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豊臣秀吉と加藤孫六の銭儲け
講談でもよく演じられる加藤孫六だが、
これは『加藤孫六嘉明家譜』と『淡路島交易史料』による史的考察である。 秀吉が姫路城主になった頃、前から仕えていた家来共は、「まず銭を貯えておけ」とかねて命じられていたので、それぞれ二貫文平均は持っていた。 当時の一文は現在の千円弱に当たるから、二百万円近くの蓄えができていた事になる。 さて、それだけの余裕が出来てくると、人情として、これを有利に廻して儲けたくなるものである。そこで、あれこれ頭をひねってみたり、 試しに何かした者もあるがこれが巧くゆかない。 そこで大人の者は自分らの囗から、秀古に伺いをたてるのは気まりが悪いから、
福島市松、片桐助作、加藤孫六といった小姓共に頼んで、秀吉の知恵を借りだそうとした。 ところが秀吉は、その話に、
「金が有って廻したところで、必ずしも儲かるとは限らん。損こく場合の方が多かろう」 と、 にべもなく云い放ってから、 「一貫文の銭は誰が持っても一貫文じゃが、さて運用するとなると、全く違ったものになってくるものじゃ。 つまり百人の兵を仮に暴れん坊の福島市松に率いさせるのと、引っこみ思案の片桐助作に預けるのとでは、まるで戦場での働きが違うのと同じことよ」 判りやすく例をひいて教えた。それゆえ孫六も合点しつつ、 「銭儲けも市松なら巧くゆくが、助作では儲けるつもりでも損こくのでござりますか」と問けば、 「そういう意味ではない。時に応じ、がむしゃらな方が損をし、引っこみ思案に利かあるやも知れぬのだ。要は万事につけて、よく気がつくことと、絶対に忘れぬ、 心構えが人用なんじゃ」と口にした。そこで、 「……と仰せられますると」 孫六は己れの頭を叩き、 「要は此処の中身という事にござりまするのか」と尋ねた。 「いやいや……」秀吉は笑い、 「世渡りの利口と馬鹿の差は頭の中身の良し悪しではないようだ。つまり持って生まれた賢愚には関係なしで 『心ここに有らざれば見ても見覚えがなく、聞きはしても耳に残らぬ……』そんな羽目にならぬよう、努力するしかあるまいのう」 「ぼんやり何事も見たり聞いてして居てはあかん。注意力と記憶力が大切だと仰せられてか」 「当たり前じゃ、戦へ連れて行っても、そないな奴は役立たず流れ矢にでも当たってすぐ死ぬ」 「人は心だ行ないだと申しまするが、金儲けも心でしまするのか」孫六は囗あんぐりさせた。 すると秀吉はにこにこして、
「まあ一番うまい儲けは寺じゃろ。山門から群れをなして有難がって銭をもってぞろぞろと集ってくる。つまり喜んで銭を捨てにくるから喜捨ともいうのだわさ……」 教えるだけ言うとさっさと立ち上ってしまった。 しかし秀吉の前から、ぞろぞろ他の小姓が引き退ってくると、待ちかねていた者達が、「……どうじゃ、何ぞよき儲け囗を教わってきてくれたか」 「絶対確実に倍になるのは?」ぞろぞろ群がり集まってきた。福島市松は面倒くさがって片桐を伴い逃げてしまったので孫六だけが取り囲まれた。 「うん、殿は儲けるには、儲け心のある者でなくてはと仰せられた。よって孫六が預かるゆえ儲け心のない衆は持って来なされ」 仕方なく一時のがれの返答をした処、誰もが儲け心に自信がないのか。次の日になると百貫文からの銭が集まってきた。 現代にすれば時価一億円の金高である。しかしだからといってまさか、それで金儲けにとお寺を建てることもできない。 そこで仲の良い脇坂安倍らに手伝わせ、飾磨の浦まで銭を運んだ。 当時兵庫三の宮から其処へかけては、海の彼方から来ている高麗人の市がたっていたからである。 「珍しい唐絹でも、この銭で仕入れて、中国征伐の折りに奥地へ持ってゆき売り捌くのか」 荷車を曳いてきた加藤虎之助はきいたが孫六は首をふった。 そして高麗人の総代の許へゆくと、「この銭を預けるによって利分を稼ぎ納入するよう」命じた。 「船舶が入ってきた際、銭が揃って居ませんと荷受けが出来ませぬ。助かります。きっと儲けを納入しまする」と、 政治資金の運営を委された今日の大証券会社のごとく喜んで受け合った。 もちろん高麗人らは秀吉からの命令と思ったからであり、孫六もまたそれに合わせて、 「われらは秀吉の毆の小姓組じゃが、ここへ乱暴者などきた時は直ぐ出動し、追い払ってやろうぞよ」とも交換条件をつけた。 この話を後で聞いて秀吉も驚いたらしいが、本能寺の変で、安土城を押え天下の金銀を握った光秀が山崎円明寺川で破れたのは、 飾磨から三の宮へかけて高麗人の秀吉への政治献金によるものともいう。 孫六が仲介に立ったのを褒められたのか、彼は他の小姓よりも早く淡路島で城主になり、今でいえば貿易大臣のような仕事をしていたから、
秀吉の死後、家康も彼は粗末にせず会津四十二万石に封じた。秀吉よりも商売人だったとか儲けがうまかったと云われるのはこの為である。 |
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