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今日はアメリカの独立記念日。私の地元横須賀には米軍の基地があるために、毎年花火大会が行われている。
きっと地元のアメリカ人やそのお国にとっては一大イベントなんだろうけど、私や友達にとっては盛大な花火が見れてジャンクフードを食べて騒げる格好の場なので、ちょっと不純な理由で毎年遊びに来ている。
加えて、今日は私の誕生日だった。友人の加奈と陽子が、私を元気付ける為という理由で、私を外に連れ出してくれたのだ。
一ヶ月ほど前、私は大好きだった彼氏の健太と正式に別れたのだった。中学校の3年間ずっと片思いしていて、卒業式の日に意を決しての告白。OKをもらえた時は、もう死ぬほど嬉しかった。
でも、私たちは長くは続かなかった。高校も違ったし、しばらくは連絡を取り合ってたものの、音信不通になり、私は別れる道を選んだ。
その後、ずっと後悔していた。元には戻れないって知ってたし、何度も考えて決めたこと。でも、毎日涙が止まらなかった。私は元々明るいタイプだし、友達といるときも楽しく過ごせるんだけど、ふとした時に泣いてしまった。クラスでも一番仲良かった加奈と陽子は、私の隠した涙を知っていた。
「ではでは、真里菜の誕生日を祝して、かんぱーーい☆☆」
陽子の音頭でグラスを高く上げ、お互いに乾杯しあった。もちろん私たちはまだ高校生なので、レモネードで乾杯。
「ところでさ、アメリカが独立したのっていつだっけ?確か入試で出なかった?」
「さぁ…1820年とかじゃないの?」
「ちょっとやめてよー社会の話はっ!とりあえず独立できたし、真里菜も生まれたし、めでたしめでたし、でいいじゃんっ」
「そーね。とりあえず、あそこで売ってるピザから始めましょ」
「さんせーい」
私たちはとりあえず歩き回って、横須賀の商店街とはちょっと違った催し物を楽しんだ。無駄に明るいブレスレットとか、派手で飲みにくいストローがついたコップとか。
フライドポテトとレモネードを手に持って歩いてると、一発目の花火が上がった。
「やばっ、もうそんな時間?!場所取りに行かなきゃ!」
私たちは急いで走っていくと、そこはものすごい人だかりだった。
「あっ!あの辺、三人くらいなら座れるかも」
そこに腰を下ろして見上げると、結構いい場所だった。
「きれーい…」
日本で日本の花火なのに、米軍基地の中ってだけで、なんだか壮大なもののように感じられた。とはいっても、私はここの花火大会以外はあまり行かないので、他と比べようとも比べられないのだが。
100発くらいだろうか。赤や緑や黄色の火薬が空へと打ち上げられるのを見てると、私のケータイが鳴った。
「誰だろう?知らない番号だ。ねー、この番号、誰のか知らない?」
「え?!何、聞こえない」
とりあえず私は左耳を人差し指で抑えながら、電話に出でみた。
「もしもーし!」
やっぱり回りのノイズが大きくて、相手の声がよく聞こえない。
それからすぐ後、花火が上がるのが止まった。最後の連発花火の合図だ。周りが少しだけ静かになったので、やっと電話の主の声が聞こえるようになった。
「もしもーし、どなたですか?」
「あ、やっと聞こえた。…って、オイ、もう忘れちゃったのかよー」
飲んでいたレモネードの成分がのどにひっかかったのか、私は一瞬声が出なくなった。
忘れるはずも無い。3年間、ずっと大好きだったあの人の声なんだもん。
「健太…?」
「そうだよ。まぁ電話番号変わっちゃったから、しょうがないか。今、米キャンの花火に来てるの?」
「うん…」
「マジか。俺も実は今友達と来ててさ。」
その瞬間、最後の花火が上がった。何発くらいだろう。50発くらい、連続で上がったんじゃないかな。ちょっと聞こえづらかったけど、健太が「奇麗だねー」って言ったのが、遠くから聞こえた。
花火が完全に終わったとわかったのか、回りの人がいっせいにその場から動き始めた。私たち3人も立ち上がると、目の前の人ごみが突然ひらけだした。
どこにいても、私たちは出逢える―――そう思えた。私の視線の先には、ケータイを右耳にあてて微笑む、健太の姿があった。
健太は男友達2人と一緒に来ていて、その2人もこちらに気づいたようだ。
その時、加奈が私の背中をひじでつついた。ビックリして加奈の方をむくと、彼女は私に向かってウィンクをした。
「いよぉーう、加奈、陽子ー」健太の友達の一人が、そう二人を呼んだ。
「え…何、二人とも、あの人と知り合いなの…?」
「ふふふ、実はね。ま、というわけで、後は若いお二人にまかせて、わしらはちとここを去りますかのぅ」
「えっ…!」
加奈と陽子が二人で顔を見合わせてニヤニヤしたとき、あぁ、仕組んでくれたんだって気づいた。
「じゃあ真里菜、誕生日おめでとうでしたー♪また明日学校でねっ☆」
二人が健太の友達と去っていくのを何も言えずに見送った。左を向くと、そこにはまだ健太の姿。
私たちはとりあえずケータイを切って、ポケットにしまった。
―――どうしよう、こんな今更二人にされたって、気まずいだけ――――
健太が私の方に歩いてきた時、私は逃げ出したくてしょうがなかった。あの辛かった時期を一気に思い出して、泣きそうになった。
でも、会いたくてしょうがなかったんだって気づいた。
健太はそっと両手を私の肩に置き、微笑んでから、私の耳元で何かを囁いた。
「Happy Birthday。」
その瞬間、私の中で詰め込んでいた何かが、ぶわっと弾けた気がした。それから何度も健太はごめんって小声で言って、私を抱きしめてくれた。私は、涙が止まらなかった。
ありがとう、みんな、神様。16年間生きてきて、最高の誕生日プレゼントだったよ―――
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