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「うはっ!?」 健に名前を呼ばれて、ドキッとした。 そのまま、健に顔を向けて二度びっくりだ。 どこかよそよそしかった健が、なぜかキラキラ輝く瞳で僕とチケットを交互に見ていたのだ。 その動きの速さに、訳のわからない僕のドキドキは止まらない。 「な、なに? これってそんなに珍しいものなの? 役に立たないチケットだよ?」 「ゆ、遊真、これ、どうしたの!?」 再びため口になった健は、それだけでは物足りないのか僕に迫ってきたのだ。 これって、そんなにすごいものなの? 亮ちゃんママは、美味しいごはんが食べられる魔法の紙ってしか言ってなかったよ? 「はい」 とりあえず、迫ってきている健にチケットを手渡した。 そうすることで、僕と健の距離が少しは正常化した。 手にあるチケットを、何か宝物を見るかのような健を見ながら僕はホッと息を吐く。 「ねぇ、遊真。これ、どうしたの?」 健はチケット見つめたまま、同じことを聞いてきた。 おんなじ質問に、今度はちゃんと答えることにした。 「もらったんだよ」 「本当に!! すごい、すごい!」 何がそんなに嬉しいのか、チケットを大切そうに抱きしめた健が子ウサギのようにピョンピョン跳ねま くっている。 「そんなにすごいのかなぁ〜」 「もちろん! このチケットを持っているの、きっと中等部だと遊真だけだよ」 「ふ〜ん。でも、食堂に入れないなら、僕にはただのごみだよ」 「ゴミじゃないよ!」 「ふ〜ん。じゃあ、それ、健にあげるよ。いつか、そんな先輩が出来て一緒に行きなよ。見たところ期 限ってないみたいだから」 「えっ!? でも……遊真だって、いつか」 「いいから、いいから、もらってよ。それより、お昼ごはんどうしよう? お目当ての学食がダメだとす ると……購買でパンを買うしかないな〜。でも、もう、時間がかなりすぎちゃったし、まだあるかな〜」 これからの対策を考えている僕に、テンション高めの健が追い打ちをかけてきた。 「ねぇ、遊真。こうばいって、なに?」 「何って、そんなの決まっているだろ? 購買っていうのは、文具とか体育着とか学校に必要なものが 売っていて、お昼になるとパン屋の業者さんが、低価格だけど美味しいパンを売りに来るんだよ。コロッ ケパンや、ハムカツサンドや、メロンパンや、売っているけど、僕は焼きそばパンが一番す……き?」 そこまで説明して、僕はハッとした! ゆっくりと健へ顔を向け、キラキラ輝く彼の顔を見てすべてを悟った。 悟ったうえで、聞いてみた。 「ねぇ、ここって、購買は?」 「ないよ。遊真の通っていた学校は、面白いね」 ああ〜、やっぱり。そう来たか。 「面白い……かな? あははは」 「くすくすくす」 「あはは…、じゃない! ねぇ、健たちは、何かほしいものがあったらどうするの? 急にのりがなく なったとか、ノートや、シャー芯とか、買わなくちゃいけなかったらどうするの?」 「えっとね、実家に電話をすれば、その日のうちに届くよ」 健は、当たり前じゃないことを当たり前のように口にしてニコニコしている。 アマゾンじゃないんだから、当日お届けって、なに? 「あとは、日曜日に学校専属の業者さんが来てくれるのもあるよ」 ……。ありがとう、健。絶対に役に立たない情報だよ。 それよりなによりだ。 午後からのエネルギー源確保が絶望的になったというのに、目の前で何もかもにキラキラしている健の 姿が少しだけ気に入らない。 ぶぅと膨れてみたが、あと一つだけ望みを見つけた。 「学食に入れないのはしょうがないにして、入れない生徒はどうしているの?」 「入れない?」 「そう、初等部や中等部の生徒だよ」 「みんな、前日に寮に申請を出すんだ。朝食の時までに、寮専属のシェフが用意してくれんだ」 健は答えてくれた。 すっきり、はっきり、気持ちいいほど間に何も挟むことなどできない、素晴らしい答えだった。 絶望的だ。 僕は、もうお昼ご飯を食べられないのだ。 (専属シェフって何? まったく、お金持ちの考えることなんてわかんない! できることなら、滅んで しまえ!) どうにもならない苛立ちを、心の中で呪いとして吐き出していると、 「遊真、遊真」 さっきとはまるで違う十割増しの元気な声が、僕の名前を呼んでいる。 健だってことは、わかっているのに…… 「なに! 僕は今、超忙しくて、おなかが空いてて、腹が立っているの!」 振り向きざま、健を睨んでしまった。 「ご、ごめんなさい」 明るかった健が、シュンと小さくなってしまった。 いくらおなかが空いていたからといって、健を怒るのは間違っている。 健がこうなってしまうのはわかっていたのに、僕は止めることができなかった。 八つ当たりもいいとこだ。 僕は最低なやつだ。 唇を噛みしめて、僕は健の前に立った。 何度か深呼吸をして、健に頭を下げたのだ。 「ごめん! 本当にごめん! 健が悪いわけじゃないのに、僕がイライラしていて、健に八つ当たりをし たんだ。本当に、ごめん」 「遊真が謝らないで。僕は、のろまだし、空気は読めないし、機転は利かないから、一番困っている大切 な遊真の力になれないんだ。ごめん、本当にごめなさい。僕はサポーター失格だよね。他の子に変えても らうように、お願い…」 「ちょ、ちょっと待った! どうして、そんなに話が飛躍するのさ!」 「えっ? だって……、役に立たない子は、そういうものだから」 瞳を涙で潤ませて、 震える声を必死に絞り出している健が、なんだかおかしかった。 かと言って、笑うわけにもいかないので、僕は健の頭を優しくポンポンと叩いた。 いつも亮ちゃんが僕にしてくれていた元気の出る魔法を、健にも分けてあげる。 今日、初めて会った男の子なのに、僕は僕の大切な行為を分けてあげた。 十全君の時は、そんなこと全然まったく分けてあげたいなんておもわなかったけど、健には悩まず分け てあげることができた。 僕を知ってもらいたいと思った。 ……ううん、違う。 僕は、僕は、 健が抱えているもの先端をちらりと聞いてしまった時から、たぶん守ってあげたと思っていた。 でも、それが、今、確定した。 健は僕が守ってあげるのだ。 ここにいる間だけ。 短い期間だけど、僕は命に代えて健を守るのだ。 お姉ちゃんの代わりじゃない。 同情じゃない。 同類意識じゃない。 純粋に、この少年を泣かせたくなかったのだ。 決意を固め、かっこよく決めたとたん、僕のおなかが鳴ったのだ。
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小さなピンチが一つまた一つ。でもその度に友情が一つ、もう一つ。
遊真くんに機転さえあれば、あとはなんでも解決。
でもここはとりあえず、健くんの機転のほどを拝見?
2016/5/8(日) 午後 7:43 [ イカダ ]
<イカダさん>ありがとうございます。一つ一つを二人で解決できたら、最高の相棒になれると思います。男の子の友情は、三日月の大好きな内容であります。
そうですね、健はサポーターなので頑張ってもらいます。
2016/5/22(日) 午後 5:18 [ 三日月 ]