名古屋には、なにか着物に関する産地ってあるのかな?
そんなことを調べ始めて出てきたもの、それが「有松鳴海絞り」だった。
ネット店で絞りの浴衣が気になっていたけれど、これって名古屋の近くだったのね。
どこかに見学させてくれる工房とかあるかな。
そこで、「有松鳴海絞り」をキーワードにして調べてみたのだが、情報がない。
出てくるのは、「有松鳴海絞り会館」のみ。
仕方がないので、偶然に見つけた商工会のHPに問い合わせを入れてみた。
「 見学できる工房はなく、絞り会館で見学ができます。」
あらら?
絞り以外の行程も見てみたいのだけどな。
産地とは言ってもあまり活発な活動はしていないのかな?
いろいろな想像をしつつ、当日を迎えた。
名古屋駅から電車で30分。
の予定だったけれど、気付けば乗った電車が違う方面に向かっている。
あれれ?
どうやら、途中から分岐する電車に乗ってしまったので、乗換えが必要だったらしい。
分岐点まで戻って、結局、1時間以上かかってしまった。
目的地の有松は、小さな下町という印象。
それでも改札を出ると有松めぐりという看板が迎えてくれた。
階段を下りる土産屋が一軒。
お土産屋さんは、あとでね。
古い町並みの残る通りを散歩し、十分思いを募らせたら、絞り会館へ。
入場券を買って、2階に案内される。
階段を上ると小柄なおばあちゃん達が1段高くなった畳敷きに正座をしてなにやら作業をしていた。
「 まずは、ビデオをみてくださいね。」
こんなところまできて、わざわざ資料ビデオを見せられても・・・。
ところが、ビデオが始まると、その行程の大変さに思わず見入ってしまった。
作業が分業化され、それぞれ担当の職人が作業をしている。
なるほどね。
これでは、どこか1箇所で作業工程を見せるわけにいかないよね。
ひとつひとつの作業は、とても単純に見えるけど、その作業量を考えたら、気が遠くなりそう。
この作業を何十年もずっと続けてきた職人さんたちがいるから、今があるのね。
ただただ、感嘆するばかりだった。
「 次は、絞りの実演見学をどうぞ。」
絞りについての勉強が終わったところで、先ほどのおばあちゃんたちのところへ。
おばあちゃんたちは、茶飲み話のように話をしながら、正確な手つきで絞りの作業をしていた。
「 手元見なくても出来ちゃうんだね。」
「 こんなちっちゃい頃から、絞ってたもの。
友達同士でいくつ出来たって競って遊んだりして。このあたりの女性は、みなこれやってた。
でも、あるときからパートの方が稼げるからってみんなやめちゃった・・・。
今の若い人は、こんなしんどい作業やりたがらない。
教えてほしいなんて人が来たって、いい年の人ばかりさ。
教えたって趣味程度で終わっちゃう・・・。
でも、私なんかちょっと頭痛いと思ってもこれ始めちゃえば治っちゃうよ。
パートだったら、この年まで雇ってはくれないけれど、これなら続けられるからね。
この間亡くなったAさんだって、1週間前までここに来て絞ってたさ・・・。
でもどんなに頑張ってやったって、蔵なんか立ちやしないけどね。ははは。」
目の前にいたにこやかな小さなおばあちゃんは、仕事への愛情と誇りに満ちた一人の職人でした。
階段を下りると、お土産屋コーナーへ。
その一角に実演で作業している職人の顔写真と一緒に並べられた浴衣の反物があった。
素敵だけど、当然だけど、やっぱり高価だね。
今回は、無理だけどいつか欲しい。
その一方で、お手ごろ価格で並んでいる山のような反物。
手にしてみると、無表示のものから、「染め 日本、絞り 外国」と表記があるもの、
そして「国産」の表記のものまでさまざま。
外国で手がけているものがこの価格ならわかるけど、国産の表示でこの価格になるのはなぜ?
機械で作業しているのかな?見習い?B反?
疑問を抱えたまま会館を出た。
次は、おばあちゃんに「もう見に行ったか」と聞かれた井桁屋さんへ。
何でも、昔ここのお嫁さんが嫁入りしたときに使った駕籠(かご)が飾られているという。
外観からして立派な木造家屋だが、中に入ると、その歴史をさらに感じさせるような重厚な造りの建物だった。
でも、駕籠が見当たらない。
聞き間違えたかなと思ったそのとき、パートナーが頭上を指差した。
「 あれじゃない。」
どこかの資料館で見たような駕籠が2つ、太い柱や張りにくくりつけられて頭上にぶら下がっている。
そこへちょうどお店の人が出てきた。
「 あぁ、あれは、祖母の嫁入りのときと聞いています。」
小さい町に駕籠に乗って嫁入りする光景なんて、さぞかし、印象的だったでしょうね。
おばあちゃんが今でも気にかかるのもわかる。
目的の駕籠が見られたので、安心して店内の商品に目を向ける。
ここでもやはりお手ごろ価格の浴衣の反物が山になっていた。
ふと先ほどの疑問を思い出し、思いきって聞いてみる。
「 この辺のお手ごろな価格のものは、やはり外国で絞っているものですか?」
「 えっ、あぁ、ここからこちらは、国産ですよ。」
国産?
へぇ。そうなの。
しかし、普通そういう言い方するかな?
どうして、有松産といわないのだろう。
反物の産地について、気になっていたのには理由がある。
実は、情報収集の為の商工会問い合わせの際に、もう一つ質問をしていたのである。
「 地元でなるべく手をかけた浴衣を扱っているところを教えていただけませんか?」
「 全工程有松のものは、絞り会館かネット販売で扱っています。」
ということは、他では買えないということ?
地元で生産したものが買えないということなんてあるのだろうか?
ネット店舗では、確かに絞りは中国で行っていると明記されているものと全工程有松産と明記しているものを
販売している。
「国産」とは、何を意味しているのだろう?
あれこれと考えをめぐらせながら、最初に見かけた土産屋まで戻ってきた。
日も暮れてきたことだし、予定よりも遅くなったから、土産屋は、がまんしよう。
そう思って通り過ぎようとしたのだが、絞りの反物がディスプレイされているのに気付き、
ついつい目が追ってしまった。
「 気になるんでしょ。せっかく来たんだからのぞいておいで。」
パートナーの言葉に押されて、お店に入った。
まさかここに、なぞの答えがあるとは思いもせずに。
実は、このお店の店長さん、有松絞り会館の発起人の一人であり、元館長を勤めていた方。
有松絞り会館のこと、有松の町のこと、有松絞りの今後まで、いろいろな話を聞かせてくれた。
「 あの会館はね。
有松の町のみんなでお金をだしあってつくったんだ。
役所が作ってくれたわけではないんだよ。
残念ながら、有松絞りといってもあまり知名度がないから、市や県には重視されていないんだよ・・・。
町並みもいい雰囲気が残っているでしょ。
電柱を地中化したいという話も出ている。
でも、人それぞれ考え方があってね。
なかなか足並みがそろわない・・・。
今日は、おしゃべりなおばあちゃんがいたでしょ。
あのおばあちゃんは、この絞りの第一人者。
有松絞りは、それぞれの絞りごとに専門の職人がいるんだよ。
でも、あのおばあちゃんたちが第一線の職人だからね。
今、後継者になろうという人もなかなかいない。
今の賃金では生活できないからね。
有松絞りもあと5、10年経ったら・・・。」
そこで、思いきって、疑問をぶつけてみた。
「 ずっと気になっていたのですが、職人さんたちが少ないのに、どうしてこういった手頃な価格の絞り製品が
あるのですか?
必ずしも外国産ではないようですし・・・。」
「 あぁ、この辺のお土産の絞りはね。
京都で作っているんだよ。
鹿の子絞りって知っている?
それを生産しているところに委託してつくってもらっているんだ。
とは言っても、有松には、有松の絞り方というのがあるから、ちゃんと職人が行って、技術指導をしてね。」
そうか!
国産とは、そういうこと。
後継者がいないことに対する一つの解決法ということね。
産地のものが産地で作られないというのは、とても残念なことだけれど、
職として成り立たない以上、やむを得ないのかもしれない。
お店を出てきたときは、絞りへの魅力が胸いっぱいになっていました。
おばあちゃん、店長さん、貴重なお話、本当にありがとう。
今の職人さんたちが元気なうちに、頑張って、有松絞りを手にしたいと思います。
*** おまけ ***
・ 有松の町は、観光施設や土産屋は、あまりありません。
なんとなく観光気分でいくと物足りないと思います。
でも、古い町並みが残っていますので、写真撮影は、楽しいですよ。
町の人たちとおしゃべりを楽しめるかどうかがポイントです。
・ ランチョンマットに、伝統工芸マークがついているものがありました。
つまり、これが産地物ということになるのでしょうね。
*** おすすめ ***
・ 有松絞り会館 HP http://www.shibori-kaikan.com/
有松の町で作ったという観光施設。
日替わりでいろいろな絞りの実演を行っています。
予約制で、体験教室もあるそうです。
・ 絞りのやませい
有松駅の階段を下りてすぐにあります。
浴衣やお土産を作ったあとのはぎれや普通の布地幅の絞り生地が必要な長さで購入できたりと
他にはないものを扱っています。
店長さんは、詳しい有松絞りに詳しいので、ぜひいろいろおしゃべりをしてみてください。
より有松絞りに魅力を感じられますよ。
・ 地域ホームページ有松 http://www.accommo.co.jp/arimatsu/
・ 有松マップ http://www.accommo.co.jp/arimatsu/tabi-map.php
いつの間にかこんないいマップが載っていました。
行く前に見つけていたらな。
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