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恥ずかしかった話

「オレ、メラが使えるんだぜ」

兄がいきなり訳のわからないことを言い出した。
時はおよそ20年ほど前。
小学校にはあがっていたから20年にはならないだろうけど。
幼いころから利発でなんでもそつなくこなし、よく食べ、よく寝、すでに腕には剛毛がぎっしり生え、
そしてやっぱり友だちが少なかった、そんな僕の恥ずかしい話を今日はお披露目しようと思う。


こんなお話をすることになった経緯はこちら。感無量。



時はドラクエ3全盛。いや、若干衰勢だったかもしれないけどみんなが知っていた。
もちろん日々この話題に事欠くことなどなかった。僕はドラクエなどというものをこのタイトルで
初めて知った大多数のうちの1人だが、ご多分に漏れずハマってしまい毎日のように友人宅に
押しかけては指をくわえてプレイの様子を眺めていた。やったことはない。
友人はロマリアの格闘場で一日中ギャンブルをしていた。
ちなみにこの友人の名は鈴木である。旧ブログの奇行士を覚えている人ならピンときて
110番をトランシーバーで試してみてしまうほどの稀有で危険な生命体である。
奇行士というのは鈴木のようなとんでもない人間をせめてネットの中だけでも登場させて
やりたかったという僕の願いが生み出した空想上の変態だ。
が、いかに僕が奇行を繰り広げようと鈴木の突飛な行動力と発想力には及ぶべくもない。
所詮模倣はオリジナルの輝きには敵わぬものである。




さて話を戻そう。とにかく僕の兄が突如として「ドラクエで一番有名な魔法は?」と聞かれたら
8割ぐらいの大人が答えそうな「メラ」を「使える」などを言い出したのである。
(子どもはダメだ。やつらはさも「俺は詳しいんだぜ!」って知識をひけらかしたくなって
 「トベルーラ」とか「ラナリオン」とか「ドルオーラ」とか「オロナミン」とか言い出す。)
兄は僕より3つ年上なわけだからこのとき9才か10才ぐらいだったはずだ。
そろそろ戦隊モノから離れ始めてもよさそうな年齢だというのに、まさかそこを飛び越えて
魔法使いになっていただなんて。そしていま本当の魔法使いになろうとしてるなんて。
いい加減嫁を探せ。


僕は小学1,2年生だったとはいえすでに達観していたので「本気なのかこのバカは」などと
虫けらを見るような目で兄を見ていたのだが、どうにもただアホなことを言ったわけじゃないらしい。
ずいぃっと僕ににじり寄り、さっきから天井に向けていた右手人差し指を近づけてくるのである。
「なに?」僕は聞く。
「触ってみろよ。すごく熱いから」と兄。
確かに指先は通常では考えられないほど赤くなっており、熱そうだ。
ちょっとだけ、ちょび〜っとだけ嫌なものを感じつつ、だけどビビったら負けと思い触ってみる。
すると熱い。間違いなく熱い。
周囲に熱湯の類がないことは確認済み。では兄は果たして何で指先をここまで熱くしたのか?
いや、熱くしたという考えがおかしいのではないのか。
兄が本当にメラを使ったのだと仮定すれば、異様にそして不自然に熱い指先を説明出来るのではないか。
平凡な日常にいきなり放り投げられたイオナズン。
一瞬にして自我を崩壊寸前にまで追い込まれながらも平静を崩さず聞いてみる。
「これじゃわかんないよ。実際に使って見せてよ」
うむ、至極もっとも。崩れかけていた自我が急速に再構築されていくのがわかる。
すると兄は仰った。
「いま使ったばっかでもう出せないよ。これすっげー疲れるんだ」
お前のMPは全部で2か。
と、今となっては冷静に突っ込めるのだが、当時の僕にその一言の説得力は絶大だった。
僕はそのあまりの説得力に兄がメラを使えるものだと信じ込んだ。
「そっかー、すっごいなー。僕にも使える?やり方教えてよ」
「修行もしないで出来るかな?オレかなり修行したよ」
「ほんとに?でもとりあえず教えて。僕も試してみる」
こうして兄の『メラメラレクチャー』が始まったのだった。


『メラメラレクチャー』の要点をまとめるとこうである。
1.自分はメラを使えるんだと強く信じ込む(クリア済み)
2.指先に炎の力が集中していくイメージを、それが鮮明に浮かぶようになるまで繰り返す
3.指先に熱を感じてきたら「メラ!」と叫びながら目標に向かって放つ


これ、今になってよくよく考えてみるとHUNTER×HUNTERの念能力の発動条件に酷似している。
クラピカの『束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)』体得の修行なんてまさにこれじゃないか。
兄すげぇ。感心した。



イメージ 1

クラピカはいまだに女の子なんじゃないかとちょっとだけ疑っている。
というか冨樫よ、連載どうした。



当時から僕は我を貫くタイプだったから好奇心や感受性の強いタイプではなかったのだが、
この修行には没頭したものだ。脳の血管が切れるのではないかというほどの過酷なイメージ修行を
していくうちに少しずつイメージが定まってきた。

人間のイメージ力というのは凄いもので、例えば聖痕というものを皆さんご存知だろうか。
これはイエス・キリストが磔になった際に残された傷のことであるが、信心の強すぎる一部の
信者にはこの聖痕としか呼べないような原因不明の傷が出来たりすることがあるらしい。
科学の発達した現在、これは「自分にはイエスの神託が聞こえた」と口走ってしまうほど
迷妄した熱狂的信者が無意識に自らのイメージの力でつけた傷らしいことが判明した。
つまり範馬刃牙は世界一のキリスト教徒なのである。


















イメージ 2



イメージ 3
戦闘のダメージまで再現してみせるバキ。究極の1人SM。




イメージ 4

















イメージが見えてくるようになると、本当に自分にはメラが使える気がしてくる。
魔法の構成を頭の中で練ること5分ほど。
万が一の火事に備えて風呂場でついに初の挑戦を試みる。

「はぁぁぁぁぁぁ・・・・メラ!!」

・・・し、失敗・・・!?
だが指先は熱い。たしかに熱い。出せる兆しはすぐそこにあるのだ。
(これは本当ですよ?このぐらいなら強くイメージさえ出来れば実際なります)
とはいえこのイメージ修行の疲労といったらハンパない。
皆さんもそう、この「メラ」でいいから一度試してみるといい。大変さが分かる。
身体を動かしてもいないのに息は切れ、全身から汗が吹き出してくるのだ。
今更の補足だが、兄もあの時かなり息が上がっていた。
大人がやったら行為そのものも終わった後も変態にしか見えないので細心の注意が必要だと言っておく。




しばらく繰り返し、どうやら僕にはまだ使えないということが分かった。
これが単純に修行不足なのか、どこかで自分を疑っているのか、
はたまたMPが1しかないのかは分からない。最後のだったら泣けてくる。
これがまた悔しいったらないのである。
兄には使えるというのに僕には結局使える気配がないのだ。
指が熱くなる程度の能力、はたして何の役に立つというのだ。
女の子に「だ〜れだ?」って目隠ししたとき「ぎゃあ!」とか悲鳴をあげられるぐらいではないか。
なぜだ なぜだ なぜなんだ。



そこで僕は何を狂ったか、もっとプレッシャーのかかる場面での実践を試みようと思い立った。
そう、学校の自分のクラスである。

白の自分がさっきから最大音量で警鐘を鳴らし続けている。
『やめろ!バカなマネはやめるんだ!』

だが火のついた赤の自分は聞く耳をもたない。
『黙ってろ!僕はきっとここでメラを成功させる!』

白『なんで一度も成功したことないのにそんな自信満々なんだ!?』

赤『僕は自分を信じることにしたんだ!』

白『お前もし失敗したらクラスの連中になんて言われると思ってんだよ!』

赤『だ、黙れ黙れ黙れ!そのプレッシャーが僕を成功に導く!』



結局白の抑制を跳ね除け、僕は給食後の昼休みに友人数人を連れて教室の片隅へ。
これ跳ね除けてないじゃん。白の抑制効いてるじゃん。
だけどクラスには他の連中もたくさんいる。そこで呪文を叫んでしまえば全て同じことだ。
引き返すならここしかなかった。
だけど、言ってしまった。

「僕、メラが使えるんだ!見ててよ!」

なんという純粋な少年。神よ、この無垢なる少年に慈悲を。
願わくばこの後の悲劇を拝ませないでくれ。
それが出来ないのならせめて記憶を抹消してくれたまえ。

神は、ニヤニヤしていた。



何度も言ってきたように、メラを唱えるには莫大な集中力とある程度の時間が必要だ。
しかし大見得をきった相手連中は全員小学校低学年。
人差し指へ炎のイメージを固めようとする僕に容赦のない横やりを入れてくる。
「まだかよー」「お前バカみたいだぞ?」「そんなの使えるわけないじゃん」
くそ、お前らもう少しカルシウム採れよ!ゆったり構えてろよ!集中が乱れる!
だ、ダメだ・・・!力が暴走する・・・!!!

自分の中の抑えきれない怪物と格闘しながら、千々に乱れた集中力をそれでもなんとか1つの
ところへと持っていく。指先だけじゃない、全身が熱い。かつて感じたことのないこの熱量!
これならいけるんじゃないのか?あとはしっかりと押さえ込むだけ・・・だ!

「いっくぞーお前ら!見てろ!!」

もうこの時点で教室中の視線がこの哀れな剛毛男に向かっている。後戻りは出来ない。
そして ―― 唱えた。






































「メラミ!」













































あの日教室中に訪れた静寂と冷たい視線の洪水を、僕は生涯忘れることはないだろう。
それでも身体だけは果てしなく熱かった。
いまなら分かる。
あれは昂っていたのではなく、ただ赤面していただけだったのだと。

そしてメラミを唱えた謎は、どれだけ考えても解明されることはなかった。





※当内容はなにぶん古い記憶なのでいくらかの脚色があると思われますが、
 概ね真実であります。いくら探しても隠し文字とか出てきませんので。
 あ〜、思い出すだけで恥ずかしい。

閉じる コメント(32)

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こういう大作が書ける文才に惚れました!

2009/7/25(土) 午後 5:50 [ クロピョン(黒頭巾) ] 返信する

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今頃お兄さんはレベルアップして
メラゾーマやメラガイヤーなどを操ってるのでしょうか?

2009/7/25(土) 午後 7:35 うえぴょん 返信する

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私は魔法使いですがいつになったらホイミを覚えるのでしょうか?
はやく癒されてーです。

2009/7/25(土) 午後 8:58 ユリノフ 返信する

僕は手をかざすだけで痛みを取る力があると信じ込んでいました。
というか、最近のドラクエは変な呪文が増えすぎてあんまり好きじゃないです。

2009/7/25(土) 午後 10:46 ヒロ@RYUSEI 返信する

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今回のドラクエったら、ギラが無いのー。
ガッカリー。
魔法ほとんど使わないで打撃で突き進む派だけどー。
ギラがないのにはガッカリー。

2009/7/25(土) 午後 11:22 [ - ] 返信する

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小学校のとき、いたなーそんな奴。
かめはめ波とか霊丸撃てるって言ってた同級生。

2009/7/26(日) 午前 2:13 青猫爆弾 返信する

実用的なのでメラよりホイミが使えるようになりたいです。

2009/7/26(日) 午前 8:59 [ 『赤い雨』 天 ] 返信する

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≫黒頭巾さん
恐縮です。流さんは記事作成にあんまり気合入れないんで・・・

2009/7/26(日) 午後 8:21 流 返信する

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≫うえぴょんさん
それどころか常時レビテト使いながら自分のメテオに潰されてます。

2009/7/26(日) 午後 8:22 流 返信する

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≫ユリノフさん
PCの前で全裸になって自分で自分を慰めればいいじゃないですか!

2009/7/26(日) 午後 8:23 流 返信する

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≫ヒロくん
あれだよね。痛いの痛いの〜ってやつだよね。

2009/7/26(日) 午後 8:24 流 返信する

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≫ぺっこ
ああどっかでそんなこと聞いたな。1から出てきた魔法をなくした真意はなんなんだろう?
打撃ってことは武道家なのね。戦士とかは斬撃だもんね。

2009/7/26(日) 午後 8:26 流 返信する

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≫青猫さん
どうして中学生とかになるとみんな使えなくなるんでしょうねー

2009/7/26(日) 午後 8:27 流 返信する

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≫天さん
はぁ・・・ 夢見ることを忘れた大人はすぐに実用的とか言い出す・・・

2009/7/26(日) 午後 8:28 流 返信する

罰ゲームだけどめっちゃ力作じゃないの笑
やっぱ使いたいよね メラガイアー

2009/7/26(日) 午後 8:57 - 返信する

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時々、サラミが食べたくなります。

2009/7/27(月) 午前 11:49 [ たまち。 ] 返信する

長い、間の後に裏切りのメラミ(笑)

ぶっつけ本番で、すごいプレッシャーかけましたね(笑)

2009/7/27(月) 午後 0:31 よっぱなさすらい 返信する

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≫がじら兄さん
どんなときも手抜きはいけないんです!
メラガイアーってなんだか分からなくて調べてしまいました。ビールの銘柄ですね。

2009/7/28(火) 午後 9:31 流 返信する

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≫たまち。さん
ザラキ?

2009/7/28(火) 午後 9:31 流 返信する

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≫ヨッパさん
もちろん勝手に口をついて出てきた一言です。

2009/7/28(火) 午後 9:32 流 返信する

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