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倭軍は釜山浦・薺浦を陥落させ塩浦に進軍していたが朝鮮軍の反撃に会い膠着状態に成っていた。
翌日、チョンホの推測通り倭軍の将の宗盛親より講和交渉の打診が有ったが、朝鮮王朝は講和に応じず徹
底抗戦の方針を打ち出していた。
その事は、前線に居る兵士達にも通達されたが、徹底抗戦に成る事で今まで以上に苛酷な状況に成る事を
踏まえ、昨夜の事をチョンホより報告を受けた副指揮官のキム・チソン令監は、チョンホの進言を受けて
兵士達に、戦場での略奪、暴行、虐殺行為を禁じる旨を徹底させる事にし、此れに違反した者は厳罰に処
する事に成った。
チョンホはコ・インボムより、此処数日間の薺浦の官営の様子を詳しく聞く事が出来た。
インボムは、ソンパの船着場での仕事柄、届物が有ると其の都度自分から薺浦に良く足を運んでいたらし
く(如何やら好きな女人が居た様だ)其の時倭人と知り合いに成り言葉を覚えた様で、倭国語を少し話せ
るとの事だった。
インボムの話によると、倭軍は兵の一部を対馬に撤退させて居り、残りを薺浦へ集結させる様に釜山浦・
塩浦に伝令を出した様で、其の事を上層部に報告したが、上層部では、身分の低い民間人のインボムの話
を信用せず、釜山浦・薺浦・塩浦に兵士を送り調べる様に命令を出していた。
キム・チソン令監に個人的に呼ばれると、インボムの証言が確かだと言う確証が無ければ、軍を動かす事
が出来ない旨を伝えられ、チョンホが独自に調べる事を許可されたのだ。
「済まない、折角の情報なのに・・・」
「気にしないで下さい、元々両班なんて、俺達みたいな身分の低い者の言う事など・・・・」
「・・・・・」
「ミンの若様は違います・・・ミンの若様は俺達を助けて呉れました。俺達がどれだけ恩義を感じてるか、ユン・ウォンソクの女房も助けて貰ってだからウォンソク達と何時も、何か有ったらミンの若様のお役に立ちたいと話しているんです」
「そう言って貰うと助かるが」
「其れに、今度の事で女房にしたかった女人も行方知れずに成っちまったんで、早く此の暴動が治まって呉れたら良いんですが・・・」
そう言うと、寂しそうに笑っている、インボムに掛ける言葉も無かった。
何時終結するか分からない暴動に、どれ程の民が巻き添えに成り嘆き悲しんでいるのだろう、そう思うと
早く終結させなければ成らないと切実に感じるのだ。
インボムは今の状況では、ソンパの船着場に戻る事も叶わず、チョンホの指揮する下級兵士と一緒に居る
事に成り薺浦での情報活動でチョンホの手足と成るべく行動を始めた。
インボムは倭国語が分かる為、隠れて倭国の兵士達に近付き兵士達の会話を盗み聞くと、チョンホに知ら
せる為チョンホは,有る程度の倭軍の動きを把握する事が出来た。
朝鮮軍は、釜山浦・薺浦・塩浦のどちらに総攻撃をするかで軍事会議で議論を続けているが、色々な情報
に惑わされ決め兼ねている現状に、再度チョンホの強い進言とキム・チソン令監の後押しが有り、抜け道
から薺浦の官営に近づく事が可能だと知ると、薺浦の官営の事は、チョンホに一任され調べる事に成りイ
ンボムの案内で手勢の兵士二十名を引き連れて、抜け道から薺浦の官営に近づいて様子を見る事にした。
交替で休みを取り、倭軍の動向を探っているとインボムと兵士一人が怪我をしたと、知らせが入った事で
官営の様子を探っている兵士達に、動かない様にと指示を出し様子を見る為に 治療を受けている天幕に
足を運んでいた。
二人の怪我は大した事は無かったが、聞いた話の余りの無謀振りにチョンホも呆れ言葉も出ずにいたが、
其処を通り掛って助けて呉れた武官に礼を言うと、ソンシクの副官でリュ・テジュンと名乗っていた。
早速ソンシクに礼を言いに行くと、チョンホの指揮下で動く兵士達が心許無く、チョンホの足を引っ張る
のではと心配に成り、其れと無く見て欲しいと内禁衛の従事官副官のリュ・テジュンに頼んでいたらし
く、インボム達を助けたのも偶然では無かった様だ。
「しかし、幾ら何でも倭軍の伝令の馬を二人で止めて、密書を奪い取るとは、呆れた奴らだ」
「面目無い、私の監督不行届きでした」
「副指揮官で有るキム・チソン令監に確証を取る様に言われて居るんだろう・・・幾らお前の進言が有っても確証が無ければ、キム・チソン令監でも軍を動かす事など出来る訳無いからな、インボム達も何かを掴もうと焦って居たのだろう」
「私の為に、危険な目に会わせた様で・・・・」
「何、あいつ等成りに お前の役に立ちたかったんだろう、見上げたものだ精々褒めて遣るんだな」
そう言って笑うソンシクの、見えない所での配慮に只々感謝する事しか今のチョンホには出来なかった。
インボム達の手に入れた密書には,薺浦へ集結するに当たって食糧の調達の指示がされていて、大勢の倭
軍の兵士を賄う為には相当量の食糧が必要で、集結する際に其れらの食糧を持ち込む事に成ると、釜山
浦・塩浦からの道筋より調達する事は明らかで有り、其の分朝鮮の民が犠牲に成り飢えに苦しむ様に成る
事は明白だった。
倭軍が集結する前に早めに薺浦を叩いて、倭軍の戦力が分散すれば地理に詳しい自国の朝鮮軍が勝利する
事は、間違い無く其の時期を逃さない様にする為に密書を、副指揮官で有るキム・チソン令監に託し軍事
会議に提出して貰う事にして、チョンホは薺浦の官営の側に居る兵士達の所に戻って行った。
チョンホは外から薺浦の官営に持ち込まれるはずの食糧を、尽く妨害して入らない様に細心の注意を払
い、兵糧攻めにして倭軍が集結する前に何とか決着を付けなければと思っていたのだ。
四月十九日早朝、チョンホは食糧調達の為 倭軍の兵士が官営を抜け出した事で手薄に成った官営を奪回
するのは、今しか無いと兵士一人を内禁衛のソンシクの元に送り残りの兵士を引き連れて官営内に入り込
み、油断して居る倭軍が備えていた弓の弦を片っ端から切って行ったのだ。
弓が使え無ければ、攻撃を掛ける朝鮮軍が門に到達する前に、死体の山を築く事が無く成る事は明白で、
兵士達も其の事が分かると、息を殺しながらチョンホの指図に従い倭軍に見付からない様に弦を切ってい
た。
其の頃チョンホから連絡を受けた、ソンシクは副指揮官のキム・チソン令監に報告し、軍を動かして薺浦
に総攻撃を掛けた。
押し寄せる朝鮮軍に、弓を射掛け様とした倭軍は弓の弦を尽く切られて居た事に動揺して居る間に、チョ
ンホ達が中から門を開けて朝鮮軍を招き入れていた。
弓が使えず接近戦に成り、朝鮮軍は、薺浦を陥落する事に成功し倭軍は対馬へ撤退して行った。
今度の攻撃で、被害は最少限度に留まったが、其れでも多くの兵士の命が奪われた事にチョンホの気持は
重く沈み込んで行き、目の前で同胞が次々倒れて行く中、助け様としても自分達に斬り付けて来る敵を斬
り伏せる事が手一杯で、何とか自分の配下の兵士達だけでも守る事が出来た事を神仏に感謝していた。
薺浦に殆んど食糧は無く、持ち込まれる筈の食料は妨害に会い、集結する筈の倭軍の部隊が持ち込む食料
に期待を掛けていたが、其の前に空腹に成った倭軍の兵士が薺浦の官営を抜け出た事で、防衛が疎かに成
り終結が早まったのだが流石に軍馬まで食料にしていた事に、驚きを隠せなかった。
此の功績でキム・チソン令監が正二品の大監に成り、キム・チソン令監の推挙でチョンホは文官で有りな
がら内禁衛従事官従六品に抜擢される事に成ったが、面白く無いのは戸曹判書大監で、チョンホが戸曹か
ら内禁衛に移る事が気に入らず、こんな事に成るなら幾ら頼まれても鎮圧部隊に貸し出す事など反対すれ
ば良かったと、剥れて居るので兼任と言う事で折り合いを付けたのだ。
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