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僕が、四国に住んでいたとき、
よく「お四国病」なる病のあることを聞いていた。
僕は「お四国病」に罹ったことは無いが、大変な病気であるらしい。
症状は、一見健康そうに見えるが、
四国を決まって時計回りに歩き続けるという、奇怪な行動をとるようになる。
どこで行き倒れてもいいように、
白い死に装束をまとって、四国一周1400キロもの道、
ただ、ひたすら歩く姿は、初めて目にする人にとっては、異様である。
その患者の、歩く道は、決まっていて、
その道沿いに住んでいた僕は、ベランダから毎日彼らを眺めてきた。
彼らは、必ずといっていいほど、
栗林公園前の国道を北に向かって歩いているのだ。
彼らは、この公園の前を通るときには、
すでに、1300キロ以上を歩き通して来ており、
中には、足腰の痛みと疲れで、道路脇でしゃがみ込んで、休む者もある。
この「お四国病」について、
僕は「沖縄型南島病」(沖縄病)と同じ様な病種と考えてきた。
しかし、最近になって、
全く種類を異にする病であるらしいことに気がつく。
「お四国病」「沖縄病」ともに歩き回る症状に、変わりはない。
「沖縄病」がウイルス性の感染症であり、
昭和47年の沖縄返還の数年後である昭和50年頃から
爆発的に広がった病気であることは、有名である。
「沖縄病ウイルス」は遠い昔より、沖縄に存在する風土病であるが、
永い時を経て沖縄の人は完全にその免疫を持つに至っていた。
沖縄返還後、本土よりその免疫を持たぬ若い人々が、
予防接種の必要もなく、大量に流れ込むようになった。
しかし、沖縄の人は一人残らず、この「沖縄病ウイルス」の
保菌者であることに変わりはなかった。
そのため、若い元気な血を好む「沖縄病ウイルス」は、
全盛を振るうことになってしまっている。
この病気は、免疫のある沖縄の血を受け継ぐものには感染しない。
「お四国病」も当初はウイルス性と考えられてきた。
今でも、病理学会では、そう記す報告書が多い。
僕は最近、これに疑問を感じることがある。
「お四国病」の発病は50歳前後から60歳ごろの、体力の衰えてきた人、
あるいは急激な環境変化にあたり、誘発的に発症すること。
(もちろん20歳前後で発症する人もあるが)
患者は、特に、関東から東北、北海道に症状の重い患者が多く分布する。
「沖縄病」と違うのは、四国在住者、地元の患者も非常に多いことだ。
以前四国生まれの55歳対象で4名に聞いたところ、
内3名は3周以上6周までの歩き症状を経験していた。
ある日、福島と青森の患者に聞いたことがある。
二人とも、四国には全く縁のない生活をしてきたのに、突然発症し、
気がついたら、四国に向かう電車に乗っていた。
その後、度を重ねるごと、病状が悪くなっているという。
また四国から離れ、自宅にいると、ソワソワと落ち着かない気持ちに襲われる。
そんなときは、香をたくと落ち着くともいう。
最近、「お四国病」は薬物性の劇症脳炎の一種ではと、思うようになっている。
が、もう少し患者の立場で歩き回って研究する必要がある。
「沖縄病」の重症者は、死なないと直らない、と聞くが、
「お四国病」は死んでも直らないという。
そこが、この病気の怖いところである。
四国中の治療所で集めた、処方箋を、
死んだら棺に一緒に入れて、
あの世まで持って行き、
極楽浄土でも治療を続けることとなる。
「僕は、これ以上、この病気の研究を続けてもいいのだろうか?」
「少し怖い気がしてきた」
「僕は、お四国病ではない!」
「でも、すでに感染しているかも?」
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