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盗賊達は、人数的には自分達の方が有利だと高を括っていたが、チョンホとソンシクの武術の腕前に成す術も無く、確実に一人ずつ潰されていく事に閉口していた。
見た限りでは、只の両班の若者達だが何と無く場馴れしている様な雰囲気に押され、仲間が一人又一人とチョンホとソンシクに叩き伏せられて行く様を歯噛みする思いで見ていたのだ。
「其処までにして貰おうか」
後ろから声がしたのでチョンホとソンシクが振り向くと、覆面をした男と若い女人がジョンファを縛り上げ、首筋に短刀を付き付けていたのだ。
ジョンファを人質に取られた事で、其れまで優位に立っていたチョンホとソンシクだったがジョンファの顔が青ざめている様子を見て動きを止めると
「刀を捨てて、大人しくして貰おうか」
チョンホとソンシクが刀を地面に投げ捨てると、其れまでチョンホとソンシクに押されていた盗賊達が二人の胸ぐらを掴んで頬を殴り飛ばして鳩尾にひざ蹴りを入れ二人が体勢を崩して膝を地面につくと思いっ切り蹴りを入れていた。
ジョンファを人質に取られて、チョンホとソンシクは、抵抗もせずに盗賊に殴られる儘に成っていたが、其れを見ていた覆面の男が
「そのへんで止めておけ、忠州牧使がもう直ぐ役人を引き連れて遣って来る。其の二人は縛り上げて、他の者達は蔵に閉じ込めておけ」
盗賊達がチョンホとソンシクを縛り上げ、仲間の縄を解くと娘以外の屋敷の人間とグンミン・ヨンウンを蔵に入れ閂を外から掛けて閉じ込めていたが、素早くヒョニが姿を隠していた事に気が付かなかった。
盗賊達は、邪魔な荷物に成る財宝は諦めて運びやすい手形や金子・銀塊だけを持つと、ジョンファと娘を抱え、屋敷の外に繋いでいた馬に乗せると一斉に馬を走らせていた。
盗賊達が屋敷から姿を消すと、隠れていたヒョニが素早く蔵の傍に行き蔵の閂を外して扉を開けチョンホとソンシクの元に駆け寄り二人を縛っていた縄を切っていた。
蔵から出て来たグンミンが、何を思ったか地面に耳を当てると少しの間動かずにいたが、身体を起こすとチョンホの方を見てチョンホが頷くのを見るや屋敷から飛び出して行った。
盗賊を追うつもりなのだろう。
縄を解かれ、ソンシクは殴られた処を擦っていたがチョンホの顔を見ると
「チョンホ、口から血が出てるが大丈夫か?」
「ええ、如何やら口の中を切ったようですね、大した事は有りません」
そう言うと、チョンホは口の中の血を吐きだして手の甲で口を拭うとソンシクを見て
「大分殴られましたが、何処か怪我をしているのでは?」
「其れは、お前も同じだろう。怪我は大丈夫か?」
「ええ」
「あいつ等、思いっ切り遣りやがって・・・如何する?」
「見捨てて置けませんね」
「ああ、女人を人質にする等、男人に有るまじき事だからな。私達を怒らしたら如何成るか思い知らせて遣る」
ソンシクはそう言うと唇の左端を少し上げる様に薄笑いを浮かべ、ソンシクの言葉を聞いたチョンホも微かに笑みを浮かべていたが何故か二人を見ている人々はその微笑に背筋が寒く凍り付く様な感覚を覚えたのだった。
「グンミンが後を追った様ですね」
「あいつ等は、馬のようだったが大丈夫かな?」
「多分大丈夫でしょう。グンミンは夜目も利きますからね」
「私達も、直ぐに追った方がよさそうだな」
そう言うと、盗賊に入られた屋敷から提灯を借り受けチョンホ達もジョンファと娘を連れ去った盗賊達の後を追う事にした。
馬の走り去った方向に、暫らく足早に歩いていたが、道が二股に分かれる所が有りどちらに行こうか思案して躊躇していたが、ヒョニが地面を提灯の灯りで照らしていたが、何かを見付けた様に、右の道を指差していた。
「あちらの方向です」
「如何して分かった?」
「此処に印が・・・」
そう言ってヒョニが指差した道の隅に、小石が積み上げてあったが小石の積み方に特徴が有った。
普段、他愛ない遊びをしながらの道中でグンミンが小石を積み上げては、ヒョニに目印に成る様な積み方を教えて貰い積んで遊んでいたのが幸いした。
道を右に進んで何度かグンミンの目印に助けられ、一刻(二時間)程進むと、道の左側に生い茂る森の途中でヒョニが急に立ち止ったので足元を見ると石が積んで有り、盗賊達が森の中に入り込んだのが分かった。
チョンホ達は、グンミンの残した目印が石から木の枝を折った物に変わった事で辺りに注意を払いながら、草を分け入って進んでいたが獣道に入り込んだ事は明白で今の状況で獣に遭遇しない事を祈りながら先を急いでいた。
暫らく進むと、急に開けた場所が目の前に現れたので、木の陰から様子を窺うと小屋が何軒か立つ寂れた所だったが、遠目に小屋の前で焚き火を囲み酒盛りをする男人達が目に入った。
男人達に気付かれ無い様に、小屋の近くまで行き酒盛りをする男人達を隠れ見るようにしていると話声が聞こえて来た。
「あの娘達は、如何するんだ?」
「人質として金子を要求するんだろう」
「金子を出すかな?」
「可愛いい娘の為だ、出すだろう。其れに一人は忠州牧使の娘らしいからな、娘と引き換えに先月捕まった仲間達を解放させるつもりの様だな」
「解放するかな?」
「して貰わないと、此の儘では極刑は免れないからな」
「そうか、しかし残念だな」
「おいおい、手を出すなよ!大事な人質だからな」
言われた盗賊が残念そうに笑っていたが盗賊達の下卑た笑いに、隠れて見ていたヒョニの背筋に悪寒が走った。
奥に有る小屋の陰から、グンミンの姿が見えるとチョンホ達に気が付いたのだろう、急いで傍に近付いて来た。
「盗賊共の様子は如何だ?」
グンミンを待ち兼ねていたソンシクは、グンミンの顔を見るなり問い掛けていた。
グンミンに様子を聞くと、一番奥の小屋に攫われたジョンファと他の娘が監禁されていて小屋の外に見張りが付いていると言う事だった。
盗賊の人数を数えると三十人程で、此れだけ大人数の盗賊団にチョンホ達だけでは、心許なくソンシクも何か考えている様だった。
「相手が多すぎますね。此処は忠州牧使令監に来て頂いた方が良いと思いますが・・・・後の始末もしなければ成りませんので・・・」
「そうだな、グンミン悪いが一走りして忠州牧使令監を此処まで案内して来て呉れ。事は一刻を争うジョンファ嬢達の身に何も起きないとは言い切れないんでな」
ソンシクにそう言われ、チョンホにも
「疲れているだろうが、此処はお前だけが頼りだ。頼む」
「別に疲れてなんかいません。分かりました。急いで忠州牧使様をお連れしますので、待って居て下さい」
そう言うとグンミンは森の中に姿を消していた。
「さて、如何したものか?忠州牧使令監が来るまで、まだ時間が掛かるな」
「奥の小屋に近付いて、様子を見た方が良いですね。ジョンファ嬢達も不安な思いをしていると思いますが」
話を聞いていたヒョニが
「私が、様子を見て来ます。其れにもし出来ましたら、ジョンファ様に私達が此処に来た事を知れせる事が出来ますとジョンファ様も安心されると思いますので」
ヒョニの言葉に、ソンシクが心配そうな顔をしたが
「私の身体の方は、体調がもう殆んど元に戻って居ますので、心配為さらないで下さい」
「そうですね、ジョンファ嬢も今は生きた心地がしないでしょから・・・私達が傍にいるのが分かれば安心するでしょう」
チョンホの言葉にソンシクは少し考え込んでいたが
「済まない。其れではヒョニ頼む」
「呉々も無理をしない様にしてください」
「はい」
ヒョニは、ニッコリとほほ笑むと暗闇の中に姿を消していた。
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