実に濃い二日間だった。
エンジン関係以外の全ての電源が落ちたヴィッツちゃんで、会社に行く。
生憎の雨予報なのに、運転席の窓は閉められないまま。
車の後ろに「ブレーキランプ故障」と大きく貼り紙し、会社の駐車場へいつもより早めに滑り込む。
駐車場の敷地の隅っこ、誰も使わない一番遠くの陰にヴィッツちゃんを押し込み、運転席窓にビニールを貼った。
私の会社は自動車産業の端くれに位置しており、従業員の所有車両の違法改造や整備不良をうるさく取り締まっている。
ブレーキランプが光らない、ワイパーも動かない、室内電源が全て落ちてスピードメーター動かない、赤や黄色の警告灯が乱舞する車など、人事部の格好の餌食だ。
だから、目につきにくい隅っこに隠すように駐車したのだ。
ソワソワしながら一日の仕事を終えてヴィッツちゃんの所に行く。
私がパラグライダーに精を出す土日にはちっとも当たらない天気予報が出した雨予報、どういう訳かバッチリ当たって土砂降りである。
キチンと閉じたビニールのお陰で、室内は濡れていない。
しかし、運転中の視界を確保できる程の透明度のビニールは手に入らなかったので、運転中は剥がさなくてはならない。
ダッシュボード上の電子機器とドアスイッチ周りにタオルを敷き、防水にもならない防水処理をして帰宅した。
帰宅途中、メーター内に新しい警告灯が点灯したのが見えた。
バッテリーマークが点灯、それも赤色だ。
赤色の警告灯は「ヤバいから今すぐ車を止めろ!」を意味する。
今、この状態でバッテリー警告が光るという事は、電圧不足の可能性が高い。
自宅まで残り3キロくらいある。
コンビニに飛び込んでJAFを呼ぶべきか、走れる限り走るべきか。
後者を選んだ。
万一のエンジン停止に備えて、路肩の停車できそうな場所を常にチェックしながら走行する。
電子機器は全てオフ、と言うか必要な機器まで電源が落ちている始末だから、これ以上使用電力を減らす事は出来ない。
どうにか自宅に帰宅し、駐車場にヴィッツちゃんを滑り込ませた。
ライトを消し、アイドル状態のエンジン音に耳を傾けると、明らかに不安定な回転をしている。
もう、走れそうにないな・・・と冷静に考えつつ、一度エンジンを切って再びキーを捻るも、エンジンルームから回らないセルモーターの音が「カカカカ・・・」と鳴るだけだった。
明日の出勤手段確保の為に、FAFに電話する。
車のバッテリーがあがってしまったので、充電して欲しい。ただしバッテリーが上がった原因は、故障である、と伝えてロードサービスを待った。
20分くらいで来てくれたロードサービスのお兄さんに、状況と故障内容を伝えて、走れるようにして欲しいと伝えたところ、拒否された。
「我々ロードサービスの仕事は応急処置であり、修理ではない。ヒューズが飛んだ車を路上に出すなんて発想は、我々に無い」
と、そう言われてしまった。
それなら自己責任で運転するから、バッテリーだけ充電して欲しいと言ってみたが、
「我々が持っているのは始動用補助電源であり、充電電源ではない。自分で充電できない車を復帰させる機械は持ち合わせていない」
とコレも拒否される。
ただし、「開きっぱなしの運転席の窓を閉める事は、ロードサービスの業務として行う事が出来る」と言って作業を開始した。
ネッツ店のエンジニアが「原因不明」「部品交換しか対処方法が無い」と言ったヴィッツちゃんの窓を閉められる?
どんな手法を使うのかと思ったら、故障したヒュージブルリンクブロックをドライバーでこじ開け、中で溶断しているヒューズの金属片をニッパーでこじって接続した。
「エンジンは掛けずに、キーをONにしてみて。きっとパワーウインドウは動くから」
言われた通りに操作すると、ネッツ店で閉められなかった窓が、あっさり上がった。
「何が原因か分からないけど、きっとエンジンを掛けたらもう一度ヒューズが切れる。絶対に運転しないで」
しかし、明日の朝も車で出勤しないといけないんだけど・・・
そう言って相談すると、
「JAFはタクシーじゃないから人を運ぶ事は出来ない。でも、故障車を移動するため、持ち主を乗せる事は出来る。会社まで車を牽引するなら、予約出来るよ」
もともと、翌日の会社終わりに販売店に行き、修理して貰うつもりであった。
ならば、ヴィッツちゃんは会社にあった方が良い。
だから翌朝、会社まで牽引して貰うように手配して貰った。
その時の明細。
翌朝。
朝4時に牽引作業の予約をしていたので、早めに起きて駐車場で待っていた。
JAFのレッカー車が早朝の静けさと暗闇を引き裂いて、アパートの前に止まる。
作業内容の確認をして、レッカー準備に入って貰った。
真っ暗な早朝、トラックのエンジン音と油圧作動音、レッカー用具やチェーンを引きずる音が周囲に響く。
車両窃盗で通報されるんじゃないかと少し不安になったが、通報される前に準備が整って走り出せた。
会社まで牽引して貰う、という口実で私を会社まで送ってもらう。
その時の明細。
牽引中のレッカー車は会社の駐車場に入れなかったので、会社横の空きスペースに路上駐車して貰った。
「路上駐車ですので、駐禁を切られたり、お車の破損、車上荒らしなどあってもJAFは責任持てません」
と言われて了解して明細を作って貰ったが、「車両の管理はお客様の責任のもとでお願いします」と印刷してあるシッカリっぷりは安心感が持てる。
仕事中に販売店に電話し、ヴィッツちゃんが不動になってしまった事、会社までは移動してある事を連絡し、積車で迎えに来てほしいとお願いした。
しかし、今日は積車が全部出払っており、迎えに行くのは無理だからJAFを利用してくれと言われてしまった。
仕方なく、仕事が終わってからJAFに電話。3回目。
故障車両の移動を頼みたい、と伝えて名前を言うと、すぐに「赤いヴィッツの方ですね?」とオペレーターが応答した。
もはやJAFの常連である。
待つこと20分、JAFのレッカー車ではなく、荷台がスライドするガチの車両積載車が来てくれた。
電話で行き先の販売店を告げていたため、積載完了するとすぐに出発してくれた。
販売店側にも「不動になった車両が積車で運ばれてくる」という連絡は届いていたらしく、積車の到着からヴィッツちゃん受け渡し、整備工場への入庫まで実にスムーズであった。
積車の明細。
整備工場に入庫されると、色々なテスターをエンジンルームに突っ込まれ、色々検査されている。
ライトを点けたり消したり、派手にエンジン回転数を上げてテスターでモニターしたり。
2時間近く待たされて、ヴィッツちゃんは整備工場から帰って来た。
「様々な検査をさせていただきましたが、オルタネーターにも関連回路にも、問題はありません。
切れたヒューズも、依頼された部品の交換も行いました。
恐らく、ヒューズが切れた原因は、作業中に何らかのショートが発生したからだと思われます。
オルタネーターはバッテリーと直結ですし、外した配線の先端からショートしたのかもしれません」
と、とても丁寧な説明をしてもらった。
販売店が出してくれた明細。
「異常見られず」とハッキリ明記してくれているのが嬉しい。
部品代と工賃を支払い、久しぶりに元気になったヴィッツちゃんとドライブ。
バッテリー警告が点くレベルまでバッテリーを干上がらせてしまったので、充電も兼ねて少し遠回りして帰宅する。
久々のパワーステアリングの感触、室内に流れるお気に入りの「モーニング娘。」、明るいメーター。
人も車も、健康が一番である。
スルスル動くパワステより、力任せに押さえ付けて、必死でハンドルにしがみついていた故障中の方がハンドル操作は楽しかった・・・と思ったのは内緒である。
コッソリ、パワステOFFスイッチを増設しようかな(笑)