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<発酵> 有機物が微生物の作用によって分解され、アミノ酸や乳酸、有機酸、アルコール類、二酸化炭素などが生成される現象で、一般には人間や動植物の活動にとって都合がよく役立つもの(有用物質)が生産される場合をさし、有害物質が生産されたり悪臭を発したりする「腐敗」と対比的に用いられる。 好気性微生物(カビ〈糸状菌〉、細菌、放線菌など)による好気発酵と、嫌気性微生物(酵母、細菌〈乳酸菌、光合成細菌〉など)による嫌気発酵とがあり、有機物の堆肥化(コンポスト化)やボカシ肥づくりはおもに前者を、発酵食品やサイレージの製造は後者を利用したものである。 <腐敗> 有機物(有機チッソを含む物質)が微生物の作用によっておもに嫌気的に分解され、有害な物質が生成されたり悪臭が発生したりする現象。一般には、食品や農畜産物などが微生物の作用によって変質することをさす場合が多いが、農業関係では土や畑の状態をさすことも少なくない。 土壌中にすき込む有機物(緑肥など)の水分の多少が、畑の土が発酵型になるか腐敗型になるかの分かれ道になる。水分が多くて(酸素の供給が不十分で)腐敗菌を繁殖させてしまうと、その畑は病気が蔓延しやすい圃場になってしまう。腐敗菌が優占してすみ着いているので、ちょっと条件が悪いとすぐ病気が出て、薬ばかりかけるような畑になる。 <こうじ菌> 糸状菌(カビ)の仲間。味噌づくりはもちろん、ボカシ肥や発酵肥料づくり、土ごと発酵もこうじ菌から始まるので「発酵のスターター」といわれる。「酵素の宝庫」と呼ばれるくらい多様な消化酵素を出して有機物を分解する。デンプン以外にタンパク質や脂肪も分解できる。 大きな特徴は、炭水化物=デンプンを微酸性下でブドウ糖や果糖などの単糖類に分解(糖化)すること。この糖類は乳酸菌や酵母菌などの微生物のエサとなり、微生物の活動を活性化する。 <納豆菌> 名前のとおり納豆ができるときに働く菌で、タンパク質やデンプン、脂肪を分解する力が強く「分解屋」の異名を持つ好気性菌。分類上は、バチルス属の中の枯草菌の仲間で細菌の一種。 田んぼや湿地を好み、ワラや枯れ草などに棲みつく。pH七〜八の弱アルカリを好む。「宇宙から来た菌」「世界最強の菌」と呼ぶ人もいて、高温や低温、乾燥などの悪条件下では芽胞を作り(休眠)、何万年でも生き延びる。ほとんどの農薬に混ぜても平気。紫外線や放射線にも強い。 増殖スピードが速いので病原菌との椅子取りゲームに強く、抗菌物質やセルロース分解酵素も出すので、作物の病気対策に力を発揮。納豆菌の仲間のバチルス菌が微生物農薬として市販されているほどで、食品の納豆を利用した納豆防除に取り組む農家も増えている。 薄上秀男さんによると、極上の発酵肥料をつくる際には、最初に糸状菌(こうじ菌)による糖化作用、続いて納豆菌によるタンパク質の分解作用、最後に酵母菌によるアミノ酸の合成作用という三段階が必要で、中でも納豆菌による分解作用が十分に行なわれるかどうかがカギになるという。 <乳酸菌> 通性嫌気性菌で、嫌気的な条件で乳酸をつくるが、酸素があっても平気。桿菌と球菌があり、桿菌にはヨーグルトや乳酸菌飲料をつくるラクトバチルス、球菌にはチーズやヨーグルトをつくるストレプトコッカスなどがいる。 糖をエサに乳酸などの有機酸を多くつくり出し、抗菌作用を発揮するため、「掃除屋」の異名を持つ。pHを下げることで食中毒細菌などの有害菌を抑えるが、こうじ菌などのカビや酵母菌(真菌類)は乳酸の影響を受けない。 乳酸菌の増殖には、糖類のほか、アミノ酸やビタミンなどが必要。牛乳、米ヌカ、竹パウダーなどでよく殖える。ボカシ肥や発酵肥料づくりでは、こうじ菌や納豆菌がデンプンやタンパク質からつくった糖をエサに増殖、乳酸は酸性なのでボカシ肥のpHが下がり、酸性を好む酵母菌が次に増殖しやすくなる <酵母菌> 糸状菌(カビ)の仲間だが、カビ特有の長い菌糸はつくらず、カビの胞子が独立したような丸い形で、カビと細菌の中間的な性質を持つ。 糖をエサに、体の中でアミノ酸、ビタミン、核酸、ホルモンなど様々なものをつくり出す「合成屋」。人間の体内では作り出せない必須アミノ酸も合成する。 酸素があってもなくても元気。水中など酸素のない状態では糖をアルコールと炭酸ガスに分解して泡を出し、酸素があると各種のアミノ酸などを合成する。味噌やパン、漬物をおいしくするのも酵母菌の働きによる。 弱酸性の状態で殖えやすく、薄上秀男さんが勧める発酵肥料づくりでは仕上げの段階で増殖して、アミノ酸、ホルモン、ビタミンなどが豊富な肥料を作り出す。たくさん増殖した酵母菌が死ぬと、各種アミノ酸をはじめ、人間の健康や作物の栄養に有用な成分がたっぷり出てくる。 <好気性菌・嫌気性菌> 好気性菌は、酸素呼吸しながら有機物を分解するタイプの菌で、酸素がないと生育できない。反対に酸素がなくても生きていける菌を嫌気性菌という。有機物発酵にかかわる好気性菌の代表はこうじ菌と納豆菌。さらに酢酸菌も好気性菌。 一方、嫌気性菌には、酸素があると生育できない絶対的嫌気性菌と、酸素があっても好気性菌なみに生育する条件的嫌気性菌がいる。ボカシ肥で活躍する乳酸菌や酵母菌は条件的嫌気性菌。腐敗したサイレージにすむ酪酸菌は絶対的嫌気性菌。湛水状態の水田にいる菌の大部分が好気・嫌気の両刀使いの条件的嫌気性菌で、水の駆け引きのある水田向きだ。畑では、表層は好気性菌が多いが、下層は嫌気性菌が主になる。 良質のボカシ肥や堆肥づくりでは、好気性菌と嫌気性菌の連携プレーが重要で、こうじ菌と納豆菌などの好気性菌が活躍しつくられた糖などをエサに、条件的嫌気性菌である乳酸菌や酵母菌が活躍し、アミノ酸などが豊富なボカシ肥や堆肥ができる。 空気が少なく好気性菌が働かない状態では有機物は悪臭を放って腐敗するが、ラクトバチルスなどの微生物資材を活用すれば、嫌気的な条件でも乳酸菌を優先させて腐敗を防ぐ堆肥やボカシ肥ができる。このほうが有機物のもつ成分をムダにしないという見方もある。ただしこの場合も完全な嫌気状態ではなく、好気性菌は働いている。また、嫌気状態で発生する硫化水素などの有害物質をエサに光合成細菌がふえるという具合に、腐敗の結果つくられた成分も微生物は無害化したり有用なものに変えてくれる。 地球ができて酸素がない条件に生きた嫌気性菌は有害物質を浄化し、酸素や各種の有機成分を合成し、生命進化の土台をつくった。酸素が豊富になり植物が繁栄するなかで、好気性菌は有機物の分解者の役目を担い、こうして地球の有機物循環は保たれている。 主に分解型の好気性菌と、主に浄化型、合成型の嫌気性菌を、どう組み合わせ、リードするかが、農家の発酵技術の腕のみせどころである。 <放線菌> 細菌、糸状菌と並ぶ三大微生物の一つ。抗生物質を出して糸状菌の菌糸を溶かしたり、伸びるのを抑えたりなど、その抗菌作用が注目される。リンゴのモンパ病やイネのイモチ病をも抑制する。また、家畜糞の悪臭のもとである低級脂肪酸の分解酵素をもつので悪臭を消し去り、しかもハエの卵も食べる。だから放線菌堆肥は悪臭がない。 キチン質を好むため、キチン質を含むネコブセンチュウの卵を食べてしまう。フザリウム菌やピシウム菌などの土壌病原菌の細胞壁はキチン質でできており、土の中に放線菌が多ければ、発病が抑えられる。カニガラはキチン質の宝庫で、これを素材に放線菌が豊富なボカシ肥ができる。昆虫もキチン質でできており、放線菌はその死骸を好む。 <光合成細菌> 湛水状態で有機物が多く、明るいところを好む嫌気性菌。べん毛で水中を活発に泳ぎまわり、土にも潜る。田んぼやドブくさいところに非常に多く、イネの根腐れを起こす硫化水素や悪臭のもとになるメルカプタンなど、作物に有害な物質をエサに高等植物なみの光合成を行なう(酸素は出さない)異色の細菌。一説によると、地球が硫化水素などに覆われていた数十億年前に光合成細菌やシアノバクテリア(酸素を出す)が現われ、現在の地球環境のもとをつくったそうだ。 環境を浄化する働きとともに、空中チッソを固定し、プロリンなどのアミノ酸や核酸のウラシル・シトシンをつくるため、作物に施用すると味をよくしたり土を肥沃にしたりする。赤い色が特徴だが、その元であるカロチン色素によって果実のツヤや着色をよくする効果もある。菌体にはタンパク質やビタミンも豊富で、家畜や魚のエサにすると、成育が早まったり、産卵率が上がったりする。 酵母菌やバチルス菌などの好気性菌と共生すると、相互に働きが活性化されるという作用があるのがおもしろい。ダイズの根につく根粒菌も光合成細菌と共生すると、活性が長く維持される。 光合成細菌は買うと高価な資材だが、土着の光合成細菌を採取して簡単に殖やせる。より安価で確実に殖やすためエサの農家の工夫がバラエティに富んでいる。海藻肥料や煮干し、粉ミルクを使う方法まで登場した。 <自活性センチュウ> センチュウというと、ネコブセンチュウなど、有害な寄生性のセンチュウを思い浮かべがち。だが、じつは地球に生息するセンチュウの90%が、無害どころか土つくりに欠かせない重要な存在である自活性センチュウだ。 自活性センチュウは落ち葉などの有機物を食べて分解し、微生物が働きやすい環境をつくる。自らの死骸も含め、他の小動物や微生物とともに土壌の腐植を増やす。中には、寄生性センチュウを食べる捕食性センチュウもいる。肥沃な土なら反当たり800kgもの自活性センチュウがおり、その数が多い土壌ほど寄生性センチュウは居心地が悪く減少する。 自活性センチュウの力を借りて土を豊かにするには、豊富なエサと水分条件などの安定した環境が必要、その効果的な方法に堆肥マルチ、有機物マルチがある。 <団粒> 土壌粒子が陽イオンや粘土鉱物、有機物(腐植)などのはたらきによって結合し、小粒の集合体となったもので、そうした状態を団粒構造という。これに対して、土壌粒子がばらばらの状態にあるものは単粒(単粒構造)という。 作物栽培上では水の中でも壊れない団粒(耐水性団粒)が重要である。団粒構造が発達した土は、団粒内部に微細な団粒内間隙(毛管孔隙)ができ、団粒外部には団粒間間隙(非毛管孔隙)ができるため、保水性と同時に通気性や通水性にもすぐれ、作物の生育に好適な状態になる。 団粒を発達させるためには、有機物の施用や根量・茎葉量の多い作物の導入などが有効だが、とくに根量の多いイネ科牧草は団粒を発達させる大きな効果があり、その場合、生きた根(活性根)も重要なはたらきをしている、という。有機物のなかでは、土の微生物活性を高める分解されやすいものが団粒形成能力が高いとされている。その点では、完熟堆肥よりも未熟堆肥、未熟有機物のほうが有利、という研究者の指摘もある。有機物マルチや土ごと発酵の価値を考えるうえで興味深い。 <腐植> 土壌有機物と同じ意味で用いられることもあるが、とくに土壌中で動植物遺体が土壌生物によって分解・再合成された暗色無定形(コロイド状)の高分子化合物(腐植物質)をさすことが多い。 腐植は機能的な面からは、栄養腐植(土壌微生物に分解されやすく養分供給源となる)と、耐久腐植(土壌微生物に分解されにくく土壌の物理性を良好に保つとともに陽イオンを保持する)に大別される。化学的(溶解性)な面から腐植酸、フルボ酸などにも分けられる。 腐植の役割としては、栄養腐植による作物や土壌微生物への養分供給、耐久腐植による団粒の形成、腐植酸によるCEC(塩基置換容量、陽イオン交換容量ともいう)や緩衝能の増大、フルボ酸による鉄・アルミニウムのキレート化など、じつに多岐にわたり、作物の生育に適した土をつくっていくうえで、きわめて重要なものである。土壌中の腐植を維持・増加させるためには、有機物の施用や緑肥作物の導入などが有効である。
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