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「尖閣諸島」危機の裏に戦後体制の負の遺産
安倍新政権は、この危機を突破できるか
2013.02.18(月)樋口 譲次:プロフィール (1)からの続き
沿岸(領域)警備に対する諸外国と我が国との認識の落差
諸外国の沿岸(領域)警備のあり方は、国防あるいは国家安全保障を第一義的に捉えるものである。
他方、我が国の場合、占領政策の非軍事化(非武装化)・弱体化によって国防あるいは安全保障の機能が極度に制限された。その戦後体制が今日までなお続き、沿岸(領域)警備は、一義的に警察機関が対応することになっているため、ただ単に警察機能(活動)として捉える傾向が強い。
本来、沿岸(領域)警備には、国防と警察の2つの機能(活動)が必要である。そのため、列国の多くは、その役割を軍隊(国防軍)あるいは国境警備隊という準軍事組織に担わせている。
国境地帯に軍隊を配備すると、隣接国との間で不要な猜疑心や緊張を招く恐れを考慮する必要がある、あるいは考慮しなければならない国などは、後者を選択している場合が多い。
いずれにしても、我が国は、島国で、比較的、国外からの脅威に晒される機会の少なかった歴史と戦後の占領政策によって、沿岸(領域)警備を国防あるいは安全保障として捉える意識が希薄である。
つまり、沿岸(領域)警備を強化するには、その観点を最も重視して見直さない限り根本的な解決にはなり得ないのである。
我が国沿岸(領域)警備体制の強化策 我が国の沿岸(領域)警備の強化策には3つのオプションがある。
第1は、海上保安庁の組織規模や装備を強化し、準軍事組織に制度変更することである。
しかし、同庁は、あくまで海面上、すなわち2次元の能力に限定され、今日の沿岸(領域)警備に求められる3次元の対応能力は保有していない。結局、空域は航空自衛隊に、海中は海上自衛隊に頼らざるを得ない。
第2は、自衛隊に領域(沿岸)警備の任務を付与することである。
新しい任務を付与するからには自衛隊の増勢が必要になるが、自衛隊は固有の基本機能をもって3次元(立体的)にわたり、一体的にその任務を遂行することができる。この際、警察機能は、あくまで海上保安庁が担任し、両者が密接に連携して活動する。
また、自衛隊の任務遂行における武器の使用などについては、あらかじめ武器使用規定(Rules for Use of Force)あるいは交戦規定(Rules of Engagement : ROE)を明示して政府の対処方針を現場に徹底することが重要である。
第3は、上記2つのオプション、すなわち海上保安庁の強化と自衛隊に対する領域(沿岸)警備任務の付与を同時に行うものである。
この際、海上保安庁と海上自衛隊の役割分担を明確にする必要があるが、平・有事を通じて両組織の力を統合的に発揮させ、我が国の広大な管轄エリアを実効的にカバーするとともに、中国に対抗する能力を確保できる最も有力な対策となる。
以上、いずれのオプションを選択する場合にも、次の3点を併せて施策することが重要である。
まず初めに、直ちに実行可能な関係諸機関の連携強化に着手することである。
韓国は、1996年9月に発生した北朝鮮の潜水艦による武装ゲリラと潜水艦乗組員の領海・領土侵入事案(江陵事案)が発生したのを契機に、「統合防衛法」(1997年6月)を制定した。
「統合防衛法」は、国家が保有する防衛機能を統合し、指揮体制を一元化して国家を防衛するための組織の設置、事態の区分、政府・自治体の権限などを規定している。
本法令の下、(1)陸海空軍、(2)警察及び海洋警察、(3)(軍と警察、海洋警察を除く)国家機関および地方自治体、(4)郷土予備軍、(5)民防衛隊、(6)統合防衛協議会を置いている職場の6国防関連諸組織をすべて動員し、外的の侵入、挑発などに一体的に対処できるような仕組みを整えている。
我が国は、早急に、現行法令に基づき、防衛出動・治安出動時に「海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣が海上保安庁を統制下に入れることができる」(自衛隊法第80条)体制の実効性を高めること基本に、海上自衛隊と海上保安庁の合同訓練を行うなど、有機的かつ一体的に共同行動がとれる体制を整えることが必要である。
そのうえで、例えば、韓国の「統合防衛法」に類似する法制を整備し、領域(沿岸)警備に関係する諸機関の連携を強化して、国を挙げた警備体制の確立が望まれる。
第2は、外国船舶による我が国領海内の無害でない通航に厳格に対処するよう、法令を整備することである。
我が国の「領海及び接続水域に関する法律」(「領海法」)には、外国船舶の無害通航に関する規定がない。その不備を補うため、「領海等における外国船舶の航行に関する法律」(「領海外国船舶航行法」、最終改正:平成24年9月5日)が制定された。
しかし、付与されている権限は、外国船舶が避難や人命救助などの正当な理由がなく日本領海内にとどまることを禁止し、不審船に対して海上保安庁が立ち入り検査を行い、違反行為があれば退去命令を出せることに限られている。
また、法律の適用対象から、軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものを除外しており、至って間の抜けた、緩やかな規定になっている。
例えば、ロシアは、民間船舶への対応はもちろんであるが、「領水・内水・接続水域法第19条は、領水(12海里)、内水(河川、湖、港、入江、潟)、港湾でロシア連邦法に違反した外国軍艦に対する国境警備軍の対応を規定している。
こうした軍艦に対しては、法令の順守を要求し、それに従わない場合、速やかに退去を要求するとしている。
さらに、外国軍艦が、ロシアの軍艦、船舶、航空機、国民に対して武器を使用した場合には、国境法第35条に基づいて攻撃を撃退するための報復措置(自衛措置)を明確に規定している」(高井晋他5氏の共同執筆論文「諸外国の領域警備制度」)とあるように、軍艦(公船)に対しても明確かつ厳格な姿勢を打ち出している。
このように、我が国も、外国の諸法規などを参考例として「領海法」などを改正し、自国の領海における外国船舶による無害通航とそうでない通航を明確に仕分け、外国船舶による情報収集や調査活動、中国のように公船をもって意図的に領海侵犯を繰り返す場合など、我が国の防衛あるいは安全保障に係わる無害でない通航に該当する場合の措置を、具体的かつ厳格に規定する必要があろう。
第3は、海上(沿岸)・航空から陸上まで隙のない警備体制を確立する必要がある。
我が国に対する脅威は、「9.11」のような空からの脅威、また北朝鮮による日本人拉致のような海を経由した脅威、そしてオウム真理教による地下鉄サリン事件のような国内から発した脅威などが起こり得る。
この場合、例えば、敵のゲリラ・コマンド部隊が、工作船舶(潜水艇を含む)などを利用して我が国の沿岸(領域)警備態勢をかい潜って上陸し、目標とする重要施設の破壊や民生の擾乱活動を行うなどの事態の生起を完全に食い止めることは困難である。
また、近年、これらの脅威は、「テロ」なのか「ゲリラ・コマンド攻撃」なのか、当初から判別することは難しく、また手段や方法などにおいて一般の警察力をもっては対処できない事態が多くなっている。
そのため、ロシアは、準軍隊の1つである内務省国内軍のなかに重要国家施設・特別貨物警備部隊を保有し、日常的に、原子力エネルギー使用施設(核プラント、核物質または放射線物質を取り扱う組織)など、連邦政府が重要国家施設と規定した施設の警備任務を付与している。
我が国も、そのような事態に備え、ロシアなどの例を参考として、平時から、陸上における原子力発電所等の重要施設を警備(防護)する制度を創設し、海上(沿岸)・航空から陸上まで隙のない警備体制を確立する必要がある。
おわりに 我が国に発生している諸問題を突き詰めていくと、現行憲法を中心としたいわゆる戦後体制の継続とその拘束によって、21世紀の激動・激変する内外情勢に適応できず、深刻な閉塞状態に陥っている実態に打ち当たる。
中国によって突き付けられている「尖閣諸島」を焦点とした南西諸島の防衛・警備の問題もまた然りである。
その意味で、第1次安倍内閣が掲げた「戦後レジームからの脱却」の本丸である憲法改正は、もはや一刻の猶予も許されない。しかし、我が国政治の実情を見る限り、それが所期の通りに進展するかというと、残念ながら悲観的にならざるを得ない。
結局、当面する内外の危機に対し、戦後体制の拘束の中でもがき苦しみながら、憲法改正のデッドラインが差し迫って、ようやく政治も国民も事の重大性に気付くのではないかと憂慮されてならない。いかんせん、それでは遅すぎるのである。
ともあれ、憲法改正が急速に進展しないと見られる状況下で、安倍新政権には、常に「戦後レジームからの脱却」の基本方向を堅持しつつ、「危機突破内閣」として当面する幾多の危機を敢然と乗り越えるよう、期待するほかないのであろう。 JBpress.ismedia.jpより引用
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海上保安庁
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「尖閣諸島」危機の裏に戦後体制の負の遺産
安倍新政権は、この危機を突破できるか
2013.02.18(月)樋口 譲次:プロフィール 第1次安倍内閣のスローガンは「戦後レジームからの脱却」であった。歴代政権には見られない極めて根源的で、真摯な問いかけであると受け止めたところであった。
昨年末の総選挙に勝利し、政権に返り咲いた自民党・安倍晋三総裁を首班とする第2次安倍内閣は「危機突破内閣」と銘打っている。
安倍新政権は、「尖閣諸島」の危機を突破できるか その公約には「戦後レジームからの脱却」の一丁目一番地である憲法改正が掲げられていることから、第1次安倍内閣の基本方向は引き継がれていくものと期待される。
今日、中国によって仕掛けられた「尖閣諸島」を焦点とした我が国の防衛・沿岸(領域)警備の問題は、実は、GHQの日本非軍事化(非武装化)・弱体化の占領政策、すなわち戦後体制に端を発している。
果たして、安倍新政権は、「戦後レジームからの脱却」を図り、「尖閣諸島」の危機を突破できるであろうか――。
我が国の沿岸(領域)警備体制の問題GHQ(占領米軍)に厳しい制約を課せられた海上保安庁の生い立ち
戦前、いわゆる沿岸警備(防備)については海軍が担任していた。敗戦占領とともに、占領米軍(GHQ)は、徹底した日本の非軍事化(非武装化)・弱体化を基本政策としたので、海軍も掃海部隊を除いてことごとく解体され、我が国は沿岸(領域)警備機能を喪失した。
そのためか、周辺海域には海賊が出没し、昭和21(1946)年初夏頃から朝鮮半島より輸入感染症(コレラ)が上陸して猛威を振るった。背後に不法入国や密貿易が疑われるようになり、沿岸(領域)警備の必要性に対する認識が高まった。
GHQは、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルに、洋上警備・救難及び交通の維持を任務とし、当時の運輸省(現国土交通省)の外局に文民組織としての海上保安庁を設立させることとした。
しかし、GHQ民生局(ホイットニー准将)は、武装した海上保安機構の創設に反発したので、下記の6項目の制約を課して昭和23(1848)年5月1日に同庁を発足させた。
(1) 職員総数1万人を超えないこと
(2) 船艇25隻以下、総トン数5万トン未満 (3) 各船艇の排水量1500トン以下 (4) 速力15ノット未満 (5) 武装は海上保安官の小火器に限ること (6) 活動範囲は日本沿岸の公海上に限ること また、GHQは、海上保安庁を文民組織とすることに固執したため、海上保安庁法第25条において、同庁は軍隊ではないとの規定を盛り込み、現在に至っている。
ここでも、憲法第9条で軍隊の保持を禁じ、現在の自衛隊を警察予備隊として発足させた占領米軍(GHQ)の日本非軍事化(非武装化)・弱体化の基本政策が強力に貫かれ、海上保安庁もその生い立ちから厳しい制約を課せられたのである。
海上保安庁法
第25条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。
現在の海上保安庁の組織規模および装備は、おおよそ下記の通りであり、職員総数は当初よりあまり増員されていないが、装備や活動範囲の面では逐次拡充されてきた。
海上保安庁の組織規模・装備等(平成23=2011年4月1日現在)
(1) 職員総数:1万2636人 (2) 船艇:451隻(うち巡視船艇357隻)、航空機:73機(飛行機27機、ヘリ46機) (3) 最大排水量:2000トン型高速高機能大型巡視船。なお、災害対応の3500トン型を保有 (4) 最大武装:40ミリ機関砲(ボフォース) (5) 担任区域:領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、日米SAR協定に基づく捜索救難区域(本土より南東1200海里程度) 活動範囲:当初、「港、湾、海峡その他の日本国の沿岸水域において」(制定時の海上保安庁法第1条第1項)と限定されていたが、後に改正されて単に「海上において」と規定され、活動範囲の限定を解除
我が国の管轄エリアをカバーする能力も、中国に対抗する能力も足りない海上保安庁
問題の中国には、多数の海上保安機関がある。沿岸警備隊としての性格を有するのが中国公安辺防海警部隊(China Coast Guard、略称「中国海警」)である。
尖閣諸島周辺に多数出没し、海上保安庁の船舶と対峙しているのは、国土資源部国家海洋局が所管する海監総隊所有の船舶で、海洋鉱物資源を担当している「海監」、そして農業部漁業局の所有する船舶で、漁業資源を担当し、日本の水産庁の漁業取締船に相当する「漁政」である。その他、交通部海事局の「海巡」、海関総署緝私局の「海関」などがある。
これら機関全体の保有船舶は約3000隻で、そのうち、近海や排他的経済水域(EEZ)をパトロールできるのは約250隻だと言われている。
他方、海上保安庁の現有能力は船艇総数451隻であるが、大型巡視船は700トン以上のヘリコプター付大型巡視船(PLH型)13隻、700トン以上の大型巡視船(PL型)38隻、合わせて51隻である。
世界各国の海岸線の長さを比較すると、上位から(1)カナダ、(2)ノルウェー、(3)インドネシア、(4)ロシア、(5)フィリピン、(6)日本、(7)オーストラリア、(8)米国、(9)ニュージーランド、(10)ギリシャ、(11)中国、(12)英国、(13)メキシコ、(14)インド、(15)イタリア(以下省略)の順になっている。
また、日本は、領土がすべて島(島嶼)で成り立っている多島・列島国家である。面積1平方キロメートル以上の島は本州、北海道、九州、四国の4大島を含めて341島、海岸線の長さが100メートル以上の島は6852島に及ぶ。
そのうち、有人離島は432(6.3%)で、その他はすべて無人島(総数6415島、93.7%)である。そして、当然のことではあるが、我が国の領土問題は、北方4島、竹島そして尖閣諸島であり、すべて島(島嶼)に集中している。
日本は、中国より長い海岸線を持つ国で、EEZを含めると世界第6位の管轄面積を有する。その沿岸(領域)警備を担任する海上保安庁の組織規模および装備などが弱体であることは、過去に北朝鮮工作船による多数の日本人拉致事件が発生した事実からも明らかである。
また、中国が保有する能力に十分に対抗するにも無理があるのは衆人の認めるところであろう。
米国とは明らかに異なる事情下の日本
他方、海上保安庁は、米国沿岸警備隊(U.S.Coast Guard)をモデルにしているが、米国と我が国の実状は明らかに異なる。
米国の国防は、「9.11」を契機に国土安全保障を強化しているが、前方展開部隊を基盤として海外(領域外の遠方)でその目的を達成することを基本としている。そのうえ、沿岸警備隊は、陸海空軍および海兵隊とともに第5軍(Armed Forces)の1つに数えられるほど、強力である。
米国沿岸警備隊は、かつては連邦運輸局(Department of Transportation:DOT)に所属していたが、2003年1月に国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)が発足したことに伴い、その隷下に置かれるようになった。
しかし、これまでと同様、海上の安全確保などのほかに国防の任務を有しており、戦時には、大統領命令に基づいて海軍の指揮下に入り、米海軍をサポートするという沿岸警備隊の役割は変わっていない。その任務も、海上封鎖や平時の臨検にとどまらず、北大西洋条約機構(NATO)軍との連携行動まで含まれている。
他方、我が国は、専守防衛(戦略守勢)を基本政策としているため、直ちに脅威が国土領域に及ぶ。そのような安全保障環境の下で、海上保安庁は海上警備を担任する海上警察機関として「警察比例の原則」に抵触しない限度での能力保持に制限されている。
また、自衛隊の防衛出動や治安出動があった際、特に必要な場合には、自衛隊法第80条に基づき、海上保安庁は内閣総理大臣の命令により防衛大臣の指揮下に組み入れることが可能である。
しかし、防衛大臣の指揮下に入った場合でも、その行動範囲や活動権限は、通常時(平時)と何ら変わらない。特に、武器の使用については、警察官職務執行法に従わなければならないことから、あくまでも自衛隊施設などへの警備を手厚くするとか、自衛隊と海上保安庁の連携を円滑にする程度に止まるものと見られている。
また、法令の規定を見る限り、自衛隊法第80条は、海上保安庁法第25条と明らかに矛盾するのではないかとの指摘もある。
そのためか、防衛大臣が海上保安庁を指揮するような本格的訓練は、今日まで、一度も行われたことがなく、有事に防衛大臣が海上保安庁を指揮するという現行法体系の実現性・実効性ははなはだ疑わしい。 (2)へ続く
JBpress.ismedia.jpより引用
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海保が苦虫を噛み潰す
政府の「海上警察権を強化」発言 2011.03.11(Fri) 3月2日、中国の軍用機2機が尖閣諸島の日本領海近くにまで接近するという事件が起きた。それに対して航空自衛隊が戦闘機を緊急発進(スクランブル)させ、間もなく中国軍機は去った。領空侵犯こそなかったものの、防衛省は「中国軍機が尖閣諸島にここまで近づくのは初めて」としている。
翌日、3日に記者会見に臨んだ枝野幸男官房長官も、「中国の軍事力の近代化と活動活発化は、透明性の不足とともに懸念事項だ」と動揺を隠さない。ただし、「中国の飛行機は日本領空外を飛行していたので、国際法や安全の問題がある行為ではなかった。抗議はできないが、動向を注視していく」と、結局は「事なかれ」を決め込んだ。
そして7日には、中国国家海洋局のヘリコプターが尖閣諸島近くの日中中間線付近で、海上自衛隊の護衛艦に異常接近するという事件も起きている。日本は、中国に完全になめられている。
国土交通相の口から飛び出した「海上警察権の強化を」発言 2010年9月に起きた、いわゆる「尖閣諸島中国漁船衝突事件」で、中国側は、尖閣諸島周辺を「自国の領海・領土」と強調。そのうえで、「自国の海域で操業していた漁船に日本の国内法が適用されるなど荒唐無稽」だと反発し、日本側が逮捕した中国人船長の釈放を求めた。
さらに中国側は同海域に漁業監視船を派遣し、「日本との閣僚級の往来を停止」や「航空路線増便の交渉中止」など次々と実力行使に打って出る。中国国内で日本人ビジネスマンを拘束して「捕虜」にするような行為に、日本人は憤懣をつのらせた。
こうした中国側の「圧力」に、日本側は中国人船長を処分保留のまま釈放してしまう。日本国民の中に大きな不満が残ったことだけは間違いない。海上保安庁が撮影していた中国漁船衝突のビデオ画像をインターネット上で不法に流出させた海上保安官を支持する声が少なくなかったのも、日本政府の対応に対する不満の表れだったと言える。
そして飛び出したのが、「海上警察権の在り方の徹底的な見直しが必要だ」という馬淵澄夫国土交通相(当時)の海上警察権強化発言だった。2010年11月17日、参議院予算委員会の席でのことだった。
海上警察権を行使するのは海上保安庁(海保)である。その海保を所管するのが国土交通省なのだ。そのトップである大臣が強化への見直しを国会の場で発言したのだから、政府としても本腰で取り組むべき課題と認識していたと思われる。
実際、2011年1月24日に行われた第177回国会における施政方針演説で、菅直人首相も、「海上保安強化のため、大型巡視船の更新を早めるなど体制の充実を図ります。海上警察権の強化も検討します」と明言している。
ここまでくれば、海上警察権強化に向かって政府は一体となって邁進する、と受け取られて当然である。
海保の反応は「領海の取り締まりは今の法律で十分」 ところが肝心の海保には、大臣や首相の発言を受けて戸惑いが広がっている。戸惑いどころか、腰が引けていると言っていいくらいだ。
首相や大臣の発言を受けて、海保内には今年の年明け早々に「海上警察権に関する制度改正等検討会議」が設けられた。海保庁長官を議長とし、その他、海保幹部がズラリと構成員として名を連ねている。
ここで、一体どんな海上警察権の強化を検討しているのか。事務局に問い合わせてみると、「検討中なので、どういうことを検討しているのか公表はできません」とつれない答えが戻ってくるのみ。では、いつまでに結論を出す予定なのかを聞いてみると、「いつまでに決めるという明確なことは期限は設けていません」との返事。暖簾に腕押しのような反応ばかりなのだ。
「検討会議を起ち上げたものの、何を決めればいいのか困っているようです」と言うのは海保の幹部である。「強化という意味では巡視船など装備の充実を、我々としては第一に望みたいのですが、国交省の予算を簡単に増やすわけにもいかないし、国交省の他部署の予算を削って海保に回すなんてことも至難の業ですよ」とも、その幹部は言った。
そして、かなり重要な点を指摘した。「取り締まりということであれば、今の法律で十分できるんです。だから検討のしようがないのが現実です」
現在、領海の取り締まりについては「領海等における外国船舶の航行に関する法律」に基づいて海保は取り締まりを行っている。領海の外の排他的経済水域における取り締まりについては、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」に基づいて行われることになっている。
この法律に、さほどの不自由を海保関係者は感じていない。だから、「海上警察権の強化」と言われても困るのだ。
最大の問題は「取り締まれない海域」があるということ ただし、そうした法律の執行が十分に行われているかといえば、そうではないのが現実だ。「日本の排他的経済水域にもかかわらず取り締まれない海域がある。そうした問題を無視して、海上警察権の強化を言われても困るんですよね」と、別の海保幹部は語気を強めて言った。
「日本の排他的経済水域にもかかわらず取り締まれない海域」は、中国との間にも存在する。日中の間にあるのが東シナ海で、両国ともに排他的経済水域を主張している水域が「日中暫定措置水域」とされている。
簡単に言えば、日本と中国の双方が「自国の排他的経済水域」と主張しているため、権利があやふやにされている水域である。1997年11月に署名され、2000年6月に発効した「日中漁業協定」によって決められた。
この日中暫定措置水域では、日中の漁船が自由に操業できる。といっても、操業できる船は、それぞれの国が認めた漁船だけだ。許可をもらっていない漁船は不法操業となるが、それを取り締まるのは、中国漁船については中国側だけ、日本漁船については日本側だけ、となっている。
つまり、日本の排他的経済水域でありながら、その水域を取り締まる法律がありながら、日本の海保は中国漁船を取り締まることはできないのだ。自国の排他的経済水域と主張していながら、海保は海上警察権を行使できない。
日中暫定措置水域で、日本の20倍以上の中国漁船が操業 しかも、ここで操業する漁船は、圧倒的に中国漁船が多い。水産庁によれば、去年の実績で中国漁船が1万8458隻、対して日本漁船は800隻にすぎない。
「この数で間に合う操業しか日本側はしていないから」と、水産庁では説明する。しかし、自国が排他的経済水域と主張するところで自国漁船の20倍以上もの中国漁船の活動を許しているのだ。
「実質的に乗っ取られている」と言ってもおかしくない。
それは水産庁も意識しているらしく、「この差は共同海域として良いことではないので、数を減らすように毎年の協議の場で中国側にお願いしているのですが、聞き入れてもらえません」と説明する。「実効支配されているようなものではないか?」と訊くと、「実効支配という言い方は強すぎると思います」との答えだ。
なぜ日中漁業協定を結んだのか外務省に問い合わせると、「双方の主張が違う中で、沖合生物資源を保護し、秩序を確立するためです」との返事だった。そして、実効支配されているわけだ。
中国という国の性格だけでなく、実効的に支配しているのだから、姿勢も強硬になる。尖閣諸島中国漁船衝突事件は、この暫定措置水域ではなく、日本の領海内で起きた。にもかかわらず中国側は不当だと主張し、日本側は屈した。
日本政府は「東シナ海には領土問題は存在しない」と自らの領海、排他的経済水域の正当性を曲げる意志のないことは示している。そう言いながら、実効支配については深く立ち入ろうとしない。見て見ぬふりをしている。
水産庁が否定する言葉を何度も使って恐縮だが、「実効支配」されている状態だからこそ、中国漁船が日本領海にまで入り込んできて尖閣諸島中国漁船衝突事件のようなことをやってしまう。さらに中国は強硬な圧力をかけてくる。そうしたことに日本政府が屈しているから、中国軍機が日本領海に接近するような行動を取る。
政府は中国の「実効支配」については見て見ぬふり この実効支配を海上警察権の強化で改善できるのか。結論から言えば無理だ。いくら権限を強めても、今ある法律すら適用できない状況なのだから、使えない権限だけを海保が持たされることになりかねない。
中国の実効支配を揺るがすような海上警察権の強化に、今度の検討会議での議論がつながっていくかと言えば、それも絶望的だ。それには領土問題がからんでくるので外務省をはじめ政府全体の大問題となってくる。にもかかわらず、今回の海上警察権の強化は「海保だけでできる範囲で」という制約がついているのだ。海保だけで領土問題に踏み込み、中国と交渉するなどできるわけがない。
だから「海上警察権の強化」と言われても、海保としては頭を抱えるしかないのだ。首相や大臣の決めたことだから、なんとか形だけ整えるとしても、政府全体で動いているわけでもないので、中国に対抗できるような警察権にするのは難しい。
それでいて、中国漁船による問題が増えれば、「権限を強化したのに、海保は何をやっている」と非難の的になりかねない。軍の飛行機までがやって来る状況なのだから、そうなる可能性は高いとも言える。
「尖閣諸島中国漁船衝突事件での不手際の責任を、海上警察権の見直し、強化という問題にすり替えられたという気がしないでもない」と、複数の海保幹部がボヤいた。
尖閣諸島中国漁船衝突事件の本質がうやむやになっていきそうな雲行きである。 |
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