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押し寄せる不安と孤独の中で、シンの脳裏に浮かぶのはたった一人。
否。 皇太子としての立場を思えば、当然ながら宮の家族へどう打ち明けるべきかも考えてはみた。 ただその答えを導き出せぬままーーー 結局は、チェギョンの事ばかりを思ってしまうのだ。 伝えるべきか? 伝えぬべきか…… そう遠くない未来、自分の病状はバレてしまうと言うのに。 最小限に灯りを落とした自室で、シンは自問自答を繰り返していた。 コンコン…… 遠慮がちに扉をノックする音が、静かな部屋に響き渡る。。 それだけで。 その扉の向こうに居る人物が分かってしまう。 かつては、この気遣いこそが安らぎだった。 でも《今》は、求めているモノとは違う。 安堵が落胆に変化していた事にシンは自傷気味な表情を浮かべた。 *** 「殿下、お食事の時間でございます……」 予想通り… その姿は、自分が幼い頃から全幅の信頼を寄せているコン内官だった。 「……妃宮は?」 答えは分かってはいるのに、シンはそう聞かずにはいられなかった。 「媽媽は訓育の後、大君殿下と課題を行なうとの事で…… お食事は後ほど召し上がるそうです」 ……………。 「分かりました。 では先に頂き、私も急いで執務を済ませましょう」 鳩尾がキリリと痛んだ。 酸っぱい物が込み上げてくる不快感。 いつもの事だーーー チェギョンが煩く口でノックの真似音をさせ、騒々しく扉を開く。 マナーなんてそっちのけで、ずっと語らいながら『美味しい!』『幸せ!!』 そんな感嘆の声を上げ、賑やかなテーブルを囲んでいたのは…… つい、この間の事なのに。 遥か昔の事の様に思う。 そう、仕向けたのは紛れも無く自分自身。 婚姻後の間もない時から、不安がる妻には冷たく当たってしまった。 それでも根気強く、チェギョンは話しかけてくれていたのに。 共に過ごしていた食事の時間も、素っ気無い態度を返し続けた。 耳ではチェギョンの声をシッカリと聴き、心の中では相槌を打ってみたり吹き出しそうになったりした事も、一度や二度じゃない。 そんなチェギョンも、いつしか一緒に食事をとる事を避ける様になっていた。 ヒョリンが…… 食事時を狙ったかの様に、自分に電話を掛けてくる回数が増え出したのと比例して。 *** 味気なく、まるで砂を噛む様に不味かった。 シンにとって、一人きりの食事は苦痛の時間となっていた。 規則正しい生活も、淡々とこなす皇太子としての職務も、これまで通りだと言うのに。 それを強く望んでいたはずなのにーーー ようやく執務を終え、鉛の様に重く感じる身体に、やはり病状の深刻さを痛感する。 そのままベッドにダイブして、怠くて堪らない身体を沈めた。 *** 夢を見ていた…… チェギョンが自分に、満面の笑みで話しかけてくる。 ーーーかわいい……/// チェギョン、可愛いよ。 俺は、なんと愚かな男なんだろう…… この気持ちにもっと早く気付き、もっと沢山伝えるべきだった。 ほのかに香る甘い空気と、柔らかな温もり。 天国……? 深く後悔と反省を繰り返せば、愚かな自分であっても、こんなにも幸せな温もりに包まれるのだろうか? 「シン君…… 体調悪いって本当? ダメだよ……いっぱい食べなきゃ…… コン内官さんに心配ばっかりかけて……」 眠るシンの頬に、チェギョンの白い手が優しく触れていた。 起こさない様に、小さな声で囁く。 チェギョンの大きな瞳から、ポタリ… 優しい雫がシンの頬に落ちて濡らした。 |

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