LUPOの地球ぶらぶら紀行

地球をこよなく愛する産婦人科女医の多少マニアックな旅行記です

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CBニュースが私の「妊娠の心得11カ条」を記事にしてくださって、思った以上に反響が大きくちょっとビビッています。
11カ条はなるべく多くの方に読んでもらいたいと思って作ったため、あまり長くてもいけない、でも、誤解を与えてもいけないというジレンマがありました。

当ブログでは特に第2条「この男の子供を産むためなら死んでも良いと思えるような男の子供しか妊娠してはいけません」に関して議論をいただきましたが、Yahooニュースの読者コメントに「胎児適応による中絶は母体保護法違反である」という意見が載っていました。母体保護法に関しては、11か条では省いたところだったのですが、大事なことなのでブログで取り上げたいと思います。


皆さんは、自分もしくは自分の奥さんのお腹の中に宿った赤ちゃんが先天的に異常をもった赤ちゃんだと分かったら、どうしようかと考えたことはありますか?

もちろん、先天的な異常と言っても子宮の中で見つかるものは一部で、生まれてからでないと分からないものや2歳・3歳にならないとわからないものだってあります。
また、異常と言っても生まれても生きていけない程の重い奇形から、治療すれば治るもの、治療しても治らないものまでたくさんあります。

産科医として日々診療していると、妊婦さんやその家族から「赤ちゃんに異常はないですか?」と聞かれることがよくあります。指の数まで聞かれるときは、そんなことお腹の中で分かっても意味がないでしょうと諭しますが、自分のお腹の赤ちゃんの健康を気遣うことは親として当たり前の感情ですよね。

でも、中には「異常があるなら中絶したい」とか、「異常がある可能性が高いなら中絶したい(!)」と言う人もいます。

日本には母体保護法という法律があり、妊娠を続けることが身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるものであれば22週未満に限って中絶出来ます。
ここでポイントとなることは、法律上は胎児に異常があると言う理由では中絶出来ないということです。(以前は優生保護法という法律でそれが認められていました)

ところが実際には、母体の健康を害するということが拡大解釈され、胎児適応での中絶が広く行われています。
たとえば無脳児など非常に重い奇形で、妊娠を継続するのは母体に負担がかかるだけと言うような場合には、こちらから説明をして中絶を勧めます。

では、たとえばダウン症など命にはかかわらないけれど治療できない病気の場合はどうか。
ダウン症の子供は、特有の顔をしていてしばしば心臓や腸に病気があり、知恵遅れもありますが、比較的長生きできる人もいて、大学生や社会人になっている人たちもいます。
ただ、手術などの医療費や、福祉にお金がかかるのも事実です。

私がロンドンの病院やイタリアの学会で勉強したところ、イギリスやデンマークでは妊婦全員に説明と同意を得て妊娠初期からスクリーニングを行い、ダウン症の胎児を原則的に中絶しています。その結果生まれてくるダウン症の赤ちゃんは格段に減りました。
賛否両論あると思いますが、その国々ではこのクリアカットな価値観で社会が成り立っているわけです。

イタリアのようなカトリックの国では、中絶に対しては消極的で、スクリーニングすらあまり行われていません。

このように人工妊娠中絶に関する認識は、文化・宗教・価値観など多くの要素が絡んでおり、人間が神でない以上正解はありません。

日本ではどうか。日本では本音と建前の二重構造が成り立つ現母体保護法の下、医療者や妊婦個人ごとに様々な方針が取られています。

法律や判例的には、私たち医療者は出生前診断を行う義務はなく、患者から求められても断ることが出来ます。
でも実際は、致命的な病気や出産の時期を見極めないといけない胎児の状態(発育の悪い子など)を発見するためや、生まれる前に病気を見つけて小児科や小児外科と相談したり患者さんにカウンセリングをしたりするために、おもに超音波による出生前検査が行われています。
超音波検査は産科診療において不可欠なもので、私がロンドンに行って勉強しようと思っているのも超音波検査による出生前検査です。

ところがここへ来て、日本における出生前診断と中絶のあり方について疑問をもち始めました。

高校生のころ(ミッションスクールだったのですが)、授業で先生が「生まれつきの病気を持った人を中絶してしまうと、同じ病気を持った人が傷ついてしまうでしょ」と言ったのが印象的で、産婦人科医になるまではずっとその考えを持っていました。

夏の周産期学会で出生前診断に関するシンポジウムがあったのですが、私と同じように母体保護法の建前と診療の現状の間で戸惑っている先生達がたくさん集まっていましたが、結局結論は出ませんでした。
日本ではこういったことをオープンに話し合う土壌がない。それが必要だとみんな言っていました。

医療者自身に信念があれば「妊娠21週までは、中絶につながる可能性のある出生前診断を目的とした超音波はしない」と言っても合法だそうです。

私個人は原則として、胎児の運命は母親が決めるべきであり、医療者は自分の信条を押し付けるべきではないと思います。

日本の妊婦さん、そしてはこれから親になろうとしている人たちにはぜひ、自分が病気をもった赤ちゃんを授かるかもしれないこと、それを出生前に知るには限界があることを認識して、自分たちの意思で責任を持って赤ちゃんの運命を決め背負ってあげてほしい。

私たち医療者はそのお手伝いをする係ですよね。

で、産まないという選択をした妊婦さんを、その手伝いをした医療者を、ちゃんと法律で守って欲しい。現在は本音と建前の二重構造となっており、関わるものはみな腑に落ちないものを持っているのです。

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