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コジロは 遠くから呼びかけたとき 気がつかないけれど
仕事から 帰ってきた時は 寝ているコジロのそばで
パンパンと手を叩いて、
ただいま〜と笑いかけると ぴょこんと起き上がって
抱かれてくれる。
呼ぶときは いつも パンパンと手を叩いて耳の聞こえない
コジロを振り向かせるのがお決まりだ…
普段の生活ぶりは ほとんど障害を感じさせないぐらいで
勝手に外に出て行っては 勝手に帰ってきて えさを食べる。
私がマッサージ機をかけて、おいで!と手招きすると
一目散にかけてきて 膝やお腹の上に乗って一緒に ユラユ〜ラ
マーッサージされている。
コジロとの生活もすっかり馴れた頃、
一昨年の大晦日の夕方だった、
台所で おせちを詰めたり、玄関の掃除をしたり、
夕闇が迫り、年始を迎える最後の仕上げに
バタバタしている私の周りに 覗きにきたり
じゃれたりしていたコジロが いつの間にか いなくなった。
いつになく 静かになって 一瞬不安になったけれど
その内 帰ってくるだろうと 年越しそばの用意までしてホッと一息…
コジロは…夕食をする時間になっても帰ってこない。
コジロは…年越しても帰ってこなかった…
元旦の朝も 家の周りを探したけれど それらしき猫は見えない。
人懐っこい猫だから 誰かに連れて行かれたのかな?
飼う前にも 3日ほどいなくなったことあるし
そのうち、帰ってくるんじゃない?と言いながら
胸のうちに暗雲が立ち込めてくるのがわかる…
2日の朝、
「おかあさん、絶対 コジロを今日は見つけるよ!」と娘が強い口調で言う。
まず、近くの神社で 初詣してから探そう」と私も 不安な気持ちを
打ち消しながら 決心した。
お参りをしてから おみくじを引いた。
二人とも 失せモノの項を見る。…失せものではないだろう…と言いながら…
”出る、近くを探せ”って書いてあるよ、と娘が 私の顔を見る。
娘と私は 家からそれぞれ 反対方向に探しに行った。
見過ごしていた駐車場を覗き、ビルの陰まで入っていって
近所の塀から覗き込む、
散々探しても やっぱり、コジロは見えない…
娘も 顔を見せるが いないという、…最後にもう一回だけね…と言って
家のすぐ近くにあるよその駐車場を見に行って
奥まで行き、一台一台 車の下まで覗き込みながら 戻る、
無駄かな…とあきらめながら白いバンの横を通り過ぎた時、
ちらっと何か見えた。
タイヤの陰に 小さな猫の足の肉球が 揃って見えた!
寝そべって 日向ぼっこしているように揃えた足だ!
「コジロちゃん?!こんなところで… お昼寝してちゃいけないよ!」
と言いながら
一瞬、頭のなかを色んな思いが駆け巡る…
いやいや、よその猫かもしれない、
ひょっとしたら…!?コジロ!?
次の瞬間、冷たく固い猫の足をつかんで 悟った…やっぱり・・・
引きずり出した猫は間違いなくコジロのムクロだった…
すでに 全身は硬直して
開いた口の端から わずかに 血がこびりついて
頬をぬらしていた。
すばやく 私は 体をひっくり返して 調べた
娘が見て泣き出す前に 調べなきゃ…
コジロは どこにも 傷はなかった。
牙を一本折っていただけで 生きていた時のままのきれいな姿だった。
娘に コジロが駐車場で見つかったと 電話した。
そのまま 抱き上げて 家に連れて帰った、
玄関前の庭の水道栓で水を出し
口の周りを洗っていると
娘が帰ってきて わっと泣き出した…
駐車場で遊んでいたコジロは きっと
耳が聞こえないので
バックしてきた車にはねられたんじゃないのだろうか、
娘は
「はねられたあと コジロは生きていたんじゃないの?
大晦日に すぐに見つけていたら コジロは助かったんじゃないの?」と泣いた。
…コジロは たった5ヶ月足らず、私たちといただけだ。
ダンボールに 真っ白のタオルをひいて 真っ白のストックの花を
いっぱい敷き詰めて お葬式をした。
「コジロはね、野良猫だったけど 最後はうちの猫になって
あんなにきれいな猫はいない、って言われて
死んだんだから良かったんじゃない、
野良猫のままで 飢え死にしたんじゃないし、皆に愛されて
死んだんだから・・・」と
私は 泣いてばかりいる娘を
慰めるよりほかはなかったのです。
それにしても コジロは きれいな猫だった
白と黒がはっきり別れて 桜色の鼻もまるで 生まれたての
赤ちゃんのような 清浄な色だった、
日増しに 美しくなっていくので 不思議な気持ちが
何度も湧いてきて
ひょっとしたら 神様が 淋しがっていた私に
つれてきてくれたのかも知れないな、と また思ってしまった。
…それで
私は コジロを呼ぶとき
いつも 無意識にかしわ手を打っていたのかな、って…
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