@Marine's

アメリカでの生活と、短編小説書いてます♪

全体表示

[ リスト ]

星の砂

イメージ 1

夏の長期休暇を利用して、私はカリブ海に浮かぶ島、Turks and Caicos Islandの研究所を訪れていた。この島はまるで空と海とが一体になったかのように鮮やかな青と緑に囲まれていて、訪れる全ての人の心を魅了していた。この島で結婚式を挙げる人もまた少なくなく、花嫁たちのその純白のドレスがまたこの青の風景からとてもよく際立っていた。

この島自体は国として独立しているわけではなく、また他の多くのカリブ海の島々のように、ここはイギリス領だった。街を歩き回るとところどころでイギリスの十字の旗を見かけることができ、例のアクセントの英語がそこらじゅうで飛び交っている。

アクセントや訛とは不思議なもので、その中に数時間もいると、口の筋肉は追いつかないものの、頭の中はもうそのアクセントでいっぱいになってしまう。

幸い研修生の何人かは聞きなれたアクセントで話し、私はその仲間たちと過ごすことが主になっていた。



金曜の夜になり、研修生と教授たちで街に繰り出すことにした。研修生は皆成人を迎えていたため、バーのようなレストランのような、とりあえずお酒も食事も楽しめる、ビアガーデンの様な店に腰を下ろした。

この国にも日本の微妙な風習のような「とりあえずビール」という感じがあるのだろうか。ほとんどのメンバーがビールを注文し、つまみのようなベーコンと野菜の不思議なコンビネーションに手を付け出した。



このビアガーデンには他の観光客もとても多く訪れていて、私と同じアジア人も多く見かけた。少し酒と高いテンションに疲れ始め、私は一人席を立ち、少し夜風にあたりに外に出ることにした。


ベランダの向こうには海岸があり、そこでロマンチックな気分に浸るカップルも少なくない。この場所はビアガーデンから少し離れた、静けさとやかましさの混じる不思議なところである。夜の海のさざなみが酔いを少し醒ましてくれ、塩っ気の少ない風はとても気持ちが良かった。



ふと白い砂浜に一人でたたずむ人影に気づいた。20代後半から30歳くらいの女性で、私には彼女が泣いているように見えた。私はなんだかとても気になってしまい、そのベランダから木造の階段をぎしぎしと言わせながら下りていった。

少し離れたとこから彼女の後姿を眺めていたが、彼女の長い髪が風にふかれていて、顔を見ることはできなかった。

その時、少し強めの風が吹いて、海の水が大きく揺れた。

「あっ…!」

その瞬間彼女の声が聞こえ、何かが彼女の手から離れた。その何かは私の2メートルほど先の白い砂浜に落ちた。
私は小走りをして、その砂に浅く埋まった何かを手に取り、砂を払った。

それは少し赤く透き通った石でできたネックレスだった。


「すいません…ありがとうございます」そう言って彼女は小走りで私のほうに近づいてきて、私は再度その砂を払うようにして、それを彼女に手渡した。

「いえ…あの、大丈夫ですか?さっきとても辛そうな顔をされていたので、ちょっと気になってしまって…」そう言うと彼女は一瞬哀しそうにハッとした顔をして、少し息を落ち着かせてからゆっくりと口を開いた。

「…実は私、明日結婚するんです」

「えっ!わぁ、それはおめでとうございます!え〜それはなんかもうドキドキですね。こんな奇麗なところで挙式なんて憧れるなぁ…え、あっ、ってことはもしかしてマリッジブルーっていうやつですか?」

こういうことって突っ込んでいいものなのか一瞬悩んだが、私はまだ少し酔っていたのか、ついつい言葉が先に口から出てしまった。

「そう言われればそうかもしれませんね…。変ですよね、もう3年間も同棲している相手なのに、いざってなると、なんだかとても不安になってしまうんですよね。」

彼女はそう言いながら海を眺め、足元の砂を軽く蹴っていた。

「…きっとそれもあると思うんです。でも…他にもちょっとあって。あ、私ちょっと変ですよね。よく知らない方にこんなこと話しちゃって。」

「いえ、そんなことないですよ。意外とよく知らない人に話してしまうとスッキリすることってありますし、私でよかったら聞きますよ。」

「そうですか…ありがとうございます。実は私、今の彼と付き合う前に恋人がいたんです。その人は今の彼の親友で、二人とはこの島で初めて出会ったんです。私たちはこの島に研修とボランティアを兼ねたプログラムで来ていて、ほんの一ヶ月の間だったのですが、私は彼をとても愛していました。彼も私のことをとても大事に思っていてくれて…」

私にはそんなロマンチックな出会いの経験が無いので、羨ましいとか思いつつ、また彼女の話に耳を傾けた。

「このネックレスはこの島特産の石で作られていて、彼がプログラムの終わる前日にくれたんです。…国に帰ったら、いつか結婚してほしいって言ってくれて…でも、私はまだ子供だったし、その時yesとはっきりと言うことができなかったんです。まだ出会って間もなかったし。」

それから彼女は少し詰まったように言葉を飲み込んだ。軽く空の方を向き、ため息をついてから、また口を開き始めた。

「しばらく手紙などで連絡を取っていたのですが…数週間ほど、連絡が取れなくなってしまったんです。それから一通の手紙が届いて。…彼が亡くなったとの知らせでした。仕事中に倒れてからそのまま入院して、しばらくしてから亡くなったそうです。彼の枕元には私宛の書きかけの手紙が残されていて、それでご家族の方が連絡をくれたんです。彼のお葬式で今の彼と再会し、二人で今まで支えあいながら生きていきました。この島で挙式することも二人で決めたんですが…やっぱり思い出してしまうことが多くて。」


よく二人でこの砂浜を歩いていて、彼はいつも海になれたらいいのにと言っていたそうだ。優雅で、大きくて、どこまで広がっていて、全ての人の心を癒す。その海の一部になれたらきっと気持ちいいだろうと―――

「このネックレス、もう持っていないほうがいいんじゃないかって思って。それでここに来たんですけど、なんだか決心がつかなくて。」

そう彼女が行った時、私はお土産に買ったものの一つを思い出した。「星の砂」と呼ばれるもので、中くらいのビンに奇麗な砂が詰められたものだった。

「あの…このビンの中に入れて、海に流すとかっていうのはどうでしょう…いや、ダメですよね、そんなの。変なこと言っちゃってごめんなさい。」

私がそう言うと、彼女は目を大きく開き、それから微笑んだ。

「それ…いい考えかもしれない。彼はいつも海になりたいって言ってたし、二人の思い出の海で…星の砂が、きっと彼が住んでいる星に連れて行ってくれる気がする。それ、もらっちゃっていいかな?お金は払うから。」

それから彼女はビンのコルクを抜き、ネックレスをその中に入れた。彼女は静かに涙を流し、その涙は彼女の頬を伝ってビンの中に落ちた。しばらくぎゅっとビンを握っていたが、それからコルクで再び栓をし、大きく深呼吸をした。

「…ありがとう」そうビンにむかってささやき、ビンは弧を描いて彼女の手を離れ、遠くの海の中に落ちた。


それから私たちはわかれ、それぞれのホテルに戻っていった。ふと後ろを振り返ったとき、もう彼女の姿はどこにもなかった。

なんだかとても不思議な夜だった。私はやっぱりすごく酔っていたのかもしれなくて、朝目が覚めた時は昨夜のできごとがリアルじゃなかったんじゃないかと思い始めた。

遅い朝食を食べ、昼前の講義に間に合うように急いで準備をした。ホテルの扉から飛び出て小走りで研究所に向かい、海岸沿いの青空と日差しに照らされた道路を過ぎていった。


海岸通りの下の広場には人だかりができていて、その中に際立って輝いた純白のドレスに身を包んだ花嫁がいた。

彼女の笑顔はその空と海のように美しく、他のどんな花嫁たちよりも一層輝いていた。これから始まる幸せの未来に、胸を張って足を踏み出しているように見えた。


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事