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ココロに刺された心臓の辺りの傷は綺麗になくなっている。 「回収できないのでは、どうするんですか? 奴みたいに箱を狙う奴が現われたらどうするんですか?」 「うーん、それはそうなんですけどね。回収できないから、仕方ないじゃないですか。まあ、回収方法を 見つけ出すまで、そのまま暮していてください。それなりに危険が付きまとうと思いますので零式をお付 けしておきますよ」 「つまりそれはどういうことなんですか?」 「期間限定無料でお付けします」 そういって『標屋』は、ノー天気にニコニコと笑ったのだ。 よく笑う人だ。 最後まで笑っていた。 「では、私は他にも仕事がありますので、ぶっちゃけ、帰っていただけますか?」 邪魔という理由だけで、俺とココロは追い出されてしまった。 「来栖誠四朗」 『標屋』から追い出されてから数日が経った。 今のところ何事も無く、俺は平和に暮らしている。 旅行から帰ってきた両親は、相変わらずマイペースに俺とココロを翻弄してくれている。 (しかし、奇妙なお面が一番困りものだな) 母親が現地人に勧められて買った魔除けのお守りは、見ているだけで呪われそうなグロテスクな表情を していた。 目を背けたくなるような魔除けのお面は、現在俺の部屋の壁で呪いを発している(かもしれない)。 「おい、来栖誠四朗」 「なんだ?」 「早くしなければ、おせっかい女がうるさい」 「おせっかいって……アカリは親切ないい奴だ。まあ、多少うるさいのは認めるけど、そんなに嫌うこと ないんじゃないのか?」 呑気に言ったのが悪かったのか、俺はココロに睨まれた。 「貴様は私にあのような辱めをまた受けろというのか? あのような衣装は、破廉恥以外なにものでもな い!!」 「破廉恥……っておい、いつの時代の話だよ」 俺はガックリと肩を落とした。 現在、俺たちは肩を並べて歩いていた。 この間の歓迎会が楽しく過ごせなかったそうで、アカリの指令でやり直したとなったそうだ。 俺的にはアカリは十分楽しんでいたような気がするのだが、本人に言わせるとそうではないらしい。 俺とココロは強制参加で、日曜日だというのに学校に向かっている。 スバルはまだ完治していなが、アカリによって参加が義務付けられているそうだ。 きっとスバルのことで、病院を向けだしこっそりやってくるだろう。 病院といえば、奴がいた病院はあの戦いで使い物にならなくなってしまったそうだ。 表向きは老朽化ということになっているが『標屋』が何かをしたのだろう。 魂を掴み、人の記憶を簡単に書き換えることが出来るのだ。 事件を事故に書き換えるのはお手の物だろう。 そんなに簡単に出来るなら、あの警備員の記憶も書き換えて欲しいものだ。 急に思い出し、俺はゲンナリしてきた。 「誠四朗、何を考えている。早くしろ、早くしなければ、貴様もあの服を着ろ」 気付けば、ココロは俺の前を歩いていた。 スタスタと前を歩いていく背中に、大声で問い掛けた。 「冗談だよな?」 「私は冗談を言わない」 ココロが立ち止まり、こちらを向いてキッパリ言うと再び歩き出した。 その顔があまりに真面目だったので、俺は慌ててココロを追いかけたのだ。 終
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機械少年と死神少女
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「簡単に言いますと、私は君の母親を追ってこの世界にやってきた裏切り者です」 『標屋』はそういって、何故か嬉しそうに笑ったのだ。 地図屋は表向きの職業。 本来は俺の中に入っている箱の回収と、俺の母親がこの世界に蒔いてしまった不可能名な科学の破壊が 彼の仕事だそうだ。 一人ではとても出来ないので、奴に殺され魂を掴めた人間を彼作った人形に入れて仕事を手伝わせた り、奴が作り出したものを抹殺したりと……まあ細々と色々仕事があるそうだ。 全てが終了したら、『標屋』をたたんで自分の世界に帰るつもりだったそうだ。 この説明をしてくれたのは、『標屋』の店内だ。 俺は今、『標屋』にいる。 『標屋』は、隣町にある地図屋で、住宅街の一画ある。 住宅街にあるといっても、迷うことなく見つかる。 『標屋』のいうには、「住宅街に突然現われる植物園のような植物の密集地なんですよ」だそうだ。 気を失っている間に運ばれたので知らないが、ココロもコクンと頷いたから本当なのだろう。 『標屋』の中は、どこもかしこも本棚でいっぱいだ。 それが全て地図だというから驚きだ。 他の部屋には立体型の地図や、映像の地図もあるそうだが、それはみせてもらえなかった。 客間として使っているという小さな部屋で、俺は『標屋』の話を聞いている。 倒れてからのことというより、これからの俺のことらしいのだ。 しかし、開口一番、「裏切り者です」なんていう告白をあっさりするものだから少々拍子抜けだ。 にやけた口元を、ますます笑みを強くしている彼の隣には、無表情のココロが控えている。 真偽を確かめるためココロを見るが、役に立たなかった。 ココロに殺されたと思った俺が生きているのは、『標屋』が救ってくれたからだと思った。 気を失う直前、この人の声を聞いたからだ。 でも、『標屋』が言うには少し様子がちがうらしい。 「君の中の箱を回収し、ついでに君の魂を掴み私の傀儡(ドール)にしてこき使っちゃおうと思ったので す。でもですね、取れないんですよ」 「えっ?」 「つまり回収できないんですよ。回収をしようと傷口に手をふれたのですけどね、あっというまに塞がっ てしまったのですよ。その上、箱が機能しているため魂も掴めません……」 「『標屋』がトロトロしているからだ。さっさと掴めばよかった」 ココロの心の無い辛辣が言葉が飛ぶ。 それに、『標屋』はバツの悪そうな顔をする……かと思ったが、彼はかなり図太い神経の持ち主のよう だ。 再び笑って、おどけたように肩を竦めた。 「そうは言いますけどね、ココロさん。私は頑張ったんですよ」 「『標屋』の頑張りなど、夏のアリの働き以下だ」 「その表現はちょっと、きついですよ」 「ふんっ」 何を怒っているかよく解らないが、ココロは箱が回収できなかったことが大いに不満らしい。 でも、俺はホッとしている。 まだ、生きていることに。 内心の安堵に、『標屋』が話しかけてくる。 「それから、もう一つ残念なお知らせがあります」 「残念?」 「はい。君の血の中に潜んでいた『異端の玉』を取り除こうとしたのですが、どこにかくれたのやら、は ぁ〜どうしましょう?」 「どうしましょうって、奴の声を俺はまた聞くのか?」 「はい。ああ、でも声を聞くだけで、害はないですから、そのままでいいですよね」 『標屋』はケロケロと笑ったのだ。 楽天的というか、俺はこの人とは気が合いそうもなさそうだ。 さっさと退散ところだが、あと少し聞きたいことが残っている。 それからだ。 それから、いろいろと自分のこれからを真面目に考えよう。 俺は顔を『標屋』に向けた。
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刀の切っ先が、喉に強く刺しこまれた。 が、俺はその切っ先と同じ場所から刀を生んで、絶妙なバランスと力でココロの刀を押し戻した。 箱の力を自然に使ってしまった。 不可抗力だとしても魂が欠けていった。 少しだけ視界が歪む。 倒れそうになるが、ココロに知られるわけにはいかない。 なんとか踏みとどまり、俺はココロの説得にかかる。 「なあ、ミハシラ。話し合いをしよう」 「貴様と話すことなどない」 提案したとたん、刀が攻撃を開始してきた。 俺はそれを後ろに飛ぶことで回避する。 「じゃあ、アカリから伝言だ。生きて帰るように」 「おせっかい女の話など聞く耳など持たない」 ココロが踏み出してきて、横薙ぎに俺を切ろうとした。 これは、少し間に合わない。 箱に命令し、切っ先の軌道上に当たる部分に数本の刃を生んだ。 キーンという金属音に、俺とココロの刀が重なりどちらも動きを止めた。 また、視界が歪む。 魂の一部も欠けて意識が遠退いていく。 このまま使い続けたら、俺はどうなるのだろう? そんな疑問がフッと浮かんだ。 魂が欠けていくとは、命がなくなっていく、の同意義だとしたら、死ねるのだろうな。 ちょっと楽を考えた。 でも、世の中はそう甘くないようだ。 (君に死はありませんよ) 奴の声がした。 また、俺の中に混じっているという血を操作しているのだろう。 ココロから逃げても、俺は逃がさないのだろう。 忌々しいと思いつつも、奴に話しかける。 『今どこにいるんだ?』 (箱は半永久的な動力を持っています) 俺の疑問をスルーしやがった。 教えるつもりはないらしい。 でも、こうして俺に話しかけてくるということは箱を諦めたわけではなさそうだ。 (所有者の魂が全て欠けてしまった場合、一時的機能低下はありますが、時とともにまた回復してきま す。今の君のように) 『それはどういう意味だ?』 (昔の君は命をムダにしようとしませんでしたか? それは魂が完全に欠けて生きるということに意味を 見出せなかったのです。しかし、箱に備え付けてある数ある機能の一つによって、温かな人に出会い魂を 分けてもらい今のようになったのですよ。君は死を迎えることなく、死に近くなっても誰かの魂を分けて もらいながら行き続けるのです。永遠に) 何も言うことが出来なかった。 今の両親に出会ったことも、スバルやアカリに出会ったことも全て箱の機能だなんて……思いたくなか った。 自分の宿主である俺を生かすために、出来るだけいい人間を選んだなんて…嘘だ。 「余所見をするな!!」 「!?」 ココロの声が聞こえた。 奴の声に気を取られすぎていて、ココロの事を忘れていた。 だからなのか、彼女の刀が俺の胸に深く刺さっていたのだ。 深く突き刺さった部分に手をかけ、俺は思い切り刀を抜いたのだ。 傷口から、大量の血が噴き出し、ココロを汚していく。 「来栖誠四朗!?」 俺が避けるか力を使うかと思ったのだろう。 俺の返り血を浴びたココロの表情が強張っていた。 俺の顔は……どうなのだろう? 「ばかもの!」 ココロに叱られるぐらいだ。 たぶん、たぶんだが、笑っていたんだと思う。 怒ったココロの顔が、だんだん遠退いていく。 フワリという妙な感覚のあと、俺は床に背中を思い切りぶっつけて倒れたことに気付いた。 胸から流れる血は止まることを知らないらしく、俺は人の温かさ感じていた。 俺は人なんだ。 こんなことで自分を人だと確信できたなんて、なんかバカみたいだ。 奴の話では俺が箱の力で死なないのようだが、そうはいかない。 ここでココロに回収してもらえば奴の思惑は外れるはずだ。 とはいえ、ココロがパーツのほとんどを破壊してしまったのだ、また全てを奪うのには時間はかかるだ ろう。 しかし、一番のモトとなる箱をココロが手にすれば諦めるかもしれない。 その時、俺の脳裏に『標屋』の顔が浮かんだ。 知らなければ幸せ。 たぶん、彼の言っていたことは正しいのだろう。 でも、俺はもう疲れた。 「来栖誠四朗!!」 ココロの声が聞こえた。 胸の辺りにココロの華奢な手が当たっている。 なんとか血を止めようとしているのだろう。 そんなことはしないでほしい。 俺は生きていると、ダメなのだ。 俺が生きるということは、俺に優しさをくれる人たちを裏切る行為に他ならない。 「貴様は生きようとしないのか? どうして生きようとしない! 貴様を待っていてくれる人は山のよう にいる!! 命を疎かにするな!!」 殺すとか言っていたココロが、今度は生きろといっている。 なんてむちゃくちゃで、なんて矛盾した物言いだろう。 いや、会ったときから、ココロはむちゃくちゃだったよな。 でも……。 添えくれている手が温かかくて、嬉しくなった。 「このまま死ぬなど、私が許さぬ。私との約束を守らず死ぬなど許さない!!」 約束破ってゴメンと謝ったのに……ココロはまだ覚えていたんだ。 ココロと一緒に食べたら、あの店のパフェもアイスもいつもよりも何倍も美味いだろう。 アカリやスバルと一緒なら、もっと楽しいだろう。 今の両親と一緒なら、本気で息子になれたはずかもしれない。 そう、思うと後悔が生まれてきた。 「生きたい」 ポツリと呟いたら、涙がこぼれてきた。 「俺はまだしたいことがいっぱいだった。まだ死にたくない」 「では、魂を掴ませていただきます」 ココロでない声がした。 『標屋』だ。 飄々した『標屋』の声が俺の側にしたと思ったら、俺の意識は完全に遠退いた。
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エレベーターの前で、意識を腕に集中する。 指先にナイフをイメージすると、鋭利な刃物が指先に生まれた。 それと同時に、目の前の映像が歪んだ。 魂の一部がごっそり持ってかれたのだろう。 足元がふらつくほどのことではないが、使ってはいけない力と改めて実感する。 「じゃあ、いってくるよ」 「しっかり頑張りなさいよ」 アカリが手を振ってくれた。その姿が、最期にならないよう祈るだけだ。 エレベーターの扉を指先に生んだ刃物で切り刻む。 粉々になった扉が下へ落ちていく。 落下に合わせて、俺は鋭利な刃を創造しつま先と手から出した。 それをエレベーター内部に突き立て、一気に壁を破壊しながら落下していく。 エレベーターの箱を見つけた。 俺が先に落とした破片の所為でかなり変形してしまっている。 もう使い物にはならないだろな。 誰が弁償をするのだろう? そんな事を思いながら、俺は箱の上に着地するとさっきと同じ要領で、箱を切り刻んだ。 中へ飛び降りると、扉は開けっ放しとなっていて異常の部屋に通じる廊下が丸見えだ。 静まり返った廊下を一人黙々と歩き続ける。 奴と一緒の時も長いと感じたが、どのぐらいの距離があるのだろうか? しばらくすると風景は一変する。 殺風景な廊下には、異様な生き物の死骸と血だまりと冷気が足元を這ってどこかへ流れて行った。 まるで地獄だ。 あの日と同じ、異常な光景。 俺は、吐きたいのを堪えて歩き続けた。 丈夫な扉が見えてきたのは、それから暫くしてからだ。 しかし、前来た時とは違っており、あの厚い扉は斬り刻まれて、中が開けっ放しの状態だ。 警戒しながら中へ入ると、そこにはココロが立っていた。 広口の透明瓶は、何一つ残っておらず、ココロの足元で全て中身を床へぶちまけ割れていた。 「遅いぞ」 俺に気付いたココロが、それだけを言ったのだ。 あの短い時間、これだけの破壊が出来るココロは、やはり強いのだ。 この強さが、ココロを作っているのかと思うとなんだか嬉しかった。 「ミハシラは強いな」 「貴様が弱いだけだ」 ココロは素っ気なく言ったが、前のようなとげとげしさはどこにも見当たらない。 「ところで、これはなんだ?」 床にぶちまけられた瓶の中身を切っ先で差して、ココロは質問してきた。 「さあな、初めて見るものだ」 俺は肩をすくめて、知らないということにした。 事実を知って、謝られても困るからだ。 彼女なら謝らないかもしれないが、そうすればなんか気持ちがいい。 「そうか、知らないか」 呟くように言ったココロが、おもむろに俺の喉元へ切っ先を向けてきた。 「では、もう一つ質問だ。奴はどこだ?」 「ここに来なかったのか? 俺より先にここへ来たはずだ」 「ああ来た。しかし、おかしな塊の入ったビンを一つだけを持ってどこかへ行ってしまった」 「………」 逃げたのか? ここは大事なものがあるのではなかったのか? ココロの破壊工作を止めるために動いたと思ったのは、俺の早合点だったのだろうか? それとも……その塊が何か意味をするのだろうか? 俺が黙考していると、ココロのむけている刃が喉元に触れ軽く押し込んできた。 「では、貴様を殺し箱を回収することにしよう」 「おい、何をいいだすんだ?」 「奴の姿が見えない以上、まずは貴様の中に眠る箱を回収する。それから誘きだせばいいだけの話だ。そ れに、貴様には多くの借りがある。全て返さないと腹の虫が収まらない」 「……冗談だよな」 「この私がいつ冗談を言った? 私はいつも本気だ」 「………」 助けに来たはずが、反対に命を狙われた。 俺がさっき不意打ちをしたのが、物凄く気に入らないのがヒシヒシと殺気として伝わってくる。 ココロの仕事としては、間違っていない判断だが、俺としては冗談じゃないといった感じだ。 生きて帰らなければ、アカリに殺される。 平和的解決法を提案しようとした。が……。 「まずは回収だ」 聞く耳を持ってくれない。 俺、よく解らないのに、大ピンチだ。
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ズンッ、と足元が大きく揺れた。 それと同時に、奴の携帯が鳴りだした。 携帯の画面で何をチェックしているみたいだ。 暫くして携帯を切ると、奴は大声を出して笑い出したのだ。 「これは手痛い裏切りです」 「?」 「『狗』が私の大切な研究を破壊しまくっているそうです」 「あいつが?」 どうして急にそんな展開になったのかわからなかった。 振り返ると、アカリが「してやった」といった表情をしていた 「ミハシラココロを連れてきているの。強いわね、彼女。ここの地下には秘密があるっていったら面白い ぐらい破壊をしてくれたているわ」 ケタケタと笑うアカリに奴は鋭い視線を送り、一人エレベーターに乗っていってしまった。 それを呆然と見送っていると、肩をポンと叩かれたのだ。 「いくら強くてもミハシラココロは女の子よ。そのけったいなものを使って、助けてあげてくれないかし ら? なんといってもミハシラココロは私の大切な友人なんですから」 満面の笑みで堂々とココロのことを大切な友人といえるアカリはやはり凄いと思った。 そしてこんな俺の手を絶対に放そうとしない意思の強さは敵わないと思った。 アカリから離れて、俺はエレベーターの前に立った。 「アカリ」 「なに?」 「色々とありがとうな」 「何を今更。感謝の気持ちがあるなら、今度は形で返してよね」 ニコリと微笑むアカリを見て、俺は額に手を当てて少しだけ笑った。 やっぱり、アカリには敵わない。
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