■シンギュラリティーにっぽん
大量のデータの分析を得意とする人工知能(AI)は、プロフィルなどを使ってその人の「信用度」さえも数字にしてしまう。機械が人間を格付けする「スコア社会」は、日本にも広がるのか。
■結婚相手はスコア次第
姉と一緒に家を探していた中国・北京市の女性(24)は50歳代の男性大家からこう求められた。「あなたたちのゴマ信用のスコアを見せて」
ゴマ信用は、中国IT大手アリババ集団の子会社アント・フィナンシャル・サービス・グループが4年前に始めた金融サービス。個人の信用が350〜950点で表される。
女性の点数は500点前後とそう高くはない。一緒に部屋を借りる姉が700点前後と高く、女性も有名企業の従業員であることから結局部屋は借りられた。「大家さんはゴマ信用を安心材料にしているようだった」と女性は言う。
スコアをもらうには身分証、運転免許証、クレジットカード、所有する不動産などのあらゆる個人情報をゴマ信用のアプリに入力する。アリババのネット通販の利用状況のほか、「借金返済の延滞の有無」「資産状況」「学歴」なども合わせ、AIが毎月6日時点でのスコアをはじき出す。
スコアが高いと、ホテルの宿泊や自転車の共有サービスで保証金がいらず、飲食店などでの割引も受けられる。カナダのビザ申請の資料にもなる。メリットはそれだけではない。
「お母さんが『うちの娘と恋愛するなら、ゴマ信用のスコアを見せなさい』と(娘の交際相手に)聞く」。アリババの馬雲(マーユン、ジャック・マー)会長は2017年1月、スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でこんな「予言」をしてゴマ信用を宣伝した。
アリババの18年3月期の売上高は2502億元(約4兆2千億円)と前年より58%増えた。急成長を背景に、若者から神聖視される馬会長の発言通り、点数で個人が評価される「スコア社会」が生まれつつある。
「人は元々悪いことをする」という性悪説が根強い中国では、踏み倒しや盗難を防ぐために保証金をとるのが慣例だった。ゴマ信用が個人の信用を見えるようにしたことで、ビジネスはスムーズに進むようになった。スコアが下がることを恐れ、法律やルールを守る人が増えたためだ。
「結婚相手の男性を探す女性に、お母さんが『人民銀行にある相手のクレジット報告に目を通しなさい』と教えている」。中国人民銀行の陳雨露副総裁は3月の記者会見で語った。
日本にもある金銭貸借の信用記録は、中国では中央銀行の中国人民銀行が管理しているが、ゴマ信用の普及で人民銀の信用記録にまで脚光が当たる。
中国政府も信用に関与を強める。中国政府は信用について古くからひそかに着目しており、07年に社会信用体系の建設に関する会議を設置して議論を重ねてきた。政府の施政方針となる今年3月の政府活動報告では初めて「信用の監督」が提起され、信用スコアを政策に応用する方針が示された。
すでに17年には浙江省杭州市や江蘇省蘇州市など全国12都市が先例として住民の信用評価システムをつくる都市に指定された。納税状況からお金の貸し借り、ボランティアへの参加、刑事事件の判決など行政が得る個人情報を一括して、住民に点数を与えるシステム作りが始まっている。
政府の統制はゴマ信用など民間の信用評価にも及ぶ。18年1月には、政府が設立した金融協会がゴマ信用など民間の信用評価会社とともに「百行クレジット」を立ち上げた。各社の信用情報を共有し、民間の集めた個人の信用評価情報を集中管理する狙いだ。
ただ、行政が信用の評価に関わると、懲罰に結びつきかねない。古くから信用スコアを導入している江蘇省では16年、蘇州市の企業の代表者が過去の優良な納税経歴を評価されて30点を得た。通常なら入れない学校に娘を入学させる資格を得たが、年間の営業報告を期限までに出せずに一時、加点が取り消され、娘が入学できなくなりそうになる事態が起きた。
行政の信用評価は民間の評価より影響が大きい。共産党と政府が一心同体の中国では、政治的な意図が評価に入り込む恐れもある。
「スコアが700点を超えれば信頼できる。安心してお金も貸せる」。中国中部の河南省在住で、アリババのネット通販に出店する劉兵さん(46)は、新たに知り合った人からはゴマ信用の点数を聞き出すようにしている。
劉さん自身は好スコアと言われる700点をはるかに超える778点。「約束を守って行動することでスコアが高まる。皆がそうすれば、社会はどんどんよくなる」と劉さんは肯定的だ。
しかし、スコアで新たな秩序を作ろうと意図することは、点数による「階級社会」を生む危うさと表裏一体でもある。(後略)