日々の泡

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『意識と本質』より


『僧肇は、中国における仏教発達史の最初期を飾る大思想家だが、
彼の思惟形態は著しく老荘的であって、この文章で彼の描く聖人像も、
老荘的聖人あるいは至人の姿と少しも変わらない。


様々に分節された事物の世界の中に、そうした事物に取り囲まれ、そうした事物に接して生きながら、
しかもそれらの分節の存在中核に、それぞれを一つのものとして凝固させる「本質」を
認めない、というこの聖者的態度は―しかもそれらの分節形態が経験的事実として
彼の目の前に現前している以上―当然、それらはただそういう形で現れているだけで、
本当はないものであり、いわゆる「本質」は虚構であるという考えに導かざるを得ない。
ここに大乗仏教特有の徹底的な本質否定が、本質虚妄説として出現してくる。


『般若経』以来、ナーガルジュナ(龍樹)の中観を通って唯識へと展開する大乗仏教の
存在論の主流の、これが中枢的テーゼをなす空観である。


「本質」などというものは本当はどこにも実在していない。
そのないものが、あたかもあるかのように見えてくる。
言葉が実際に外部に発せられなくとも、ただちょっと心中に揺らめくだけで、
意識は振動し、たちどころに事物の形姿が外界に浮かび上がって、
そこに「本質」の幻影が見える。


内的言語の「本質」喚起的機能に促されて揺らめき動くこのような意識を仏教では
「心念」といい、もっと否定的な形で「妄念」と呼ぶ。


言語と妄念とがぴったり表裏一体をなしたものが、われわれ普通の―「世俗諦」的―経験世界で
あり、そのような世界を無数の「本質」で一杯になった実在界として認知する意識が、
われわれの最初から論じてきた「・・・の意識」の次元、つまり表層意識というものなのである。



大乗仏教の形而上学では、「本質」は徹頭徹尾その実在性を否定される。
もともとこの形而上学は、構造的には空あるいは無を頂点に置くのであるから
一たん経験界で実在性を剥奪され、無化された「本質」は、もう決して有化されるはずがない。
どこまで追っていっても無に出合うしかないのだから。
この形而上学の、少なくとも向上道における「本質」追求は、無に窮極する徹底した
「本質」否定とならざるを得ないのである。


だが、このように「本質」が終始一貫して無であり、ないものであるとすれば、結局この
現実の世界には本当の意味であるといえるものは何一つなくなってしまうわけで、
もしそれでも経験的事実として事物は存在しているというなら、その存在は妄想の所産であり、
世界は夢まぼろしのごときものであるということになるのであろうか。
事実、通俗的仏教ではそんなことを言う。
経典もさかんに現世の儚さを説く。



しかし哲学としての仏教はそう簡単にはそのような結論に行くことはしない。
なぜなら、大乗仏教の形而上的体験における空には、「真空妙有」という表現によって指示される
有的局面があるからだ。



「本質」が実在しなくとも、「本質」という存在凝固点がなくとも、われわれの生きている
現実世界には、またそれなりの実在性がある。
「本質」はないのに、事物はあるのだ。


「本質」の実在性を徹頭徹尾否定しながら、しかも経験的世界についてはいわゆるニヒリズムではなく、
分節された「存在」に、夢とか幻とかいうことでは割りきれない、実在性を認めるのは、
東洋哲学全体の中で、所々に、いろいろな形で現れてくるきわめて特徴的な思惟傾向だが、この東洋的
思惟パターンを、大乗仏教において、特に顕著な姿でわれわれは見出す。



禅も「本質」など絶対に認めない。
「本質」という虚構に頼って、それによって分節し出された存在者の世界は要するに虚構の世界、
妄想に浮かぶ仮象にすぎない。
それなのに、現実の事物にどっしりとした手ごたえがあるとすれば、それはもともと、「本質」を
通した存在分節のほかに、いわばそれと密着して、それとは全く異質の、「本質」ぬきの分節が
生起しているからであるに違いない。


「本質」に依る凝固性の分節ではない、「本質」ぬきの、流動的な存在分節を、われわれ
一人一人が自分で実践的に認証することを禅は要求する。』

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***さん。
お久しぶりです。
そんな風に言っていただいてありがとうございます(^^)
結局私の心に響くことばかりなので、繋がっていくの
かもしれませんね*

2010/5/29(土) 午後 8:29 mie**tro*e


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