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設定は22歳ぐらいです。
並んでチャペルに現れた二人は絵に描いたようなお似合いのカップルだった。スーツをスマートに着こなした進藤くんと、ドレスアップして一段ときれいになったあかり。このまま主役として祭壇に上がってもおかしくないぐらいだった。
「久美子!」
「よっ!津田、久しぶり。」
「いっしょに来たの?」
「うん。ヒカル、今日実家からだったからいっしょに来たんだよね。」
「ああ。結婚式に着る服置いてたから。」
「なーんだ。」
傍から見れば両想いのカップルそのものなのに、この二人は未だにお友達のままらしい。あかりは中学の頃から進藤くんだけを見てたのに、進藤くんの方は全く気づく気配もない。そのくせ、幼馴染の気安さで気軽に部屋に誘ったりするもんだから、あかりの方もなかなかあきらめがつかなくて、他に彼氏も作れないでいる。親友の私としてはなんて罪作りな男なんだって腹が立つけど、あかり本人は「友達のままでもいい。側にいて応援してあげたいの。」なんて、意外とけろっとしている。
「進藤ヒカルさんですよね?」
「あ、はい。」
「僕、大学の囲碁サークルで筒井といっしょだったんです。筒井の後輩ってほんとだったんですね。今日、招待してるって聞いてたから、お会いするの楽しみにしていました。よかったらサインいただけませんか?」
「いいですよ。」
筒井さんは高校、大学とずっと囲碁を続けていたから、友人も囲碁の好きな人が多い。彼らにとって年下なのにプロで大活躍している進藤くんは憧れの大スターみたいなものだろう。
「あかり。これちょっと持ってて。」
サインをするのに邪魔だったのだろう。進藤くんがあかりにコートを渡した。ものすごく自然だった。
「じゃあ、私のといっしょにクロークに預けとくよ。」
「サンキュ!」
彼を囲む列席者の目が一斉にあかりに注がれた。今日のあかりは女の私でも見とれてしまうくらい美しい。いつもより少し大人っぽいワインカラーのワンピース。毛先をくるんとカールさせてアップにした髪。あかりの後姿を見送った男たちの羨望の眼差しが今度は進藤くんに向けられた。彼らの話し声がいやでも耳に入った。
「あの子、進藤ヒカルの彼女かな?」
「めちゃめちゃレベル高いじゃん。」
「そら、あれだけ実力あってルックスもよかったらもてるだろ。」
教会での式は披露宴とは違って席が決まっていないから、親族以外の列席者は来た順に詰めて座っていく。ごく自然にあかりは進藤くんの隣にすわり、私はあかりの隣に座った。祭壇に向かう筒井さんに進藤くんが声をかけた。
「筒井さん!」
「進藤くん!来てくれたんだ。嬉しいよ。」
花嫁の父が娘を連れてヴァージンロードをゆっくりと歩く。指輪の交換。誓いのキス。筒井さんが優しい目で清楚で可愛い花嫁を見つめている。あかりはどんな気持ちで二人を見ているのだろう?あかりの隣にいる人はいつか彼女を幸せにしてくれるんだろうか?
「筒井さんみたいな人と結婚したらきっと幸せだろうな。」
あかりがぽつんと言った言葉に進藤くんが反応した。
「おまえ、筒井さんみたいな人がタイプなの?」
「ううん。そうじゃないから幸せになれないんだ、きっと。」
「どういう意味、それ?」
だめだ。この男はなんにもわかっちゃいない。こんな寂しげな横顔を見てもなにも感じないの?鈍感もここまでくると罪よね。
「よっ。三谷じゃん。久しぶり。おまえの隣かー。」
進藤が中学生のときそのままの無邪気な笑顔を俺に向けた。
「隣で悪かったな。」
進藤と会うのは何年ぶりだろう?こいつが囲碁部をやめて以来、気まずくなって、仲直りする機会もないまま別れたのに、こいつはそんなこと忘れてしまったんだろうか?進藤が少し離れたテーブルを見て言った。
「げっ。あかりの隣、加賀じゃん。筒井さん、何考えてんだよ。」
進藤が院生になると言ったとき、突然飛び込んできた将棋部の加賀。進藤の背中を押したやつ。今思えば、いつも一緒に打っていた俺や筒井さんより、あいつが一番進藤の才能をわかっていた。あのとき三面打ちとはいえ、加賀だけが進藤に負けなかった。筒井さんとは全然タイプが違うけど、結婚式に呼ばれるってことは仲がいいのか・・・。加賀の隣には藤崎、その隣には津田が座っていた。
「おまえ、藤崎といつから付き合ってんの?」
「付き合ってねえよ。」
「そうなのか?今日、一緒に来てただろ?」
「家が近所だからな。それだけ。」
進藤と藤崎は幼馴染でいつもいっしょだった。中学の頃は、藤崎の方が一方的に進藤を追いかけてて、進藤はうるさがってたけど、嫌がってはいなかった。俺だって藤崎のことちょっと可愛いって思ってたけど、藤崎の気持ちがあんまりまっすぐだったから、あきらめた。そのうち進藤が気づいて藤崎の気持ちに応えるんだろうなって思ってたのに、このバカはまだ・・・。
「加賀先輩、お久しぶりです。」
「へ?あんたたち、俺の知り合いだったっけ?」
「私たち、葉瀬中の囲碁部にいたんです。あの三面打ちのとき、私たちも見てました。」
「そういえば、見たことあるような気もするな。名前は?」
「津田久美子です。」
「藤崎あかりです。」
「藤崎?ああ、筒井がよく言ってたな。さっき進藤といっしょにいただろう?進藤の嫁さんかと思ったぜ。」
加賀さんの言葉にあかりが真っ赤になった。
「あの・・・私とヒカルは幼馴染で・・・家が近所だからいっしょに来ただけなんです。」
「ふーん。」
加賀さんがあかりの顔を覗き込んだ。
「加賀のやつ。なにあかりに馴れ馴れしくしてんだよ!」
「気になるのか?」
「え?べ、別に・・・。」
「加賀って、悔しいけど結構いい男だよな。藤崎ってああいうタイプがいいのかな?」
進藤の顔色が変わった。
「ハハハハハ。」
「何が可笑しいんだよ、三谷?」
「おまえ、ほんとにばかだな。」
「ばかっていうな。」
「今は知らねえけど、少なくとも中学の頃はあいつはおまえのことが好きだったぜ。」
「あかりがそう言ったのか?」
「言わねえけど、みんな知ってたぞ。気づかなかったのは、進藤、おまえだけだ。」
「じゃあ、進藤って他に女でもいるのか?」
「いえ。いないと思います。」
「おまえは?」
「いません。」
「へえ、じゃあ俺と付き合うか?」
「え?」
「ハッハッハッ。冗談だよ。進藤のことが好きだから誰とも付き合わねえんだろ?」
「それは・・・。」
「否定はしねえんだな。」
進藤くんにこの加賀さんぐらいの強引さがあればいいのに。いや、進藤くんだって強引にがんがん突き進んでいくタイプなんだけど、恋愛に関してだけ、なぜか奥手なんだ。
「進藤くんって時々あかりを部屋に呼んで掃除させたりしてるんですよ。」
「久美子!そんなこと加賀さんに言わなくても・・・。」
「それで、お礼だって言って食事に連れて行ってくれるんだよね?」
「へえ。二人っきりになって、なんかいい雰囲気になったりしねえのか?」
「私たち、幼馴染だから・・・。そういうのないんですよね。」
あかりがまた寂しそうな顔をした。
「あの筒井でもちゃんと告白して彼女作って、結婚してんだぜ。進藤のやつ、なにやってんだ。」
―つづく―
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あぁ、なんか進藤らしいっちゃらしいけど!
じれったいなぁもう!
楽しく読ませていただいてます。
2012/10/22(月) 午後 7:13 [ mercure ]