海問題での中国と係争国や米国の姿勢を端的に示すのが、本年6月のシャングリラ会議(アジア国防大臣級会合)でのやり取りである。
筆者も参加したこの会議で、中国の梁国防部長は、中国は「覇権主義を取らない」として軍事力の平和・協調路線を訴えたものの、会場からは多くの疑問の声が相次いで発せられた。
特に梁国防部長が、「南シナ海では航行の自由に何ら障害はなく、状況は安定している」と言ってのけたことに対し、ベトナムのタイン国防大臣は「忍耐強く対処しているが、再発は決して望まない」とし、「中国はいつも平和的解決の重要性を口にするが、実行が伴わない」と厳しく非難した。
またフィリピンのガズミン国防大臣も、平素の融和的な外交姿勢とは離れ「我が国が管轄する海域の健全な環境を破壊している」として中国を強く批判した。
米国のロバート・ゲーツ国防長官は、国防予算縮減の中でもアジア太平洋における米軍のプレゼンスおよびコミットメントは維持されると確言する一方、「航行の自由」原則を強調するとともに、シンガポールへのLCS(Littoral Combat Ship:沿海域戦闘艦)配備計画を明言して、中国を牽制した。
その後、米比両政府はワシントンでの外相級会談で、1951年の米比相互防衛条約を「南シナ海での有事」にも適用し、比軍の装備の増強、近代化を米側が支援することで合意した。 6月末には、フィリピン南西部のスルー海で米比海軍合同訓練を行った。
米国は1991年にフィリピンに展開していたス―ビック、クラークなどの海空軍基地から撤退したが、現在は後方支援基地(ヘネラルサントスなど)の再開を望んでいると言われている。
また米越両政府もその後、ワシントンでの副外相級会談で両国の協力関係強化について合意した。
国交樹立15年を迎えた昨年は、南シナ海問題での結束を誇示するため、南シナ海で原子力空母ジョージ・ワシントンとベトナム海軍との共同訓練や、病院船によるベトナム各地での巡回治療サービス(パシフィック・パートナーシップ)が行われた。
さらに今年7月には、米越両海軍が、中部のダナン近海で、捜索救難、人道・後方支援を含む共同訓練を行っている。
南シナ海の領域、海洋権益問題は、中国だけでなく、ASEAN加盟の各国間でも領有問題など利害の対立があるので簡単ではない。そこに中国はつけこんでいるわけだが、ASEANは、2国間協議では中国にしてやられることも十分に分かってきた。
そこでASEANが当面の目標にしているのが、2002年の「行動宣言」の「行動規範」への格上げである。「行動宣言」には法的拘束力がないが、「行動規範」には法的拘束力がある。
ASEANは米国を巻き込み、信頼醸成などの具体的行動を明記し法的拘束力を持たせた「行動規範」の策定を働きかけているが、中国は拒否し続けてきている。
7月の中国ASEAN外相会議では、中国の巻き返しにより、「行動規範」策定への具体的道筋は示されず、領有権問題は棚上げにされたまま、南シナ海における環境保護などでの共同活動を盛り込んだ「行動指針」の承認にとどまった。
その後、米国も参加したARF閣僚会議でも、予防外交の原則などは採択されたが、南シナ海領有権問題での進展はなかった。
当初、11月のASEAN首脳会議までに「行動規範」の策定が期待された南シナ海問題は、ASEAN内部の結束を切り崩し、米国の関与を避けたい中国の思惑通りに進んでいる。しかし米国が手を緩める気配はなく、ASEANを巻き込み、南シナ海を巡る米中静戦(Cool War)はまだまだ続く。
米中静戦(Cool War)への日本の対応・・・「自盟協立」 今まで見てきたように、既に南シナ海では、中国と周辺国の間の、表面上は領域や海洋権益を巡るホットな小競り合いが注目を集める中、その陰では中国と周辺国を支援する米国の間の、アジア・太平洋地域における海洋覇権を巡るクールな情報戦や存在表明(プレゼンス)合戦が展開されている。
既に南シナ海では、米中間の「静戦(Cool War)」とも言うべき様相が呈されつつあるが、時として起こるホットな場面を含め、東シナ海や西太平洋も同様の状況にあると言えよう。ではこういった状況に対し、日本はどう対処すべきか。
先月、ワシントンで行われた日米安全保障協議会(2+2)での共同発表は、普天間問題の進展が見えない中でも、2005年の共通戦略目標を大幅に改定するなど、かつてない画期的な内容となった。
中国に対しては、国際的な行動規範の遵守を促し、軍事力の近代化や活動についての開放性や透明性を高めさせる措置を強化する方針を示す一方、中国の海洋侵出を念頭に、航行自由の原則の維持、海上交通の安全や海洋安全保障の確保、さらに日米豪防衛協力強化、日米印対話の促進、日米ASEAN安全保障協力の強化などが明記された。
ここには、我が国の生存と繁栄の基盤として、海洋国家日本の安全保障面のあるべき方向性が凝縮されている。
昨年の中国漁船の巡視船衝突事案に際して米国政府は、尖閣諸島が日本の施政権下にあり、日米安保条約の適用範囲内であることを明言した。
本年3月の東日本大震災に際しては、自衛隊の即応能力とともに、日米共同の即応対処能力の底力が「トモダチ作戦」を通じて立証された。中国政府や人民解放軍は、驚嘆の眼差しで日米同盟の本質を見届けたことだろう。
また豪州空軍の大型輸送機C-17も、自衛隊とともに骨幹輸送を担うなど、日米豪準同盟の実効性も行動をもって証明された。
7月9日には、ブルネイで行われた国際観艦式の機会を利用し、日米豪3カ国海軍艦艇が南沙諸島南のブルネイ近海で共同訓練を行った。
その2日後という絶妙のタイミングで北京を訪問した米国統参議長のマイケル・マレン海軍大将は、中国の陳総参謀長が南シナ海でのフィリピンやベトナムとの共同訓練を批判したことに対し、今後とも米国が地域に長期的にプレゼンスを示し関与していく姿勢を取ることを言明した。
日本は、海洋安全保障に関し、自律的な防衛力を強化する一方、日米同盟関係を深化させ、豪、印など価値観を共有する海洋国家との協力関係を拡大し、日本の生存と繁栄の基盤となる海洋立国の体制を整えていかねばならない。
すなわち「自盟協立」が、今後の日本の進むべき道である。
この中で最も大事なのが言うまでもなく「自律的防衛力の強化」である。東日本大震災の復旧、復興で、日本は極めて困難な時期を迎えているが、今こそ強力なリーダーシップを持った政治が、我が国の安全保障面で進むべき道を明示すべき時機である。 ↓記事を読み終わりましたら、こちらにもクリックをお願いします。m(_ _)m
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