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ウ・サンジョンが石礫を避けながら、チョンホ達の側に近ずくのを見た無頼漢達は、自分達も何とかチョンホ達の側に近付こうと、石礫を避ける為に側に有った木箱の蓋を盾にして、チョンホ達の方に近付こうとしていた。
”ウワー”
咄嗟に起こった、後ろの方から聞こえる悲鳴に、無頼漢達が一斉に振り返ると、無頼漢達の一番後ろに居た、無頼漢が襟首を掴まれ先程掘られた穴の中に放り込まれていた。
無頼漢を穴に放り込んだのは、ヨンウンだった。
ヨンウンは、チョンホに言い含められ、今まで気の弱い男人の振りをしていたのだった。
連れて来られてから、オドオドしているヨンウンを無頼漢達は、馬鹿にした様にいい様に使っていたのだ。
今、目の前に居るヨンウンは、何時ものオドオドしたヨンウンでは無く、鋭い目つきで、無頼漢達を見据えていた。
昔、チョンホとソンシクに助けられてから、二人の影響を受け悪事許すまじと言う心を培ってきたヨンウンだったのだ。
自分達の掘った穴の中に、次々と無頼漢達を放り込むと、ヨンウンは一緒に捕まっていた他の者達に
「上からムシロを被せて」
と、言うと
被せたムシロの上にヨンウンが飛び乗り、その衝撃で無頼漢達を動けなくしていた。
余りの手際の良さに、他の無頼漢達は唖然としていたが、ムシロの下から聞こえる仲間の呻き声で我に帰るとヨンウンを捕まえようと襲い掛かって来たのだ。
ヨンウンは、一緒に捕まっていた者達に、ムシロの下の無頼漢達を縛る様に言うと、襲い掛かって来た他の無頼漢達を次々に投げ飛ばしていた。
その様子を、目の端に捉えながらもウ・サンジョンは、気にする事も無く、動じる事も無くじりじりとチョンホ達の方に近付いて居た。
ウ・サンジョンの心の中には、何も無かった。
足元から崩れ落ちそうに成っている今の現状を止める気にもなれずに居る自分が不思議だった。
今まで、県察の命令に忠実に仕事をこなして来た。
上官の命令は、絶対だったのだ。
最初は、自分の中にも葛藤が有ったが、何時しかそんな事も気に成らなく成っていた。
只、県監の命令のまま、目障りな人物達を闇から闇に葬り去って来たのだ。
今、近づく先には、今まで感じてきた事が無い、眩しい程の正義感を醸し出す者達が居るのだ。
最早、自分が手に入れたくても汚れきった自分には、手に入れる事の出来ないものだった。
ようやく石礫を避けながらチョンホとソンシクの傍にたどり着いたウ・サンジョン。
石礫を投げていた下級官史達は、石を投げるのを止め手に石を持ったまま、チョンホ達を呆然と見守っているのだった。
「警備が厳しい筈だったが、良く此処まで近ずいてこれたものだ」
「ええ、親切な平和を望む男人が此処まで導いてくれましたからね」
チョンホの返事を聞いて、ウ・サンジョンは、下級官史達の方にチラリと視線を移したが、別段気に止める風でも無く視線をチョンホとソンシクの方に戻していた。
「フッ・・・下級官史達を味方に付けるとは、考えたな」
「何故、下級官史達が私達の味方をするか、考えた方がいいな」
ソンシクの声は、穏やかだが、どことなくウ・サンジョンを哀れんだ様に聞こえた。
その声に反応するかの様にウ・サンジョンはソンシクに切りかかって行った。
「チョンホ・・・手出し無用・・・」
ソンシクの言葉が終わらないうちに、頭上から刀が降りおろされたが、紙一重で刀をかわしていた。
「若造の分際でやるじゃないか」
「生憎だが、私も命が惜しいんでね。むざむざ切られる訳にもいかない・・・」
ソンシクは、そう言うと刀を横になぎ払い、続けて回し蹴りを繰り出していた。
チョンホに手出し無用と言ったが、ウ・サンジョンの腕前は、相当なもので気を抜くとやられかねないとソンシクは冷や汗をかいていた。
その様子を遠くで見ていた、県監は側近達に、早くこの現場を離れて官営に戻るように指示を出していた。
官営に戻り、他の官史達に下級官史達が謀反をおこしたと通達し、討伐させようという考えだったが・・・不意に行くてを遮られた。
県監の前に立ちはだかったのは、馬に乗ったイム・ジュファンだった。
県監は、イム・ジュファンの姿を見ると、何を思ったか
「おお、良いところに来てくれた。謀反だ」
県監の言葉に、眉を眉を顰(ひそ)めるイム・ジュファンに、更に付け加える様に
「早く討伐をする様に」
イム・ジュファンが軍服を着ているのを見て、官営の軍人と勘違いしたらしい。
県監の言葉に動こうとしないイム・ジュファンを訝しげに見ていた側近の一人が
「貴公・・・見たことが無い顔だが?」
シゲシゲとイム・ジュファンの顔を見ていた他の側近が
「お前、確か乞食のような身なりをしてうろついていた男人に似ているが・・・」
その側近の言葉に、不敵な笑を浮かべるイム・ジュファンだった。
「お前は、何者だ・・・」
側近とイム・ジュファンのやり取りを見ていた県監は、苛ついたように
「早くその男を退けろ」
県監の言葉で今にも襲いかかろうとする側近達から、目を離す事なくイム・ジュファンが、ゆっくりと右手を上げると左右の森の中からおびただしい兵士たちが出て来て、たちまち県監達を取り囲んでいた。
驚いた県監は
「一体何のつもりだ。謀反人達は向に居るぞ。儂は県監である。人間違いをするとはけしからん」
「謀反人は、貴公であろう!証拠は上がっている」
イム・ジュファンは、そう言うと兵士達に命じ荷車を取り囲んでいた側近達を捕まえ、荷車に被せて有ったムシロをむしり取らせ、積んで有った銀塊を示した。
側近達は、抵抗仕様にも大勢の兵士に囲まれた事で戦意を失っていたのだ。
「此の地方の銀の採掘は国法で禁止されている筈、此の銀塊は何かな?」
「此れは、王様の命令で採掘した物で・・・」
「黙りなさい!! 私は王命を受けて調べていたのだ」
イム・ジュファンはそう言うと袂の中から馬牌を取り出し県監に示していた。
「暗行御使・・・・」
県監は、放心したように項垂れ、馬から降ろされていた。
「証拠も押さえた、証人も揃えてある。県監は漢陽に護送し王様より厳罰を賜るであろう。他の者達は牢に入れておけ、後で処罰が下される」
イム・ジュファンは、兵士達に指示を出すと、洞窟の方に馬の歩を進め、ヨンウン達に声を掛けていた。
「大丈夫か?怪我人等居らぬか?」
「俺達は、大丈夫ですが・・・怪我人なら此処に転がってます」
其処には、ヨンウンに叩き伏せられ縛られた無頼漢達が多数転がっていたのだ。
「チョンホに聞いていたが、聞きしに勝る怪力だな」
イム・ジュファンは、愉しそうに笑っていたが、刀の打ち合う音が聞こえ顔に緊張が走た。
「まだ、片ずいて居なかったな・・・」
ソンシクとウ・サンジョンが戦っていた。
お互いに一歩も譲らず、一進一退の戦いだったが、ウ・サンジョンがイム・ジュファンに気が付き、一瞬隙が出来た。
その隙にソンシクの回し蹴りが決まった。
ウ・サンジョンの身体がすっ飛び、木に強かに身体を打ち付けていた。
固唾を飲んで見ていた下級官史達から歓声が上がった。
「大丈夫か?ソンシク」
「ええ・・何とか」
イム・ジュファンの問い掛けに、ソンシクは息切れしながら応えていた。
ウ・サンジョンは、木に打ち付けた背中の痛みに耐えながら、周りの様子を伺っていたが、県監やその側近達が捕縛されているのを見て総てを悟ったのだろう。
チョンホ達の目が自分から離れた一瞬、持っていた刀を腹に突き立てていた。
「何をするんです!!」
チョンホが気付き、ウ・サンジョンの腹から刀を引き抜くと傷口を抑えていた。
「何・・・このまま生きていても死罪は免れん!拷問を受ける位なら此処で死ぬさ」
「卑怯です!」
「卑怯か・・・自分でしてきた事だ。例え県監の命令でも、何人もの人間をこの手で闇に葬ってきた。自分の番が来ただけの事だ・・・」
チョンホは言葉が出なかった。
「出来る・・・事なら・・・次に・・生まれ変われる・・なら・・ましな・・・生き・・方が・・したい・・な・・・・」
動かなくなったウ・サンジョンの亡骸を地面に横たえると、チョンホは呆然と立ち尽くしていた。
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