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子供の頃、異界が隣にあった。 鬼も竜宮も妖怪も……。 全て俺の身近にあった。 それが特殊な事だとは思っていなかった。 それが普通だと思っていた。 異界に思いを馳せるのは得意で、夢の中で会うのも簡単に出来た。 俺は夢の中でも現実でも、彼らと遊んで遊んで遊び倒してみんなで大笑いした。 一緒に遊んでいるうちはいいが、たまにいじめられた。 理由はいつも同じだ。 俺が人間だから。 それだけだというのに、俺はのけ者になる。 仲間はずれが悲しくて、いつも泣きながら父親のもとへ走る。 そして、俺は一番に言うのだ。 「ミンナ、キライ」 泣きながら訴える。 そんな時、父親は俺の頭を撫でてから決まってこう言うのだ。 「誠四朗(せいしろう)、かれらはお前のことが嫌いなわけじゃないんだよ。本当の意味で好きなんだよ」 「ジャア、ドウシテイジメルノ?」 「それはね、お前には帰るべき場所があるからだ。それを見失ってしまうと、お前が帰れなくなってしま うから。それを心配して、冷たいことをいうんだよ」 「ヨクワカラナイヨ?」 俺が首を傾げると、父親は少しだけ悩んでからいいなおしてくれた。 「かれらはお前の友達だ。友達は怖くない。そうだろ?」 今度は解ったから、俺はコクリと頷いた。 すると父親は嬉しそうな顔をして、俺の頭を撫でてくれた。 父親の言葉を信じて、俺は友達として付き合っていた。 それでも……俺はたまにいじめられた。 しかし、それが頻繁になったのは……四歳の時だ。 小さな俺はいつも父親の仕事に連れていってもらった。 八月には、南の小さな島へ。 そこで滞在するようになってから、彼らは早く帰れと俺を急き立てた。 いつものように泣きながら、親父の部屋へ走っていくと、そこには客人がいた。 とても綺麗な女の人だった。 赤く燃えるような髪が似合う、勇ましい女の人だった。 しかし、目が合い微笑まれた瞬間、俺はこの人が人間じゃないことに気付いた。 そのことを父親で訴えようとした。 だが、出来なかった。 泣き顔の俺の頭を、女の人が撫でてくれたから。 「彼らは君の味方だ。だから、もっと信じてあげなさい。そうすることで、君は幸せになれる。そのため の手伝いもしてくれる。君にとって頼もしい仲間だ」 「ソレデモ、コワイ」 「今はそうかもしれない。だが、君なら大丈夫、その資格がある。それに……この世で一番残酷なのは人 間だよ」 女の人は、最後に「いいね」と、優しい言葉で締めくくってくれた。 南の小島で無意味な事件が起きた。 自分達の理想論を世界にしらしめるためだけに、事件を起こした彼らは……。 島にいる人間、全てを殺した。 無差別に。 命を請う者も容赦なく。 自分達の命さえ、躊躇いなく消してしまった。 俺と父親も、殺された。 はずだった……。 でも、俺は生き残っていた。 累々とどこまでも続く、屍の真ん中で俺は冷たくなってしまった父親の手を握り締めたまま空を見上げ ていたそうだ。 島の外からやってきた大国の軍の兵士が俺を保護してくれたそうだ。 俺は、そのとき彼らに願ったそうだ。 「チチオヤノトコロヘツレテイッテ」 あの時の記憶が、俺にはほとんどない。 屍の真ん中に三日三晩一人でいたことや、空を見上げていたことや、願いを口にしたことさえ残ってい ない。 そればかりか、俺は……もっと大切なことを忘れている気がするのだ。 それが何なのか? 未だ思い出せずにいる。
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ナゼ、シナナカッタノカ。
その理由を真に理解したとき、誠四朗の本当の運命が始まる。
2010/3/21(日) 午後 9:57 [ イカダ ]
〈イカダさん〉ありがとうございます。その理由は、はい、ちゃんと登場します。あと少し、先となりますが、最後までお付き合いください。
2010/3/23(火) 午後 5:16 [ 三日月 ]