@Marine's

アメリカでの生活と、短編小説書いてます♪

全体表示

[ リスト ]

桜空IV

イメージ 1

いよいよ僕は入院することになり、点滴漬けの生活が始まった。まともに自分の足で歩くこともできなくなり、もうそう長くはないと感じさせるには十分だった。


季節は冬になり、赤や黄色の葉は枯れ落ち、窓からのぞく風景は一層寂しいものになった。


度々彼女は僕を訪れてくれて、外が寒すぎない時は二人で病院の庭を散歩した。


「もうすっかり葉っぱも落ちちゃったねぇ。風も乾いてきたし、一ヶ月前とは全然違う風景に見えるよ。」

僕たちが吐く息もすっかり白くなった。


「でも私は冬の景色も好きだな。少し寂しい感じもするけど、暖かい春が来るのをじっと待っていてさ。空気が一番澄んでいるように感じるのも冬だし。あの道、冬もとっても素敵よ。もう少しで絵が描き終わりそうなの。今度持ってくるわね。」

僕は目を細めて微笑み、彼女もまた優しく微笑んだ。

「俺…来週誕生日なんですよ。」

「えっ、そうなの?それなら、その絵は誕生日プレゼントとしてあげるわね。よーし、頑張っちゃおう!」


僕は晴れやかに笑う彼女のから少し目線をはずし、少し遠くの空を見ていた。

「…冬ってどうして長く感じるのかな?春とか秋ってすごく短く感じるのに。…春って、いつどこから来るんだろう?俺、桜の花が大好きで。今年は…見られるかな、桜の花。」


彼女は少し寂しげに目を細くして、ぎゅっと僕を抱きしめた。コート越しに感じる彼女は温かく、僕たちはしばらくその場を離れることができなかった。




病院に戻り、僕は初めて撮ったあの秋の道と、倒れる少し前に撮った冬の道の写真を眺めていた。彼女はこの写真をとても気に入ってくれていて、僕らだけの写真集を作るのもいいねと言った。そしたら彼女の絵も一緒に載せたりして、そしたらきっと楽しいだろうね―――

あの日から、僕は彼女に悲しい顔をさせてしまっている気がして、それが何よりも辛かった。





三月の終わりになった。

「…桜の木のつぼみが膨らんできたよ。きっともうすぐだね。」


僕の体中には点滴のコードが付けられ、返事をするのも難しくなってきていた。彼女にだけは笑顔を見せていたいのに、僕の頬は強張っていて動かすのに必死だった。

「君と…一緒に桜が見たい。それまでは…眠るのも怖いんだ…」

彼女はそう力なく言う僕の手をそっと取り、彼女の頬に当てた。

「うん…きっと、きっと一緒に見ようね…」

僕の指の間を彼女の涙がつたった。僕は彼女の体温に癒されるようにして目をつむった。





僕は誕生日を迎えた。死に一歩ずつ近づいている日なんてめでたくもなんともないが、彼女が僕の気を紛らわせてくれた。

「誕生日おめでとう!はいっ、これプレゼント。」

可愛いラッピングに包まれた長方形。包装紙がビリビリにならないようにそろそろと開けると、そこには僕を連れ出したあの景色があった。

「ね、あの森、冬もとっても奇麗なの。気に入ってくれたかな?」

「ありがとう…とっても素敵な絵だ…」


そういう僕に彼女は優しく微笑み、僕をそっと抱きしめた。

「ねぇ…知ってる?桜、あと少しで満開だってさ…」

「そっか…もうそんな時期になったんだ…見たいな、桜…すごく見たいよ…」


うんうんと涙を流してうなずく彼女を見て、僕の胸はぎゅっとなった。

「…ねぇ、俺を、連れて行ってくれないか?」

「えっ…」

彼女は一瞬戸惑った顔をしたが、涙をぎゅっと拭って、首を縦に振った。


ここからあの道まで自転車で10分。きっと、きっと僕は大丈夫だ。



回りの目を盗んで僕たちは急いで外に出て、これでもかってくらいに着込んだ。


空は快晴で、僕たちはカメラをつかんで自転車にまたがった。



走る、走る、走る―――


風を切るように走る自転車。この世界では僕たち二人だけで、音は何も聞こえなかった。ただ聞こえてくるのは、彼女の血の通う音―――


でもその道に入った時に、僕たちの世界に鮮やかな淡いピンク色がどっと入ってきた。


「すごい…最高に奇麗だよ…本当に、本当に見られるなんて…」

僕の胸は感動とも興奮ともとれるような気持ちでいっぱいになった。僕たちは自然と手をつないでいて、言葉を交わさなくても一緒の気持ちだってことがわかっていた。


「私…桜って大好き。満開の桜も好きだけど、散って舞う花びらも、この道を覆い包む花びらも…」


そうして少し黙っていると、彼女の口から言葉が流れ始めた。

「淡き…儚き、桃色の…散り行く時は訪れど…されど桜の、美しきかな、か…」

その5と7の音で構成された詩が、いつまでも、いつまでも僕の心に残った。


儚く散り行く桜吹雪の中で、僕たちは静かに口づけを交わした。




4月に入って最初の土曜日の早朝に、僕は眠るようにしてこの世を去った。僕と彼女の画集は地元のいくつかの書店で売られるようになり、その最後のページには、あの時彼女が口にした詩が載せられていた。


淡き儚き桃色の

散り行くときは訪れど

されど桜の美しきかな

閉じる コメント(2)

顔アイコン

とっても好き!!ドラマになりそうだね。 途中で主役がつつじにのっとられたかと思ったけどちゃんと桜だったw! 自転車で桜を見に行くシーンとってもいいね。 すごく頭の中で想像してシーン1つ1つが見えてくるような作品だったよ。

2007/3/4(日) 午後 5:34 [ kaw*s*ki5*200* ]

顔アイコン

実は舞台が相模原なので、頭の中でちゃんとイメージを持ちながらかけたと思うよ。もうすぐ桜の季節なんだねぇ(´―`)

2007/3/5(月) 午前 7:54 [ min**ura76 ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
お肉、魚介、お米、おせちまで
おすすめ特産品がランキングで選べる
ふるさと納税サイト『さとふる』

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事