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ロシア陸軍

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 本日、11月7日1917年の「ロシア十月革命」記念日で、1944年ゾルゲ事件の首謀者にしてソ連軍スパイであるリヒャルト・ゾルゲ尾崎秀実が、巣鴨拘置所にて処刑されてから67周年記念日にあたります。
 
 そこで、本日も毎回恒例のアマゾンの軍事関連媒体の評価を行うことにしました。評価の対象は、DVD「国際スパイ・ゾルゲです。
 
 をご存じない方は、リンク先の"wikipedia"か、下の「国際スパイ・ゾルゲ」前編の動画をご覧下さい。
 
 
 

 

 
 
 
下にアマゾンに公開したレビューを掲載します。
 
ゾルゲを売ったのは誰?
評価 ★★★★
 このDVDは、1991年10月7、8日に放送されたNHK特集「国際スパイ・ゾルゲ」前後編を一本に纏めた物で、旧ソ連の崩壊直前に起きたクーデターの2週間後にソ連軍参謀本部とKGB本部を訪れたNHK取材班が、新たに公表された機密資料を基に構成されたドキュメンタリーである。

 前編は、1933年のゾルゲの日本侵入、ドイツ大使館で駐日ドイツ大使オイゲン・オットから信頼を得て拡大する諜報活動、ゾルゲの生い立ちと第一次世界大戦を経てドイツ共産党へ入党の経緯、そして独ソ開戦までを描く。

 後編は、ゾルゲのソ連における生活とスターリンによる粛清。それにより次々失われるゾルゲの関係者たちの命。ゾルゲによるドイツの対ソ侵攻作戦の警告を無視するソ連上層部、独ソ開戦後、崩壊の危機に瀕したソ連軍は新たな緊急指令「独ソ戦に対する日本の方針を探れ」が、送られてくるが…。

 山崎勤氏のナレーションとパトリック・オーハンのBGM、そして既に鬼籍に入った関係者の貴重な証言が盛り上げるドキュメンタリーは、放映から20年後の現在でも面白く感じる番組である。

 だが、リヒャルト・ゾルゲに関する深い知識を有しない浅学薄才の徒である評者だからこそ、そう感じるのかもしれないことを予めお断りしておく、例えば専門知識を有する人の評価は、以下の通りである。

 「クラウゼンは来日後、東京の電気屋や金物屋を歩き回って、部品を買い集め、密かに高性能の無線受信機を作り上げた。それは真空管やコイルを取り外すことができ、スーツケースに入れて持ち運ぶことが可能だった…」
『国際スパイ ゾルゲの真実』(角川文庫)

 それに対する専門家の意見は、

 「もっともらしく聞こえるが、これは素人が想像で書いたフィクションである。ラジオ屋を歩いたって送信機は作れない。(中略)当時の部品専門店は特別なのである。」 『真空管の伝説』 (ちくまプリマーブックス)86P)

とバッサリ切り捨てられており、様々な専門家が本作を精査した場合の品質は、保証しかねるのが、正直な評者の感想である。

 また、番組冒頭で「ゾルゲの活動には多くの謎がある」とのナレーションが入るが、ゾルゲ事件の最大の謎である逮捕に関する情報も「日本人関係者の逮捕により」と、多少触れた程度で謎のまま終わっている。これは、日本のとある政党の暗部を直撃するタブーであるため、無視したと思われる。この謎に関しては、『太平洋戦争情報戦』―写真構成 (別冊歴史読本永久保存版―戦記シリーズ (第65号))に興味深い記事があるので、是非ご一読いただきたい。

 本作品の評価は、番組としては面白いものの歴史の闇に触れるには、まだ今一歩ということで星4つである。
 
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ロシアの軍備は近代化するか、しないのか
2.5倍に膨れ上がった最新鋭艦船の調達コスト
2011.09.29(木) 小泉 悠
年8月の16日から21日まで、モスクワ近郊のジューコフスキー飛行場では恒例の「モスクワ航空宇宙展示会(MAKS)」が開催された。ロシア製航空機や武器の売り込みのために1993年以来、隔年で行われているもので、スポンサーにはロシア政府や国営武器企業、モスクワ市などが名前を連ねる。
 

本格化し始めた空軍の装備改編

 今年は会期後半で雨に見舞われたものの多くの観光客が詰めかけ、主催者発表によると44万人が訪れたという。筆者も夏休みを兼ねて3日間、MAKSを訪問してきた。
 
 MAKS訪問の目的はいろいろとあったが、これまでお伝えしてきたロシアの装備調達計画を巡る問題との関連で興味深かったのが航空機の長期調達計画であった。
 
 前回(2009年)のMAKSで、空軍は、以下の合計64機をスホーイ社に対して発注していた。
 
●Su-35S戦闘機×48機(2011-2015)
●Su-27SM3戦闘機×12機(2011-2012)
●Su-30M2戦闘爆撃機×4機(2010-2011)
 
 この多年度調達契約は、その前年にSu-34戦闘爆撃機32機分を一括発注したことと合わせて、空軍の装備改編が本格化し始めた兆しとして大きく注目された。
 

2020年が目標の新たな装備計画

ロシアの戦略爆撃機「TU-95」
イメージ 1 実際、ここで発注された機体のうちいくつかはすでに空軍に納入されたり、実戦配備に向けた試験を開始している。今回のMAKSに出展された機体もある(写真参照)。
 
 その後、2020年を目標とする新たな装備計画(GPV-2020)が始まったことを考えれば、今年のMAKSでも何らかの多年度契約が発表されるとの予測が持ち上がってくるのは自然な流れだった。
 
 実際、開催前の報道によれば、今回のMAKSでは次のような契約が結ばれるとされていた。
 
●Yak-130高等練習機×60機
●MiG-29K艦上戦闘機×24機
●MiG-31BM迎撃戦闘機(近代化改修)×30機以上
 
 新規調達84機+近代化改修30機以上という、前回を上回る大口契約である。ところが蓋を開けてみると、契約はMAKS開催期間中にはまとまらなかったようだ。
 

装備調達の停止を決めた国防相

 その背景にあるのが、これまでお伝えしてきた装備品の価格高騰問題である。
 
 ロシアの国防予算は年々増加しているにもかかわらず、軍需産業側の高コスト体質や意図的な価格吊り上げなどによって装備品の価格が国防費の増加を上回るペースで進んでいる。
 
 これに対してセルジュコフ国防相は、価格高騰が目に余る軍需企業に対しては装備調達費の執行を停止するという行動に出た。今年の装備調達費5815億ルーブル(約1兆7400億円)のうち、およそ18%が執行停止処分の対象となったという。
 
 とはいえ、ロシア軍の装備近代化はタンデム政権の重要課題の1つであり、いつまでも予算を停止しているわけにはいかない。
 
 問題が公になった当初の7月頃には、予算停止を解く見返りに軍需企業側に国防省の言い値を呑ませるというのがセルジュコフの思惑であったようだ。このため、ドミトリー・メドベージェフ大統領に対して「1週間で問題を解決する」とかなり強気な報告を行っていた。
 

航空機や弾道ミサイルなどの調達には目途が立つ

 しかし、軍需企業側との交渉は予想外に長引く。このため、ウラジーミル・プーチン首相は期限を1カ月延期し、8月中に価格問題を解決するよう命じた。つまりMAKS開催期間中、セルジュコフはまだ航空機メーカー各社と価格交渉の真っ最中だったのである。
 
 では、9月1日までにセルジュコフは価格問題をすべて解決できたのだろうか。
 
 結論から言うと、造船部門を除いては合意に達したようだ。したがって、今回取り上げた航空機の多年度契約や、前々回取り上げた弾道ミサイルの調達などについては、一応の目途は立ったと言える。
 
 さらに空軍のゼーリン総司令官はSu-34戦闘爆撃機を2020年までに120機、新型輸送機を100機導入する意向なども示しており、今後も装備更新は何とか進んでいきそうだ。
 
 一方、最後まで難航したのが艦艇の調達に関する交渉である。
 

難航する艦艇の調達

 ロシアでは政府のかじ取りで主要造船メーカーの多くがホールディング会社「統一造船会社(OSK)」の傘下に統合されているが、同グループは9月1日の段階で9件の主要な契約に関して国防省と合意に達することができなかったと伝えられる。
 
 その内訳ははっきりしないが、以前からロシアの造船業界は軍需産業の中でも特に納期遅れと価格高騰が激しいことで知られていた。
 
 一例として、最新型の20350型フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」のケースを挙げてみたい。
 
 このフリゲートは、ソ連崩壊後に新規設計・建造された水上戦闘艦としては最大クラスのもので、装備するレーダーや戦闘情報システム、武装等についても最新鋭のタイプが予定されている。
 
 ソ連海軍中興の祖であるゴルシコフ提督の名が冠されていることからも、ロシア海軍の期待がうかがえよう。海軍としてはこのクラスを20隻建造する意向で、現在までに6隻分の契約が結ばれている。
 

3年遅れの納期と2.5倍に膨れた調達コスト

 だが、その調達は思うように進んでいない。
 
 同艦はバレンツ海に面したセヴェルドビンスクの「セヴマッシュ」造船所で2006年に起工され、2009年には竣工することになっていた。しかし納期は大幅に遅れており、現在の見積もりでは2012年以降になるとされている。
 
 さらに当初は70億ルーブル(約210億円)とされていた建造費用も、現在では総額180億ルーブル(540億円)にまで膨れ上がっているという。実に3年もの納期遅れと2.5倍へのコスト増だ。
 
 軍事専門家は最新型の電子システムの開発やインテグレーションに手間取っていると分析しているが、いずれにしてもこの調子では装備更新が相当遅れることは避けられない。
 
 このほかにもいくつかの新型艦艇に関して資金不足から工事が止まっていると報じられているが、このあたりがセルジュコフの価格交渉の焦点になっていたものと思われる。
 

精密誘導兵器導入を新たに調達

 艦艇調達の問題にとりあえずの区切りがついたのは9月後半に入ってからのようだ。
 
 様々な報道を総合すると、国防省は件の「セヴマッシュ」造船所に数百億ルーブル規模の補助金を出す一方、最新鋭の20350型の調達数を減らしてより安価な11356M型の調達数を増やすことを考えているようだ。
 
 11356Mというのはインド海軍向けに開発されたフリゲートで、すでにロシア海軍でも6隻導入することが決まっている。これをさらに3隻増やして9隻調達する一方、20350型の調達は6隻まで削るという案だが、どの程度具体化しているのかは明らかでない。
 
 だが、11356M型では20350型に比べて電子システムなどがかなり見劣りするため、この案では質的な面での近代化が相当程度後退することになろう。
 
 もう1つ、今回の価格問題では興味深い展開があった。装備調達費のうち300億ルーブル(約900億円)分の使途を変更し、精密誘導兵器を購入するとセルジュコフ国防相が述べたのである。
 

一応の前進はし始めたロシア軍の近代化

 セルジュコフは以前からロシア軍に精密攻撃能力が乏しいことを問題視しており、最近では無誘導航空機用爆弾の調達を5年間停止すると発言していた。
 
 爆弾を製造している「バザーリト」社は抗議しているが国防省の方針に変更はないようで、価格問題を機にさらに精密誘導兵器の導入を拡大する意向と見られる。
 
 いずれにせよ、ロシア軍の近代化は困難な状況ながらも一定の前進を見ている。従来の装備計画がいずれも資金不足によって数年で頓挫してしまったことと比べれば、大きな前進ではある。
 
 したがって次の問題は、その達成度である。大量生産されたソ連製兵器を一対一で代替する必要はないにせよ、果たして総兵力100万人のロシア軍を近代的な軍事力として機能させ得るだけの装備更新が進むのか、中途半端なもので終わるのか。
 

 ロシアの隣国である我が国としても無関心ではいられない問題と言えよう。


JBpress.ismedia.jpより引用

 
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兵器の価格が4年で2倍、汚職に悩むロシア軍
近代化は絵に描いた餅に終わるのか、日本の脅威となるのか
2011.08.18(木) 小泉 悠
回の小欄において、ロシアの戦略核戦力が減少しつつある現状をご紹介した。今回はその続編として、ロシアの軍需産業全体で持ち上がっている生産能力の問題を取り上げることにしたい。
 

納期が守られたケースはわずか35%

ロシア空軍のSu-34(ウィキペディア
イメージ 1 戦略核兵器に限らず、ロシアではこの数年、国防省の発注した装備品が納期通りに納入されなかったり、納入数が発注数を大幅に下回るという状況が続いている。
 
 例えば2009年度のロシア軍の発注のうち、数量・納期が守られたケースはわずか35%に過ぎなかった。
 
 一例として、空軍が調達中の「Su-34戦闘爆撃機」の例を挙げてみよう。Su-34を製造しているのはスホーイ社のノヴォシビルスク航空機工場(NAPO)だ。
 
 空軍はNAPOと2006年に多年度調達契約を結び、2007年にまずは2機、2008年と2009年には各10機ずつの合計22機を調達する計画だったが、実際にこの期間に納入された機体はわずか3機に過ぎなかった。
 
 しかも、NAPOはこれに対して違約金を課されるわけでもなく、すでに支払われた費用はそのままうやむやになってしまっている。
 

4年間で兵器の平均価格は2倍に

 もう1つ、価格値上がりの実態についても触れておきたい。核ミサイルの値上がりが著しいことについては前回も書いた通りであるが、その他の兵器の値上がりも深刻だ。
 
 ロシア会計検査院の報告によれば、2005年から2008年までのわずか4年間で、兵器の平均価格は2倍に跳ね上がったという。いくらロシア経済が慢性的なインフレに悩まされているとはいえ、これは異常な上昇率だ。
 
 ウラジーミル・プーチン首相もこのような実態には苛立ちを隠していない。装備調達についての会議の席上、価格値上がりについて報告を受けたプーチン首相は、その場に居たアレクセイ・クドリン財務相に今年のインフレ率の見通しを尋ねた。
 
 クドリン財務相が「7〜7.5%」と答えると、「だが、軍用装備の値上がりは5%とか7%、8%なんてレベルじゃないじゃないか。その何倍もだ。どうなってるんだ?」と怒りを露わにした。
 
 では、このような事態はなぜ起こっているのだろうか。
 
 実は装備調達問題が顕在化してきたのは現在のアナトーリー・セルジュコフ国防相が就任した2007年以来のことで、それ以前のセルゲイ・イワノフ国防相の時代には、毎年「国家国防発注はほぼ完遂!」とメディアなどで誇らしげに喧伝されていた。
 

6年間での調達は航空機2機とヘリコプター十数機だけ

 だが、イワノフ国防相時代の装備調達は、そもそもあまり活発なものではなかった。再び航空機調達の例を挙げるならば、彼が国防相を務めた6年間(2003〜2007年)で、ロシア軍が調達できたのは航空機2機、ヘリコプター十数機に過ぎなかった。
 
 このほかに100機ほどの機体(ヘリコプター含む)が近代化を受けているので1990年代よりはずいぶんマシとも言えるが、いずれにしても大した数ではなく、「完遂」にも大した努力は要しなかったわけである。
 
 だが、2007年から始まった「2015年の国家装備計画(GPV‐2015)」では、戦車1400両、装甲歩兵戦闘車・空挺歩兵戦闘車4109両、装甲兵員輸送車3008両、航空機・ヘリコプター1000機以上、「イスカンデル」戦術ロケット発射システム60両、S‐400防空システム18個大隊、水上艦艇10隻以上、955型弾道ミサイル原潜5隻などの大量調達が謳われ、調達費用も10年間で5兆ルーブル(約14兆5000億円)と大幅に増加した。
 
 さらに今年からはこのGPV-2015を見直す形で、「2020年までの国家装備計画(GPV‐2020)」がスタートしており、予算は20兆ルーブルにも膨らんでいる。
 
 現在の装備調達をめぐる問題は、こうした装備調達の本格化に伴って浮上してきたものなのだ。
 

製造業技術者の平均年齢は50歳超

 しかし、投下される資金が増加しているにもかかわらず、なぜ調達が低迷するのだろうか?
 
 1つには、ソ連崩壊後、軍需産業の生産能力が壊滅的に低下したという事情がある。国家発注がほとんど途絶える中で、熟練工の大部分が解雇され、生産設備の老朽化・陳腐化も進んだ。
 
 さらに後進の育成が滞ったため、現場は昔からのベテランだけで廻さざるをえなくなり、いまやロシアの製造業技術者の平均年齢は50歳を超えている。このような停滞が20年にわたって続いたために、予算だけが急に増えてもそう簡単に増産には応じられないのだ。
 
 それ以上に大きな要因と考えられるのが、汚職だ。ドミトリー・メドベージェフ大統領が汚職撲滅を政権の重要課題に掲げていることからも分かる通り、汚職はロシア社会全体の大きな問題になっている。
 
 軍需産業とて例外ではなく、むしろ軍事機密の壁に阻まれて金の使途が不透明な分、他の業種よりも腐敗の度合いは深刻だ。
 

メドベージェフ政権下で汚職の数も桁外れに

フリディンスキー軍検察総局長
イメージ 2 そのうえ、プーチン政権下で国防予算が毎年増加するようになったため、これに応じて汚職も激増していった。
 
 特にメドベージェフ政権下ではグルジア戦争の影響で装備近代化がこれまで以上に重視されるようになり、動くカネも巨額になってきたため、汚職の額も桁外れになってきている。
 
 中でも衝撃的なのが、今年5月にフリディンスキー軍検察総局長が国営紙『ラシースカヤ・ガゼッタ(ロシア新聞)』に語った内容だ。同総局長によれば、不当な値上げや横領によって、国防費の5分の1が不当に詐取されているというのである。
 
 昨年のロシアの国防予算は1兆5000億ルーブル(約4兆5000億円)ほどだが、フリディンスキー総局長の発言に従えば、およそ3000億ルーブル(約9000億円)が不正に使われていたことになる。
 
 では、これほどの巨大なカネがどうやって闇に消えているのだろうか。
 

軍医総局長が5000万円を懐に

 1つのパターンは、軍人自身による汚職だ。6月に摘発されたベレヴィチン軍医総局長のケースでは、部下と謀って医療用のスキャナーを市価の3.5倍で購入し、国に1700万ルーブル(約5000万円)の損害を与えたとされている。
 
 軍医総局長と言えばロシア軍の全医療部門のトップであり、少将の階級を持つだけに、この事件はロシア社会に少なからぬショックを与えた。
 
 また、7月には、海軍で巨額横領疑惑が持ち上がった。ことの発端は、海軍がズヴェズドーチュカ造船所に原子力巡洋艦「ピョートル・ヴェリキィ」の修理を依頼した際、同造船所の社長が2億6500万ルーブルを横領したというものだった。
 
 ところがこの造船所にはそもそも、海軍が依頼したような高度な原子炉整備能力がなく、したがって発注そのものが不正だった疑惑が浮上している。その他の原子力潜水艦の整備まで含めると、59億ルーブルもの修理費用が不正支出だった可能性があるという。
 
 このような例は枚挙に暇がない。先ほどのフリディンスキー軍検事総局長が7月に公表した数字によると、2011年前半だけで6人の将軍と170人の将校が汚職で起訴され、損害は分かっているだけで6億ルーブルに上っているという。ちなみ2010年度の汚職による損害は65億ルーブルだった。
 

子会社、孫会社を通じて不正取引

 だが、これだけでは、先ほどの「国防費の5分の1」という巨大な規模には遠く及ぶものではない。つまり、より巨大な利権構造は軍需産業そのものの中にあると考えられる。
 
 その実態について、筆者は昨年、軍需産業専門家のイーゴリ・コロトチェンコ氏にインタビューしたことがある。同人は軍事専門誌『国防』を主宰し、昨年まで政府の軍需産業委員会(VPK)で委員も務めた人物だ。
 
 コロトチェンコ氏によれば、軍需産業が不当な利益を上げるための方法の1つは、子会社や孫会社をいくつも作ることだという。本当は自社でも生産できる製品をわざと下請けや孫請けに廻すことで、コストがかかっているように見せかけるのだ。
 
 ところが各社の役員は親会社の役員が兼任しており、結局、利益はみんな彼らの懐に入るか、軍の装備担当者へのキックバックになってしまう、という仕組みだ。
 
 また、軍需産業側に染み付いた体質の問題も指摘される。
 

国家より私腹を肥やすことに血道を上げる経営者たち

 昨年、装備計画担当のポポフキン国防次官(当時。現連邦宇宙庁長官)は、軍需産業の経営者たちが国から支給された予算で必要な工作機械を買わず、銀行に預けて利子を稼ぐことばかり考えているとして、軍需産業の現状を痛烈に批判した。
 
 意図的に横領するつもりまではないとしても、装備の品質や納期よりも私腹を肥やすことに熱心な経営者が多過ぎる、ということだ。
 
 一方、国の側も黙っているわけではない。先ほどのポポフキン国防次官は陸軍が調達予定だった6種類の兵器を「コンセプトが時代遅れ」あるいは「コストパフォーマンスが悪い」などとして調達中止にしたほか、フランス、イタリア、イスラエルといった外国からより高性能の兵器を導入し始めた。
 
 制度面においても、2008年に「連邦調達庁(ロスアバルンパスターフカ)」が設立され、装備調達各軍の装備当局から独立して行う体制が作られた。
 
 同庁は当初、ほとんど活動実態がないとして批判にさらされていたが、最近になってセルジュコフ国防相とつながりの深い財務省出身のナデージダ・シニコーワ氏が長官に任命され、さらに国防相直属とすることで、装備調達へのコントロールを強めることが可能になった。
 

調達改革は成功するか

ナデージダ・シニコーワ長官
イメージ 3 シニコーワ長官によれば、来年度の装備調達のうち半分はロスアバルンパスターフカが発注を担当し、2013年には装備調達業務全体が完全に同庁へと移管されるという。
 
 また、装備品の保守・修理が汚職の温床になっていることはズヴェズドーチュカ造船所の件で触れたが、最近ではこうした業務も国営企業の「ロシア国防サービス(ロスアバルンセルヴィス)」が統括し、軍人にはタッチさせない方針が採られている。
 
 すでに述べたように、ロシア政府は今年から20兆ルーブルの巨額装備計画をスタートさせた。
 
 装備調達についても少しずつ成果が上がり始めており、前述のSu‐34戦闘爆撃機は昨年末に最初の量産型4機が実戦配備され、今年はさらに6機が加わる予定だ。そのほか、陸海空宇宙の各分野でも、多くの分野で前進が見られる。
 
 だが、それも「以前よりはマシ」というレベルであって、政府の定めた目標を確実にクリアできるところまでは至っていない。
 
 このあたりの一線を越えて長年の停滞を打破する真の近代化を達成できるか、それとも中途半端な装備調達を続けては将軍や軍需産業の懐を温める結果になるのか。それいかんによって、21世紀前半の世界におけるロシアの軍事的存在感や、より広範な政治的影響力は大きく変わってくることになろう。
 

 我が国としても、場合によっては西方にシフトしつつある防衛体制を中長期的には見直さなければならない可能性もあるだけに、ロシア軍の装備調達の動向には十分な注意を払っていく必要があろう。


JBpress.ismedia.jpより引用

 
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減少が止まらないロシアの核戦力
高コスト、生産力減退で新型への更新が進まない
2011.07.25(Mon) 小泉 悠
年6月1日、米露は、新核軍縮条約(新START)に基づく核削減の状況を公表した。
 
 このデータによれば、ロシアが保有する核戦力は、核弾頭1537発、運搬手段(大陸間弾道ミサイル[ICBM]・潜水艦発射弾道ミサイル[SLBM]・爆撃機合計)521基/機、配備/非配備状態の発射装置(SLBM発射管・ICBM地下サイロ・爆撃機合計)865基/機であるという。
 
 新STARTでは本来、2018年までに弾頭数を1550発以下、運搬手段を700基/機以下、発射装置を800基/機以下まで削減すると定めていたので、発射装置以外は条約の期限より7年も早く目標を達成してしまったことになる。
 

米国よりも核軍縮に熱心な結果なのか?

新START条約に調印した米ロ大統領(2010年4月8日)〔AFPBB News
 
 一方、米国は弾頭1800発、運搬手段882基/機、発射装置1124基/機で、条約の制限内に収めるためにはさらに核削減を進めなければならない。
 
 このことは、ロシアが米国よりも核軍縮に熱心であることを示しているわけではない。
 
 周知のようにバラク・オバマ米政権は「核のない世界」をスローガンに核軍縮を積極的に推進しており、新START条約の交渉過程でも、弾頭を1000発以下まで削減することを提案していたと伝えられる。
 
 一方、ロシア側は、国境を接する中国を抑止する必要もあって米国より多数の弾頭を保有する必要を主張し、結局は上記の1550発という数字に落ち着いた。
 
 では、このような経緯にもかかわらず、ロシアの方が核保有量が低下しているという状況はどのような理由によるものであろうか。
 
 以前、新START条約について取り上げた際にも紹介した通り、ロシアの戦略核戦力は老朽化によって減少の一途をたどっている。
 
 ソ連時代に開発・製造された多くの弾道ミサイルが旧式化しているうえ、メンテナンス費用の不足や、ソ連時代の製造元が現在はウクライナ企業になってしまったこと(大型ICBMを設計していたユージュノイェ設計局など)などが重なり、毎年数十基単位でミサイルが退役し続けているのである。
 
 だが、これに代わる新型ミサイルの調達は低調だ。
 
 現在、ロシアはサイロ発射式のRS-12M2「トーポリ-M」ICBMと道路移動式のRS-24「ヤルス」ICBM、近代化改修を受けた667BDRM型潜水艦用の「シネーワ」SLBM、それに新型の955型潜水艦に搭載する「ブラワー」SLBMの調達を進めている。
 
 だが、その調達ペースは著しく低い。
 

ICBMの年間調達数はわずか9基のみ

「トーポリM」(ウィキペディア
イメージ 2 例えば、「トーポリ-M」の年間調達数は、2009年に11基を記録したのが最大で、ここ数年は6基/年というペースが続いている。
 
 「ヤルス」に至っては2009年から今年まで年間3基ずつしか調達されておらず、したがってICBMの年間調達数は合計で9基にしかならない。
 
 旧式ICBMの退役を補うには、全く不十分な調達ペースだ。
 
 その背景は様々に考えられるが、根本的な要因として指摘できるのが、生産設備のキャパシティ不足だ。
 
 現在、ロシアには弾道ミサイルを生産できる工場が2つしかない。1つはクラスノヤルスク工場で、液体燃料型ミサイル専門。もう1つのヴォトキンスク工場は固体燃料専門だ。
 
 ところが、上で挙げた新型弾道ミサイルのうち、液体燃料を使用するのは「シネーワ」SLBMのみ。
 
 ほかはすべて固体燃料型であり、したがってヴォトキンスク工場がすべての生産を担当せねばならないのだが、同工場の生産能力は冷戦中の最盛期でさえ、年産48基程度(「トーポリ-M」の原型となった「トーポリ」ICBMの場合)であったとされる。
 
 熟練労働者が失われたことで現在の生産能力は当時よりかなり低下していると考えられるので、「トーポリ-M」「ヤルス」「シネーワ」と3種類の大型弾道ミサイルを同時並行で生産するのは、キャパシティ的にかなり厳しいだろう。
 
 しかもヴォトキンスク工場は陸軍向けに「イスカンデル-M」戦術弾道ミサイルの生産まで行っているから、なおさらだ。
 
 2010年の生産実績を見てみると、「トーポリ-M」が6基、「ヤルス」が3基、「ブラワー」が3基以上、「イスカンデル-M」が12基以上で合計27基となっており、ただでさえ限られた生産能力が分散されてしまっていることが窺われる。
 
 もちろん、ロシア政府も手をこまぬいているわけではない。

戦略核戦力の整備を巡りスキャンダルが発覚

ユーリー・ソロモノフ(コメルサント)氏
イメージ 1 今年3月にプーチン首相が述べたところによれば、政府は今後3年間でヴォトキンスク工場を含む弾道ミサイル生産企業に150億ルーブル(約400億円)を投資し、このうちヴォトキンスク工場には17億ルーブル(約46億円)が拠出されるという。
 
 また、こうした投資により、「ヤルス」「ブラワー」「イスカンデル-M」の生産を2013年以降、現在の2倍に引き上げるとしている(ただし、「トーポリ-M」については言及がない)。
 
 その一方、戦略核戦力の整備を巡って、7月に入ってからちょっとしたスキャンダルが持ち上がっている。
 
 きっかけは、「トーポリ-M」「ヤルス」「ブラワー」の開発を手がけたモスクワ熱力学研究所(MITT)のソロモノフ設計官が有力紙『コメルサント』(7月6日付)に寄せたインタビューだった。
 
 この中でソロモノフは、国防省は2011年度の予算執行書に一件もサインしておらず、このためにICBMの生産が全く進んでいないと暴露したのである。
 
 これに対してドミトリー・メドベージェフ大統領は、インタビューが掲載された当日の閣僚テレビ電話会議でセルジュコフ国防相に対し、次のように述べた。
 
 国防発注の遅れを招いた責任者は、地位にかかわらず厳しく罰せられなければならない――スターリン時代なら銃殺ものだ・・・。
 
 スターリンのくだりは冗談めかした口調ではあったものの、事実上は叱責である。これに対し、セルジュコフは、翌8日の記者会見で猛烈なソロモノフ批判を展開した。
 
 セルジュコフによれば、国防省は現在、発注額に比べて実際の納入額の高騰があまりにも激しい軍需企業に対しては支払いを停止する措置を取っており、全契約の18.5%がその対象となっている。
 
 MITTへの予算執行が停止されているのも弾道ミサイルの価格高騰が目にあまるためで、2010年度に比べると「トーポリ-M」は39億ルーブル(約113億円)、「ヤルス」は56億ルーブル(約162億円)も値上がりしているという。
 
 仮に2011年度も昨年と同じく「トーポリ-M」6基、「ヤルス」3基のペースで生産を行ったとすると、値上がり分だけで1164億円もの負担増になる計算だ。
 

ミサイル1基当たり100億円以上の値上がり

 ロシア軍全体の装備調達費が年間5000億ルーブル(約1兆5000億円)程度にすぎない現状では、弾道ミサイル1基当たりの値上がり額が100億円を超える現状は確かに看過できないものだろう。
 
 とはいえ、予算が執行されなければ新型ミサイルの調達は止まったままであり、核戦力の減少に拍車がかかるのは必至だ。
 
 今後、ロシア軍の通常戦力は小規模紛争対処型へとシフトしていくことが予想されるため、大規模な侵攻を抑止できるのは戦略核戦力だけである。
 
 また、ロシアが米国と対等に渡り合っていくうえでの交渉材料としても、戦略核戦力の分野は天然資源と並ぶ貴重な交渉材料となっている。
 

 それだけに、MITTを巡る問題にどう解決をつけるのか、セルジュコフ国防相の手腕に注目が集まっている。本欄でも今後の展開を待って、近く続報をお伝えすることとしたい。


JBpress.ismedia.jpより引用

 
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世界の軍事力:最新ロシアの軍事事情(3)
北方領土問題:中国と連携し支配強化を狙う
2011.06.17(Fri)  岡本 智博
 
(1)からの続き
 
 なおこれに先立つ2010年7月7日、本法案は国家院で可決され、7月14日に連邦院で採択されている。
 
 こうした経緯を踏まえてロシアは、日本に対して「日本が北方領土に関して法律制定をしたのであれば、ロシアもロシア側の主張する論理で法律を制定する」とし、これを実行。
 
 さらに2010年11月1日にはメドベージェフ大統領が、12月13日にはシュワロフ第1副首相が、2011年1月20日にはブルガコフ国防次官が、1月31日はバサルギン地域発展相が、2月4日にはセルジュコフ国防相が、北方領土を畳み掛けて訪問する事態となったのである。
 
 この間、我が国では政府としての“北方領土に関する国家戦略”を検討することもなく、2月7日「北方領土の日」に行われた東京・九段会館で開かれた「北方領土返還要求全国大会」において、菅直人首相が「許しがたい暴挙だ・・・」とする発言を行ったのみであった。
 
 バルト3国を迎え入れた欧州議会とともに国際世論を味方に引き入れる戦略を、不発に終わらせてしまったことは実に悔やまれる。日本外交の拙劣と言わざるを得ない。
 
 ロシアは、日本には北方領土問題と尖閣諸島問題に同時に対応する国家意志、国家戦略、国力はないと判断しているようである。
 

北方領土におけるロシア軍の最近の動向

(1)新空港建設の意味すること
 
択捉島に建設が始まっているロシアの新空港
イメージ 1 メドベージェフ大統領はじめロシア高官の訪問が相次いだ北方領土の択捉島・散布山の裾野では、現在、24時間の突貫工事で新しい空港の建設が始まっている。
 
 2015年完成を目標として実施されているロシア政府の「クリル諸島社会経済発展計画」の目玉として、工費12億ルーブル(約55億円)を投入し、滑走路2300メートルの国際空港が建設されているのである。
 
 本工事は2010年に完成を予定されていたが、工事の進捗に少々の遅れが見られている。
 
 新空港建設の意味するところは、これまで述べてきたように、ロシア連邦軍が「統合運用」を追求して、“砲撃任務は空軍に委ねた”新たな地上軍を配備し、陸・海・空戦力の統合運用によって新たに発足した西部軍管区における統合作戦を実施しようとする意図を有していることにほかならないと判断されるところである。
 
 現在、北方領土に駐留するロシア連邦軍は約3500人とされている。1978年以来、ロシア(ソ連)は、国後島・択捉島・色丹島に地上軍の再配備を開始し、1991年には約9500人の兵員が駐留していた。
 
 現在、択捉島と国後島には高射砲などを装備した機関銃砲兵師団、択捉島にはMiG-31戦闘機を20機程度展開しているが、RMAが実現して機関銃砲兵師団が自動車化歩兵旅団に再編されれば、人員は3500人で十分である。
 
 しかし敵に対する砲撃任務のためには、衛星誘導弾を搭載する爆撃機あるいは戦闘機が必要となる。その空軍力の戦力発揮のためには、滑走路2300メートルの空軍基地が必要不可欠となるのである。
 
 もちろん、天寧に所在するブレヴェスニク空港がその1つの戦力発揮基盤とはなるが、代替基地あるいは相互連携のための基地として、散布山麓に建設される新空港は重要な役目を果たすことになるはずである。
 
 この2つの航空基地が戦力発揮基盤として機能すれば、「統合運用」が十全となることは言うまでもない。
 
 1991年、ダマンスキー島(中国名:珍宝島)を巡る中露間の国境画定問題が解決し、西部軍管区での紛争の種が消滅したロシアが、東アジア・太平洋地域における戦略拠点として西部軍管区の北方領土に2つの航空基地を設けようとしている背景には、このような意図が存在していることを改めてここに記しておきたい。
 
(2)北方領土におけるロシアの軍事力建設
 
 最近の報道によればロシアは、北方領土に駐留する軍隊の兵器・装備の質的強化を相次いで打ち出しているとのことである。
 
 ロシア・インターファクス通信の報道するところによれば、ロシア軍のマカロフ参謀総長は2011年2月11日、北方領土を含む千島列島に新しいタイプの駐留部隊を創設する旨を明らかにしたとしている。
 
 またロシア国防省筋は、北方領土に駐留する機関銃砲兵師団の装備を近代化し、「自動車化歩兵旅団に改編」すると表明したとも報道している。
 
 そしてこれに先立つ2月9日、メドベージェフ大統領は北方領土駐留部隊の増強を指示し、また、セルジュコフ国防相は2月末までに「軍備更新計画」を作成することを明らかにした。
 
 最近明らかにされた「更新計画」では、新たに配備されるのは、固体ロケット・ラムジェット統合推進システムを装備した「P-800・オーニクス」(NATO名SS-N-26ヤーホント)対艦攻撃ミサイル、そしてSA-15「トールM2」(NATO名「ゴーントリト」)短距離防空ミサイルシステムではないかとされている。
 
 「オーニクス」は、射程距離は目標の手前で降下して低空で突入した場合は約300キロ、低空のみを飛行した場合では120キロであり、対艦攻撃が主任務であるがこの他に地上攻撃も可能とされている。
 
 また「トールM2」は最大探知距離が25キロ。最大で48個の目標を探知し、10個の目標を追尾することができ、飛行機やヘリコプターといった一般的な航空機だけでなく、無人機、巡航ミサイルや誘導爆弾も破壊できるとされている。ちなみに中国軍は2000年にこれを輸入して人民解放軍陸軍に配備している。
 
 さらにマスコミを賑わしているのが、仏海軍が所有する「ミストラル級強襲揚陸艦」の導入である。
 
 兵員900人、ヘリ16機、上陸用舟艇4隻、戦車13両を含む装甲車両70両を輸送する能力を有する当該強襲揚陸艦は、フランス海軍では“指揮・戦力投入艦”として位置づけられており、強襲揚陸作戦や後方支援、災害援助や人道支援までも行うための多目的母艦ともなっている。
 
 2万トンを超える大きな船体は、強襲揚陸作戦においての中核的な指揮能力を保有しながら同時に、単艦でも強襲揚陸作戦を実施できるだけの回転翼機の保有と運用、地上戦闘用車輌の輸送、揚陸艇の保有と運用、陸戦部隊の輸送、医療といった複合的な機能を有している。
 
ロシアが導入を決めたフランス海軍のミストラル級強襲揚陸艦
イメージ 2 ロシアは、この「ミストラル級強襲揚陸艦」を4隻購入し、2隻をバレンツ海に、残る2隻をオホーツク海に配備しようとしている。
 
 こうした北方領土におけるロシアの軍事力強化の狙いは何処にあるのであろうか。筆者は次のように考えている。
 
(1)ロシアに対する日本からの経済的アプローチが強化されることへの期待。
(2)上記を含む日露両国による北方領土共同開発への誘導。
 
(3)かかる意図に日本側が従わない場合には、日本に対し中国と連携した「両面作戦」実施も辞さないとする恫喝。
(4) こうした意図の背景には、日本国政府には軍事的対応は無理であり、また、日本は国家として北方領土の解決は外交手段のみに頼ろうとしているとの判断。
 
(3)活発化する威力偵察
 
 2011年3月11日に東日本大震災が発生し、自衛隊はじめ警察・消防・海上保安庁などがその対応に追われているその時、3月17日、21日、29日の3日間、ロシアの「IL-20」電子情報収集機や「Su-27」戦闘機が日本領空に接近、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した。
 
 ロシア機には日米共同対応を偵察する狙いがあったと見られている。特に29日に接近したロシア機は、電子情報収集機「IL-20」であった。
 
 本機は約5時間にわたり九州沖から北海道西方へと飛行したため、航空自衛隊は日本海側の各基地から緊急発進(スクランブル)を実施し、これに対応した。ロシア機は領空侵犯はしていなかったが、大気中の放射能検査を行うために集塵飛行を行っていたとも考えられている。
 
 また、海上自衛隊などによると、南西諸島の東シナ海の日中中間線付近で3月26日、中国の国家海洋局に所属する海洋調査船の搭載ヘリ「Z-9」が警戒監視中の海上自衛隊の護衛艦「いそゆき」に急接近し、艦艇の周りを一周した。「Z-9」は震災前の3月7日にも、護衛艦への近接飛行を行っていた。
 
 軍事分野に携わる者たちは、こうした露中両国軍の行動を“威力偵察”と定義している。こうした行為を非難することはマスコミの役割ではあるが、軍事専門家の間では当然のこと、常識的な行為と捉えるのである。
 
 当該国が最大規模のオペレーションを実施している時に、さらにどの程度のことができる余力を保持しているかを知ることによって、その軍隊の能力を推し量ることは最も良い機会となるからである。
 
 さはさりながら、今般、我が国が被った大震災時にこのような行動を取る中国・ロシアには、決して気持ち良いものではないと訴えたい。加えて中国とロシアが17日、21日、26日、29日と、まるで両国が連携して威力偵察行為を実施しているような事態となっていることを、我が国は相当な警戒心を持って記憶しておく必要があると考える。
 
 ちなみに航空自衛隊が実施している緊急発進回数は、ロシアがソ連であった1984年に記録された944回がピークであった。
 
 その後、1989年度までは年間800回を超えていたが、1990年代は次第に減少傾向となった。しかしながら2005年からスクランブル回数は再び漸増傾向に入り、2009(平成21)年度は299回に上った。
 
 このうち、ロシア機によるものが197回と約3分の2を占めていた。またごく最近の発表では、2010(平成22)年度は386回であり、このうちロシア機は264回となり、平成21年度と比較して67回も増加している。
 
 この時、日本海から太平洋にかけて長距離飛行をするなど、特異な飛行事例が29件公表されている。また、平成22年6月10日の北海道周辺におけるTU-160爆撃機の飛行については、初めて緊急発進を行った自衛隊の戦闘機からの目視確認と写真撮影が行われたとしている。
 
 こうした緊急発進回数の増加は、間違いなく2009年5月に承認されたロシアの「2020年までのロシア連邦国家安全保障戦略」に基づく“国境警備の強化”策の1つであり、ロシアが健全な国家として立ち直り始めたことを証するものである。
 
 それに引き換え我が国は、「日本国憲法」の前文にあるように、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」したためか、陸・海・空軍はこれを保持しないと忌避され、国家非常事態権限は規定されず、危機管理にかかる法的整備は度外視され、つい最近まで自衛隊には、クーデターの虞があるとして総動員を想定する計画は「大規模災害派遣計画」であってさえ容認されなかった。
 

 そして国家防衛は戦後65年間、主として米軍に依存する体質を決して変えようとしなかった。我が国は現在、重大な岐路に差しかかっているのである。かかる認識をここに提示して、警世の言葉といたしたい。


JBpress.ismedia.jpより引用

 
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