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ヒョニは、酒席で男人の話題をさり気なく、少しずつ変えて男人が今手がけている仕事の事を聞き出していた。
商人らしき男人は、美しい妓生が田舎者の自分に感心を持って呉れたのが余程嬉しかったのか、得意に成って色々と話していたのだ。
そしてその男人は、帰り際に他の妓生達に知られない様に素早くヒョニの手に何か握らせて
「今日は、用事が有って帰らなければ成らないが、明日も来る。明日は泊っていくからお前が相手をしてくれ、床を共にしてくれたら、此れを沢山やる」
そう言ってヒョニの手を握りしめ撫で廻すと、脂ぎった顔にいやらしい笑いを浮かべ、耳元で
「明日が、楽しみだ」
そう言うと、その男人は帰って行ったが、ヒョニは掴まれて撫でまわされた手の感触がおぞましく直ぐにでも洗い流したい衝動を抑え、手で握りしめた物を見ずに布で包み着替えると急いでチョンホ達が待つ酒幕に戻っていた。
酒幕に戻り、チョンホ達に事の次第を話すと、布を広げて男人が握らせた物を見せたが、チョンホもソンシクも、そして戻っていた、乞食両班のイム・ジュファンもそれを見て唖然としていた。
布に包まれて居た物は、銀の塊だったのだ。
「此れは・・・・・」
「銀塊ですね。それもまだ、何も手を加えていないように見受けられますが・・・」
銀塊を手に取って、眺めていたチョンホが側にいたイム・ジュファンに銀塊を渡すとイム・ジュファンは
「如何やら、この近辺で行方知れずになった若者達は、この銀塊に関係しているようだな・・・」
「もしかして・・・・銀の採掘をしていると言う事か?」
ソンシクの言葉に、イム・ジュファンは
「ああ、多分そうだろう」
「確か、此の地方の銀の採掘は国法で禁止されていた筈ですが・・・悪党の遣りそうな事ですね」
チョンホは、そう言うと黙りこんで何か考えている様なので、ソンシクはイム・ジュファンに
「ヨンウンが連れ込まれた場所が怪しいと思いますが・・・」
「グンミンに案内されて、連れていかれた近辺を歩いてみたが、見張りの人数が多くて側に近付く事は無理だった。あれだけ厳重に見張っているんだ、間違い在るまい。近付くのは、昼間は無理だろうな」
二人の会話を聞いていたチョンホは、ヒョニにペク・イルソプと幼馴染だと言う見張りの役人を呼んで来る様に言うと
「ペク・イルソプの幼馴染に協力を頼みましょう」
「おい、チョンホ!本気で言って居るのか?上司に報告するかもしれないぞ・・・」
「上司に報告するくらいなら、とっくに我々の動きを知らせている筈ですし、それにヒョニにペク・イルソプに隠れて居る様にと言付けした位ですから、悪い人間ではなさそうです」
チョンホの言葉にソンシクは
「そうか・・・チョンホお前、その幼馴染が此の近隣の地理に詳しいのを踏まえて利用しようと言う事か?」
「利用するとは、人聞きが悪いですね。正義の為に働いて貰おうと言う気持ちなんですがね!イム・ジュファン殿は如何思われますか?」
「そうだな、悪い奴では無さそうだ。此処は幼馴染を助けると言う名目で、協力して貰ッた方が良いだろう。他にも県監の悪事に眉を潜める者達も居よう、自分達の手で不正を暴く様にしてやる事も大事な事だ」
イム・ジュファンの言葉に
「自分達の手で不正を暴くと言っても、下級官史達では県監に太刀打ち出来る筈が無いと思いますが?」
イム・ジュファンは、笑いながら
「君達が居るではないか!漢陽の領義政大監が信頼して、江原道・三陟で都護府使を勤める甥のチョ・ソンハの元に行かせたであろう」
イム・ジュファンの言葉に、チョンホとソンシクが顔を見合わせると
「ソンハから君達の事は聞いてる!漢陽でも三陟でも助けて貰ったと、楽しそうに話していたからね。君達とは、一度会ってみたいと思って居たんだが、こんな形で知り合いに成れるとは思って無かったから、つい嬉しくてね」
「チョ・ソンハ殿とは、如何言う関係何でしょうか?」
今まで、乞食両班と思ってぞんざいな口を聞いていたソンシクだが、チョ・ソンハと知り合いと聞き、態度を改めイム・ジュファンに聞いてみると
「そう態度を改める事も有るまい。着物は、ボロボロで散々君達にたかっていたんだ。胡散臭い男だと思われても仕方あるまい。気にするな」
「そう言って頂くと、私も気が楽に成ります」
「私は、チョ・ソンハとは、幼馴染で父が領義政大監の下で働いているんだ。実は、前々から銀の横流しが噂に成っていたんだが、前王が失脚して新しい王様に成り、事の次第を調べる様にと密命を受けたのだ」
「では、貴方が暗行御使殿・・・・」
チョンホとソンシクは絶句していた。
噂では聞いた事が在る。
暗行御使・・・王の勅命を受けて、秘密に行政を監察して、必要な時は現場で王を代理して判決を下し処置をする権限を持つ王の特使なのである。
「噂の真相を調べていたのだが、県監の悪事が中々掴めずにいた所、君達に出会ったと言う訳だ。悪く思うな」
「いいえ、そう言う訳では、身分を明かす事が出来なかったでしょう」
チョンホとソンシクは、イム・ジュファンの手に在る馬牌を見て、イム・ジュファンを改めて力強い味方だと確信すると同時に、県監の悪行を暴き、罪の無い役人達や民を救える事が出来ると、安心出来た。
此れ以上の味方がいようか、多分酒幕の陰でイム・ジュファンが話していた相手は、イム・ジュファンの手の者だろう。
後は、ヨンウンが連れ込まれた洞窟の中で、採掘されているだろう銀塊を動かぬ証拠として監察に付き付け悪事を暴くだけだが、県監に気付かれ怪我人を出さない様に慎重に事を進めなければならないのである。
部屋にペク・イルソプの幼馴染を呼んで、ペク・イルソプを助ける為に県監の悪事の証拠を掴みたいと、説得を試みた所、下の役人の殆んどの者が県監や県監の取り巻きの上司達に嫌悪感を持っているが、命が惜しく見て見ぬ振りをしていたと、涙ながらに話してくれた。
ペク・イルソプの幼馴染の話しによると、県監が時々、取り捲き達を伴い噂の山の方に出向く事が有り、帰りには荷車に何か乗せて戻って来ると話していたが、決して取り捲き以外の役人を近づける事が無いと話してくれた。
チョンホは、獣道の所在を聞くと、山に通じて地元の猟師しか知らない、獣道が存在している事を教えて貰っていた。
「そう言えば・・・明日、山に行く筈です」
「何故分かる?」
「夕刻、一旦官営に戻った処、荷車の支度をしていましたから」
「明日か・・・丁度良い、現場を押さえれば、言い逃れ出来無いでしょう」
「チョンホ、急ぎ過ぎじゃないのか?」
「いや、良い考えかも知れぬ。今度、何時山に行くか分からないからな。私は手の者たちに連絡して支度をさせる」
そう言うとイム・ジュファンは部屋を飛び出して行った。
ペク・イルソプの幼馴染は
「私は、明日県監様が出掛けた時を見計らい、皆さんをご案内します」
「外に居る他の役人達は、大丈夫か?」
「ペク・イルソプを助ける為だと言えば、協力してくれますよ!皆地元の仲間ですからね」
そう言うと、ペク・イルソプの幼馴染は、何か吹っ切れた様な顔付きに成っていた。
翌日、ペク・イルソプの幼馴染から話しに引き込まれた下級官史から連絡が入り、県監が取り捲きの役人達を連れ官営から出掛けたと連絡を受けるとチョンホ達は酒幕を後にしたが、チョンホ達を監視していた下級役人達が一緒に付いて来てしまった。
如何やら、横暴な上官や県監の遣り方に憤慨してチョンホ達の味方に成ったようだ。
漢陽の、領義政大監から通達の有った成均館の儒生。
下級官史達は、イム・ジュファンの事はまだ知らないが、此の若い二人が通達の有った成均館の儒生に間違いないと思えていた。
此の現状から救って貰えるなら、此の二人の若者にどんな手助けをしても良いと考えて、いざと成ったら上官に抵抗しても二人を助ける気持ちに成っていた。
チョンホ達は、ペク・イルソプの幼馴染の案内で、獣道から噂の山の麓に入り込んでいた。
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