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健が連れてきてくれたのは、中等部の教室棟。 三階のちょうど真ん中辺り。 地図には、確かオープンスペースだよね。 何かをするための空間だけあって、結構の広さがある。 教室三個分くらいだったはずだ。 その空間は、現在、真っ白なテーブルクロスの敷かれたテーブル、その上には、バラの一輪挿し、ナイ スなデザインの椅子がセッティングされたおしゃれカフェになっていた。 窓を飾るレースのカーテンは、太陽光でキラキラ輝いていた おしゃれカフェは、今、現在中等部の生徒であふれていた。 みんな手に手、お弁当を抱えているから、今からお昼を召し上がるということだ。 僕は窓際の一角のテーブル席に座っている。 もちろん、健が座らせてくれたのだけど、本人は忘れ物を教室にしたとかで、飛び出したまま戻ってこ ない。 「どうしたのかな? まさか! 途中で倒れているとか!?」 健の心配をしていると、視線をバリバリと感じた。 振り返ると、オープンスペースにいる生徒たちが僕を見ていた。 しっかり、ガッツリでなく、チラチラとなんだけど……。 男の子なのに、なんでそんなに恥じらっているのか解んない。 しかも、僕を見てから、隣の子とひそひそ何か言い合って、嬉しそうに微笑んでいる。 (……) なんか、気分悪いな〜。 健、早く帰ってこないかな〜 顔見たら、そのままここから脱出だ! 「機嫌、悪そうだね。でも、みんな、遊真君の機嫌を損ねるつもりはないんだよ」 不服で頬を膨らませている僕に声をかけてきたのは、ここでの初めての友達だ。 「十全君!」 「やぁ、遊真君」 数時間ぶりに合う友達は、相変わらず爽やかで好感度100%だ。 そんな彼に、僕は再会を喜ぶ前に保健室の前に置き去りにしたことを謝らなくてはいけない。 「あの、」 「すまない、遊真君。私は、君にとんでもないことをしてしまった」 「へっ?」 十全君の謝罪に、僕は思い切り戸惑った。 それはそうだ。 悪いのは十全君じゃなくて、置き去りにしてしまった僕だ。 いろんな不測の事態が起こっていようと、置き去りは事実なのだ。 「どうして、十全君が謝るの?」 疑問をストレートにぶつける。 十全君に、遠回しな言い方は失礼だと思ったからだ。 「保健室の前で、君のことをずっと待っていると約束したのに、破ってしまったからだよ。きっと、君は 僕がいなかったことに驚き、探し回ってくれた……っというのは、私の自意識過剰な想像だね。しかし、 現実問題、私は君との約束をたやすく破ってしまった。友達なのに、本当にすまない。破ってしまった言 い訳はできない、するべきない。こんな私だが、まだ友達でいてくれるかい?」 十全君は、とてもさみしそうな顔をした。 初めて見たときと同じ、世界から消えてしまいそうな雰囲気だった。 十全君には、そんな顔は似合わない。 いつも、穏やかな笑顔を浮かべていて欲しい。 それに、悪いの僕だって一緒だ。 こんなに優しい十全君が心を痛めいることを知らずに、僕は健のぶっ倒れるという非常事態に必死だっ た。 その間、僕は十全君のことを、これっぽちも思い出さずにしたのだ。 十全君に声をかけられるまで、きれいさっぱり忘れていたのだ。 どんな理由で僕を待つことができなかったか、そんな言い訳なんていらない。 どうでもいい。 ただ、この優しい友達の願いを僕はどんなことがあっても無視してはいけないのだ。 「十全君、本当にごめんなさい。謝るのは僕のほうだ。僕は怒ってない。むしろ、十全君には、たくさん 感謝をしているんだ。だから、そんなことを言わないで、そんな顔をしてないで、心を痛めないで。僕に とって、十全君は大切な友達だよ」 僕の言葉は、十全君にちゃんと伝わっただろうか? 椅子から立ち上がり、腰が折り曲がるくらいのお辞儀をする。 「遊真君、頭をあげてくれないか」 十全君に言われて、僕はそろそろと頭を上げた。 その視線の先には、十全君の顔……赤い瞳があった。 僕と目が合うと、十全君は少年のように微笑んだ。 十全君は実際男の子なんだから、その言い方は間違っている。 だけど、僕には正しい表現に思えてならなかった。 そんな十全君が、微笑んだまま口を開く。 「よかったよ。早めに遊真君に謝ることができて」 「十全君?」 「遊真君に謝れて本当によかった。ここに、君がいてくれて本当に嬉しかったよ。そうだ、私は今からク ラスの子たちと昼食にするのだけれど、一緒にどうかな?」 「十全君からの素敵にお誘いだけど、今日はごめんね。健を待っているんだ」 「そうなんだね。大和君とするんだね。じゃあ、また誘ってもいいかな?」 「もちろん、その時は絶対に一緒に食べようね」 十全君に誘われた。 だから、僕はその誘いを受けても悪くはないはずだ。 健が戻ってきたら、十全君たちの輪に入れてもらえばいい。 そのはずなんだけど……僕は何故か十全君の誘いを素直に受けることができなかった。 まして、その誘いに健を入れることができなかった。 理由は解んないけど、僕の心の奥が感じるのだ。 十全君と軽く挨拶を交わし見送った。 それと入れ替わるように、健が姿を現した。 「遊真! 待たせてごめんね」 可愛いパンダ柄の包み袋に入った四角いなにかを両手で抱え、満開の桜のような笑顔で近付いてくる。 途中で具合が悪くなっているんじゃないかっていう心配を吹き飛ばすくらいのキラキラ笑顔を見られ て、僕は内心ホッとした。 「遅いよ、健」 「ごめんね。でも、これでも全力なんだ」 (!?) 健とたわいもない会話の途中で、僕は強い視線を感じた。 お姉ちゃんを守る時に感じる、あの敵意に似ていた。 振り返り、辺りを見回す。 でも、その出所を特定することが出来なかった。 なぜなら、オープンスペースにいる生徒の目がほとんど僕と健に向けられていたし、強い視線はなく なってしまっていたから。 そうなってしまうと、僕でもどうにもできない。 僕は、小さく頭を振ったのだ。
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強烈な視線の正体は。いよいよ学園に潜む謎が近づいてきた?
2016/5/22(日) 午後 9:23 [ イカダ ]