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原発のテロ対策は十分か?
第1部:日本の警備体制を検証する
2011.06.08(Wed) 矢野 義昭
 
(2)からの続き
 
 
(3)日本の警備部隊の編成装備
 
 これらから、原発の警備に当たる機動隊の編成は、隊長以下34人、主要装備は、連射の利くサブマシンガン、狙撃用のライフル銃、特型警備車、防弾衣、防弾ヘルメット、催涙スプレーなどであろうと推測される。
 
 なお編制装備の細部については、以下の内容が公開されている。
 
 2004年、若狭湾岸に多くの原子力関連施設を持つ福井県警察は、日本の警察としては初めての、「専門部隊である原子力関連施設警戒隊」を編成した。警備部嶺南機動隊の所属になる。
 
 福井県警察原子力関連施設警戒隊は、警戒隊長(警部)以下2個小隊編成である。福井県警察警備部嶺南機動隊は、各種警察活動を行う管区機動隊を兼ねた部隊であったが、その嶺南機動隊のうち2個小隊を原子力関連施設警戒専門部隊とした。
 
 福井県警察原子力関連施設警戒隊の編制は、原子力関連施設警戒隊(隊長:警部)第1小隊/第2小隊(小隊長:警部補)。原子力関連施設警戒隊は警備部嶺南機動隊内に設置されている。
 
 また装備としては、一般の警察官に貸与されているものと同型のボディアーマーおよび防弾ヘルメットを着装し、拳銃(ニューナンブ等)をサイドアームとして装備している。
 
 原発警備のため、特別に機関拳銃(ヘッケラー&コッホ製、MP5。エイムポイント製のダットサイトを装着)や、狙撃銃(豊和工業製、M1500)をメインアームとして装備している。 また、各施設を警戒するために、「特型遊撃車」等の防弾車両を装備している。
 
 また原子力関連警戒部隊は、福井県をはじめとした原子力関連施設のある全国16道府県警察の警備部機動隊のなかに編成されている。人手不足で警備能力が落ちるのを防ぐため、原子力関連施設のない近隣の都道府県から出向している警察官もいる。
 
 専従部隊としては、福井県警察原子力関連施設警戒隊が唯一である。その他の16道府県の原子力関連施設警戒隊の隊員は、必ずしもこの任務だけに専従しているわけではない。管区機動隊の隊員が任期制、交代制で警戒隊に出向している。
 
 海上における警備態勢については、日本の原子力関連施設は海に面しており、国際テロリスト等が海から攻撃してくる恐れがあるため、原子力関連施設警戒隊は国土交通省海上保安庁と常に緊密な連携を取り合っており、国土交通省海上保安庁は原子力発電所の周辺海域を巡視船艇の巡回経路に組み込んで警戒している。
 
 特に、新潟県の東京電力原子力・立地本部柏崎刈羽原子力発電所においては、武装した海上保安官を乗せた巡視船を常に展開させている。
 
 東京電力原子力・立地本部柏崎刈羽原子力発電所及び中国電力電源事業本部島根原子力発電所においては、海上保安庁の保有するモーターボートも使用して警戒している。
 
 海上での警備の状況に関しては、玄海原子力発電所の周辺海域を警備する第7管区海上保安本部の警備状況について、同海保の「まつうら」(350トン)の警備ぶりが以下のように報じられている。
 
 「まつうら」では、ブリッジで4人の乗組員が見張りに立ち、防弾防刃救命衣や防弾ヘルメットを身に着けて小銃を構え、前方をまっすぐに見ている。船首部には機関銃を搭載している。今は7管本部の巡視船が3日から4日のローテーションで警備する。
 
 原発から数十〜数百メートルの海域を行き来し、乗組員が交代で24時間の見張りに立つ。海上保安庁は、同時テロ以降、全国の米軍基地や原発など重要施設約140箇所を、24時間体制で海から警備している。
 
 2005年に配備された新型巡視船については、重量約1800トン、全長約95メートル、今作戦の推定速力の30ノット以上を出すことができ、射程がより長い40ミリ機関砲を備え、赤外線探索監視装置も搭載している。
 
 なお柏崎原発のある新潟西港には巡視船が3隻ある、と報じられている。
 
 現在海上保安庁には、ヘリ搭載型巡視船4隻、3000トン級大型巡視船2隻、1000トン級8隻、500トンまたは350トンの中型巡視船10隻、小型巡視船5隻、高速特殊警備船1隻、35メートルまたは23メートルの大型巡視艇20隻、20メートル以下の汎用巡視艇などが配備されている。
 
 武装は最大で40ミリ機関砲程度とみられる。固定翼機、ヘリなどの航空機も多数保有している。
 
 また、96本の音響ビームを通して超音波を放射状に発射し、海中の物体から反射して戻ってきた音波を拾い上げ画像に変換する「水中セキュリティーソナーシステム」の配備なども、2008年の洞爺湖サミットで実施されたと伝えられている。
 
 約15メートル先まで撮影可能な音響ビデオカメラと半径500メートル以内をカバーする音響レーダーも同システムにあり、水中のダイバーの様子が鮮明に映し出されると伝えられている。
 
 これらの海の警備能力から見れば、24時間態勢で原発の沖合数百メートル以内に巡視艇が監視体制を取り、水中にも警戒網が張られていることは明らかである。
 
 このような警備態勢から判断すれば、洋上および水中からの潜入は、原子力発電所の直前の海域からでは容易とは言えないであろう。しかし、その警戒範囲外の海域から上陸し陸路接近された場合は、発見も阻止も困難と見られる。
 
(4)原発警備訓練の現状
 
 現在の原子炉等規正法では、事業者は核物質の強奪や盗難、施設への侵入、破壊工作などを防ぐ「核物質防護」に関する規定を定めて国の認可を受けており、この規定内容を対象とする検査を受けることが義務付けられている。
 
 テロの人数や武器の種類などを盛り込んだシナリオを国が事前に提示し、事業者はこれに基づき規定を作成し、保安員は対策の妥当性を模擬訓練などでチェックすることになっている。
 
 なお、各地の部隊は、内閣府国家公安委員会警察庁首脳部等の巡察や激励を頻繁に受けており、部隊の重要性がうかがわれるが、警戒部隊の訓練レベルについては、原子力関連施設警戒隊はまだ編成されたばかりであり、目下、原子力関連施設の内部構造をよく把握したうえでの防御・制圧方法を研究している段階と言われている。
 
 なお、原子力関連施設は、破壊目的で原子炉の不正な運転操作が行われた場合や災害が発生した際には、直ちに施設の稼働を停止して危機を回避するよう設計されてはいる。
 
 万一これに失敗し、戦闘によって機器・設備が破損した場合、程度によっては原子力災害を引き起こす恐れがある。このため、部隊には施設に攻めてきた敵を制圧する能力だけではなく、原子力施設に関する専門的な知識と、細かな対処マニュアルが必要となる。
 
 これに付随して、原子力関連施設内に仕掛けられた爆発物の探知と処理、放射能汚染下における戦闘術、放射能汚染下における救護活動の能力なども必要となる。
 
 他国の同種組織には実力部隊だけではなく、後方から専門的な助言を行う核科学者、放射能技術者、通信員からなるSRTという支援部隊があり、これらが一体となって活動しているが、日本においては同様の組織の有無は明らかでない。
 
 武装侵入者対処訓練も実施されている。石川県警は2010年11月、愛知県警特殊急襲部隊(SAT)の応援も得て、国外の工作員を想定した原発での対テロ訓練を全国の警察で初めて公開した。
 
 北朝鮮による韓国砲撃などの情勢緊迫化などを踏まえたもので、雨天の下、3人の工作員が拳銃を発砲しながら、黒い車で志賀原発の敷地内に侵入したとの想定での対処訓練が実施された。
 
 訓練では、石川県警銃器対策部隊が装甲車で重要施設への接近を阻み、応援に駆けつけたSAT隊員と共に「応戦」した。SATは掩護のヘリコプターなども駆使し、サブマシンガンを乱射する工作員1人を銃撃、ほか2人をすばやく取り押さえて制圧した。
 
 視察した安藤隆春・警察庁長官は「全国で同じ高いレベルにすべく、訓練を各地で行い、万全を期したい」と語っている。
 
 訓練の水準も逐次向上し、より実戦的な訓練が行われている様子がうかがわれる。しかし、特殊部隊の能力からみれば、拳銃のみの乱射で襲撃をすると想定するのは、非現実的ではなかろうか。


JBpress.ismedia.jpより引用
 
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原発のテロ対策は十分か?
第1部:日本の警備体制を検証する
2011.06.08(Wed) 矢野 義昭
 
(1)からの続き
 

2. 日本の原子力発電所の警備態勢整備の経緯と現状

(1)日本の原発警備時の対テロ行動の指揮系統
 
 原発事故、テロを含む内閣の危機管理態勢として、1995年の阪神・淡路大震災地下鉄サリン事件を受けて、内閣危機管理監が設けられた。内閣危機管理監が対応する「危機」は、〔1〕地震等の大規模災害、〔2〕飛行機や船、原子力発電所などの事故、〔3〕ハイジャックやテロなどの重大事件、〔4〕武力攻撃事態、〔5〕そのほか邦人救出やサイバーテロなど、各種の危機管理に大別される。
 
 原子力発電所の事故もこの中に含まれており、国家レベルでは内閣危機管理監が対応することになる。
 
 これらの危機が発生すると、まず首相官邸にある内閣情報集約センターが情報を集め、首相や官房長官、危機管理監らに伝達。危機管理監は直ちに官邸地下の官邸危機管理センターに入り、必要と判断すれば関係省庁幹部を召集して官邸対策室などを設置する。
 
旅客機を使ったテロで黒煙を上げて燃え崩れる世界貿易センタービル〔AFPBB News
 
 内閣官房で安全保障と危機管理を担当する職員は約100人、官邸の内閣情報集約センターと官邸危機管理センターには、それぞれ数人が24時間態勢で常駐し、危機発生に備えている。
 
 テロ対策が9.11テロ以来重視されているが、情報の質と量が不十分との問題点が指摘されている。
 
 原子力発電所に対するテロなどの事態では、国家レベルでは、当初内閣情報集約センターと官邸危機管理センターが対応し、直ちに官邸対策室が設置されることになるとみられる。
 
 日本の原子力発電所の警備は、警察と海上保安庁が主に担当している。全国の原発の警備を指揮するのは、警察庁の重大テロ対策官である。
 
 周辺地域でのテロの発生など緊張が高まった場合には、警察庁から各都道府県警、さらに原発を管轄する各警察署に警備強化の指示が流され、同様に海上保安庁は各保安本部から管轄の海上保安部に警備強化の指示が出される。
 
 また各事業者は、経済産業省原子力安全・保安院の指示を受け、連絡態勢の確認などの措置を取ることになっている。
 
 2001年の9.11テロを受け、テロ対策特別措置法案が検討されたが、その際に、自衛隊が警護出動時に、原子力発電所を警護対象に含めることが検討された。
 
 しかし、当時の自民党と警察庁から、「治安維持は警察が担うのが原理原則」との反発が出て、対象から外されたという経緯がある。また各国の原発警備の主力は事業者が雇う民間ガードマンだが、武装化していないのは日本とスウェーデンだけである。
 
 また、民間の警備を補強し、平時からの一義的な警備責任を、自衛隊が負わず、警察と海上保安庁が担当しているという現状は、特殊部隊など軍隊の精鋭部隊の奇襲攻撃が主な脅威として予想される状況下で、武装、組織力その他の面で対応力に限界が生ずるのではないかと危惧される。
 
 そのため、防衛省、自衛隊との連携については、有事が勃発する危険性が高くなった場合に、警護出動や治安出動が発令されれば、防衛省自衛隊も出動し原発の警備に当たることが法的に規定されている。
 
 しかしながら、奇襲的な攻撃を受けた場合には、適時に警察から自衛隊に要請がなされ、あるいは警護出動や治安出動が発令されるかは不確実であり、間に合わなく恐れがある。
 
 そのような観点から、直接警備に当たる警察と海上保安庁の編制装備の実態を確認しなければならない。
 
(2)原子力発電所警備態勢整備の経緯
 
 現在の日本の原子力発電所の警備体制については、2004年の原子炉等規正法が改正され、テロの具体的想定に基づき国の専門検査官が事業者の態勢を検査するほか、事業者側に懲役など罰則付きの守秘義務が課せられていることから、細部が公表されることはない。
 
 しかし時折報道機関を通じて公表されることがあり、これらの公開情報から警備部隊の編制装備の概要をうかがうことができる。
 
 全国の原子力関連施設については、2001年9月の米国同時多発テロ以降、管区機動隊が中核となり警戒を強めてきた。当時は、日本国内の原子力発電所で、テロを念頭に置いた厳しい警戒が続けられた。
 
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20100506/5720838.jpg福井県にある高速増殖炉「もんじゅ」〔AFPBB News
 
 機動隊が常駐し、巡視船艇も海から24時間態勢で監視に当たった。電力会社は、中央制御室など中枢施設への見学者の案内を取りやめた。
 
 中でも、福井県の敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」は、1995年12月のナトリウム漏れ事故以来運転を止めていたが、炉心の核燃料には約1.4トンのプルトニウムが入ったままになっていた。原爆175個を作れる分量とされ、その警備は特に厳重を極めた。
 
 門前にはパトカーが止まり、入構チェックでは警備員らが身分証明書の提示を求め、社内のトランクや荷物を調べる。常駐の機動隊員は、約100万平方メートルの周辺パトロールを24時間態勢で続けている。
 
 全国最多の15基の原発が立地する福井県では、人員が約1500人の県警だけでは警備が追いつかず、10月下旬から愛知、岐阜、富山の3県警などから機動隊員約150人が応援に加わった。
 
 周辺海域では、第8管区海上保安本部(京都府舞鶴市)の巡視艇20隻、航空機4機が交代で警戒出動した。海上保安庁は舞鶴市内にあるヘリ基地を夜間でも使えるよう、2億円をかけて整備することを決めた。
 
 電力業界は警備上の理由から、原発見学キャンペーンなどの新聞や雑誌を通じた大がかりな見学募集を中止した。逆に国から施設周辺の監視や見学者の所持品検査などについて警備強化を求められた。
 
 このような高速増殖炉に対する9.11直後の警備態勢は、当時として最高度のものであり、現在でも緊急時には類似した警戒態勢が、対象となる原発に対して取られるとみられる。
 
 その後2002年のFIFAワールドカップ開催の際に、管区機動隊が警備に動員されたため、手薄となった原子力関連施設の警備を強化する必要が生じた。
 
 そこで12道県警察にある16施設の商業用原子力発電所などに、短機関銃を配備した機動隊の銃器対策部隊を配備することを警察庁は決定した。この原発警備に当たる新たな重装備の銃器対策部隊は「原子力関連施設警戒隊」と称された。
 
 なおワールドカップの間、各警察本部の銃器対策部隊員が地元の原発を警備するが、要員が足りない福井や宮城など6県警には、全国から応援部隊を派遣して対応した。しかし当時の「原子力関連施設警戒隊」は臨時編制であり、専門部隊ではなかった。
 
 2003年に入りイラク戦争の危機が迫り、再び原発の警備が強化された。道警は米総領事館、新千歳空港と並び、従来から24時間態勢で警備してきた北海道電力の泊原子力発電所の警備の警察官を増員した。
 
 イラク戦争時に、全国の警察の警戒対象は500カ所以上に増加と報じられている。イラク戦争開戦後は、中部電力浜岡原発の見学は中止され、不審者の出入りチェックが強化されバスツアーも中止された。
 
 地元の静岡県では、テロ対策本部に経済対策班を新設して「県イラク問題対策本部」に名前を変えた。また本部長には知事が就任するなどの対策強化策が取られ、連休間の連絡態勢の確認などの措置が取られた。
 
 2003年4月に、銃器対策部隊が初めて公開された。九州電力玄海原子力発電所の警備に当たる県警機動隊銃器対策部隊が報道陣に公開された。
 
 同部隊はテロ対策警備が本来の任務であり、9.11テロ以降、同部隊が玄海原発を24時間態勢で警備してきた。隊員数は数十人と公表されたが、イラク戦争開始以降、数人を増強した。
 
 拳銃弾を連続発射するサブマシンガン、狙撃用ライフル、装甲車を装備している。警察庁警備課によると、サブマシンガンは2002年3月に全国の警察に配備されたと報じられている。
 
 またその1カ月後の島根原子力発電所に関する記事では、県警の銃器対策部隊員の装備として、防弾チョッキ、サブマシンガン、特型警備車が紹介されている。またここでもイラク戦争以降、配置人員が数人増員されている。
 

 浜岡原発の警備態勢も同時期に初めて公開され、防弾ヘルメット、防弾衣、連射が利く機関拳銃、ライフル銃が装備として紹介されており、機動隊長が査閲した人員は33人であった。


(3)へ続く
 
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原発のテロ対策は十分か?
第1部:日本の警備体制を検証する
2011.06.08(Wed) 矢野 義昭
年3月11日、1000年に1度とも言われる巨大地震に伴い、福島第一原子力発電所で未曾有の連鎖的な原発事故が発生した。日本の原発のみならず、日本という国家への信頼さえ揺るがしかねない、世界の原発事故史上に残る大事故であった。
 
 安全性の見直しと、それに伴う改善措置は当然なされなければならない。しかし、日本のエネルギー事情を考えれば、今回の事故の結果、日本の原発事業が後退することは、許されないだろう。
 
 日本電力事業者連合会の資料によれば、日本には2010年3月末現在、54基の原子力発電所が17カ所で運転されている。その総出力は4880万キロワット、日本の電力需要の約23%を担っている。
 
 世界的な原油価格の高騰、高まる電力需要、地球温暖化防止などの要請に応え、安定した大量の質の高い電力を賄ううえで、原子力発電は必要不可欠である。
 

自然災害だけが原発の脅威ではない

 各種の新エネルギーも開発されているが、出力、安定性、コスト、環境への影響など、多くの面で制約があり、いまだに原子力発電を代替できる状況にはない。
 
 原発は放射能汚染を引き起こす危険性があり、今回の事故でも明らかなように、万一事故が発生した場合の影響は甚大である。とりわけ日本は、人口稠密な、高度のインフラに支えられた近代国家であるが、世界的な地震多発地帯に位置している。
 
 また、放射能災害に対して鋭敏な国民感情もあり、自然災害および事故に備えた安全性の基準は厳格に設定されている。
 
 緊急時の原子炉の破損、暴走予防、放射線漏れ防止など、炉心はじめ機械設備には何重にも安全措置が取られている。その実態の一端については、第1部で、柏崎刈羽原子力発電所での視察報告に基づき紹介する。
 
 今回の福島第一原子力発電所の事故は、未曾有の規模の巨大地震に伴い発生している。設計時に予想された規模以上の大災害による、不可避の事故とも言える。
 
 事故原因は今後厳しく究明されると見られるが、自然の威力の前に、これで万全という安全対策はないことを改めて思い知らされたとも言える。自然災害への対応には、今後とも万全を期さなければならない。
 
 人為的ミスの面があれば厳しくその原因を追及し、改めるべき点は改められなければならないことは言うまでもない。
 
 ただし、危機は自然災害のみではない。危機には自然発生的な天災などの危機とは別に、作為的な危機、テロ、侵略、組織犯罪といった脅威もある。
 
 日本の原子力発電所は、自然災害に対する備えについては配慮されてきた。それでも今回の事故は避けられなかった。他方、外部からの作為的な脅威に対する備えは、十分なされてきただろうか。
 
 特に、世界的に核兵器の拡散、放射性物質を用いたテロや破壊活動の脅威が叫ばれている今日、これらの脅威に備えるための体制が取られているか否かについても、国際基準に照らして検証し、作為的危機を予防することは日本の国際的責務でもある。
 
 このような観点から以下、第1部で、まず日本の原子力発電所とその警備態勢の現状を確認し、第2部では、外部からの脅威の様相について検証し、米国の警備態勢の動向について確認する。最後に第3部では、現在の日本の原発警備体制の問題点を分析し、その対策を検討することとする。
 
第1部

1. 柏崎刈羽原子力発電所の概要と安全対策

2007年8月6日、新潟県中越沖地震で被災した東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を調査する国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、IAEA)の調査団〔AFPBB News
 
 最初に、世界最大規模の柏崎刈羽原子力発電所の概要を、2009年1月に日本安全保障・危機管理学会が行った実地調査の結果に基づき明らかにし、特にその安全対策の実態を確認する。なお、文責は本論著者矢野にある。
 
(1)柏崎刈羽原子力発電所施設の安全対策
 
 柏崎刈羽原子力発電所は、新潟県のほぼ中央に位置し、東京ドーム約90個分の敷地に、沸騰水型原子炉110万キロワットが5基と、世界初の改良型沸騰水型原子炉135.6万キロワットが2基の合計7基が運転している。
 
 合計出力が821.2万キロワットに上る世界最大の原子力発電所である。
 
 発電所で作られた電気は、東京電力管内で使われている電気の約20%を占めており、まさに首都圏の電力を支える原子力発電所と言える。
 
 また常時約9000人の職員が勤めているが、その約半数が地元採用の人で占められている。このように、地域との一体化の進んだ原子力発電所とも言えるだろう。
 
 一般に沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器内に封じ込められた炉の中で摂氏270度、70気圧に沸騰した水蒸気を、高圧タービンと低圧タービンに送り込み、電力を発生し、それを復水器で冷やして原子炉に戻すという閉鎖された循環構造になっている。
 
 外部と接するのは復水器内の冷却水のみであり、通常は放射能を帯びた水蒸気が外部に出ることはない(今回の福島第一原子力発電所の事故では、放射能を帯びた水蒸気が漏出したとみられる)。
 
 原子炉格納容器内では、ウラン燃料を焼き固めたペレット約350個が丈夫な被覆管の中に密閉されている。その被覆管764体が厚さ16センチの合金鋼で作られた原子炉圧力容器の中に封じ込められ、その中で生じた核分裂の熱で周囲の水が沸騰することになる。
 
 発生出力は、各被覆管の間に核分裂を制御するための制御棒を出し入れすることによりコントロールする構造になっている。
 
 安全のため、出力を上げることは一度にわずかずつしかできない構造になっているが、緊急時の運転停止の際には、地下に配置された窒素ガスが自動的に放出され、1秒から2秒以内に運転の全面停止ができるようになっている。
 
 このため、原子炉の核分裂が暴走することは構造上あり得ず、逆に緊急時の炉の運転停止は瞬時にできるようになっている。
 
 今回の東日本大震災でも、この制御棒の緊急挿入装置が作動し、運転中の炉は発災直後に自動停止している(ただし、地震の衝撃で、冷却水を送り込むモーターの電源が絶たれ、緊急用の発電機も機能せず、燃料棒の一部が空焚き状態になり深刻な事故となったとみられる)。
 
 また柏崎原発の場合は、原子炉格納容器の周囲に、検査時の安全性確保のため厚さ66センチの生体遮蔽壁が設けられて、原子炉の主要部分全体は厚さ約30センチの鋼鉄製格納容器に納められている。
 
 さらに格納容器の外部は、厚さ1.9メートルの鉄筋コンクリート製の原子炉建屋の遮蔽壁に覆われている。このように、燃料となる放射性物質であるウラン燃料は、ペレット、被覆管、圧力容器、格納容器、生体遮蔽壁、建屋という6重の壁で覆われており、高度の安全性を保つ構造になっている。
 
(2)原子炉災害時の対応策
 
 原子炉災害に際しての対応の原則は、原子炉の運転をまず「止める」、次いで炉を「冷やす」、さらに放射能を「封じ込める」の3点であるとされている。
 
 「止める」については、原子炉の地下に案内していただき、上に述べた緊急用の窒素ガスのボンベ、地震計、「冷やす」については、冷却水を送り込むための配管と冷却水の備蓄タンクなどを見学できた。
 
 また、緊急時に炉内の放射能を帯びた水蒸気を瞬時に「封じ込める」ための緊急用バルブと、核分裂を最終的に「止める」ために炉内に散布するホウ素の備蓄タンクも設置されている。
 
 平常時は、原子炉建屋全体が外部よりも低い気圧に保たれており、内部の空気はそのままでは外部に出ないようになっている。ろ過したのち排気塔から出されるが、緊急時にはバルブが作動して炉内の水蒸気やガスを封じ込めることになっている。
 
 また、ホウ素は中性子を吸収して核分裂を中止させる作用がある。緊急時にはまず制御棒を挿入するほか冷却水で冷やすが、それでも停止しない場合には炉の上からホウ素を炉内にふりそそぎ、最終的に核分裂を停止させることになっている。
 
 その代わり炉は再利用が不可能になるが、緊急停止の最後の切り札となるのがこのホウ素である(今回の福島第一原発の事故でも、非常用の冷却水やホウ素の注入も試みられたようであるが、すでに炉内が加熱しうまく作動せず冷却には不十分で、その後外部からの冷却水の注入が各種手段で試みられた)。
 
 このように、「止める」「冷やす」「封じ込める」の各安全機能のすべての面で最新の設備と膨大なコストが費やされている。
 
(3)柏崎原子力発電所の警備態勢
 
 しかし原子力発電所の現在の警備については、主に事業者が委託した武装を持たない民間警備会社が行っている。
 
 検問は民間警備会社が委託されており、それを新潟県警から警備車両を含め警察官が24時間常駐し、原子炉敷地内をパトカーが巡邏することにより強化するという態勢が取られている。
 
 また、原子力発電所は大量の冷却水を必要とすることから海に面しているが、沖合には海上保安庁の巡視艇が常時停泊し、監視体制を取っている。
 
 しかし重量物の搬入用に港湾設備が整えられ、海側には防波堤が設置されているが、フェンスは一部に限られ、海からの侵入は容易にみえる。
 
 空からの攻撃に対しては、炉の強度そのものは米国での実験などに基づき、ミサイルや爆弾の直撃には耐えられるようになっている。ただし、地下侵徹用のバンカーバスターのような爆弾に耐えられるかは疑問があると、原子力発電所の職員の方は語っていた。
 
 また、原子炉建屋内には使用済み燃料の貯蔵プールがあり、核爆弾にも使用できるプルトニウム239を含んだ燃料棒が貯蔵されている。再処理工場が国内では未完成であり、未処理のまま貯蔵されている。
 
 万一使用済み燃料が強奪されるようなことがあれば、国際的に管理責任を問われることになるだろう。
 
 また、警備網を突破して中央制御室に特殊部隊などが侵入し、炉を暴走させる恐れもないわけではない。炉を制御するコンピューターの中にハッカーが侵入し、炉を制御不能にするといったサイバー攻撃も、現代では深刻な脅威となる。
 
 外国では一般に原子力発電所の警備は、準軍隊並みの装備と体制を持つ民間警備会社か、準軍隊が警備しているのが通例である。
 
 その点で、日本の原子力発電所の警備体制には不安を禁じ得ない。また、本格的なゲリラや特殊部隊の武装を想定すると、そのような勢力による攻撃、破壊工作などに対して、警察力や民間警備会社の警備能力で対応できるのかは疑問がある。
 
 またサイバー攻撃に対しての防護能力は十分あるのであろうか。その点についても、徹底したセキュリティーの確保が必要であろう。


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福島第一原発、明らかに誤りだった初動対処
2011.06.07(Tue) 山下 輝男
 
(1)からの続き
 
(3)ベント
 

何を優先させるべきか!

 3月11日22時、原子力安全・保安院は2号機の今後の状況の評価を「22時50分に炉心露出」「23時50分に燃料被覆管損傷」「24時50分に燃料溶融」「27時20分に原子炉格納容器ベントにより放射性物質の放出」と予測したという。
 
 23時00分過ぎには、首相、経産相、原子力安全委、安全・保安院はベントの早期実施で認識が一致し、東電側と連絡を取った。
 
 しかしながら、東電は対応しない。マニュアルにはあるが、日本の原発では例がない。放射性物質を外部に放出するものであり、一企業には重すぎる決断だとの声もあり、冷却機能が復旧すればベントの必要もなくなる。
 
 官邸は経産相名で12日1時30分に正式にベントの指示を出したが、保安院は、実際に行うべきかどうかは一義的に東電が決定すべき事項であるとの姿勢であった。
 
 誰しもが決心しない、全く不可思議な現象が起きた。やっと12日3時05分、経産相、保安院長、東電常務が記者会見してベント実施の方針を発表した。
 
 重い決断ではあろうが、果断に決断すべきだ。東電はなぜ躊躇したのか?
 
 政府は結局6時50分、東電に対し原子炉等規制法に基づくベントを指示することとなった。格納容器の圧力が所定のレベルに達したならばベントをすると規定されているが、それにもかかわらず決断しなかったのは問題だ。
 

スムーズなベントはなぜできなかったか?

 東電の清水正孝社長は4月18日の参議院予算委員会でベントが遅れた理由を述べているが、それによれば、暗闇での作業であった、指揮通信機能が不全で連絡が困難、住民の避難状況の確認の要があったことを挙げている。
 
 極めて過酷な環境下でのベント作業であり、相当な困難を伴うのは必定だろう。しかしながら、そうであったとしても、それすらも予期して対応すべきだったのではないだろうか?
 
 酷か!!
 
(4)注水(海水)による冷却
 

要らざる慮りは害悪そのもの!

 海水注入の中断問題には、東電本店も現場所長も、要らざる慮りをしたように思える。緊急時にそれは無用だ。なぜきちんとはねつけなかったのか疑問である。
 
 官邸に詰めていた東電社員からの19時25分頃の連絡を受けた本店と所長は、TV会議で(官邸の意向に沿うべく)海水注入の中断を決定したのだ。(実際は、現場所長の判断で注入は継続していたが・・・)これを慮りと言わずして何と言う。
 

抗命には厳罰で対処すべし!

 現場指揮官たる所長が本店とのテレビ会議で注水中断で同意・合意したにもかかわらず、海水注入を継続したのであるならば、現場指揮官は命令違反・抗命したことになる。
 
 厳罰覚悟で命令に従わなかったはずだ。結果が良かったからといって、それを美化してはならない。組織が破綻する懸念がある。厳罰に処すべきである。
 

終わり良ければ全て良しか?

 現場所長の判断を支持する声も多い。結果的には正しい判断だったのだろう。だとしても、会議の席上毅然として反論・不同意である旨を宣すべきだったのではないだろうか?
 
 それがあるべき姿ではないかと愚考する。
 

君命受けるべきか?

 現場指揮官として、その信念に反する命令・指示が発令された場合にはどうすべきか?
 
 その命令や指示が科学的根拠も合理的理由もない、あるいは現場の状況を全く無視していると判断した場合でも、唯々諾々と服従すべきなのだろうか?
 
 このような場合を想定した名言がある。すなわち、孫子九変篇第八の五利に「君命に受けざるところあり」(「君命有所不受」)とある。
 
 将帥にとって、君命に従うことが天下国家のために明らかに悪い結果をもたらす恐れがある場合には、君命といえども従ってはいけないとの意であろう。このような極限状況における権限が将帥には与えられている、というのが孫子の考えである。
 
 この理屈を拡大解釈して「不服従」が横行するとすれば、それはあまりにもの拡大解釈である。不服従ひいては独断専行が罷り通ってはならないし、許してはならない。
 
 独断専行には、自ずから限界と条件がある。作戦要務令の綱領第五にある「独断専行」というのは、「常に上官の意図を明察し大局を判断して状況の変化に応じ自らその目的を達し得べき方法を選び、以って機宜を制せざるべからす」という意味であり、上官意図の明察、大局判断、本来目的の達成が必須である。
 

ヘリ・消防車、その他の器材(キリン、大キリンなど)による放水作業

 原発事故対処の3原則は「止める」「冷やす」「閉じ込める」であり、この「冷やす原則」を実施するために、我が国は涙ぐましい努力を行った。その姿勢は評価に値する。
 
 陸自ヘリ「CH-47」による空中放水、自衛隊航空基地配備の特殊消防車、警視庁機動隊の高圧放水車、東京消防庁のハイパーレスキュー並びに生コン圧送器(キリン、大キリン等)による、まさに命懸けの原発各号機への放水作業が行われた。
 
 これらの苦肉の、あるいは止むを得ざる手段としての放水作業は原子炉の冷却にはさしたる効果はなかったのかもしれない。
 
 しかしながら、我が国がいかなる手段を用いても原子炉の暴発を止めるとの決意を内外に示したのは事実だ。日本の本気度を世界にアピールしたのは事実だ。危機時には、危機を何としても収束させるとの強い気概を持ち、それを国民に示すことが必要である。
 
 個人としてはもちろん、国民としても、まさに命懸けの作業を行った自衛隊員、警察官および消防吏員そして現場の作業員の皆様に、深甚なる敬意を表したい。
 
5 住民の避難
 
(1)原子力災害における避難等に関する規定
 
 内閣総理大臣は、原子力災害特別措置法第15条に基づき、原子力緊急事態宣言を発令したならば、市町村長および都道府県知事に対し「避難のための立ち退き又は屋内への避難の勧告または指示」を行うこととなっている。
 
(2)問題点は?
 

遅きに失した避難指示!

 真偽は不明であるが、原子力緊急事態宣言を発出した3月11日夕刻頃の首相の意図は、「10キロ圏内避難指示、海水注入やむなし」であったとされるが、これに対して東電が激しく抵抗したという。
 
 業を煮やした福島県対策本部は、11日20時50分、知事から福島原発2キロ圏内の住民に対して避難を要請するという異例の挙に出た。
 
 福島県の異例の住民への要請に触発された(?)政府は、21時23分「3キロ圏内避難、3〜10キロ圏内屋内退避」との総理指示を発出した。
 
 明けて翌12日5時44分、首相は第一原発半径10キロ圏内、第二原発については17時39分に10キロ圏内の、18時25分には第一原発20キロ圏内の避難を指示した。初動の措置ではないが、3月15日に20〜30キロ圏内に屋内退避を指示したのである。
 
 本来は、原子力緊急事態宣言を発出したならば、速やかに避難に関する勧告や指示を行うべきであるにもかかわらず、権限のない福島県が行った異例の要請の後に避難に関する指示などとはあまりにもお粗末だ。住民の安全・安心に関する無関心があったからだなどとは思いたくはないが・・・。
 

SPEEDIはなぜ活用されなかった?

 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム、System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information の略称)は、文部科学省所管の財団法人である原子力安全技術センターが運用する、放射能の影響を予測するためのシステムである。
 
 これは、原子力発電所などの事故により大量の放射性物質が放出された場合、もしくはその恐れがあるという緊急事態に際して、放出源の情報と周辺地域の気象条件や地形データに基づき、周辺環境における放射性物質の大気中濃度や被曝(ひばく)線量など環境への影響を予測するものである。
 
 避難を実施する場合には、SPEEDIの予測値を参考にして避難する方向と地域が検討されるべきであったが、これを活用した形跡もなければ、このシステムのデータすら公表されなかった。公表されたのは遅まきながら、3月23日である。
 
 福島第一原発事故では、3月11日夜以来原子力安全・保安院が、12日未明以来文部科学省が多数試算していた。正確なデータ入力ができなかったとはいえ、公表もされず参考にもされなかった。
 

避難地域の逐次拡大は逆ではないのか?

 福島原発事故に伴う政府の避難指示等を見てみると、当初3キロ圏内避難、10キロ圏内屋内退避指示、12日には20キロ圏内避難、15日は屋内退避区域(20〜30キロ圏内)を追加指示と日を追うごとに拡大している。
 
 放射能の脅威は時間が経つごとに低減するはずなのに、脅威が増大し始めているかのような避難区域の拡大である。事態を楽観的に見たい、国民にいたずらに恐怖心を与えたくないという政府の思惑が見え見えではないか?
 
 最悪の場合を想定して避難区域を決定すべきではないだろうか? とは言っても、科学的根拠もなしに過大な避難区域を設定するのも問題である。
 
 原子炉がどの程度の損傷を受けているかによって範囲は異なる。原子力安全委員会が定めている避難・退避の指針値は、被曝線量が、
 
一般人の屋内避難:10mSv以上〜50mSv以下
一般人の避難:50mSv以上〜
 
 となっており、これは国際標準に適っている。
 
 当初3キロ圏内とした根拠を聞きたいものだ。事態がますます悪化しているのではないかとの懸念を国民に与えたと言えよう。
 
 今回問題にされたのは、米国が指示した避難区域が50マイル(80キロ)圏であり、我が国の場合とのあまりもの差異である。
 
 そもそも米本国における緊急避難範囲は10マイル(16キロ)であるが、今回はあまりにも過大であった。原子炉に関する詳細な情報を有していなかったので、厳しい見積もりをした結果であろう。
 

きめ細かな避難区域設定と国民に対する分かりやすい説明を!

 多言は要しないだろう。
 
6 終わりに
 
 発災から2か月半が経ったが、いまだに原発事故の全容が明確になっていない。IAEAの調査結果と失敗学会理事長・畑村洋太郎氏を委員長とする調査委員会の調査結果を待ちたい。日に日に新しい事実が表れるのでは検証すらできない。
 
 それらの調査結果を待つことなく、記憶の新しい時に原発事故における危機管理、特に初動対処に関して小生の感じるところを述べた。中に強烈な政府批判とも受け取られるところもあろうし、あるいは事実誤認もあるかもしれない。
 
 政府与党が批判の矢面に立ち、歴史の審判に晒されるのは当然のことであり、この関門を通過しなければ、同じような失敗を繰り返す可能性がある。
 
 このような意味において本稿が裨益し得るのであれば、筆者にとってこれ以上の喜びはない。


JBpress.ismedia.jpより引用
 
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福島第一原発、明らかに誤りだった初動対処
2011.06.07(Tue) 山下 輝男
 
はじめに
http://img3.afpbb.com/jpegdata/thumb200/20110512/7203528.jpg東日本大震災の発生から2カ月が過ぎた被災地。写真は、岩手県釜石市の釜石大観音〔AFPBB News
3月11日14時46分に発災した東日本大震災は、M9.0の超巨大地震、岩手・宮城および福島県沿岸を襲った大津波、これらによって引き起こされた福島第一原子力発電所のレベル7相当の事故という三重苦の大災害となり、死者・行方不明者も2万5000人弱で、まさに未曾有の災害となった。
 
 日本が経験した3大震災の中で、今次大震災は福島原発事故が絡んでおり、大規模広域複合事態の災害となった。
 
 福島原発の対応に関しては、事実関係が小出しにされ、いまだに全貌が明らかになっているとは言い難いが、現時点までに明らかになった事項を基にして、特に初動対処上の問題点を浮き彫りにしたい。
 
 政府や東電に対し批判がましい点が多々あるが、その点は危機管理を所掌する立場にある者や機関は甘受すべきであろう。貶める目的では決してないことをあえて付言しておきたい。
 
2 初動対処の重要性
 
 危機管理、特にクライシスマネジメントにおいては、事態発生直後の迅速かつ的確な対応が極めて重要である。初動において対応を誤ると事態はますます悪化し、対処措置も後手後手となり、遂には最悪の結果をもたらす。
 
 逆に迅速・的確な初動対処措置が行えれば事態はハンドリング可能となり、収束させることが可能である。
 
 この初動対処のための危機管理マニュアルや対処マニュアルが整備され、それらに基づき必要な資器材が準備され、訓練がなされているはずであり、なされていなければならない。危機管理、特に初動対処の重要な原則である「悲観・最悪の原則」がこれである。
 
福島第一原子力発電所。下から4号機、3号機、2号機、1号機〔AFPBB News
 
3 福島第一原発事故初動措置実施状況(3月11〜12日)
 3月11日発災から3月12日20時20分の海水注入再開報告までの初動措置を時系列で示すと、以下の表の通りである。
 
 状況が逐次にしか明らかにされないので、あるいは状況認識に過誤があるかもしれないが、マスコミなどで報道されているものを総合すれば以下の通りだろう。
 
イメージ 1
 
4 原発事故初動対処方策
 
 もとより原子力の専門家ではないので、自信を持って初動対処の方策を明確に述べることはできない。が、今回の事故対応においては、実施された次の3つの方策が重要な対処方針であることがうかがわれる。
 
(1)地震および津波により外部電源が失われ又非常用電源が喪失したことにより、緊急炉心冷却装置(ECCS)が機能しなくなり、原子炉の急激な温度上昇が起きメルトダウンを惹起する可能性があるので、冷却システムを再起動させるための措置を行うこと
 
(2)原子炉内の圧力が異常に上昇した場合に、格納容器の弁を開放して水蒸気を逃がし、圧力を下げる作業即ちベントを行うこと
 
(3)原子炉の冷却のために、淡水状況によっては海水を注入すること
 
 東電は、当然それぞれの場合を想定して資器材の準備や訓練を行うとともに、対応措置の手順や、責任・権限等を明示していたはずだ。
 
 それは、報道から漏れ伝わるところによれば、「シビアアクシデントマニュアル」として策定され、(1)から(3)実施の権限と責任は福島第一原発所長にある。
 
 以下、それぞれについて実際はどうであったのか、初動対処は的確に実施されたかを検証する。
 
(1)3件に共通する事項
 

現場に任せるべきは任せよ!

 冷却システムダウンへの対処、そしてベントおよび海水注入に関する本来の権限は、現場の所長にあると東電の「アクシデントマネジメント(マニュアル)」には規定されている。
 
 現場の状況が分からない首相や官邸が容喙(ようかい)すべき事項ではないはずだ。
 
 それを何を勘違いしたか、これぞ政治主導とばかりに要らざる容喙をしたことが問題である。現場に任せるべき事項と司令部が判断すべき事項が峻別・規定され、指示を仰ぐ暇なき緊急時の対応などが規定されている「危機管理マニュアル」が整備されているのであれば、任すべきだ。
 
 それこそ想定内のことである。現場のことは現場が一番分かっている。任せきれない政府・官邸や東電本店が情けない。
 

強権発動について

 状況を一番掌握している現場に基本的には任すとしても、白紙委任というわけではない。現場たる発電所がマニュアルに従ってなすべき事項を的確に実施しているかどうか、その実施に当たって何か問題が起きていないか、上級司令部として処置すべき事項がないかを把握しておくことは極めて重要である。
 
 現場がやるべき事項をやっていないのであれば、強権を発動することもあろう。それは非常事態においてはあってもいい。
 

事態認識は妥当なりしか!

 事態が発生した場合に、その事態の軽重緩急をどう認識したかが、事後の対処に極めて重要な影響を及ぼす。
 
 事態の正確な状況把握が困難であった事情は認めるとしても、否それだからこそ事態を厳しく見るべきではないか?
 
 そういう観点から今回の事態認識が甘いと感じるのは、小生のみではあるまい。
 
 事態を認識する際に邪(よこしま)な意識があったとは思いたくないが、その疑念を拭えない。原子炉をできることなら廃炉にしたくはない、事後の原子力行政のことを考えると大事故であればあるほど将来の原発推進の阻害となるのでそれを回避したい、国民にパニックが起きて収拾がつかなくなる可能性があるのでそれを避けたい等々の邪心がなかったか?
 
 国際原子力事象評価尺度(レベル)を発災直後の「4」としていたものを、3月18日には「5」に引き上げ、4月12日にはチェルノブイリと同じレベル「7」に引き上げたのである。
 
 メルトダウンの可能性について当初から指摘され懸念されていたにもかかわらず、それを認めたのは、5月23日原子力安全・保安院に提出された解析結果においてである。
 
 1号機では炉心溶融が進行し、地震後15時間で圧力容器の底部が破損、格納容器の温度も設計温度を遥かに上回る約300度に達していたという。
 
 事態や状況の認識が甘いというか、見たくないものは見えないということなのか判然とはしないが、危機管理の基本を誤っていたと思わざるを得ない。
 
 関係者からの聴取や当時の事実関係を詳細に把握したうえでないと軽々に判断は下せないのは承知のうえで、あえてその可能性を指摘し、将来の資としたい。
 

司、司は機能し、仕事をしたのか?

 原発事故において危機管理上の関係者は、国の「原子力災害対策本部」(助言:原子力安全委員会)、オフサイトセンター(国の現地対策本部、原子力事業者、都道府県や市町村、これらで構成する原子力合同対策協議会)、原子力事業者の対策本部、経産省の対策本部(原子力安全・保安院は資源エネルギー庁の特別の機関)である。
 
 今回は、独自の試みとして、東電と政府が一体となった「統合対策本部」を設置した。
 
 これら機関の詳細な活動記録や議事録等が公開されていないので何とも言えないが、厳しく検証されなければならない。
 
(2)冷却システム再起動
 
 大津波により、13台ある非常用ディーゼル発電機のうち12台が使用不能に陥ってしまった。3月11日16時36分には、炉心溶融(メルトダウン)を防ぐための緊急炉心冷却システム(ECCS)がダウンするという極めて深刻な事態が惹起した。
 
 蒸気タービンで駆動する冷却系が作動しているが、蓄電池は7〜8時間分しかない。
 
 この対処のため、マニュアルに基づき電源車を集中すべく処置を開始した。ひとまず東電が集めた6台が福島に向かったが輸送には思わぬ時間がかかり、東北電力から提供された電源車2台がオフサイトセンターに到着したのは21時過ぎだった。
 
 しかしながら、電源車が高電圧であったために接続に必要な低圧ケーブルがなく、急遽調達をせざるを得なかった。関東から空輸する必要があり、作業員も足りないという情けない状況であった。
 
 危機管理上の問題点は次の2点である。
 

最悪の場合を想定した準備を!

 非常用ディーゼル発電機を準備していたことは当然であるが、これが使用不能に陥る可能性を無視していたのは問題である。人智の及ばざるところではないはずだ。
 
 非常用手段が使用できるかどうか、問題はないかをチェックする必要がある。
 

第2、第3の手を準備すべし

 脅威の度合いに応じて、第2、第3の対処策を準備する必要がある。非常用発電機が何らかの事由により使用不能に陥った場合の、次なる対策を準備することが重要だ。
 

 発電所に所要の電源車を準備することができないとしても、不足する電源車をいかにして迅速に確保するかを計画しておかなければならない。


(2)へ続く
 
JBpress.ismedia.jpより引用
 
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