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その日は、行方不明に成った若者達の事を調べに、近隣の村に出掛けたのだが、チョンホの考えでヨンウンとグンミンは別々に村に入って別行動をする様にと言われていた為に、ヨンウンだけが捕まりグンミンはその後を追い掛けたのだろう。
チョンホ達は、ヨンウンが連れて行かれた先をグンミンが確認して戻って来るのを待つ事にした。
その日の夕刻、グンミンは酒幕のチョンホ達の元に戻って来た。
「ヨンウンが連れて行かれた先を突き止めて、もう少し早く戻りたかったんですが、見張りの警戒が厳しくてやっと抜け出せたんです」
グンミンの話では、近隣の村に近付くと遠巻きに、ヨンウンの様子を窺う男人達が居た為、それと無く離れた場所から隠れて様子を見て居た所、その男人達は周りに人影が無い事を確認すると、ヨンウンに近付くと一言二言何か話していたと思ったら、急に短刀をヨンウンの脇腹に付き付け、ヨンウンの周りを取り囲む様にして連れて行ったと話していた。
遠くから、その様子を見ていたグンミンは、慌てて手持ちの紙に事の次第を書き、近くで遊んでいた子供にその書付を渡しすと
「これを町の酒幕に泊ってる、若い両班のパク・ソンシクと言う人に持って行くと、お駄賃が貰えるから直ぐに持って行ってくれ」
「お駄賃くれるの?」
「ああ、ちゃんと貰えるよ」
「分かった、両班のパク・ソンシクと言う人だね!」
「頼むな、坊主。大事な手紙なんだ!」
そう言って書付を渡すと、先程ヨンウンが連れ去られた方に踵を返すと、走りだしていた。
ヨンウンを連れた男人達は、山の中に奥深く入り込んで行った。
離れてヨンウンを追い掛けながら、進んで行くと所々に見張りがいるので用心をしながら、見張りの目を盗んで奥深く後をついて行くと、ヨンウンは見張りが立っている洞窟の中に連れて行かれたので、洞窟の中から出て来るのをじっと待っていた。
夜遅く成って、洞窟の中から何人もの若い男人達と一緒にヨンウンも出て来たが、側に近寄れない以上洞窟の中で何をしていたのか知る由も無いが、出て来た男人達は全員疲れ切っている様子で、洞窟の直ぐ側に在る掘建て小屋に入れられ、外から閂を掛けてヨンウン達が出ない様にして、小屋の周りに見張りが立ち逃げ出さない様にしていた。
グンミンは、その事を確認すると物音を立てない様に、そっとその場所を離れ夜が明ける頃、見張りが油断して居眠りを始めるとやっと山から脱出出来たのだ。
山から出ると、その周辺を歩いて一通りの地形を覚え込んみ、只ひたすらチョンホ達の元に急いでいたが、町に入るとのんびりと歩き出していた。
此の町に入ってから、見張られて居た事を思い出してわざと歩調を落したのだ。
酒幕の傍まで来ると、今まで遠巻きに見張りが居たのにその見張りの姿が見え無い事に不思議に思ったがチョンホ達の元に戻って来れた事に安ど感が湧いて来ていた。
グンミンは、此処を出て若者達が行方不明に成った村を訪ねた時の報告を一通りチョンホ達にして、先程から不思議に思ってた事を口に出していた。
「そう言えば、この酒幕の周りで見張っていた役人の姿が見え無い様ですが、いい加減見張るのに飽きたんでしょうか?」
グンミンのその言葉に、ソンシクは苦笑して
「何、お前が居ない間に役人共が乗り込んで来たのさ」
「ええ・・・・一体何でですか?」
「名目は、此処に運び込まれた怪我人の身元調べだったが、既にその怪我人が此処に居ない事が分かると、真っ青に成って慌てて戻って行ったさ」
ソンシクの言葉を補足するようにヒョニが話して呉れた。
「昨日、急に役人達が押し込んで来て、怪我人が居ると届け出が有ったって言うから、怪我人ならとっくに家に帰りましたよって言ったんだけど、部屋を改めると言って酒幕中の部屋を片っ端から調べて、居ない事が分かると慌てて戻って行ったわ」
「用心して、怪我人を移しておいて良かったですね」
「本当に、でもあの役人達、外に出るとヒソヒソと『怪我人が運び込まれた時に、撤収命令を出すからこんな事に成るんだ』って言ってたわよ。それに『仲間の役人を斬った事を知られたく無かったんだろう』って『動けるようなら傷は浅そうだが、此のまま姿を隠してくれていた方が安心なんだが』って何だか怪我をした役人に同情的だったわよ」
「皆、上官の命令に逆らう事が出来ないんでしょう。それに怪我をした役人を連れて行けば如何成るか分かり過ぎる位、分かって居るんでしょう」
チョンホの言葉に、直ぐにあの役人を安全な処に移した事を良かったと思えた。
あのまま此処に居たら、官営に連れ戻され口封じで殺され兼ねなかったのだ。
官営に戻った役人達は、直ぐに上官に報告すると、報告を受けた上官ウ・サンジョンは一瞬驚いた顔をした。
深手とは行かなくても、斬った時の手応えは確かに有った。
そう簡単に、動けるとも思えなかったが、一応怪我をした役人ペク・イルソプの家に、他の役人を差し向けて、所在の有無を調べさせたが家に帰った形跡も無く、一体何処に行ったのか段々不安に成って来た。
斬り付けた時、駆け付けて来たのは確かに酒幕に逗留している、あの若者達だった。
その夜は、怪我人を抱え込んだ以上動きは無いと思い、また自分が部下を手に掛けた事実を他の配下の者に知られたく無く見張りを引き上げさせたのだが、その隙を突かれた形に成っていた。
此の事を県監には、報告せずに内密に怪我をした役人の行方を探す事にした。
県監に手抜かりが知れれば、自分も何時口封じをされるか分からないし、実際何人も此の手で始末をつけて来たのだ。
町中の医者に、酒幕で刀傷の手当てをしたか如何か調べさせ、傷の手当てをした医者を調べると、怪我の度合いを確かめたが、自力で動ける程は軽くないとの事だった。
手当は、その時だけでそれ以降その怪我人を見てはいないと言う事だった。
一体、ペク・イルソプは何処に姿を隠したのか?
まだ、医者の手当てが必要な身体の筈なのだ。
今まで、県監に忠節を誓い働いて来たが、自分の部下を手に掛ける事に成りウ・サンジョンの気持ちに陰りが出て来ていた。
一通りの話を聞かされた、グンミンは
「段々ボロが出て来ましたね。悪い事をしていて、お日様の下を歩くなんてお日様が許しちゃ呉れませんや」
「あはははは・・・グンミンお前はお日様に許されたくちだからな」
「いやですよ!パクの若様・・・俺は、今では若様達のお陰でお日様の下を大手を振って歩ける身分ですから」
「そうですね、悪い事をしていれば必ず綻びが出て来ますから・・・お日様も黙ってはいないでしょうね」
「チョンホ何か良い案でも有るのか?」
「今は何とも言えませんが、此処はイム・ジュファン殿が鍵に成ると思いますよ」
「乞食両班のイム・ジュファンか。確かに何か隠しているな」
「ええ、私もそう感じています。何せ此処の役人達とは係わりが無さそうですし、私達が手助けされて居る事は事実ですからね。イム・ジュファン殿が何者でも敵で無い事は確かでしょう」
チョンホの含みの有る言葉に、ソンシクも何か思い当たる節が在るのか、其れ以上聞く事もしなかった。
怪我をした役人のペク・イルソプが、姿を消した事で県監の手下で、上官のウ・サンジョンが慌てて所在を探す中、チョンホは酒幕で話をしてくれた女人達を保護する事を考え、イム・ジュファンに頼んでいた。
上官のウ・サンジョンに依って酒幕に居るチョンホ達に、再度見張りが付けられたが、見張りをしている役人達は、如何やら怪我をしたペク・イルソプに同情的な事が分かり、表面上は見張りをしていても、チョンホ達の行動を上官に報告する者は一人もいなかったのである。
その事は、チョンホ達に幸運だった。
グンミンはヨンウンの事をチョンホ達に報告すると、イム・ジュファンと一緒にヨンウンが連れ去られた山の方に出向いていった。
他にも人手が必要だったが、その時はイム・ジュファンが心当たりが有ると言って心配無用との事、その行為に甘える事にした。
見張りの中の一人が怪我をしたペク・イルソプと幼馴染だと言う事を、ヒョニが聞き出すと、その役人にペク・イルソプが無事でいるとを知らせると、涙を浮かべて喜んでいた。
姿を現すと、自分達の手でペク・イルソプを捕まえ、内密に殺さなくてはならない為、此のまま隠れていて欲しいと言付けまで頼まれてしまい
「皆さん、良い方なんですよね。只上官の命令で、罪が無い事が分かっていながら、同僚に危害を与えなければならない事が辛いようです」
ヒョニはそう言うとしんみりと
「早く仲間同士で、危害を与える事が無い様にしてあげたいですね」
「そうだな、自分の欲の為に部下を犠牲にして良いと言う事は無いからな」
ソンシクの言葉に、皆も同じ気持ちだった。
そんな時、妓房から県監と密談していた商人らしき男人が酒を飲みに来ていると連絡が有り、チョンホは暫らく考え込んでいたがヒョニを側に呼ぶと何やら耳打ちをしていた。
妓房では、商人らしき男人が余程景気が良いのか妓生を全員呼んで、妓房は貸し切り状態に成っていた。
「今日は、お役人様達は御出でに成らないんですか?」
「ああ、今日は此の者達に沢山酒を飲ませてやってくれ、仕事がうまくはかどって気分が良いんだ」
「それは、良かったです事。お前達そそうの無い様にお相手するんだよ」
妓房の女将の声に、妓生達はにこやかに酌をして客の相手に成っていた。
商人らしき男人は、妓生の一人に目を止めると
「見掛けない妓生だな!」
「ああ、あの子ですか?私の姪なんですけど、漢陽から遊びに来てましてね。折角ですからご挨拶させようと此方のお座敷に連れて来たんですよ」
「おお、漢陽から来たのか。どうりで垢ぬけて居る筈だ。こっちに来て酌をしてくれ」
呼ばれた若い妓生は、ゆっくりとその男人の側に行くと、ニッコリ笑って酌をしていた。
「流石漢陽の妓生だけ在るな、華やかで美しい」
その美しい妓生は、はにかみながら酌をしていたが、その男人はその妓生が気に入ったようで、傍から放さず面白い話を聞かせて、その妓生の気を引いていた。
男人に気に入られた妓生は、ヒョニだった。
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