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復興作業が続く被災地で、放射能より深刻な影響被害が心配されている物質、それが山積みされたがれきなどに含まれる「アスベスト(石綿)」だ。
宮城県石巻市でがれきの撤去作業に従事する「高橋屋根工業」の高橋悌太郎社長がこう語る。
「このままでは多くの作業員や住民が飛散するアスベストによって“被曝”してしまいます。なのに、国も市も何もしようとしない」 繊維1本の細さが頭髪の1/5000程度のアスベスト。 石巻市で働く作業員たちのほとんどは防じんマスクなどしておらず、対策をしている人もせいぜい安物の風邪用マスク程度。
その危険性が周知されているとは言い難い。
2006年から、国内での使用が全面禁止されているアスベストだが、20世紀初頭から1960年代までは建物の断熱材や防火材、スレート材(波状の建材)、防音材などとして大量に使われてきた。 その危険性が広く知られるようになったのは、アスベストを扱うクボタとニチアスの従業員と周辺住民が多数死亡した2005年のこと。
このとき、高橋社長の親友もクボタの下請けとして働き、「中皮腫」(肺の周りの胸膜などにできる腫瘍。
発症の原因の大半がアスベストといわれている)という深刻な病気を発症した。
だからこそ、高橋社長は震災後すぐに、石巻市の市長や市議会議長に「徹底したアスベスト対策」を訴える陳情書を提出した。
だが、いまだに前向きな返答はないという。
アスベストの潜伏期間は長い。 阪神・淡路大震災が起こった1995年、がれき撤去に携わった人の一部が今になって中皮腫を発症し始めている。
これまで3人が労災認定されたが、アスベストの平均潜伏期間は30年とも言われており、まだまだ被害の全貌は明らかになってはいない。
しかも、30年後に「30年前のがれき撤去が原因」と訴えても、労災認定は難しいのだ。
そこで必要になるのが、現場でどれだけ働いたかという記録。 阪神・淡路大震災におけるアスベスト被害の労災認定を支援したNPO法人「ひょうご労働安全衛生センター」(兵庫県神戸市)の西山和宏事務局長はこう訴える。
「とにかく今のうちに会社に『何年何月から何年何月までがれき撤去や解体に従事した』との証明書をつくってもらうこと。労災認定への証拠になります。また、厚生労働省発行の『(石綿に関する)健康管理手帳』は、アスベストが発生する現場で1年以上働き、労働基準監督署の審査に通るともらえます。医療機関での健康診断が年2回無料になる。周知されていないのが難点ですが、ぜひ利用してほしいです」 古い建物も多い被災地では、アスベスト被害がより深刻化していく可能性が高い。 だが、行政はいまだに積極的な対策を取ろうとはしていない。
作業員は自分で自分の身を守るしかないのだ。
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★被災地での病気(哀)★
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東日本大震災の発生から2カ月が過ぎた。仮設住宅の建設が進まず、被災者の避難所生活は長期化する。
ストレスや睡眠不足などが重なり体調を崩す被災者も多い。
岩手県陸前高田市の避難所の一室を1カ月余り取材し、避難所暮らしの現状を探った。【竹内良和】
◇避難所閉鎖におびえ…陸前高田 5月4日、同市の特別養護老人ホーム「高寿園」を訪ねた。震災当日から避難所となり約180人が暮らす。 玄関先のポールに、こいのぼりが泳いでいた。
ホームの一室「まんさく」では、 「いつになれば仮設に入れるんだ」
「市長や職員は一度も様子を見に来ないじゃないか」
との会話で持ちきりだった。
通常、入所者がベッド4台を並べる20畳ほどの部屋に6世帯14人の被災者が寝泊まりする。 生活用品が入った段ボールを各世帯の仕切り代わりにし、毛布を床に広げての雑魚寝が続く。
先の見えない避難所暮らしに皆いら立ち、不満の矛先は市に向かっていた。
石井嶺雄さん(66)は毛布1枚強のスペースに、妻と長男の3人で過ごす。 余震におびえ、眠りの浅い日々が続く。
「専らの話題は仮設への入居。市からの情報もなく、すべて臆測でものを考えてしまっている。『一晩で帰れる』と思って家を出たのに……」
そして、部屋の人たちは 「震災2カ月で避難所が閉鎖されるらしい」
と口々に不安を訴えた。
市には4月30日時点で、県から災害救助法に基づく避難所の運営を、
「7月10日まで延長する」
との連絡が入っていた。
しかし、市が広報紙で被災者に「延長決定」を伝えたのは5月7日。
被災者は約1週間も無駄に悩んだことになる。
◇食欲減り、エコノミー症候群も 部屋を初めて訪ねたのは4月1日。 当時は避難所に生鮮食料品が届かず、おかゆやカップめん、パンで3食をしのいでいた。
「いただけるだけでありがたい」
と感謝しながら食事をとっていたが、野菜がとれず胃がもたれ、皆の食欲は次第に減退していった。
食欲不振に加え、行方不明の次男夫婦を捜し歩いたことで地震後1カ月で体重が7キロも落ちた及川和子さん(70)は 「体重計が壊れているかと思った」
と振り返る。
被災50日目で食事に初めて缶詰以外の魚が出た時は、
「こんなにブリがおいしかったのね」
と部屋で笑い合ったという。
トイレも不自由だ。 男性は、屋外の仮設トイレまで約100メートル歩かねばならず、女性用は屋内にあるものの、ポータブル式のため悪臭が漂う。
皆、知らず知らずのうちに水分を控えていたという。
4月中旬以降、過酷な暮らしがたたり、部屋の9人が、急性胃腸炎などで次々と倒れた。 一時は部屋にいくつも点滴が下がり「病室のような状態」になった。
菊池弘(ひろ)さん(73)は急性胃腸炎で1週間入院。 更に退院後の健康診断でエコノミークラス症候群を発症していたことが分かった。
体調不良で点滴をした夫の友一さん(74)は
「みんな、薬の袋をいっぱい持ってる。僕らだって気晴らしにお酒を飲みたいけど、ここじゃ大っぴらにはできない」
と苦笑する。
救いは6世帯中5世帯が元の近所同士で気心が知れた仲だったこと。 津波時、公民館長として避難を呼びかけた千田勝郎さん(70)はムードメーカー。
「おれは老人クラブの青年団。まだまだ元気だ」
などと冗談を飛ばし、隣人を励ます。
「みんな一緒に近くの仮設に入りたい」。
被災者の切実な願いだ。
□ □ 陸前高田市は震災で職員の4分の1が死亡・行方不明になった。 他自治体から応援職員も入ったものの、震災業務で忙殺されている。
市の広報担当は
「住民基本台帳すら流されてしまい、すべての業務を一から始めないといけない。職員の手が足りない」
と語る。
避難所への日常的な情報伝達は、職員が1人で編集するA4判2ページの広報紙のみ。 市は避難所の状況を自衛隊を通じ把握しており、被災者が求める情報を細かに把握することが難しい状況だ。
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東日本大震災で被災者の避難生活が長期化し、被災者の体力の低下が懸念されている。
ゴールデンウイークには被災地にボランティアとして向かう人も増加。
人の出入りが多くなることもあり、専門家は感染症への一層の注意を呼びかけている。
現在、避難所で注意が必要とされているのが、インフルエンザの数倍の感染力を持ち、現在流行の兆しをみせている 「はしか」
だ。
国立感染症研究所によると、患者報告のピークは例年5月末から6月。 はしかの感染力はインフルエンザの6〜8倍ともいわれる。
直接接触しなくても同じ部屋にいるだけで感染するため、集団生活の被災地では感染が拡大しやすい。
長引く避難生活で被災者の体力は低下しているとみられ、同研究所感染症情報センター第三室の多屋馨子室長は 「被災地ではしかが流行すれば、重症の患者が通常よりも多く発生するのでは」
と懸念する。
大型連休で被災地に大勢訪れているボランティアが、はしかの感染拡大のきっかけになる危険性も指摘されている。 不特定多数の人が被災者に接することになるためだ。
多屋室長は 「はしかの罹患(りかん)歴やワクチンの接種歴が分からない人は、接種してから被災地に行ってほしい。体調が悪ければ行かない英断をして」
と訴える。
避難所では口内の衛生状況が悪化し、高齢者を中心に誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクも高い。 気温が上がって注意したいのが食中毒だ。
避難所の衛生状態は徐々に改善されているとはいえ、流水による手洗いができない場所もまだあるという。
国立感染症研究所は 「食中毒の防止に加熱調理器の設置を進めるべきだ。夏に向けて、暑さによる体力の消耗や脱水にも注意が必要だ」
と話す。(油原聡子)
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東北大学病院(仙台市)の眼科、耳鼻咽喉(いんこう)科、皮膚科の3科の医師らによるチームが、津波で大きな被害を受けた宮城県の南三陸、女川両町で無料の巡回診療を続けている。
両町内の中核病院に医師を派遣していた経緯もあり
「感覚器の病気を診る3科でまとまって被災者を助けたい」
と巡回に乗り出した。
医師らは口々に
「被災者が困っている今こそ、医師の我々にできることをしたい」
と話す。
巡回チームの1日に同行した。【村松洋】
「霧がかかったみたいに見えなくなって……」
南三陸町の避難所になっている町総合体育館横にあるプレハブの仮設診療所。
東北大医学系研究科の中沢徹・准教授(40)らが診察する眼科の診察室に、左目の視界の下半分がかすむという男性(66)が訪れた。
今年2月末、右足の静脈に血栓ができ、同県石巻市内の病院に入院し手術を受けた。
目の曇りもそのころ気づいた。
退院したら眼科で診てもらう予定だったが、入院中に震災に遭い、診療を受けられなかった。
診断は「網膜中心動脈分枝閉塞(ぶんしへいそく)症」。
目にできた血栓が原因という。
血栓を溶かす薬の投与など早期の治療で進行を防げた可能性もあったが、1カ月以上が経過し回復は難しい。
診察時には血栓がなくなっていたため経過観察になった。
男性は
「早く治してもらおうと思ったが、震災で病院にもいけなかった。原因が分かって少しだけ安心した。これ以上悪くならないようにしたい」
と話した。
この仮設診療所は震災後、イスラエルから医療支援に駆け付けた医療チームが建て、残していったものだ。
鉄筋コンクリート5階建ての同町の中核病院で、大津波で4階まで浸水した公立志津川病院が仮設診療所としてこのプレハブで診療を再開している。
東北大病院の巡回診療チームは3科の医師やスタッフ、医学部の学生ら15人前後。
余震の影響で診療できなかった8日を除いて4月1日から毎週金曜日、南三陸町と女川町で医療にあたっている。
限られた時間で一人でも多くの患者を診察できるよう、両町内で計5台のマイクロバスで送迎し、避難所の住民に集まってもらう。
◇大分から経費支援中沢准教授らの発案に、知人を通して活動を知った大分県由布市の有志が支援に動いた。
バスのガソリン代など必要経費約100万円のうち半分を目標に募金している。
女川町総合運動公園にある体育館内の救護所。
耳鼻咽喉科の加藤健吾医師(40)と浅田行紀医師(41)の元には、約20人の診察希望者が列を作った。
町内に住む岸直勝さん(77)は、津波の後から「ゴー」という海鳴りのような音が消えない。
鼓膜に異常はないが原因不明。経過観察となった。
◇震災後初の診察巡回チームによると、診察を受けるのは震災後初めてという人がほとんど。
加藤医師は震災のために治療を受けられなかった患者の多さにやりきれない思いだが、一方で患者の変化に明るい兆しもみている。
「アレルギー性鼻炎など、以前からかかっていた比較的軽微な疾患の患者も増えている。被災地でも震災前の日常が少しずつ戻り始めている兆候なのかな、とも感じるんです」
塚田全(あきら)医師(34)は、県外から支援に来た日本皮膚科学会の医師らとともに皮膚科の診察にあたっていた。
女川町立女川第一小学校で避難生活を送る阿部忠好さん(53)は頭皮の湿疹で受診した。
親戚の家で週1回しか入浴できないうえ、避難生活のストレスも重なる。
頭皮を殺菌する塗り薬などを処方してもらった。
皮膚科では、頭皮がかゆくなる「脂質性皮膚炎」や、ストレスでアトピー性皮膚炎が悪化したと訴える患者が目立つという。
また、夏場になるとダニを介した感染症も懸念されるといい、布団や服を清潔な状態に保つよう、被災者やボランティアに呼びかけている。
石巻市の親族宅に避難する及川美穂さん(31)と息子麗央(れお)君(9)は、自宅も、通院先の石巻市内の眼科も津波に流された。
麗央君は震災前、近視の手前の症状とされる「仮性近視」と診断され、点眼薬で治療をしていたが、津波で夜用の点眼薬を失った。
診察を受けた後、美穂さんは
「薬がなくて症状が悪化しないかずっと心配だった。本当にほっとしました」
と喜んだ。
中沢准教授によると、被災者の中には津波からの避難時にコンタクトレンズやケア用品を持ち出せず、交換の期限を過ぎてもつけっぱなしにしている人も多いという。
中沢准教授は
「つけっぱなしだと角膜の感染症のリスクも高まる」
と注意を呼びかけている。 |
長期化が確実な避難所生活や、がれきの除去などの復興作業が本格化していることで、被災地での感染症の発生が心配されている。
避難所などでは集団生活を強いられるため、局所的な集団感染などが発生する懸念もある。
津波の影響で、土の中にいた病原菌が巻き上げられるなど、普段はなじみの少ない感染症が発生する可能性もあり、国立感染症研究所なども注意を呼びかけている。(蕎麦谷里志)
■インフル、ノロ 最も注意の必要な感染症の一つがインフルエンザだ。 全国的な流行は下火になりつつあるが、人が密集した避難所などで1人が発症すれば、局所的な集団感染を引き起こしかねない。
実際に、宮城県岩沼市の避難所で80人中15人が感染するなど、複数の避難所で集団感染が確認されている。 ここ数週間の流行状況をみると、高齢者が感染すると重症化しやすいとされるA香港型が最も流行しており、高齢者の多い避難所などは特に注意が必要だ。
ノロウイルスやロタウイルスによって引き起こされる感染性胃腸炎にも気をつけたい。 下痢や嘔吐(おうと)などが主な症状で、乳幼児を中心に感染が広がる。
避難所ではトイレの整備が不十分で、手洗いのための水も不足しており、集団感染につながるリスクも高い。
衛生状態が悪化した場合、ネズミが大量発生する可能性がある。 その際に懸念されるのがネズミの排泄(はいせつ)物から感染するレプトスピラ症だ。
軽症の場合は発熱など風邪症状で治まるが、1割で腎不全など重症化することもある。
避難所の生ゴミや、備蓄されている食料の管理なども感染予防には大切だ。
■破傷風 がれきの除去作業中にも感染症のリスクは存在する。 傷口から菌が侵入して発症する破傷風だ。
菌の毒素により、口がしびれて動かなくなったり、呼吸困難などを引き起こし、治療を怠ると死亡することもある。
40代以上はワクチンを打っていない可能性が高く、より注意が必要だ。
国立感染症研究所などによると、平成16年のスマトラ島沖地震でも100人以上の患者報告があったといい、今回の東日本大震災でもすでに宮城県と岩手県から計6人の患者が報告されている。 いずれも震災時にけがをして感染したケースとみられる。
■ツツガムシ病 津波が影響する感染症もある。 肺炎を引き起こし、治療を怠ると死亡することもあるレジオネラ症もその一つ。
原因となる菌は普段は土の中にいるが、津波によって土とともに巻き上げられ、感染リスクが高まっている可能性があるという。
スマトラ島沖地震でも、津波被害が出た地域で肺炎患者が多発したとの報告があり、レジオネラ症が疑われているという。
ダニの一種であるツツガムシに刺されて感染するツツガムシ病も、以前は「洪水病」などといわれ、洪水や土砂災害などが起きたときに多発してきた。 特に福島県は、普段から全国で最も患者報告が多いうえに、春先は流行期でもある。
主な症状は発熱や発疹だが、適切な治療を行わないと重症化の恐れもある。 農作業や土木作業、河川工事の最中にも刺される可能性がある。
対策には虫よけ剤なども有効という。
国立感染症研究所感染症情報センターの岡部信彦センター長は 「被災地では衛生状態も悪いのでさまざまな感染症のリスクがある。予防には疾病ごとに注意するのではなく、手洗いなどの衛生管理や、マスクの着用、虫さされ予防など、基本的な感染症対策を講じることが大切だ」
と話している。
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