@Marine's

アメリカでの生活と、短編小説書いてます♪

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海外が舞台ではない短編小説集です。話はフィクションですが、一部ノンフィクションの場面がある場合があります。さてどこでしょう?
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生まれて初めてこんな気持ちになった。一目惚れだった。





2週間前のことだった。駅前にある塾の夏期講習の申し込みのために、僕と友達の何人かは横須賀に来ていた。僕らは今年に高校受験を控えていて、さほど成績も良くなかった僕らは、志望校である県立Y高校に入るために、塾という選択を余儀なくされていた。


「マジで塾とかかったりーよなぁ。隣のクラスの満田なんかよ、毎日ゲームばっかしてんのに成績いいしよぉ。別に必要ないんじゃねぇの?」

「あそこん家って裕福だしよ、金でどうにかしてんじゃん?」

「あ、だからアイツ太ってんのか」


僕たちはくっちゃべりながら横断歩道を渡ろうとしていた。

「やべっ、赤になるぞ。とっととわたんねぇと!」


一緒にいた2人はぱっとかけだしたが、僕だけはちょっとボーッとしていたので、すこし出遅れてしまった。

その時、ちょうどカーブしようとした車がこっちに来た。



やばい!そう思った瞬間、誰かに後ろから腕をぐぃと引っ張られた。


「君!危ない!」


正直、本当に危ないところだった。今まで経験したことない出来事で、僕の心臓はすごくドキドキしていた。


「危ないところだったわねぇ。気をつけないとダメだよ?」


白いワンピースに帽子をかぶった女性で、彼女はそういいながら僕の顔を覗き込んだ。その瞬間、僕の高等部は何かに殴られたような感覚に襲われ、僕の心臓は再び大きく動き出した。


白い肌。長いまつげ。大きな目に高い鼻、すらっとしたその体に、僕は一瞬見とれた。何も言うことが出来なかった。


二人で信号待ちしている間も、僕は何も言えなかった。お礼を、言わなければならないのに。



それから信号は青になり、二人で歩き始めた。短い信号。僕が右に曲がろうとすると、彼女は左に曲がり始めた。


「じゃあね。君、今度は気をつけなきゃダメだよ?」


そう言って、彼女は白いスカートをなびかせて去っていった。その姿が、いつまでもいつまでも僕の脳裏に焼きついた。


まるで足場を一気に失い、今まで持ち合わせていた全てのもののバランスが崩れ、僕は不安定になった。



「fall in love…恋に落ちる、か。」


英熟語の教科書をパラパラとめくりながら、僕はため息をついた。


お姉さんは何歳なんだろう?

横須賀に住んでるのかな?

仕事とかしてるのかな?

彼氏とかいるのかな?



考えること考えること、全てが彼女のことへと繋がっていった。翔、14歳。あまりにも遅い初恋だった。




それからというものの、横須賀で、あの交差点で彼女と会えることを夢見て、僕は毎日のように自転車をこいで塾へと通った。塾が無い日でも、自ら自習室へと通い、あの時彼女に会えた時間にあの交差点を通るようにした。


それでも、彼女に会うことは一度もなかった。想いだけが募っていった。




出会いから2週間たった今日、アメリカの独立記念日だった。横須賀の米軍基地では毎年花火大会が行われ、町にも活気が出る。


「なぁ翔、今日一緒に花火観に行こうぜ。でっかいピザも食えるらしいぞ!」


同じ塾に通っているクラスメイトに誘われ、僕らは花火大会に行くことにした。あんまり行く気はしなかったが、もしかしたら気分転換になるかもしれない。もしかしたら、彼女にも会えるかもしれない…




僕たちは夜の8時ごろに待ち合わせをして、基地の中へと入っていった。普段食べることの無いでかいピザやハンバーガーを目当てに、どんどん奥の方へと進んでいった。無駄に派手なブレスレットや頭飾りなんてどうでもいい。



フライドポテトを口にほおばっていると、花火が上がり始めた。

「やっべー始まっちゃったじゃん。でも何気にこの場所よくね?立ちっぱってのがだるいけど。」



10発、20発と、どんどん花火が上げられていく。受験勉強の憂さも、募る恋心も、花火と一緒に弾けていっちゃえばいい、そう思った。



首を上げっぱなしにしているのに多少疲れて、僕はしばらく顔を元に戻していた。少しの間ボーっと遠くを見ていたら、どこかで見覚えのある横顔が遠くに見えた。


彼女だ―――



僕はいてもたってもいられなくて、花火の真っ最中なのに走り出した。


「ごめん、レモネード持ってて。すぐ戻るから。」

「えっ?!って、オイ!どこいくんだよ!」



あの横顔、絶対にそうだ。今会いに行かなきゃ、もう二度と会えないかもしれない―――この後会ってどうするとか何も考えられずに、ただ僕は走ってその影を追った。


―――確か、あっちの方に歩いていった



走って走って、人ごみの中を掻き分けながら、ただあの横顔だけを追った。




いた―――




そう思ったが、彼女の周りにはお付の人らしき男と、女の子の集団がいた。何やらキャーキャー言っている。


「どうかしたんですか?」僕は近くにいた10代後半くらいの女性に声をかけた。


「知らないの?!彼女はアメリカ人とのハーフで、ミス横須賀でもあり、パリコレにも出てた有名なモデルなのよ?!来日してたなんて知らなかった!!あ〜こんなところで会えるなんて、本当に来て良かった〜。マジでスタイル良すぎ!超奇麗!」


その女性の言っていることは、後半僕の耳には入ってこなかった。



ミス横須賀…


パリコレ…


有名なモデル…




僕とは、あまりにも違いすぎる世界だ…







回りのファンの女の子たちはようやくお付の人たちによってどけられ、彼女の回りはようやく静かになり、聞こえるのは花火の音だけになった。


その時、彼女と目が合った。


「あれ、君は…」


もう、頭の中ではなんにも考えられなかった。彼女はあまりにも奇麗で、僕の全てを麻痺させた。


「あ、あの…」


彼女は何も言わず、僕に向かって微笑んだ。


「あ、あの!あの時は、本当にありがとうございました!」


彼女は驚いたような目をして、それからフフフッと笑った。


「いーえ、どういたしまして。怪我が無くて本当に良かったわね。」


そういうと僕の体は一瞬で沸騰したように熱くなった。



「じゃあね。」彼女はそう言ってその場を離れようとした。




あまりにも違いすぎる世界―――


これが、もう最後なのかな―――




そう思った瞬間、何かに背中を押されたような気がした。もう、僕は走り出していた。



「好きです!」


もう、何も考えてなかった。気持ちがあふれ出しすぎて、僕ではもう止められなかった。この気持ちは、もう彼女にしか止められないんだ。



彼女はびっくりして後ろを振り向いて、何かを言おうとしたお付の人の口を押さえて制した。


それから静かに僕の方へと歩いてきた。


それから彼女は僕の前に立ち止まって、僕より少し高い背をかがめた。


「…ありがとう。」


そう彼女は一言言って微笑んで、僕の頬にキスをした。



彼女はそれからすっと立ち上がって、お付の人と人ごみへと消えて行った。








「…おーい、翔!お前どこいってたんだよ!花火終わっちまったじゃねえか!って、オイ、聞いてんのか?」


友達が何かしきりに言っていた。でも、僕の耳には何も届かなかった。




まったく違う世界かも知れない。でも、僕の気持ちが、少しでも彼女に届いたのなら、もうそれで十分だった。




帰り道、ケータイ片手に幸せそうに手をつなぐカップルや、奇麗な浴衣を着て友達と楽しそうに歩く人を見た。僕も、幸せだった。



7月4日のこの花火の夜―――いつまでも、忘れることのできない瞬間になった。

今日が勝負の日―――


この日のために新しい浴衣も買ったし、美容院にも行って、可愛いアクセも見つけて、準備万端―――



あとは…彼がOKという返事をくれるだけ…




今日7月4日は独立記念日。隣町にある横須賀米軍キャンプにて花火大会がある。今日、片思い中のクラスメート、勝也に告白しようって決めたんだ。


やっとの思いでメアドを聞き出して、しばらくメール交換をして、花火大会の誘いをした。超恥ずかしかったけど、OKもらえて、めちゃくちゃ嬉しかった。これはもう、告白するしかないと思った。



待ち合わせは駅前に夜7時。私はちょっと早く着いてしまい、とりあえず不備は無いか、全身をチェックしだした。


「おまたせっ」

その声が聞こえた時、私は心の中で『キタッ!!』と叫んだ。



だが、その声の先を見ると、私のテンションは一気に崩れ落ちた。


「なんかこいつも行きたかったみたいでさ。一緒でも別にいいよな?」

勝也の隣には、無駄に笑顔をひっつらねた、同じくクラスメイトの辰也がいた。


こんなとろまで一緒に連れてきて…「一緒は嫌」なんて言えるわけないだろ…!!!



とりあえず私たちはキャンプ入り口での荷物検査を終わらせ、中へと入っていった。



勝也と辰也は仲がいい。某漫画の双子の野球少年にちなんで、周りからはたっちゃんとかっちゃんなんて呼ばれたりする。明らかに一人は漢字が間違っているが。



私は想定していた甘いものと現実との差で萎えてたというのもあり、あまりエンジョイできずにいた。加えて、異常に仲の良い勝也と辰也は二人でくっちゃべっていて、どうしていいのかわからなかった。


「なーなー、アメリカが独立したのって、結局何年なんだっけ?」と、勝也。

「さぁ…1600年代とかじゃねーの?」辰也が言った。


おバカ。


「アメリカが独立したのは1776年だよ。君たち来年は受験なんだから、ちゃんと覚えときなさいっ」


「へぇー…、お前すげぇな。もしや優等生?」

「うるさいっ」



それから三人で色々と出店を見回ったが、私は浴衣で着たことを後悔した。歩きにくいし、食べにくい。それに加えて、暑い!家を出る前にシャワーを浴びたのに、私はまた汗をかいてしまった。


「ほら、お前のレモネード、持っててやるよ。」


そう辰也が突然言ったので、私はビックリしてしまった。確かに持ちにくかったから、お願いした。でも辰也が意外と気が利くなんて、正直意外だった。


これを勝也が言ってくれたらもっとロマンチックだったのに―――(泣)



私たちは早くに場所取りをして、そこに座ってのんびりカキ氷を食べた。


「そろそろ始まるころだな。」辰也が腕時計を見て言った。


それから5分くらいたった時、一発目の花火が上がった。赤と緑の大きくて派手な一発で、その瞬間、私の胸は大きく踊った。


「わぁ…奇麗…」


何発も何発もひっきりなしに上がっていって、瞬きをする暇もないくらいだった。さっきまであったモヤモヤも、一気に吹っ飛んでしまった。


100発くらい上がったころだろうか。私は、ふと勝也のほうを見た。子供みたいに喜ぶまぶしい笑顔―――余計なオマケはついてきたものの、やっぱり一緒にこれてよかった。


告白は…できるかわからない。



その時、突然辰也がこっちを見た。私はあわてて夜空の花火へと目線を戻した。


―――しまった…!よりによって、とんでもない奴に見られてしまった…!!


後で何か言われるかもしれない。からかわれるかもしれない。はたまた、勝也にちくられるかもしれない…!!



半べそになりながら、いつの間にか花火は終わっていた。


「さってと…俺はちょっと便所にでも行ってくるかな。ちょっとお二人さん、待っててもらえる?」と言って、辰也がさっさとその場を離れた。


ふぅ、やっと邪魔者が消えて二人っきりになれたぜぃ。




…って、オィ!これってもしかして、絶好のシチュエーションなんじゃないの?!そういえばさっき、辰也がその場を離れる時に私にウィンクしたような…その時はうぇぇキモいとしか思わなかったけど、あれは「告白しろよ」の合図だったのか!!!


「か、勝也くん…」 やばい、声が上ずった。

「ん?」

「…………は!花火!奇麗だったねぇ!!」

「そうだねぇ。毎年のことながら、いつもすごいと思うよ。」

「はは…」


それから、辰也が帰ってくるまでの20分間、何を話したのかなんて覚えていない。ただ覚えてるのは、告白できなかったということだけ。


「おまたせー。わりぃわりぃ、トイレ長蛇の列でさぁ。マジもらすかと思ったぜ。」



なんとも雰囲気ぶち壊しの辰也さんのお言葉。でも告白できなかったという事実だけで、私は既に萎えていた。


「じゃ、そろそろ帰りましょうか。」


駅へと向かい、私たち三人は電車に乗り込んだ。たわいも無いことを話しながら、夜はどんどん終わりに近づいていく。


「あ、私、次で降りるね。」

「俺ら送っていかなくて、本当に大丈夫なの?」

「うん、うち、駅から歩いて2分だから。」


電車の速度がどんどんと落ちていく。もうすぐでお別れなんだ。でも、私にはもう何かを言う気力も残されていなかった。


「じゃあ、今日はありがとう。楽しかったよ」

ドアが開く瞬間に、私は二人にそう言って後ろを向いた。慣れない下駄でホームに降りると、辰也に声をかけられた。


「理沙ちゃん理沙ちゃんっ、理沙ちゃんの浴衣姿、めっちゃ似合ってたよ!」


突然辰也がそんなこと言うので、一瞬わけがわからなかった。


「なっ、勝也?」


わ!わ!わ!勝也に余計なこと聞くな!!



「…うん、可愛いよ」


そう勝也が言った瞬間、電車のドアが閉まった。手を振る勝也に、ガッツポーズにウィンクをする辰也。私はしばらくホームから離れることができなかった。



今日は頑張ってよかった。本当によかった。ものすごいにやけてたから回りの人から変な目で見られたけど、今夜の私はただただhappiestだったのでした。

今日はアメリカの独立記念日。私の地元横須賀には米軍の基地があるために、毎年花火大会が行われている。

きっと地元のアメリカ人やそのお国にとっては一大イベントなんだろうけど、私や友達にとっては盛大な花火が見れてジャンクフードを食べて騒げる格好の場なので、ちょっと不純な理由で毎年遊びに来ている。


加えて、今日は私の誕生日だった。友人の加奈と陽子が、私を元気付ける為という理由で、私を外に連れ出してくれたのだ。



一ヶ月ほど前、私は大好きだった彼氏の健太と正式に別れたのだった。中学校の3年間ずっと片思いしていて、卒業式の日に意を決しての告白。OKをもらえた時は、もう死ぬほど嬉しかった。

でも、私たちは長くは続かなかった。高校も違ったし、しばらくは連絡を取り合ってたものの、音信不通になり、私は別れる道を選んだ。


その後、ずっと後悔していた。元には戻れないって知ってたし、何度も考えて決めたこと。でも、毎日涙が止まらなかった。私は元々明るいタイプだし、友達といるときも楽しく過ごせるんだけど、ふとした時に泣いてしまった。クラスでも一番仲良かった加奈と陽子は、私の隠した涙を知っていた。



「ではでは、真里菜の誕生日を祝して、かんぱーーい☆☆」

陽子の音頭でグラスを高く上げ、お互いに乾杯しあった。もちろん私たちはまだ高校生なので、レモネードで乾杯。


「ところでさ、アメリカが独立したのっていつだっけ?確か入試で出なかった?」

「さぁ…1820年とかじゃないの?」

「ちょっとやめてよー社会の話はっ!とりあえず独立できたし、真里菜も生まれたし、めでたしめでたし、でいいじゃんっ」

「そーね。とりあえず、あそこで売ってるピザから始めましょ」

「さんせーい」


私たちはとりあえず歩き回って、横須賀の商店街とはちょっと違った催し物を楽しんだ。無駄に明るいブレスレットとか、派手で飲みにくいストローがついたコップとか。



フライドポテトとレモネードを手に持って歩いてると、一発目の花火が上がった。


「やばっ、もうそんな時間?!場所取りに行かなきゃ!」


私たちは急いで走っていくと、そこはものすごい人だかりだった。


「あっ!あの辺、三人くらいなら座れるかも」

そこに腰を下ろして見上げると、結構いい場所だった。


「きれーい…」

日本で日本の花火なのに、米軍基地の中ってだけで、なんだか壮大なもののように感じられた。とはいっても、私はここの花火大会以外はあまり行かないので、他と比べようとも比べられないのだが。




100発くらいだろうか。赤や緑や黄色の火薬が空へと打ち上げられるのを見てると、私のケータイが鳴った。

「誰だろう?知らない番号だ。ねー、この番号、誰のか知らない?」

「え?!何、聞こえない」


とりあえず私は左耳を人差し指で抑えながら、電話に出でみた。


「もしもーし!」

やっぱり回りのノイズが大きくて、相手の声がよく聞こえない。


それからすぐ後、花火が上がるのが止まった。最後の連発花火の合図だ。周りが少しだけ静かになったので、やっと電話の主の声が聞こえるようになった。


「もしもーし、どなたですか?」

「あ、やっと聞こえた。…って、オイ、もう忘れちゃったのかよー」


飲んでいたレモネードの成分がのどにひっかかったのか、私は一瞬声が出なくなった。


忘れるはずも無い。3年間、ずっと大好きだったあの人の声なんだもん。


「健太…?」

「そうだよ。まぁ電話番号変わっちゃったから、しょうがないか。今、米キャンの花火に来てるの?」

「うん…」

「マジか。俺も実は今友達と来ててさ。」


その瞬間、最後の花火が上がった。何発くらいだろう。50発くらい、連続で上がったんじゃないかな。ちょっと聞こえづらかったけど、健太が「奇麗だねー」って言ったのが、遠くから聞こえた。




花火が完全に終わったとわかったのか、回りの人がいっせいにその場から動き始めた。私たち3人も立ち上がると、目の前の人ごみが突然ひらけだした。


どこにいても、私たちは出逢える―――そう思えた。私の視線の先には、ケータイを右耳にあてて微笑む、健太の姿があった。

健太は男友達2人と一緒に来ていて、その2人もこちらに気づいたようだ。


その時、加奈が私の背中をひじでつついた。ビックリして加奈の方をむくと、彼女は私に向かってウィンクをした。


「いよぉーう、加奈、陽子ー」健太の友達の一人が、そう二人を呼んだ。


「え…何、二人とも、あの人と知り合いなの…?」

「ふふふ、実はね。ま、というわけで、後は若いお二人にまかせて、わしらはちとここを去りますかのぅ」

「えっ…!」

加奈と陽子が二人で顔を見合わせてニヤニヤしたとき、あぁ、仕組んでくれたんだって気づいた。


「じゃあ真里菜、誕生日おめでとうでしたー♪また明日学校でねっ☆」


二人が健太の友達と去っていくのを何も言えずに見送った。左を向くと、そこにはまだ健太の姿。


私たちはとりあえずケータイを切って、ポケットにしまった。



―――どうしよう、こんな今更二人にされたって、気まずいだけ――――


健太が私の方に歩いてきた時、私は逃げ出したくてしょうがなかった。あの辛かった時期を一気に思い出して、泣きそうになった。


でも、会いたくてしょうがなかったんだって気づいた。



健太はそっと両手を私の肩に置き、微笑んでから、私の耳元で何かを囁いた。

「Happy Birthday。」


その瞬間、私の中で詰め込んでいた何かが、ぶわっと弾けた気がした。それから何度も健太はごめんって小声で言って、私を抱きしめてくれた。私は、涙が止まらなかった。



ありがとう、みんな、神様。16年間生きてきて、最高の誕生日プレゼントだったよ―――

ライン

この世は目に見えないものばかりだ。目に見えるものでも、ただ体で感じられるものでも、近すぎると見えなかったり、遠くに来てその大切さに初めて気づいたり。



これは近くに来過ぎて起きた『後悔』の物語である。



22歳女・フリーター。都心在住。彼氏アリ。毎日は平和で幸せなようでもあり、死にそうなくらい退屈でもあった。


ここ最近同じくフリーターだった彼氏の就職が決まり、彼は毎日に充実していて、お互い会える日は前よりも減ってしまったけど、そんな彼を輝かしく誇らしく思えた。



ただ、私の中で何かが変わった。



今でも彼のことを愛していると思うし、不満なんて無い気がする。でも、彼と私はもう同じ『枠』にはいないことに気がついた。彼は今までつるんでいた仲間ともあまりいなくなったし、今まで属していた『グループ』とは違う世界にいるようになった。




私は今までやっていたファーストフードのバイトを辞め、近所にできたもっと割りのいいレストランのバイトを始めた。

彼と会える日が減ったせいか。私は寂しくならないように、バイトを毎日ぎゅうぎゅうに詰め込んだ。「寂しい」なんて言えなかった。こんな弱さを見せちゃいけない気がしたから。



バイトは人間関係にも恵まれ、店長もいい人で、友達もすぐできた。特に同年代だったN子と調理担当のTとRとは帰りに飲みにいったりもした。


四人ともすごい気があって、バカみたいな話もたくさんできたし、一緒にいると気がまぎれた。ずっとこういう男女の友情っていうのにも憧れていたから、毎日が楽しかった。



そんなある日、私は変な夢を見た。



Tと抱き合ってキスをする夢だった。




私は彼氏のことを愛しているし、不満も無い。でも、毎日が退屈だった。


それから、私はTとキスをする想像を、ときどきするようになった。別に恋心を抱いているわけじゃない。ただ、別にTとならできると思った。きっと楽しいと思った。付き合いたいとか、全然そういう欲求は無い。だって、今の彼氏の替わりになれるほどじゃないって、わかっていたから。



その想像を始めてから、Tとするギリギリの掛け合いが楽しかった。まるで花火が打ちあがる直前のような高揚感。



7月11日はRの誕生日だった。Rは彼女と別れたばっかりだったし、N子とTと私で一緒に誕生日会をしようということになった。一人暮らしをしていたRのアパートに集まり、私たちは飲み会を始めた。私たちはいつも以上にハイテンションで、酒の量もいつもよりも多かった。


Tと私の距離も、いつもよりも近かった。


夜中の2時を過ぎた頃、N子とRが飲みつぶれて寝だした。Tもグデグデで、私はトイレに行こうとその場を離れた。

しばらく便座に座って一息ついていた。ちょっと今夜は飲みすぎた。少し気持ちを入れ替えなければと思っていた。


トントンとノックをされ、私はトイレから出た。


「あれ、やっぱり入ってたか。どこ行ったのかと思ったから。」少し目をしょぼしょぼさせたTが、そこに立っていた。


部屋に戻ろうとして歩き出したら、突然後ろを向いたTとぶつかった。


口から「ごめん」の言葉が出そうで出なかった。Tの顔は私の顔にすごく近くて、今にも唇が触れてしまいそうだった。でももうどうにでもなってしまいたかった。



でも、唇が触れた瞬間、どこかで何かが壊れる音が聞こえた気がした。


私は驚いてすぐに離れ、少し気持ちを落ち着かせた。



何かが壊れる音は、私の胸の中から聞こえたんだって気づいた。



私とTとの間には、一つのラインがあった。いつもいつも、そのラインの向こうには何があるんだろうというワクワク感があった。まるでクリスマスの朝のように。



近づきすぎて、私はそのラインがどこにあるのか見失っていた。そのラインを超えてしまった時、ラインの前にあったすべてのものが一瞬にして崩れ去った。まるで踏み場を失ったかのように。私はもう、このラインの前に戻ることはできないんだって気づいた。



私とTは付き合わなかった。それ以降も何もなかったし、私は彼氏にも言わなかった。



私の中でのキスの罪は、あまりにも重すぎた。これから一生、私はこの罪を背負って生きていくんだ、そう心のどこかで悟った。

首絞めて 抱きしめて

7歳までイギリスで生活していたから、私はちょっと回りの日本人の女の子とは違った。どんな風に違うか、それは上手く言葉では表せない。でも、私を含めた誰もが言わずとも感じていた。


栗毛色したJoshと出会ったのは、私が大学2年になった頃だった。ハーフの彼、日本語の名前もあるだろうに、でも誰もが彼をJoshと呼んだ。


どこで出会ったのか、はっきりとは思い出せない。出会ってしばらくたったころ、私たちは一緒にいることが多くなった。



きっとどこかで感じていた。肌よりももっと奥の、血の中の一つ一つの細胞が、『私たちは同類だ』と感じていた。事実、私たちの間には、他の誰も入ることのできない絆ができていた。



東洋の習慣とは違った生活をしてきた私たちの距離は、回りの誰のものよりも近かった。でもそれが、私たちにとっての『Natural』だったから。





出会ったその年の夏、私たちはキスをした。でも、Joshも私も何も言わなかった。私たちは付き合っていなかった。


それからしばらくして、私には彼氏ができた。普通の日本人の男の子で、私とは違うものを持っているところに自然と惹かれた。


それでも、私とJoshの関係は変わらなかった。たまにハグをしたり、たまにキスをしたりした。でも私にとって、Joshとの関係は恋愛じゃなかったから、彼氏に言ったりとか浮気だとも思わなかった。




そんなある日、私が彼氏との大学からの帰り道、Joshが他の女の子にハグをしているのを見かけた。




なんだろう、このイラツキ。





でも、私はそれを嫉妬だとも恋愛だとも認めなかった。そんな甘いものよりも、もっともっと、膝まつかせてやりたい乱暴な気持ち。


あんたは私のもんだ、って言ってやりたかった。



世界で一番selfishな感情だよ。それでも、あんたは私のことだけ想ってりゃ、それでいいんだから。

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