―昨年12月。日本政府は原発事故は収束し、原子炉は「冷温停止状態」にあると宣言しました。
アーニー 言葉遊びのようなもので、ウソです。原子炉が冷温停止状態にあるのは喜ばしいことです。しかし、だからといって原子炉が安定しているわけではない。ちょっとしたトラブルで、事故当時の深刻な状況に逆戻りします。レスリングでいうなら、今は手ごわい対戦相手を辛うじてねじ伏せているにすぎません。
―隙あらば、フォールをはじき返して襲いかかってくる?
アーニー 冷温停止とは、放射性物質の漏洩がなく、大気圧下で93℃未満に保たれた原子炉冷却システムのことを指します、ただし、システムは密封されて漏れのないことが条件で、福島第一原発はこれを満たしません。そもそも、メルトダウンした燃料がどのような形状で、どこにあるのかもわからないのです。このような状況を収束と呼べるわけがありません。
―では、4基の原子炉の現状をどう評価しますか?
アーニー 最も古い1号機は津波でなく、その前の地震によって配管などがダメージを受けた可能性が高い。津波が到達する前から、圧力や温度データに異常が見られるからです。また1号機もそうですが、2号機は7㎝の亀裂が生じるなど、格納容器の破損が最も激しい。損傷した格納容器の割れ目から漏れ出る冷却水で今後何年にもわたって大気と地下水が汚染されることでしょう。ただ、残りの2基よりはまだ扱いやすいと言えます。
―3号機はどうでしょうか?
アーニー 3号機では使用済み核燃料プールで穏やかな即発臨界が起こったと考えています。3号機から立ち上った黒いキノコ雲に見覚えがあるんです。1961年にアイダホ州のSL1という原子炉で即発臨界事故がありました。その事故の検証実験を収めた米政府のビデオにも、同じような現象が映っていたのです。
今回、3号機の建屋の南側で閃光が見られた後、上向きに大きな爆発が起こりました。しかし、通常の水素爆発の衝撃波とは速度が異なるのです。だから東京電力の主張している水素爆発ではなく、プール内で臨界による爆発があったと考えるのが最も自然なのです。
―3号機は格納容器からの放射性物質漏れに加え、臨界による爆発があったと考えられる分、1、2号機よりもより事態は深刻というわけですね。
アーニー 爆発によって、プール内に落ちたコンクリート瓦礫から溶け出た水酸化カルシウムによって、プールの水がアルカリ性になっていることも心配です。燃料棒の被覆管に悪影響があるかもしれません。
―4号機は定期点検のため、原子炉内に燃料棒が入っていませんでした。リスクはプール内の使用済み核燃料だけと考えると、3号機よりは安心なのでは?
アーニー 実は事故当初からそうですし、今もなお4号機が最も危険なのです。プール内の燃料は事故の4ヵ月前に炉内から取り出されたばかりのもので、今でも何メガワットもの崩壊熱を発しているシロモノです。重量も膨大で、日本の原発1基が燃やす10〜15年分に相当します。そのプールが斜めに傾き、建屋も損傷し、核燃料が野ざらしの状態にあるのです。
もし大きな地震が起きて、プールが壊れたら、内部の冷却水が流出する事態になります。そしてプールの水は干上がり、2000℃に達した使用済み燃料が燃えかねません。さらに、蒸発した水から水素が発生すれば、大爆発を引き起こしかねないのです。
―格納されていない核燃料がむき出しの状態で燃える?
アーニー はい。そうなると、もはや消し止める方法がわかりません。それは科学がシミュレーションさえしたことのない、未知の事態なのです。
―万が一、プールで火災が起きたらどうなるのでしょう……?
アーニー 4号機のプールには、人類がこれまで行なった核実験で放出された全放射性セシウムに匹敵する量の燃料が眠っています。それが放出されるのだから、日本列島は放射性汚染物質で分断される事態になりかねません。人体への影響も深刻で、米ブルックヘブン国立研究所によれば、事故によってがんによる死亡が最大13万8000件も増えるといわれています。
―プールの核燃料をコントロールする方法はないのでしょうか?
アーニー プールから一刻も早く核燃料を取り出すことです。ただ、その作業は専門家でさえ途方に暮れる難作業です。まず使用済み燃料を空気中でも保管できるよう、水中で3〜4年間じっくり冷やします。その後、大型クレーンを建造し、直径3m、厚さ7.5㎝ほどのキャスク(鋼鉄製ドラム缶。核燃料を詰めた状態で重さ約100t)を地上から30〜40m持ち上げ、プール内に沈めて核燃料を詰め込み、再び地表へ下ろし、運び去る作業を50回前後こなさなければなりません。
もしキャスクを落としてしまったら、東京を壊滅させるほどの事故になりかねません。一度だけならそのリスクに挑戦できるかもしれません。しかし、人が近づけない高線量の中で50回連続で成功させることは容易ではないのです。
【事故の本当の原因は冷却用海水ポンプ?】
―なんだか、絶望的な気持ちになります。そもそも原発事故はなぜ防げなかったのでしょうか?
アーニー お金、採算の問題です。電力会社がコストを惜しんで安全対策を怠ってきたためです。今回の事故の原因として、非常用ディーゼル発電機が地下階に設置され、津波で水没したことが指摘されていますが、高台に2台、それぞれ異なる高さで分散設置しておけば、水没は免れたはずでした。このためのコストは1億ドル(約80億円)もあれば十分なのに、東電は実行しませんでした。コストを惜しんだのです。冷却用海水ポンプの問題に東電が触れたがらないのも同じ理由からでしょう。
―冷却用海水ポンプ? どういった問題なのでしょうか?
アーニー 原発の冷却システムは、燃料の崩壊熱を取り除く循環系統(上図のA)と、海水をくみ上げて炉心から出る蒸気を冷却する系統(上図のB)のふたつで基本的に成り立っています。昨年3月の原発事故では、海べりにある冷却用海水ポンプは津波で真っ先に壊れました。ということは、もし非常用ディーゼル発電機が無傷で、その電力によって原子炉を冷やすことができていたとしても海水での冷却機能は使えず、最終的に原子炉を根本から冷やすことはできなかった。
つまり、ディーゼル発電機が無事だったとしても、1?3号機のメルトダウンは防げなかったのです。海水ポンプを津波から守るには設備を防水すればいいのですが、そのコストは100億ドル前後かかる。先日、中部電力が熱心に安全対策を進めている浜岡原発(静岡県御前崎市)を視察したところ、海水ポンプの防水策を進めようとしているものの、まだ実現できてはいませんでした。
原発の基本的な冷却システムはAとBの両方が循環することで成り立っている。津波や地震で循環水(海水)ポンプが損傷すると、海水をくみ上げられず根本的な冷却機能を失うことに。事故の原因は海水ポンプの防水性が脆弱だったから!?
―海水ポンプの防水コストを惜しんできたことがバレるとさらに非難されるから、東電は冷却用海水ポンプの話題に触れてこなかったのでしょうか?
アーニー はい。海水ポンプの不備は日本中の原発に共通する弱点です。その対策がない以上、ストレステストに合格しても政府は原発を再稼働させるべきではありません。
―今後、日本はエネルギー政策をどう進めるべきでしょうか?
アーニー これ以上、原発にエネルギー源を頼ることは賢明な選択ではありません。原発の危険性、経済的非効率性がはっきりしたからです。ドイツのように長期計画で脱原発を進め、再生可能エネルギーの開発へと乗り出すべきです。さらにスマートグリッド(次世代送電網)を実現させ、それらを再生可能エネルギー関連技術として世界に輸出すれば、脱原発と経済成長を同時に実現できます。日本にはその技術力、資金力があると確信しています。
●アーニー・ガンダーセン
1949年生まれ。原子力技術者として、全米で原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わり、エネルギーアドバイザーも務める。著書ではその豊富な知識と経験を基に、福島原発の現状を分析。