月の☆彩り

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序章

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曼珠沙華

三浦の乱の暴動鎮圧から戻って来て、チョンホは毎日夢を見る様に成っていた。

夥しい死体の山、目の前で倭軍に切り裂かれる同胞達、敵を斬り伏せ返り血に塗れている自分、そして凌

辱される女人・・・・・其の女人の顔は、必ず最後にはソユンの顔に成っているのだ。

夢を見る事が辛く、胸が締め付けられる様な重い気分で目が覚める事が続いている。

一体、何時まで続くのか分からない夢に毎晩うなされ、ソユンを助ける事が出来なかった事が、後悔と成

って自分を縛り付けている。

ソユンを死なせる事に成って、五年の歳月が過ぎたが今だに自分自身を許せない思いに苛まれ、薺浦で見

た女人の遺体にソユンが重なって見える事に戸惑い奈落の底に引き込まれそうな感覚に胸が潰れそうに成

っていた。

何時に成ったら此の夢を見る事が無く成るのだろう、毎日くたくたに成るまで仕事に没頭し疲れ切って眠

りに付くのだが、夢を見る。

三浦の乱に行く前に見ていた、夢はソユンが笑っていたが、薺浦で夢を見る様に成ってから夢の中のソユ

ンは凌辱された死体の顔に替わっているのだった。

そんな日が何日も続いている事で、酒を飲んで寝る様に成ったが夢を見る事には変わりなく、酒量は段々

増えていった。

内禁衛の従事官と文官との兼任、仕事は幾らでも有ったが従事官の方はソンシクが心配して有能な武官で

副官のリュ・テジュンを付けて呉れた事によって大分捗り、文官の方の戸曹はソンシクの義父で在る戸曹

判書大監に同僚達が睨まれ、今までチョンホがしていた雑用を全て引受て呉れた事により仕事が減ってい

たのである。

多分ソンシクが、最近のチョンホの様子を心配して義父の戸曹判書大監に、働き掛けて呉れたのだろう。

其れから数日が過ぎた時、内禁衛の将の計らいで内禁衛の従事官達が副官を連れて久し振りに栄彩館に行

く事に成りチョンホとソンシクも同行した。

三浦の乱の暴動が予想以上大きかった事で、妓房への出入りを自粛していた為ったが、六月に倭軍は再度

攻撃を仕掛けて来たが朝鮮軍が撃退した事によって、栄彩館も活気を取り戻し前の様な賑わいを見せてい

た。

普段、従事官位だと顔を出す事の少ない漢陽一の名妓と名高いメヒャンが座敷に来て酌をして呉れるの

で、座敷が華やかに成りチョンホも勧められるままに酒をのんでいた。

今までのチョンホだったら、適度の酒量で済ましていたのだが、此の所の夢見が悪く睡眠前に深酒をする

様に成って居たので進められる儘に相当量の酒を飲む事に成り、初めて酔い潰れる事と成った。

チョンホが酔い潰れた事で、他の従事官や副官達は驚いて居た様だが、ソンシクが別段気にしている様子

も無く、メヒャンに別の客間を頼むとチョンホの腕を自分の肩に回して、抱え込む様にして連れて行っ

た。

部屋に入るとソンシクは、チョンホが楽な様に黒笠を外して着物を脱がせ布団に寝かせてメヒャンに

「後は頼んだ、少し荒療治だがこうでもしないとチョンホの神経が持たないからな・・・」

「分かっていますので、後はお任せ下さい」

「・・・チョンホに後で恨まれるかな?」

「さあ、私もソンシク様も、二度と顔を見たくないと言われましたら、どうします?」

「・・・・でも、此のままにはしては置けないからな・・・」

「覚悟が決まりましたか?」

「ああ、チョンホの事・・・頼んだぞ」

そう言い置いて、他の従事官達と栄彩館から帰っていった。


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チョンホは夢を見ていた、毎晩見る夢で女人の顔がソユンに変わろうとする時に、温かい物に包まれて其

れまで見ていた夢が消えていた。

其の温かさは、昔チョンホが子供の頃・・・いや、其れ以前に感じた事の有る温もりだった。

穏やかな温もりに、何時の間にか母を思い出して其のまま包まれて居たが、ふと目が覚めて記憶を辿って

いると、屋敷に帰った記憶は無く栄彩館で記憶が途切れて居る事に気が付くと、チョンホが包まれて居る

温もりの正体に驚いて飛び起きようとしたが、まだ酒が体内に相当残ってる様でやっとその温もりから離

れた。

「目が覚めましたか?」

「・・・此処は?」

「栄彩館です。大分お酔いに成られていたので、お泊めする様にと・・・」

「ソンシクですか?」

「相当ご心配して居られますよ」

「水を貰えるか・・・」

メヒャンは水差しから、湯呑に水を入れるとチョンホに渡して、チョンホが一気に飲み干すのを待って湯

呑を受け取っていた。

「大分魘されていましたが、大丈夫ですか?」

チョンホは酒が身体に残っている為起きて居る事が苦痛に成り、布団に寝ると先程の温もりはメヒャンに

抱き締められて居た為だと気が付いて不思議な思いをしていた。

「魘されて居たから?・・・」

「ええ、余り辛そうなので思わず抱きしめていましたが、お気に召しませんか?妓生だから・・・誰にでも体を許すと・・・汚いとお思いですか?」

「いや、そんな事は思わ無いが・・・」

「好きで妓生に成った訳では有りません、世の中の身分の法が有るから・・此れでも私の父は両班でした」

メヒャンの話をチョンホは黙って聞いていた。

「結構良い家の跡取りでしたが、妓生だった母を見染めて家を捨てて一緒に暮らしたんです・・・弟が生まれた時父は病に倒れ亡くなりましたが、弟だけは父の家に引き取られて行きました。後を継いだ父の弟には、子供が無く自分の奥さんが産んだ事にして弟を後継ぎとして育てると・・・母も亡く成り弟に会う事も叶わずにいるんです」

「・・・・」

「分かって居るんです、妓生の娘は妓生にしか成れない事が・・・其れでも汚いとお思いですか?チョンホ様に取って妓生とは汚い存在でしか無いんですか?」

「そんな事は無い」

「先程は、魘されておいででしたから抱き締めていたんです。其れさえも嫌だと思われるんですか?」

「だからそんな事は無いと言っている」

「だったら抱いて下さい・・・汚いとお思いに成らないのでしたら・・・」

そう言うとメヒャンは、寝て居るチョンホの下着の紐を解いて、チョンホの身体を指でなぞって口付けて

行った。

そんなメヒャンの態度にチョンホは困惑していた。

大分酔いが残っていた為、気だるい身体が重く暫らくメヒャンのなすが儘に成っていたが、メヒャンの唇

が男人の本能に火を付けた。

まだ、女人を知らないチョンホはメヒャンを下に組み敷くと、如何して良いか分からずにいたが、メヒャ

ンに導かれ本能の赴く儘に抱いていた。

そんなチョンホをメヒャンは、まるで海の様に穏やかに優しく包み込んでしまった。



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チョンホは夢を見ていた、其れはソユンの夢で花を抱えて穏やかに笑って、チョンホに話し掛けて来た。

≪もう、苦しまないで下さい、チョンホ様が苦しむと私が辛いんです。チョンホ様の笑顔が大好きだったんです≫

ソユンの言葉に、夢の中で胸の締め付けられる感覚が無く成り、目が覚めても今まで感じていた息苦しさ

が消えていた。

「今まで、羽目を外す事無く来た事で、自分の気持ちを追い込んで居たのだろう」

とソンシクの言葉だった。

メヒャンとの関係は一度だけだった。

お互い、あの夜の事を話す事は無く、以前の様に只話をするだけの関係に戻っていた。

ソユンの夢を見てから何日が経ったのだろう、今は夢を見る事が無く成って穏やかな自分がいるが、時々

思い出すと以前程では無いが胸が痛む。

目の前で同胞が死んで逝ったのも、ソユンが死んだ事も夢では無く事実なのだ。

多分此の痛みは一生消える事は無いだろう。

慈愛

三浦の乱から戻って来て、考え込む事の多く成ったソンシクに、アジュンは穏やかに酒を勧めていたが、

ソンシクはアジュンの手を引き抱き寄せると

「もし・・・もし私が、君に惚れて居る事をチョンホ打ち明けなかったら、君は義父殿の望み通りにチョンホの元に嫁いだのだろうか?・・・そうしたらチョンホはソユンの事で此れほど苦しまずに済んだのでは無いだろうか?・・・」

辛そうにアジュンに話し出したソンシクに、アジュンは人差し指をソンシクの唇に当てると、ソンシクの

話を遮って話し出した。

「もし、私がチョンホ様の元に嫁いだら、貴方は平気で居られましたの?」

ソンシクの顔が暗く成って来て、何かを考える様子に

「忘れないで下さいね、私はキム・アジュンは、貴方のパク・ソンシクの妻だと言う事を、そしてパク・ソユンの父で有り・・・」

ソンシクの手をそっとお腹に持って行くと

「此の中に宿って居る子の父なのだと言う事を・・・忘れないで下さいね。貴方がチョンホ様の辛いお気持ちを酌んで居る事は知ってます。でも私の夫はチョンホ様でも他の誰でも無い貴方ですのよ。貴方と出会い、結ばれたのは運命だと思っています」

ソンシクはアジュンの指先をそっと外すと、思い出す様に話し出していた。

「君と出会った時、奉公人の悲鳴に真っ先に塀に飛び乗ったのはチョンホだったし、私に捕盗庁の役人を手配する様に言ったのもチョンホだった。私は只、君の美しさに見とれて居ただけだった・・・呆れたろう。其れでも運命だと言って呉れるのか?」

「ええ、私も貴方に会って惹かれるのを止める事が出来ませんでしたもの、もし貴方以外の方でしたら尼に成るつもりでしたのよ」

そう言って微笑むアジュンが愛おしく、抱き締めて頬擦りをしていた。

「もう、もしも・・・何て言わないで下さいね。チョンホ様の事は二人で考えて行きましょう。あんなに良い方ですもの、此のまま辛い思いのままではおいでに成りません、きっと運命の方に出会われますわ」

「君はソユンがチョンホの運命の女人では、無かったと言うのか?・・・」

「ええ、だってチョンホ様は一度もソユンを愛してるとは、仰しゃる事は有りませんでしたもの・・・ソユンには可哀想ですけど」

「婚姻まで決めたんだぞ、一緒に過ごせば愛せる様に・・・成る・・と・・」

「私も貴方も、一目でお互いに惹かれましたもの、チョンホ様にもきっとそんな方が現れますわ、其れで無ければ余りにも辛すぎますもの」

「ソユンが亡くなってもう五年に成るかな・・・もうそろそろ踏ん切りを付けても良い頃だと私も思うな」

「きっとソユンもチョンホ様が幸せに成る事を望んで居ると思いますよ。あんなにチョンホ様の事が好きだったんですもの、チョンホ様が不幸ですと浮かばれませんわ」

ソンシクは、穏やかなアジュンに心が癒されるのを感じながら、チョンホの事を思っていた。

人の心配ばかりして、自分の事は後回しにして、今も薺浦で行き方知れずに成っているコ・インボムの知

り合いの女人の事を調べている。

民間人も大分犠牲に成っているので、生きてる確率はかなり低いが、其れでも探さずに居られないのだろ

う。

インボムの友人達も一緒に成って探してる中、チョンホの指揮下にいた兵士達も探して呉れている。

チョンホは人を引き付ける、何かを持っている・・・いや・・・人を助ける時に見返りを求めずにいるの

だ。

だから、助けられた方も無条件でチョンホの役に立ちたいと、動き出すのだ。

そう思うとチョンホが誇らしく、自分もチョンホの役に立ちたいと、薺浦の役人に人相書きを渡して捜索

を頼んでいる。

アジュンを抱きしめたまま、考え事をしているとアジュンに手を取られお腹に持って行かれた。

「・・・元気が良いな、男の子かな?」

アジュンのお腹を蹴る、まだ生れぬ赤子が愛おしく、チョンホにもこの様な幸せな時を持って欲しいと切

実に願うソンシクだった。

「余り強く蹴るなよ、お母様が辛いだろう」

そう言って優しくアジュンのお腹を撫でて、アジュンの唇に口付けするとアジュンを抱き上げ耳元に囁い

ていた。

「余り無理はしないで優しくするから、今夜良いだろう」

頷くアジュンに頬摺りすると、寝所に連れて行き明かりを消していた。

追憶其の十二(後)

倭軍は釜山浦・薺浦を陥落させ塩浦に進軍していたが朝鮮軍の反撃に会い膠着状態に成っていた。



翌日、チョンホの推測通り倭軍の将の宗盛親より講和交渉の打診が有ったが、朝鮮王朝は講和に応じず徹

底抗戦の方針を打ち出していた。

その事は、前線に居る兵士達にも通達されたが、徹底抗戦に成る事で今まで以上に苛酷な状況に成る事を

踏まえ、昨夜の事をチョンホより報告を受けた副指揮官のキム・チソン令監は、チョンホの進言を受けて

兵士達に、戦場での略奪、暴行、虐殺行為を禁じる旨を徹底させる事にし、此れに違反した者は厳罰に処

する事に成った。

チョンホはコ・インボムより、此処数日間の薺浦の官営の様子を詳しく聞く事が出来た。

インボムは、ソンパの船着場での仕事柄、届物が有ると其の都度自分から薺浦に良く足を運んでいたらし

く(如何やら好きな女人が居た様だ)其の時倭人と知り合いに成り言葉を覚えた様で、倭国語を少し話せ

るとの事だった。

インボムの話によると、倭軍は兵の一部を対馬に撤退させて居り、残りを薺浦へ集結させる様に釜山浦・

塩浦に伝令を出した様で、其の事を上層部に報告したが、上層部では、身分の低い民間人のインボムの話

を信用せず、釜山浦・薺浦・塩浦に兵士を送り調べる様に命令を出していた。

キム・チソン令監に個人的に呼ばれると、インボムの証言が確かだと言う確証が無ければ、軍を動かす事

が出来ない旨を伝えられ、チョンホが独自に調べる事を許可されたのだ。

「済まない、折角の情報なのに・・・」

「気にしないで下さい、元々両班なんて、俺達みたいな身分の低い者の言う事など・・・・」

「・・・・・」

「ミンの若様は違います・・・ミンの若様は俺達を助けて呉れました。俺達がどれだけ恩義を感じてるか、ユン・ウォンソクの女房も助けて貰ってだからウォンソク達と何時も、何か有ったらミンの若様のお役に立ちたいと話しているんです」

「そう言って貰うと助かるが」

「其れに、今度の事で女房にしたかった女人も行方知れずに成っちまったんで、早く此の暴動が治まって呉れたら良いんですが・・・」

そう言うと、寂しそうに笑っている、インボムに掛ける言葉も無かった。

何時終結するか分からない暴動に、どれ程の民が巻き添えに成り嘆き悲しんでいるのだろう、そう思うと

早く終結させなければ成らないと切実に感じるのだ。

インボムは今の状況では、ソンパの船着場に戻る事も叶わず、チョンホの指揮する下級兵士と一緒に居る

事に成り薺浦での情報活動でチョンホの手足と成るべく行動を始めた。

インボムは倭国語が分かる為、隠れて倭国の兵士達に近付き兵士達の会話を盗み聞くと、チョンホに知ら

せる為チョンホは,有る程度の倭軍の動きを把握する事が出来た。

朝鮮軍は、釜山浦・薺浦・塩浦のどちらに総攻撃をするかで軍事会議で議論を続けているが、色々な情報

に惑わされ決め兼ねている現状に、再度チョンホの強い進言とキム・チソン令監の後押しが有り、抜け道

から薺浦の官営に近づく事が可能だと知ると、薺浦の官営の事は、チョンホに一任され調べる事に成りイ

ンボムの案内で手勢の兵士二十名を引き連れて、抜け道から薺浦の官営に近づいて様子を見る事にした。

交替で休みを取り、倭軍の動向を探っているとインボムと兵士一人が怪我をしたと、知らせが入った事で

官営の様子を探っている兵士達に、動かない様にと指示を出し様子を見る為に 治療を受けている天幕に

足を運んでいた。

二人の怪我は大した事は無かったが、聞いた話の余りの無謀振りにチョンホも呆れ言葉も出ずにいたが、

其処を通り掛って助けて呉れた武官に礼を言うと、ソンシクの副官でリュ・テジュンと名乗っていた。

早速ソンシクに礼を言いに行くと、チョンホの指揮下で動く兵士達が心許無く、チョンホの足を引っ張る

のではと心配に成り、其れと無く見て欲しいと内禁衛の従事官副官のリュ・テジュンに頼んでいたらし

く、インボム達を助けたのも偶然では無かった様だ。

「しかし、幾ら何でも倭軍の伝令の馬を二人で止めて、密書を奪い取るとは、呆れた奴らだ」

「面目無い、私の監督不行届きでした」

「副指揮官で有るキム・チソン令監に確証を取る様に言われて居るんだろう・・・幾らお前の進言が有っても確証が無ければ、キム・チソン令監でも軍を動かす事など出来る訳無いからな、インボム達も何かを掴もうと焦って居たのだろう」

「私の為に、危険な目に会わせた様で・・・・」

「何、あいつ等成りに お前の役に立ちたかったんだろう、見上げたものだ精々褒めて遣るんだな」

そう言って笑うソンシクの、見えない所での配慮に只々感謝する事しか今のチョンホには出来なかった。

インボム達の手に入れた密書には,薺浦へ集結するに当たって食糧の調達の指示がされていて、大勢の倭

軍の兵士を賄う為には相当量の食糧が必要で、集結する際に其れらの食糧を持ち込む事に成ると、釜山

浦・塩浦からの道筋より調達する事は明らかで有り、其の分朝鮮の民が犠牲に成り飢えに苦しむ様に成る

事は明白だった。

倭軍が集結する前に早めに薺浦を叩いて、倭軍の戦力が分散すれば地理に詳しい自国の朝鮮軍が勝利する

事は、間違い無く其の時期を逃さない様にする為に密書を、副指揮官で有るキム・チソン令監に託し軍事

会議に提出して貰う事にして、チョンホは薺浦の官営の側に居る兵士達の所に戻って行った。

チョンホは外から薺浦の官営に持ち込まれるはずの食糧を、尽く妨害して入らない様に細心の注意を払

い、兵糧攻めにして倭軍が集結する前に何とか決着を付けなければと思っていたのだ。

四月十九日早朝、チョンホは食糧調達の為 倭軍の兵士が官営を抜け出した事で手薄に成った官営を奪回

するのは、今しか無いと兵士一人を内禁衛のソンシクの元に送り残りの兵士を引き連れて官営内に入り込

み、油断して居る倭軍が備えていた弓の弦を片っ端から切って行ったのだ。

弓が使え無ければ、攻撃を掛ける朝鮮軍が門に到達する前に、死体の山を築く事が無く成る事は明白で、

兵士達も其の事が分かると、息を殺しながらチョンホの指図に従い倭軍に見付からない様に弦を切ってい

た。


其の頃チョンホから連絡を受けた、ソンシクは副指揮官のキム・チソン令監に報告し、軍を動かして薺浦

に総攻撃を掛けた。

押し寄せる朝鮮軍に、弓を射掛け様とした倭軍は弓の弦を尽く切られて居た事に動揺して居る間に、チョ

ンホ達が中から門を開けて朝鮮軍を招き入れていた。

弓が使えず接近戦に成り、朝鮮軍は、薺浦を陥落する事に成功し倭軍は対馬へ撤退して行った。

今度の攻撃で、被害は最少限度に留まったが、其れでも多くの兵士の命が奪われた事にチョンホの気持は

重く沈み込んで行き、目の前で同胞が次々倒れて行く中、助け様としても自分達に斬り付けて来る敵を斬

り伏せる事が手一杯で、何とか自分の配下の兵士達だけでも守る事が出来た事を神仏に感謝していた。

薺浦に殆んど食糧は無く、持ち込まれる筈の食料は妨害に会い、集結する筈の倭軍の部隊が持ち込む食料

に期待を掛けていたが、其の前に空腹に成った倭軍の兵士が薺浦の官営を抜け出た事で、防衛が疎かに成

り終結が早まったのだが流石に軍馬まで食料にしていた事に、驚きを隠せなかった。

此の功績でキム・チソン令監が正二品の大監に成り、キム・チソン令監の推挙でチョンホは文官で有りな

がら内禁衛従事官従六品に抜擢される事に成ったが、面白く無いのは戸曹判書大監で、チョンホが戸曹か

ら内禁衛に移る事が気に入らず、こんな事に成るなら幾ら頼まれても鎮圧部隊に貸し出す事など反対すれ

ば良かったと、剥れて居るので兼任と言う事で折り合いを付けたのだ。

追憶其の十二(前)

三浦の乱
※釜山浦・薺浦・塩浦を総称して三浦と呼ぶ。


千五百十年四月四日の春。

南部に三浦と呼ばれる日本人居留地が存在していた。

年々増え続ける日本人居留地の日本人に危機感を覚えた、朝鮮王朝が規則の締め付けを始め、色々な小競

り合いが有ったが段々其の規模が大きく成り、無実の日本人が海賊と間違われて斬られた事で日本人の不

満は爆発し、其れに反発した日本人が日本の対馬から援軍を迎えて反乱を起こした。

チョンホが十九歳の時、中宗王が即位して四年目の時だ。

鎮圧部隊の副指揮官としてキム・チソン令監が赴く事に成り、チョンホの武術の素質を見知っていたキ

ム・チソン令監の立っての推挙で文官だが特別にキム・チソン令監の側近として従軍する事に成った。

キム・チソン令監とは、ソンシクの屋敷で引き合わされて言葉を交わし父親の知人だと知ったが、内禁衛

の訓練所でソンシクとアン従事官に武術の稽古を付けて貰って居る所を見られていた。

其の時、酒席に呼ばれ領義政大監・内禁衛将・キム・チソン令監・アン従事官、同席で妓生の酌で酒を飲

んだ事が有ったのだ。


三浦の乱は、熾烈を極め倭軍(日本)は、対馬より島主の代官である宗盛親が率いる約四千五百の兵力で

釜山浦・薺浦の官営を陥落させ、海上では二百隻以上の船団が圧力を加えていた

チョンホは文官で、直接戦場に出る必要は無かったが・・・実はキム・チソン令監がチョンホを戸曹から

借り受ける時、戸曹判書大監から呉々も直接戦場に出さずに、身辺警護だけさせる様にと念を押されてい

たのだ。

幾ら文官と言えど、戦場での任務に危険は付き物でキム・チソン令監は、自分の側近に只の文官では心許

無く文武両道で更に実戦を体験していたチョンホを思い浮かべていた。

幾ら文武両道でもいざと成ると、動けずにいる男人もいるが、チョンホの場合イ・ギヨル大監の一件で実

力は立正済みで、人間性も信頼出来る物が有った。

人間性に至っては、領義政大監や戸曹判書大監が事の他可愛がる事でも分かる。

何せ此の二人は結構冷淡な所が有り、性格の悪い影日向の有る人間や私利私欲に走る人間を側に置く事を

嫌い適当な仕事を宛がって遠ざけて居るのだ。

側近としての仕事も、頭の回転が速く直ぐに覚えてしまいキム・チソン令監にとっても、最早チョンホは

手放せない存在に成っていた。

戦場は悲惨な物だった、其処の場所に立ったチョンホが目にした物は衝撃的な物だった。

無数の転がる遺体、燃えた家屋、辺り一面悪臭に覆われ、遺体は兵士だけで無く、民間人まで巻き添えで

殺戮され女人や子供の遺体まで有り、兵士の遺体は、身包み剥がされていたのだ。

兵士が身に着けている鎧兜は、金に成る為危険を冒して民間人が外して持って行く為だ。

余りの状況に、チョンホの最初にした仕事は、キム・チソン令監に申し出て遺体の埋葬だった。

最初、他の者が片付けるので其のままにして置く様に言われたが、一向に其の気配が無く再度申し出て、

此のまま放置して置くと疫病が発生し大変な事に成ると進言してキム・チソン令監の許可を得、二十人程

の下級兵士を指揮して穴を掘り遺体を埋めて行った。

どれ程の遺体を埋めたのだろう、もう気が遠く成りそうな程の数の遺体を埋めた時、兵士が物陰から引き

ずって来た遺体を見てチョンホは思わず激しい吐き気に襲われていた。

其の遺体は、明らかに凌辱された痕跡がある女人だったのだ。

身体の底から湧き上がる激しい嘔吐感を抑える事が出来ず、思わず吐き出していたが顔色が悪く成って来

た事に、兵士達が驚きチョンホを抱えると天幕に連れて行き横たえていた。

チョンホは其のまま暫らく、横に成っていたが近付いて来る人影に顔を向けると其処にはソンシクがい

た。

「如何した、チョンホ具合でも悪いのか?」

「如何して此処へ?」

「おいおい忘れたのか、此れでも内禁衛の軍人だぞ、国が危ういのにのんびりして居られる訳が無いだろう、予想以上の暴動で我々内禁衛も派遣された訳だ、しかし海上も凄い物だあれ程の船団が睨みを利かしてるのを見ると盛況だな」

「呑気な事を言ってる場合では無いでしょう」

チョンホは、ソンシクが派遣されて来た事で、落着きを取り戻している自分が居る事に驚いていたが、先

程の女人の遺体を見た時の衝撃が薄らいで行く事に戸惑いを覚えていた。

「チョンホお前、此の暴動どう終結すると思う?」

「多分、倭軍の将は講和交渉に持ち込む積りではないでしょうか?」

「しかし、其れを受け入れては、我が国の威信に係わるのだが・・・」

「勿論、講和交渉を受け入れる訳にはいきませんから、此処は反撃しか無いと思います」

「反撃すると成ると、被害を成るべく最小限度で済ませなければ成らないな・・・顔色が悪いからもう少し休んで居た方が良い」

そう言うと、ソンシクは天幕から出て行ってしまい、チョンホは一人で考え事を始めていた。

ソンシクが来た事で気持に余裕が出来たのだろう、先程の息苦しさが無く成り、嘔吐感も消えていたの

だ。

其れから少し横に成っていたが、ソンシクに言い使ったと医女が薬湯を持って来てくれた事に感謝した

が、怪我人の手当に多忙な医女の手を煩わせた事に申し訳無い気持ちで一杯だった。

身体も大分楽に成った事も有り、先程の場所に戻り遺体を埋める作業を終わった事を見届けると、一応周

りを調べる事にして、兵士を連れて巡回していると、人の気配がして納屋に潜んで居る倭国の兵士を見付

けた。

兵士が引き出して調べようとした時、其の男人はチョンホに気が付くと安心した様に、話掛けて来た。

「ミンの若様・・・・」

「私を、知って居るのか?」

「昔、若様に助けて貰ったユン・ウォンソクの仲間のコ・インボムです」

まだ、チョンホが十四歳の時に、両班の子弟達から金子を脅し取っていた少年達を思い出し、其の中の

一人だったのだ。

倭国の兵士の格好に、子細を聞いて見ると仕事で薺浦の官営に届物を持って来た時に、倭国の襲撃に会い

官営の中に暫らく潜んで居たが、食糧が無く成って来た為に倭国の兵士が食糧調達の為に、官営から出て

行き官営が手薄に成った所を倭国の兵士の格好をして逃げて来たが、倭国の兵士の格好をしているので、

困って居た所にチョンホが遭遇した訳だった。

インボムの話では、悪い事をしていた時は、常に逃げ道を捜していたので、今だに知らない所に行くと必

ず逃げ道を捜す癖が付いていると言う事だ。

取り合えず、其のままでは連れて歩けないので、兵士に着物を取りに行かせている間に、薺浦の官営の様

子を詳しく聴く事にした。

インボムを連れて戻ると、ソンシクが心配していたが、事の次第を話すとインボムの事を思い出して懐か

しそうにあの時の事を話していた。

夜も遅く成っていたので、詳しい話は翌日と言う事で眠りに付いたが、中々眠れずに外に出て歩いていた

が、気が付いたら大分天幕から離れ戻ろうとした時に、女人の悲鳴と赤子の泣き声が聞こえたので、悲鳴

が聞こえた方へ急ぐと、数人の兵士に女人が抑え込まれて今にも凌辱されそうに成っていたが、兵士達は

チョンホを見ると慌てて逃げ出していたのだ。

女人は倭国人で、チョンホを見ると震えていたが、泣いて地面に寝てる赤子を抱き上げて渡してやると安

心した様に、礼を言うと暗闇の中に消えて行った。

チョンホは倭国人の女人の顔に、ソユンが重なって見えた事に戸惑いを覚えるのだった。

こんな戦争の状況で、一体何人の女人が犠牲に成り殺されるか辛い思いに泣いて居るのだろうか?

夜中に夢を見ていた・・・泣いて助けを求めるソユンに体が動かずに、なす術も無く只見て居るだけの自

分自身がいた。

目が覚めて遣り切れない思いに、胸が締め付けられる様な感覚を止める事が出来なかった。

追憶其の十一

秋の訪れで、其れまでの暑さに終わりを告げ心地よい空気の涼しさが清々しく、山々の紅葉が赤く色ずく

頃。

チョンホは十七歳に成っていた。

もう直ぐ十六歳に成ろうとする直前に婚約者のソユンを失い喪に服すと言う名目で、誕生の祝いを断るが

周りの気遣いに細やかに済ませ、只々ソユンを救う事の出来なかった自分が許せずにいた。

辛い事を払拭する様に、勉学にのめり込み大科を受けて壮元及第していた。

心が虚しい思いに支配されそうな時に、ソンシクに女の子が生れアジュンからの申し出によって、ソユン

と名付けられた。

赤子のソユンを此の腕に抱くと、亡くなったソユンの生まれ代りの様な気がして、世の中の汚れを見ずに

清らかに育って欲しいと心から思うのであった。

月命日にソユンを偲んで、ソンシクの屋敷の奥庭から花を貰い受け、赤子のソユンを此の腕に抱くと、心

が穏やかに成り救われる思いがしていたのだ。

ソンシクの屋敷の奥庭は、ソユンの思い出から切り離せない物が有った。

ソユンは、ソンシクの屋敷の奥庭でチョンホに抱き付いて来たのだ、如何やらアジュンの差し金らしい

が、そんなソユンが意地らしくて仕草が可愛いので、何度かソユンから抱き付く様に仕向けている自分が

いた。

他の場所では決してその様な仕草は見せずに居たのだが・・・ソンシクの奥庭では人の気配がした事が無

く、今更ながら其の時のアジュンの配慮にに感謝している。

アジュンに唆される事が無かったら、その様な思い出も持つ事も無かったかも知れず、ソユンに対して同

情や哀れみ以外の感情を 其れ程早く持つ事も無かっただろう。

愛情とは違うかも知れないが、特別な感情が自分の中に芽生えたのは確かだった。

ソンシクは子供が生まれると、父親の後を継ぐべく武科挙を受けて、武科挙で壮元及第した。

武官は文官より軽んじられていたが、ソンシクの場合文官の試験にも受かって居り、他の武官より立場的

には優位だった。

「お前が武科挙を受けてなくて、助かったよ」

「如何してですか?」

「お前が居たら壮元及第は無理だったからな、まあ お前は、科挙や大科で壮元及第しているんだ、武科挙位は譲って貰わないと私もアジュンに大きな顔が出来ないからな」

「買い被りですよ・・・」

「私よりも実力が上だ、別に買い被りとも思って居ないが,お前は自分で自分の事が解って居ないだけだ」

ソンシクは、武科挙で壮元及第したことで、内禁衛に配属される事が決まり、文官の自分とは違う部署に

成り少し淋しいと思う感情に、支配されそうに成っていたが、王宮で王様に仕える事に代わりわなく、何

時でも会う機会は有ると思う事で自分を納得させていた。

壮元及第者は従六品の参上官に任命され、チョンホは如何いう訳かアジュンの父親の戸曹判書正二品で在

るキム・インス大監の元に配属される事に成った。

ソンシクに言わせると、陰謀だと言って呆れ返っているのが分かった。

アジュンの婿に出来なかったから、側に置いて置きたいのだろうと言っていたがチョンホに取っては、仕

事に没頭出来れば何処でも良かったのだ。

同僚達は、十七歳で大科に壮元及第したチョンホが目障りで、剰え戸曹判書大監が殊の外チョンホを気に

入り、側に置いてる事も気に入らずにチョンホを疎んじていたが、チョンホにしてみれば幸いな事だっ

た。

何かして居なくては、ソユンを救えなかった虚しさに飲み込まれてしまいそうな感覚に抗う様に只々、仕

事に没頭していたが、戸曹判書大監が其れを許す筈が無く事有る毎に妓房に連れ出されていた。

今日は栄彩館、明日は光華楼と言う様にチョンホを連れて歩くと妓生達の態度がすこぶる良く、メヒャン

やウンジョンが必ず顔を出すので部下を連れて行く戸曹判書大監の面目が立ち、喜んで居るのだ。

まさか、他の同僚達は妓房の居心地の良さは、若いチョンホの御蔭だと知らずに、チョンホ抜きで行って

見るのだがメヒャンやウンジョン達が若い官吏達の相手をする事は無く、他の格下の妓生達に良い様にあ

しらわれて飲まされて帰って行くのだ。

たまたまチョンホの非番の日に、戸曹判書大監に連れられて栄彩館に行って見ると、メヒャンは顔を出し

て挨拶しただけで、他の座敷に行ってしまい今まで戸曹判書大監に連れられて来た時は、他の座敷を断っ

てでも自分達の座敷に居た事で、不思議な気持ちだったが、同僚の一人が厠に行った時に妓生達の会話を

盗み聞いてしまった。

「今日は、戸曹の方々がおいでなんでしょう?」

「そうなんだけど、ミンの若様がおいでに成らないから、お座敷に伺っても詰まらないしメヒャンも若様が居ないと分かると、他の座敷に行ってしまうし困るわ」

「メヒャンは若様だけが居れば機嫌が良いんだから」

「光華楼のウンジョンも同じでしょう、他の妓生がミンの若様の側に行ったら頗る機嫌が悪く成るって評判よ」

「兎に角 戸曹判書大監だけには、愛想良くしないと」

「他の官吏の方達は、適当にお相手していれば良いわよ」

「其れより、他の部署の官吏の方から聞いたんだけど、戸曹の官吏の方々ミンの若様の事を疎んじて居るそうよ」

「其の話本当なの?」

「メヒャンの態度を見ていたら分かるわよ、ミンの若様は仕事が出来るから他の官吏の方達が面白く無いんでしょう」

「他の官吏の方達は放って置けば良いわよ、その内 漢陽中の妓生に相手にされ無く成るわ」

そんな話を聞いた戸曹の官吏は、驚いて今まで頗る居心地の良かった栄彩館や光華楼の敷居が急に高く成

って行くのを感じていた。

次の日から、チョンホに対する同僚の態度が大幅に変わって居る事に、チョンホ自体気付いたが別に気に

する事も無く、只黙々と仕事をこなしているのだった。

宮中で久々に、ソンシクに出会うと内禁衛の従事官の青帖裏が良く似合っていて、成均館で学んでいた頃

の学生の雰囲気が大分消え去っている事に、戸惑いを覚えると同時にチョンホ自身、ソユンの事で何時ま

でも立ち止まっていては、いけないと思う気持ちが湧いて来るのが否めなかった。

ソンシクは、文官だと体が鈍っているだろうと、内禁衛の訓練所で武術の練習相手をしてくれ、久し振り

に汗を流して鬱積した気持ちが少しでも晴れる様にと気を使って居るのが分かり有りがたいと思うチョン

ホだった。

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