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設定はあかりちゃん高2の春ぐらい。短いお話ですが思いついて一気に書いちゃいました。
「ねえ、藤崎さん、ちょっと来て。」
「なに?」
「この人知ってる?」
クラスメートが私に見せたのは、女性誌の特集ページだった。芸能界以外のいろいろな分野の男性が紹介されているのだが、囲碁界代表は塔矢アキラと進藤ヒカルだった。ルックスもファッションも対照的な二人だけど、こうやって見るとけっこう絵になるかもしれない。
「二人とも知ってるけど。」
「やっぱりー。藤崎さんって葉瀬中出身だし囲碁部だからもしかしたらと思ったんだ。」
彼女の目当ては塔矢くんじゃなくてヒカルの方か。
「進藤くんなら囲碁部でいっしょだったよ。」
ヒカルなんて言ったらいろいろ詮索されそうだったから、呼びなれない言い方を使った。
「ねえ、サインもらってきてくれない?」
「あっ私も欲しい。」
「私も。」
へえ、ヒカルって人気あるんだ。塔矢くんだってかっこいいのに。
「わかった。頼んでみる。今度色紙もってきて。」
友達が有名人ってちょっと誇らしいような不思議な感覚だ。
私は3枚の色紙を持ってヒカルの家に行った。
「こんにちは。」
「あら、あかりちゃん。」
「ヒカルいますか?」
「いるわよ。ちょっと待ってね。」
「よっ、久しぶり。なんか用?」
「うん。友達にサイン頼まれちゃったの。書いてくれる?」
「サイン〜?俺、苦手なんだよなあ。字汚いし。」
「だよねー。」
ヒカルの字が下手なのは私が一番よく知っている。
「おまえなー。まあ、いいや。書いてやるよ。ちょっと待ってて。」
「へえ、結構さまになってるじゃない。下手なりに。」
「下手っていうな。最近よく頼まれるからこれでも少しはうまくなったんだぜ。」
「へえ、そうなんだ。やっぱりあの雑誌のせい?」
「え?ああ、塔矢と載ったやつ?かもな。せっかく来たんだからついでに打ってく?」
「うん!」
「わー。ありがとう。随分早かったのね。」
「家が近所だから、すぐに頼みに行ったの。」
「近所なの?」
3人の目が一斉に私の方に向いた。
「うん。」
「じゃあさ、藤崎さんの家に遊びに行ったら進藤ヒカルに会えたりするの?」
「それはないよ。お隣ってわけじゃないから。」
「なーんだ。」
「ねえ、紹介してくれない?」
「紹介って?」
「会ってみたいの。」
ヒカル・・・嫌がるだろうな。そんなの面倒くせえって言うに決まってる。まあ、聞いてみるだけだから。私はまたヒカルの家に行った。
「別にいいけど。」
予想外の答えだった。
「え?いいの?ほんとに?」
「いいって言ってるだろ?」
「うん・・・。でも、その子たち、別に碁に興味があるわけじゃないんだよ。雑誌でヒカルの写真見て騒いでるだけなんだよ。そんな子たちと会うの?」
「おまえの友達なんだろ?」
友達は友達だけど・・・大切な友達ってわけでもない。
「うん。」
「どこで会えばいいんだ?」
「えっと・・・。私の家にしよっか?」
複雑な気分だった。まだクラス替えしたばかりで、それほど親しくないクラスメートたち。きっとヒカルは断ると思ってたのに・・・。
「こんにちは。」
「あっヒカルくん。みんなお待ちかねよ。」
あかりのお母さんに出迎えられて玄関に入ると、二階からキャーという歓声が聞こえた。
あかりの部屋に入ると3人の女の子に囲まれた。
「はじめまして。進藤ヒカルです。」
「写真で見るよりかっこいいですね。」
「ほんと。スポーツとかやってるんですか?」
次々と質問が飛んでくる。でも、碁に関係ないことばかりなんだよな。あかりの言う通りだ。あかりは・・・?話の輪には入らずに黙って自分の机の前に座っている。
「ねえ、今度カラオケとか行きません?いっしょに写真に載ってた人とかお友達もいっしょに。」
「塔矢?アイツは行ったことないんじゃないかな?歌なんか聴いてそうにないし。俺も最近の曲全然知らないからあんまり変わんないけど。」
「いいじゃないですか。行きましょうよ。」
「いや、俺は・・・。」
俺が困っているとあかりが口をはさんだ。
「進藤くんは私たちと違って仕事でいそがしいの。無理言わないで。」
進藤くん?俺はそのよそよそしい言い方に驚いた。ひょっとして俺もあかりって呼んじゃまずいんだろうか?
「俺、そろそろ帰らないと。」
なんだかいたたまれなくて俺は言った。
「えー。もうちょっといいじゃないですか。」
「悪いけど。」
別れ際に3人から携帯番号のメモを渡された。こんなもん渡されてもなあ・・・。それにしてもあのあかりの態度はなんだ?おまえの頼みだからわざわざ来てやったんだぜ。
なんでこんなに嫌な気持ちになるんだろう?ヒカルが彼女たちに笑顔を向けるだけで。雑誌に載ったりテレビに出たりするようになって、営業スマイルなんかするようになっちゃったんだ。私の知ってるヒカルはそんなんじゃなかった。あの子たち、ヒカルにメモなんか渡してたけど、ヒカルは連絡取ったりするんだろうか?
「ねえ、藤崎さん、進藤くんって彼女いるの?」
「いないと思うけど。」
「この前連絡先渡したんだけど、反応がないのよね。」
「そうなの?いそがしいから無理なんじゃない?」
私は平静を装って言った。
「ねえ、藤崎さんからそれとなく私のこと聞いてみてくれない?」
この子、本気でヒカルとつきあいたいって思ってるんだろうか?私よりずっと小柄で可愛らしい顔立ちの彼女は男の子に人気がある。なんでよりによってヒカルなの?他にいくらでもいるじゃない。聞いたことないけど、ヒカルはどんなタイプの女の子が好きなんだろう?
「なんだよ?またおまえかよ。最近よく来るな。」
「なに?その言い方?」
「ヒカル!せっかくあかりちゃんが来てくれたのになんてこと言うの?」
「まあいいや。なんか用?」
「うん。ちょっと話があるんだ。」
「じゃあ、部屋に来いよ。」
「この前来た子たちのうちの一人が、ヒカルに連絡先渡したのに反応がないって言ってきたの。」
「へえ。」
「それでね、私にそれとなく聞いてほしいって・・・。」
「どの子?」
「3人の中で一番可愛い子。」
そんなこと言われたってどの子のこと言ってるのか全然わかんねえし。大体名前も覚えてねえんだよな。あのときもらったメモだって3枚ともゴミ箱の中だ。
「一番可愛い子?」
「うん。私はそう思うけど。」
俺はちょっと考えて言った。
「あのとき会った中で一番可愛い子ならつきあってやってもいいぜ。」
あかりの顔色がさっと変わったのを俺は見逃さなかった。おまえなあ、そんな顔するぐらいならこんなこと引き受けるなよ。相変わらずお人よしなんだから。
「わかった・・・。彼女・・・きっと喜ぶよ。」
そう言って立ち上がったあかりの腕をつかんで引き止めた。
「待てよ。」
「なに?」
あかりは俺から目をそらした。その横顔は、なんだか泣くのを必死で我慢しているように見えた。
「おまえ、何か勘違いしてねえ?俺はあのとき会った4人の中で一番可愛い子ならつきあってもいいって言ってるんだぜ。」
「4人・・・?」
「そう。4人いただろう?おまえはどう思ってるか知らないけど、俺が4人の中で一番可愛いって思ったのは、藤崎あかりって名前のやつだ。」
「私・・・?」
「そう、おまえ。悪いけど他の3人は名前も覚えてねえよ。」
あのときは、おまえの妙によそよそしい態度が気になって、他の3人のことなんてどうでもよかった。あかりの友達だから冷たくするわけにもいかなくて、無理して愛想よくはしてたけど。
「あかり?あかり、どうした?」
あかりは驚いた顔のまま固まっていた。
しばらくしてあかりが口を開いた。
「どういう意味?」
「どういう意味って・・・わかんないのかよ?俺はおまえ以外の女とつきあう気はねえってこと。」
あかりの大きな目が一段と大きく見開かれた。
「そんなに驚くなよ。」
あかりの目から涙がこぼれ落ちた。
「あー、もう。なんで泣くんだよ?おまえを泣かしたら俺がお母さんに叱られるんだぜ。」
涙を隠そうとして下を向いた私の顔をヒカルがのぞきこんで言った。
「おまえさあ・・・そんなに俺のことが好き?」
憎たらしいぐらい自信たっぷりの顔で・・・。
「ヒカルのバカ!」
そう言って横を向いたら、また私の顔をのぞきこんで・・・そのまま・・・。一瞬の出来事に私の頭の中は真っ白になった。
そのとき、階段を上がってくる足音がした。俺は慌ててあかりのからだを離した。
「お茶持ってきたわよ。」
最悪のタイミングだ。お母さんがあかりの様子がおかしいのに気づいた。
「ちょっとヒカル!あんたまさか・・・。またあかりちゃんを泣かしたの?もう、あんたは一体いくつになったら・・・。」
「お母さん!俺、もう子供じゃねえよ。あかりをいじめて泣かしたりしない。それから言っとくけど今日からあかりは俺の彼女だから。」
「え?今日はそういう話だったの?」
「そう。だからお母さんはあっち行ってて。」
足音が階下に消えたのを確認してから俺は言った。
「さっきの続きしていい?」
「ねえ、藤崎さん・・・この前の話だけど。」
「ヒカルのこと?」
「ヒカル?」
「ずっと子供の頃からそう呼んでたから。」
「でも、この前は進藤くんって・・・。」
「ヒカルは・・・進藤ヒカルは私の大切な人なの。だから誰にも渡せない。今まで黙っててごめんね。」
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春ですよね?
北斗杯は?
2007/11/8(木) 午後 10:03 [ ぬくぬく ]
そこまで考えてなかったけど(笑)。3月の終わりぐらいに代表決定戦をやって、北斗杯は5月。このお話はその間の4月ぐらいということでどうでしょう?で、北斗杯には晴れて彼女になったあかりちゃんが応援に行く(笑)。
2007/11/8(木) 午後 10:45