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THE WIND FROM TERRANORA
オーストラリアのTweed Coastからの便り

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誰にでも、忘れられない...いや、忘れたくない想い出っていうものがあるものさ。木枯らしの吹く寒い夜には、そんな想い出に包まれて、温まるのも悪くはないものだよ。いらっしゃい、ここは『思ひ出食堂』、温まっていきな。

マスター、親子丼できる?

おっ、きょうこちゃん、久しぶりだねぇ。ちっと待ってな、すぐ作るから。


きょうこちゃんはうちの馴染みの客で、月に一回くらいの割合でやってくるんだ。落ち着いた子でね、姉御肌の良い子なんだよ。注文はいつも親子丼、半熟の卵が嫌いで、かちかちに煮込んだのが彼女の親子丼さ


おまちどうさん、きょうこちゃん、かちかちに煮込んだ親子丼。

イメージ 1

ありがとうマスター、注文してからきっかり10分、さすがねぇ〜


親子丼はさ、典型的なインスタント料理だと思うよ。食材を切って、鍋で出汁と一緒に煮込んで、溶き卵を流し込んで、蒸らして、それだけだからなぁ...便利な料理だよ。


便利な料理ねぇ...(しんみり)

あれ、きょうこちゃん...今日はいつもと違ってしんみりしちゃって、どうしたんだい?


なんで判るの?


なんでって...なんかいつもと違うからさ。

マスターはさ、いつもそうやって深読みするんだよねぇ...本当に何でもないのに...


そう?それならいいんだけれどもねぇ。


ねぇ、マスター、私って、便利なオンナ?


なんだい、急に...


ううん、なんでもないの。気にしないで。

そう?それならいいんだけれどもね...いったい、どうしちゃったんだい?

気にしないでっ!て言ってるでしょ!
(怒)

今日はやけに絡むねぇ、きょうこちゃん...


もういい!マスターのろくでなし!(涙)

...

オンナってのは面倒くさいねぇきょうこちゃん。うまい親子丼食べて、忘れちまいな、月一のことなんてさ。
誰にでも、忘れられない...いや、忘れたくない想い出っていうものがあるものさ。
木枯らしの吹く寒い夜には、そんな想い出に包まれて、温まるのも悪くはないものだよ。
いらっしゃい、ここは『思ひ出食堂』、温まっていきな。

どか雪が降ったその日、終電を逃してやってきたのがやすこちゃん、丸顔の笑顔がとっても可愛い子なんだよ

参ったなぁ〜、終電逃しちゃったぁ。マスター、始発まで付き合ってくれない?

それはいいけどもさ、とりあえず身体を暖めるかい?


うん、お願い、雪の中、すっかり身体が冷えてしまったわ。身体の温まるもの、お願いできる?

あいよ!

イメージ 1

おまちどうさま、ぴりから鉄板焼きだよ。

すご〜いマスター!いただきま〜す!

でも、やっちゃん、今日はなんで終電を逃してしまったんだい?雪は昼過ぎから降っていたし、今晩はどか雪になるって盛んにTVでも言っていじゃないか。

うん...そうなんだけれどもね...実は今晩、デートの約束をしていたの。でもね...彼とはいつもボタンの掛け違いなのよね...私ね...彼は私のこと、本気で好きではないんじゃないかなぁ...なんて思うのよね。

なんでそう思うんだい?


うん...彼は私のこと、妹みたいに扱うの...不満じゃないんだけれども、子ども扱いされているみたいで...でもね、私を妹扱いするくせに、彼を弟扱いすると、すぐにふてくされるの。まぁ、ふてくされても、可愛いもんだけれどもね、アハハ...


やっちゃん、鉄板焼きはさ、あつあつの時は美味しいんだけれども、冷めれば、普通のお皿と一緒だろ。熱くても、冷たくても、美味しい料理を出せるお皿って、滅多に無いものさ。彼の器は、どんな器なんだろうな...でもさ、やっちゃん、結局、器を選ぶのはシェフなんだよ。やっちゃん、上手に器を選んでごらん。

マスター...


やっちゃんは将来、笑いの絶えない家庭を持つことができるさ。
俺が保証するよ。
誰にでも、忘れられない...いや、忘れたくない想い出っていうものがあるものさ。木枯らしの吹く寒い夜には、そんな想い出に包まれて、温まるのも悪くはないものだよ。いらっしゃい、ここは『思ひ出食堂』、温まっていきな。

うちはしがない食堂だから、魚料理は滅多に出せないんだけれども、たまにうまい魚が手に入ることがあるんだ。そんな時に限ってやってくるのがさっちゃん、学生時代、バレーボール部に所属していただけあって、とってもスマートな娘さんさ。

こんばんは、マスター。

おっ、さっちゃん、久しぶりだねぇ。


うん、一年振りかなぁ...よく私のこと、覚えていてくれたわねぇ。

もちろんだよ、さっちゃん。
実はな、今日、うまそうなマグロの赤身が手に入ったんだ。
さっちゃんに食べさせてあげたいなぁ、って思っていたところなんだよ。


本当?マスター?

鉄火丼にするから、ちょっと待ってな。


ありがとう、マスター!

おまちどうさん、さっちゃん、マグロの赤味をたっぷり使った鉄火丼だよ。

イメージ 1

わぁ〜、美味しそう、マスター!
いただきます。

おいしぃ...(涙)


うつむきながら鉄火丼を食べるさっちゃんの瞳から、ほろほろと涙が溢れてきたんだ。

どうしたんだい、さっちゃん...

あのね、マスター..
私、「重いオンナ」なんだって...
デート先の鎌倉の駅前でそう言われちゃったの。
私の何処が重いんだろう...
私はただきちんとしたお付き合いがしたかっただけなのに...(涙)


あのな、さっちゃん、重いだの、軽いだのって、漬物石じゃないんだからさぁ。
悪いけど、さっちゃんの想いを重いなんて言っている奴はろくなもんじゃねぇ。
さっちゃんが重いわけじゃなんだよ、奴が軽いだけの話しさ。

そうだけども...


ほらほら、そうやってくよくよくするから「重いオンナ」なんて言われちまうのさ。
さっ、うまい鉄火丼を喰って元気出しな。


マスター...ありがとう...(涙)


さっちゃんの情熱はいつも鉄火丼のように赤く燃えているんだよな。
それが良いという奴が必ず現れるさ。


誰にでも、忘れられない...いや、忘れたくない想い出っていうものがあるものさ。木枯らしの吹く寒い夜には、そんな想い出に包まれて、温まるのも悪くはないものだよ。いらっしゃい、ここは『思ひ出食堂』、温まっていきな。

こんばんは、マスター、お久しぶり。

よっ、由貴ちゃん、一ヶ月ぶりかな...元気だったかい?


うん...


あれっ、元気がないねぇ、どうしたんだい?


いいの、いいの、マスター、それより、いつもの、お願いね。


あいよ!


月に一度くらいの割合でひょっこり現れる由貴ちゃんなんだけれども、前回より少し痩せたかな。太っているってわけではないんだけれども、骨太の体型だから、丸っこく見えてしまうんだよな。


おまちどうさん、いつものオムライスだよ。
イメージ 1

ありがとう、マスター。
マスターのオムライスって無骨な見た目に対して、
とっても優しい味付けなのよねぇ...
このギャップがたまらないわ。

いっただきま〜す。


どうだい、美味いかい?


うん、すっごく美味しぃ〜。


どうしたんだい、由貴ちゃん、彼と喧嘩でもしちゃったのかい?


ううん、そうじゃないの...彼ね、本当にお買い物が嫌いみたいなの...


でも、大抵オトコってもんは買い物が苦手なんだぜ、由貴ちゃん。


うん、それは判っているわ...
でもね、何も丸々一日お買い物に付き合ってと言っている訳ではないのよ。
ほんの半日なの、半日!それなのに、お昼過ぎには機嫌が悪くなってしまって...
『俺は2時間以上買い物はできない!』って宣言されてしまったのよ。
何が2時間よ...ばかじゃないの...ウルトラマンじゃあるまいし...
勝手に時間制限を決めないで欲しいわ。


まぁ、そう怒るなよ、由貴ちゃん。彼は優しいオトコなんだろ。


うん、買い物以外は、本当に文句の付け所はないのよねぇ...
料理も上手だし、優しいし...


なぁ、由貴ちゃん、誰にでも欠点とか、合わない部分とかがあるものさ。
みてごらんよこのオムライス、端が破れちゃっているけれどもさ、
味は変わらないだろう。
それにたった今、見た目と中身のギャップが好きだと言っていたじゃないか。
オトコは中身で勝負っていうけれどもさ、全体をみてやってくれよ、由貴ちゃん。


あ〜あ、マスター...
マスターも結局オンナゴコロのわからない無骨なオトコの一人なのよねぇ...
まったく、こんなに美味しいオムライスを作るのに、繊細さが全くないのね...
私のまわりにはこんなオトコばかりだわ!
あ〜、いやだ、いやだ。でも、オムライスは美味しいわよ。


(苦笑)

ふてくされた由貴ちゃんも可愛いってもんだぜ。
誰にでも、忘れられない...いや、忘れたくない想い出っていうものがあるものさ。
木枯らしの吹く寒い夜には、そんな想い出に包まれて、温まるのも悪くはないものだよ。
いらっしゃい、ここは『思ひ出食堂』、温まっていきな。

あ〜、寒い、寒い、今晩は今年一番の冷え込みね...
こんばんは、マスター!

おっ、由美ちゃん、久しぶりだねぇ。

うん、
マスター、いつもの、できる?

あいよ、由美ちゃん。

由美ちゃんは、「けなげ」という言葉がぴったりの、今時珍しい、「尽くしい」の娘だ。
尽くすのは良いんだけれども、自分を犠牲にしてしまうから、いつも泣いてばかりなんだ。


由美ちゃん、おまちどう、今晩はしらたき入りだよ。
イメージ 1

わ〜、すき焼きみたいね(笑)。
私ね、マスターの牛丼大好きなんだ。
いつも、いつも、お肉と一緒に何か入れてくれるんだよね。
この前はさやえんどうだったよね。
タケノコだったり、スイートコーンだったり、しいたけだったり...
にらとの相性も良かったわ。
いつも、いつも驚かされるのだけれども、どんなものが入っていても、
牛肉との相性はぴったりなのよねぇ。

由美ちゃん、不味い牛丼って食べたことが無いだろう。
牛丼ってな、牛肉とたまねぎと、出汁と醤油と酒と砂糖さえあれば、
誰にでもできるもんさ。

それにな、どんな副材を入れても合っちまうんだよ、この牛丼は。

誰にでも、受けるかぁ...
言い換えれば、個性がないということなのかな...

おいおい、由美ちゃん、どうしちゃたんだい、しんみりして?

うん、マスター...
実は私ね...「つまらない女」って、彼に言われちゃったの。
彼、一体、私の何を望んでいるんだろう...
どうしたら、彼を喜ばせてあげられるのかな...

やめちまえよ、由美ちゃん。

えっ?

つまらねぇ、なんて言っているオトコが一番つまらねぇんだよ。
つまるかつまらないかは、二人で決めるもんさ。
それが相性ってもんじゃないかな...
相性の悪い奴は、いつまでたっても相性が悪いんだよ。
努力して良くなるもんでもないんじゃないかな。

でも...

今の由美ちゃんはな、この牛丼の牛肉なんだよ。
牛丼の牛肉はどんな副材とも相性が良いけれども、
副材は、他のどんな食材と相性が良いというわけではないだろう。
由美ちゃん、由美ちゃんにも選ぶ権利があるんだよ。
そこんとこ、忘れるなよ。

マスター...(涙)

そうやっていつも泣いてばかりだから、
自分の相性ってもんが判らないのさ、由美ちゃん。

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