|
その女人は、元は両班で十八歳の時に裕福な官僚の総領息子の元に嫁いで、一年後待望の跡継ぎに恵まれ幸せに暮らしていたが、在る時屋敷に盗賊が押し入り攫われて来たと話していた。
盗賊は、当然の様に女人の家に身代金を要求したが、女人の家では身代金を払う何処ろか、嫁は盗賊が押し入って連れ去り殺害されたと捕盗庁に届け出てしまったのだ。
盗賊に攫われた以上、世間体が在ったのだろう嫁の事を表面上探して居る様な振りをして、年頃の近い女人の亡骸を用意すると葬儀を済ませ嫁の存在を消してしまったのだ。
義父は商人達から賄賂を受け取り、私腹を肥やして相当の財産が有ったが等々嫁の為に使う事は無かった。
盗賊達は、何度か身代金を要求したが嫁は死んだとの一点張りで、流石に盗賊の方も呆れ果て身代金を要求しなく成っていたが、当然の様に盗賊の首領に手籠にされていた。
女人の他に数人の娘達が居たが、身代金が支払われて親元に返された娘や婚家に返された女人は良いが、身代金が取れない娘は当然の様に盗賊達に手籠にされ売り飛ばされて行くのを只黙って見ているしか無かった。
女人は、盗賊の首領が何を思ったか、売られる事も無く首領の身の回りの世話をさせられる様に成っていたが、婚家に置いて来た息子に会いたく何度か逃亡を図ったが、その都度連れ戻されて折檻を受けていた。
何年か経って、夫が後妻を迎えた事を知ると逃げる事も無く成り、盗賊が攫って来た女人達の世話をする様に成っていたのだ。
暫らくの間、女人に見張りがついていたが女人が逃げようとしなく成っていたので、何時の間にか見張られる事も無く成り自由に動ける様に成っていたが、何時しか十年以上の歳月が過ぎ去っていた。
その間、盗賊達は隠れ家を転々と変えていたが、役人に追われ逃げていたのだろう。
風の噂に、置いて来た息子が婚約をして来年早々婚姻をする事が決まったと知った。
一目、息子に会いたいと思う気持ちと、盗賊の情夫に成り下がった自分が、とても息子に会える立場に無い事に我が身が恨めしく思えて居た時に今度の事件が起きたのだ。
今まで、抜け殻のように成り、只成り行きを見ているだけの自分だったが、今回攫われて来た娘達を見ると何故か、此の二人を助け無ければと思う気持ちが湧いて来て、気が付くと焚き火を囲む盗賊達にかなりの量の酒を出し、程良く酒に酔う頃会いを見計らって奥の小屋に向かっていたのだった。
小屋の傍には先客が居て、既に人質の娘達は小屋から逃げている最中だったのだが、怯える娘が枝を踏み盗賊達の目が一斉に小屋の方を向いた時、思わず声を出していた。
咄嗟に兎の話を出して盗賊達を煙に巻くと、娘達を安全に森の外れで様子を窺っていたチョンホ達の元に無事に連れて行く事が出来何故か今までの罪滅ぼしが少しでも出来た様な気がした。
今まで、成り行きに任せて生きて来たが、少しでも息子に恥ずかしく無い生き方がしたく成り、人助けが出来た事に自分の運命を変える事が出来るかも知れないと思えたのだ。
チョンホとソンシクは、その女人の身の上に言葉が無かったが、その女人の話しを聞いていたジョンファは辛そうな顔を隠せなかった。
話を聞いていたジョンファは、おぞましさに思わず身震いをしていたが、自分もチョンホ達や此の女人が居なければ如何成っていたか分からないのだ。
父親の忠州牧使が身代金を出しても果して無事に帰れる保証は無く、自分も他の女人の様に売り飛ばされて我が身の不幸を嘆き悲しんで生きる事に成ったかも知れなかったのだ。
「同情は要りませんよ!私と同じ様に攫われて来て手籠にされ売り飛ばされた女人は大勢居ますからね!私など売られ無かっただけでもましなんでしょうね」
今まで売られて行った女人達の顔を思い出したのか?自分の不幸を悲しんだのか?女人の顔は一瞬辛そうに歪んだのをチョンホは見過ごせ無かった。
その頃、焚き火を囲んで居た盗賊の一人が、人質が居る小屋の方を見ていたが段々目の光が怪しく光り、小屋の方に歩き出すのを他の盗賊が気が付き
「おい、止めておけ」
「何、ちょっと様子を見て来るだけだ」
そう言うと二ヤリと笑い小屋の閂を外して中に入って行った。
「しょうの無い奴だな」
「放って置け、女人に目が無いのは昔からだ」
盗賊達は呆れて酒を飲み直すと
""居ないぞ!!娘達が逃げたぞ!!""
小屋に入った盗賊の怒鳴り声だった。
「そんな馬鹿な!閂は掛っていたぞ!!」
「ちゃんと見張って居たんだ!誰も小屋に近付いて居ないぞ」
「おい、確か首領の女が居たぞ」
「だが閂を外したのは見て無いぞ!兎に角首領の女を呼んで来い!!」
盗賊達は、蜂の巣を突いた様な騒ぎに成っていた。
森の外れからもその様子が分かり、盗賊達の怒鳴り声が聞こえて来ると
「如何やら気が付いた様ですね」
「ああ、役人達が来るのにまだ時間が掛るから、如何した物か?」
「私が戻って時間を稼ぎますから、お嬢さん達を連れて逃げて下さい」
女人の言葉に、ソンシクは
「お前が戻っても、盗賊達が何もしないと保障は無いだろう」
「私達が来ている事は知らないでしょうから、探しに来る盗賊達を一人ず片付けていった方が良いですね」
「そうだな、役人が来る前に逃げられても困るし、一網打尽にする好機かも知れない」
そう話しが決まると、女人達をヒョニに任せチョンホとソンシクはヨンウンに捕まえた盗賊を動けない様にする様に話をすると森の中に消えて行った。
盗賊達は、酒を飲んで見張りを怠った失敗を首領に気が付かれる前に、逃げた娘達を探そうと必死に森の中を散らばって探していた。
チョンホとソンシクは松明を翳して探し周る盗賊達を、捕まえては後ろから手で口を塞ぎ鳩尾に拳を打ち込んで気絶させて行くとヨンウンは盗賊達が額に巻いている布を解いて後ろ手にすると縛り上げていった。
何時もだったら縄を用意するのだが、緊急時で用意する時間も無く咄嗟にヨンウンが取った行動だった。
女人達を探し周る松明の灯りが、一つ又一つと消えて行くと流石に盗賊達に焦りの色が浮かんで来て、得も言われぬ不安が襲って来ていた。
仲間を呼びもどして人数を確認すると、既に半数の仲間の姿が消えていた。
口々に仲間の名前を呼んでみたが、返事も無く辺りは闇に包まれ、如何した物かと相談したが娘達は探さなくては成らず、個別に探さずに何人か纏まって探す事にした。
暗闇を照らす松明に、三人程固まって探し周る盗賊が隠れたチョンホ達の前を通り過ぎると、一番最後に通り過ぎる盗賊の口を塞いで闇の中に引きずり込んでは気絶させていた。
振り返ると何時の間にか三人が二人に成っていて、消えた仲間を探しているうちに段々盗賊の中に恐怖心が湧いて来ていた。
三十人居た盗賊達が、何時の間にか七人に成り此れ以上不明者が出る事を恐れ、女人の足では暗闇の中遠くに逃げる事も出来ないだろうと夜が明けるのを待つ事にしたが闇に包まれた森が今までの様に最早自分達を隠して助けて呉れる存在では無く成り、自分達を脅かす存在に成った事を盗賊達は知ったのだ。。
チョンホ達は捕まえた盗賊達を一か所に纏めると、ヒョニが助けて呉れた女人に何か聞き姿を消すと晒しを持って現れ盗賊達に猿ぐつわをして声を出せない様にして居た。
晒しは干したまま忘れて居たのを女人が思い出して、縛るのに都合良いだろうとヒョニに話したのだった。
「此の儘、役人が来るのを待つか?」
「逃げられては厄介ですね、役人が森を囲む前に気付いて逃げだす事も有り得ますから」
「まあ、あの人数ならお前と二人で叩き伏せる事も出来るしな」
「ええ、私達が倒す盗賊をヨンウンに縛り上げて貰えば反撃の機会も無く成るでしょう」
チョンホとソンシクが話をしている間に、晒しをある程度の長さで切っていたヨンウンは
「お任せ下さい、縛り上げる準備は出来ましたから」
チョンホ達に切った晒しを見せて笑って頷いていた。
女人達を残し、暗闇の中焚き火の傍で話し込んでいる盗賊達の傍に近付くと、チョンホとソンシクは二手に分かれ左右から盗賊に飛び蹴りを呉れバランスを崩した盗賊を回し蹴りで地面に叩き伏せていた。
不意に現れた二人に、盗賊達は仲間が一瞬のうちに二人も倒された事に驚いて茫然としていたが、チョンホ達の後ろで仲間が縛り上げられるのを見ると助けようとヨンウンに掴み掛ろうとしたが、其れに気が付いたソンシクに横から強かに蹴りを入れられて意識を無くしていた。
気が付くと、盗賊は四人を残すだけと成りチョンホとソンシクに挟まれて動けなく成っていたが、不意に闇の中から声が聞こえて来た。
「お前達は、何をしていたんだ。三十人も居ながらこの様は何だ!!」
其処に居たのは、押し込んだ屋敷にジョンファを連れて来た覆面の男人だった。
|
暗闇で松明をともすのは、逆に自分の所在を相手に知らせているようなものなんですね。仲間の所在がひとつひとつ、松明が消えるたびに分からなくなっていくのはたとえようもない恐怖ですね。
映像で観てみたいシーンだと思いました。
2010/5/20(木) 午後 8:18 [ トモコ ]
ドラマの中で、人探しをする時に沢山の松明を翳している場面を見ましたが、追われている方は恐怖ですね。
逆に松明で相手の人数や動きが把握出来ると、戦いやすいのではと考えました。
>映像で観てみたいシーンだと思いました。
ありがとうございます。
私も見て見たいです。
2010/5/21(金) 午前 1:17