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鵺が鳴く夜は恐ろしい(Night is terrible on the day when NUE calls)
 
 
第7章 白い獣(White beast in Nanatsumori)
 
 
Chapter 23

 
 
鈴木美和のラボを辞した折笠真帆は、見星イブのラボに向かった
美和との話は無駄ではなかった
これまでの宮崎真琴、高城遥との話しをまとめ、その目標をたてることができたからだ
それは、これまでの迷いを振り払うのに充分だった
 
イブのラボに向かっているのは、自分の意志を再確認するためのものだ
真帆は、イブが自分の師であると思っている
そうである以上、師の許しを得るべきだと考えていた
 
イブのラボは、美和のラボの隣である
ドアの前に立つと、それが開いた
 
イブのラボも他のスタッフと同様である
奥にデスクがあって、手前に応接セットがある
異なるところは、そのラボには書棚がないということだ
彼女は無限書庫の管理人であり、司書でもあるのだ
 
仮想現実の中で、このラボが切り離され、無限書庫の中にあると考えていいだろう
彼女は書庫の全ての書籍、データを自由に取り扱うことができる
それだからこそ、書棚など必要ないということなのだろう
 
ラボの壁は、多くのディスプレイで埋め尽くされている
四方が全てディスプレイである
イブシアン、イブミラ、イブリム、ヤクシのディスプレイである
そして、イブは椅子に座って、空間に切り出されたディスプレイに囲まれていた
 
ところが、真帆が入ると、周囲のディスプレイは、重なるように1つに纏まって姿を消した
イブが立ち上がって、真帆を迎えてくれた
イブは、長い髪を綺麗にまとめ、スーツ姿だった
彼女は真帆に客用の長椅子を勧め、自分は主人席に座った
 
「今後の方針が纏まりましたので、ご報告に上がりました
 それに、その許しを得たくて、まかりこしました」
 
「そう?
 でも、行動開始の時期は、早まりそうね」
 
「はい?」
 
「森君の動きがね、妙だったのよ
 それで追っていたの」
 
「え?
 イブさんは、森さんを監視していたのですか?」
 
「あらん
 人聞きの悪いこと言わないでよ
 そんなことしてないわ
 だって、真帆は森君にサーチャーをセットしていたでしょ」
 
「は、はい」
 
「でも、それは森君のプライバシーを考えて、フォレスト経由でしている
 そうなれば、森君は報告を受けている訳だから、承知の上ね」
 
「はい」
 
「森君
 戦闘態勢に入ったわよ」
 
「え。。?」
 
そう言って、「愛由」と呼び出した
 
「フォレストの動きは。。?」
 
「異常なしです
 通信は確立しているのですが、それ以外の報告はありません」
 
「どうして。。」
 
その言葉にイブが溜息をついた
 
「大方、情報操作を命じているのよ
 無断で行動を開始している訳だから、全て事後報告で済ませようとしているんじゃない?」
 
「もう。。」と、真帆が頬を膨らませた
それにイブが言う
 
「それも真帆を思ってのことだろうから。。
 そんなに怒らないで。。
 今後は、彼も自分の判断で動かなきゃならないんだから。。ね」
 
「それは、そうですが。。
 余りにも無謀です」
 
「そうね
 危機的状況かもね」
 
「どういう意味です?」
 
「森君は、1度出勤して、貴女の休暇を確認してから、休暇を申請している
 その上で、あの屋敷跡に向かった
 そこから森に入り込んだのよ」
 
「それでは、戦っている相手というのは。。」
 
「遥のいうところの管狐とか鎌鼬、真琴のいうところの神使ということになるかな
 三狐神の残りの2柱というところかな。。」
 
「あの。。
 直ぐに向かっていいでしょうか?」
 
「ええ、いいわよ
 真琴は、スタンバイOKよ
 貴女の出陣を今か今かと待っているわよ」
 
「はい」と応えると、真帆は立ち上がった
そして、「真琴さん」と声をかける
するとディスプレイが切り出された
 
「はいはーい」と写し出された真琴が応えた
 
「ガントリーで待っているよ」
 
「はい?」
 
「だって、空から降りた方がはやいでしょ」
 
「了解しました」と応えると、イブに「行って来ます」と言って、ラボを飛び出した
それを見送ったイブが呟いた
 
「やれやれ。。
 相変わらず忙しいわね〜」
 
彼女が背を椅子に預けると、ディスプレイが4枚切り出された
角田沙矢、高城遥、鈴木洋子、丸森海石榴が写し出される
 
「鴉(KARASU)と魔女(WITCH)は、現場に向かいました
 森(FOREST)は、既に戦闘状態
 形勢は圧倒的に不利です
 ですが、KARASUとWITCHの参画によって逆転します
 KARASUは、対話しようとしています
 そのためには、敵の力を消耗させなければなりません」
 
「そうね」と沙矢が頷いた
このような強襲は、沙矢の得意とするところだ
それで戦況への目算がついているという感じがする
 
「すると、状況は思ったより早く進行するのかしら。。?」
 
そう言って、沙矢が遥をチラリと見た
 
「はい
 そのようですね
 対話の内容次第ですが、状況は改善に向かうと思います
 その点は、タイミングを見計らいます」
 
「そうしてください」
 
「ですが、現状では。。
 行き先がありません。。」
 
遥が哀しそうに言う
ところが、それに洋子が口を開いた
 
「その件ですが。。
 美和に目算があるようです」
 
「この日本に開発されない土地があると。。?」
 
驚いたように尋ねる遥に、洋子が「はい」と応えた
 
「世界遺産です
 あの地なれば。。と
 それに巫女が後継者を欲していると。。」
 
それに海石榴が、「北伊賀谷ですか?」と尋ねた
それに「はい」と洋子が応えた
それに海石榴が、懐かしそうに言う
 
「そうか、そうですね。。
 村の賢者、年老いた巫女がいました。。
 あの地なら、静かに暮らせるでしょう」
 
「はい
 美和がツナギを取っています
 それが纏まればと思いますが。。
 後は、本人次第だと思います」
 
すると、沙矢が「そうなると、いいですね」と微笑んだ
 
「はい」
 
それに全員が応え、会議は終了した
 
 
 
一方、七ツ森では、森真一と白い獣達との戦闘が続いていた
擬人化された狐。。
それが森が受けた感想だった
 
それは鋭い鎌のようなものを使う
カミソリの刃のように薄く大きな鎌だ
 
森が受けた印象は、吉村修一を殺害した凶器に近いということだ
もしかすると、これが折笠真帆鑑識官のいう片倉二三子に取り憑いているものと同質のものということになる
だとすれば、三狐神の残りの2体ということになる
そうなると、これは神との戦いになるのか。。と、考えてもおかしくなかった
 
だが、森の会得した拳法が功を奏していた
形意拳と呼ばれる拳法は、動物の形態を模倣することで攻防を行うものである
それが形と意となって現れるのである
 
「虎形拳!」という森の言葉が、意志となり形となって見せている
襲いかかる雄の白い獣に、虎が振るう前足となって打ち据えられた
その猛烈な攻撃に、白い獣が吹き飛ばされ、地面に転がった
 
「兄者!」と雌の獣が叫んだ
それに森が構えて見つめた
その姿に、獣が戦いていた
 
「虎。。」
 
森が「ウォー」と吠えて突進していく
迫り来るそれに怯えるように、風を纏って樹上に逃れた
虎がそれを見上げて牙を剥いているように見えた
 
それに雄の獣が、横から襲いかかってきた
大きな鎌を振り上げ、疾風のように向かって来る
その鎌を振り下ろした
それを猫族のように躱して、その腕を巻き込むように拳を放つ
 
「蛇(じゃ)!」
 
それに伴って、虎の前足は蛇となって、そののど元を襲った
からくも獣はのけぞって躱すと、ザッと後方に退いた
 
それに森が舌打ちをした
 
「やれやれ。。
 相手も手練れ揃いってか。。」
 
森は、構えなおした
その時には、元の人の姿に戻っていた
 
それに雄の白い獣が言った
 
「お前。。
 お前は、鵺(ぬえ)か。。」
 
「ぬえ。。」
 
その言葉に森が身を固めた
そこに隙が生じた
それを狙ったかのように、疾風の勢いで飛び込んできた
それを躱すように飛び退いたのだが、その鎌が左の外ももをかすった
 
スラックスが裂け、肌が見えた
その肌に一筋の赤い線が見えている
そこから血が流れている
 
それで森はガクッと膝をついた
 
「しまった。。」と、呟いた
 
「フォレスト。。
 バトルスーツに。。」
 
『了解』という返事と共に、彼を光が包んだ
それとともに、彼の服がウッドランドのスーツに変わっていた
その迷彩が、彼の姿を隠した
 
そして、身を隠しながら、負傷した足に布を巻いた
 
「オレが。。
 鵺ってか。。
 拳法の型が、動物の姿に見えた。。ということか。。
 鵺は、そんなもんだったろうな。。」
 
ザッと身を翻し、頭上の枝の上に乗った
 
「あれは。。狐か。。鼬か。。?
 狐っていうのは、犬族だよな。。
 鼬って。。あれ?」
 
『鼬はネコ目です』とフォレストが応えた
 
「そか、ありがとうよ
 ちょっと、こいつはやばかったな
 迷彩で姿を隠せても。。
 血の匂いは隠せないな。。
 犬って鼻がきくんだよな。。」
 
そう呟いて、森は視線を感じていた
 
「やれやれ。。
 これはヤバイかな。。」
 
『そうでもありません』
 
 
上空をサイエンス・アカデミー・プロジェクトの戦略ヘリコプター「ヴェルダンディ」が横切った
 
 
 
社屋から離陸したヴェルダンディは、真っ直ぐに七ツ森に向かった
宮崎真琴と折笠真帆は、その貨物室にいた
サイエンス・アカデミー・プロジェクトからこの地点までは、数分もかからない
まもなく、後部ハッチが開いた
貨物や乗員を積み込むためのハッチだ
眼下に七ツ森が広がっている
 
「まもなく、目標地点」
 
「了解」と真琴と真帆は応えた
イブミラのカウントダウンが始まっている
それに会わせるように、開いているハッチに向かった
そして、そこから飛び降りたのだった
 
真琴と真帆は、両手両足を広げて落ちていく
 
 
真帆が「愛由!」と言った
 
『スタンバイ。。ブート』
 
すると、真帆の身体が光で包まれ、黒のバトルスーツに変わった
顔には大きなサングラスがつけられている
「KARASU」と呼ばれる姿である
その姿で、両手両足を広げたまま落下していく
 
 
落ちながら、真琴も言う
 
「プルー」
 
『にゃんにゃーん』
 
それに伴って、真琴が光に包まれる
その光を抜けると、彼女はパープルのバトルスーツに包まれていた
同様に大きなサングラスをかけている
「WITCH」と呼ばれる姿である
空気抵抗を大きくするために、両手両足を広げて、気流に乗るように落下していく
 
「気持ちええなぁ〜
 これじゃ。。
 イブさんもしたくなるわ」
 
「へぇ〜
 イブもしたんだ」
 
「それがミニのスーツのままで。。」
 
「まったく。。
 お転婆だよね〜」
 
「そうですよね〜
 いいな〜
 美和さんは、いつもこんな気持ちで飛んでいるんやろな〜」
 
「そうだね」
 
「鴉なのに、飛べへんちゅうのはなんやろな〜」
 
「人には、向き不向きというのがあるのよ」
 
「そうやね」
 
などと言っている間に、鬱蒼とした森が眼下に近づいてくる
2人は、身体を丸めて、方向転換すると、落下が横向きになるように仕向ける
そうすることで、落下する重力加速度を低減して、大きな幹を足をつけた
それで幹がたわみ、その反動利用して、回転すると大きな枝に着陸した
 
 
「2人とも、何をしているんですか
 無茶苦茶じゃないですか!」
 
森の悲鳴のような声が聞こえた
 
「そうか?」と真帆が応えて続けた
 
「しかしな、森さんほど無謀やないで。。」
 
「それは。。」
 
返事につまる森に真琴が尋ねる
 
「大丈夫?
 森君」
 
「は、はい
 なんとか。。」
 
「そか。。
 なんとか、間に合ったようやな」
 
高い木の枝に立つ真帆と真琴は、見下ろしていた
眼下には、森の姿があった
それを狙うように白い獣の姿があった
 
 
 
20130606
 
 
 
鵺が鳴く夜は恐ろしい(Night is terrible on the day when NUE calls)
 
 
第7章 白い獣(White beast in Nanatsumori)
 
 
Chapter 22

 
 
高城遥のラボを辞した折笠真帆は考え込んでいた
角田沙矢の指示は、「アフターホロー」だったはずだ
だが、自分は安易に、片倉二三子の病状も考えずに避けて通ろうとした
 
遥は、そんな自分に「優しい」と言ってくれたが、それは単なる自分の怠慢だと思った
なすべき事に目をつぶり、責任を回避しようとした
するべき事をしないで通り過ぎようとしていた
 
「できる者がそれをしないのは罪だ」という言葉が、彼女の背にのし掛かっていた
その言葉の重さを感じていた
鈴木美和がいつも言っていることであり、それに自分も同意していたはずだ
 
それに。。
「それって、けっこうしんどいことなんだよね
 でも、皆がしているから、しちゃうんだよね」
。。と言った星野絵理菜を思い出す
 
そんな基本的なことすら忘れていた自分が嫌になる
遥に「品格がない」と言われて、ムキになった自分が恥ずかしかった
ムキになったから、涙が出たのだから。。
 
「私。。
 ダメダメやな。。」
 
真帆は、そう呟いて鈴木美和のラボに向かった
 
 
美和のラボは、真帆のラボに似た配置になっていた
それは、標準だからである
 
部屋の奥にデスクがあり、その手前に応接セットがある
左右の壁は、書棚で占領されている
だが、その書棚は3DCGの虚像なのだ
本の背表紙が、ぎっしりと並んではいるが、全てが電子書籍のショートカットなのだ
そのデータは、イブが管理する無限書庫の一角にあるライブラリと呼ばれるエリアにあるのだ
望めば、いつでも開いて読めるようになってる
 
納められている書籍も種類が豊富である
小説があり、漫画の単行本がシリーズで並んでいたり、論理学の本が並んでいたりするのだ
 
そんな中で、真帆は美和と話していた
システム工学を専門とする美和は、論理学においても群を抜いていると言われる
つまり、その言葉の意味を深く探り、意図するところを汲み取ることに長けていた
それで真帆は、彼女と話すことを望んだのである
 
美和のラボの応接セットで、向かい合って話していた
これまでの経緯を話していたのである
当然ながら、その中には高城遥との話しや宮崎真琴の話も含まれていた
 
「なるほどね〜」と、美和は逡巡するように言った
 
「すると、沙矢ねえさまは、『アフターフォロー』という言葉を使ったのね」
 
それに真帆が「はい」と頷いて続けた
 
「片倉二三子さんのアフターケアという意味だと思うのですけど。。
 私は、臨床心理士でもありませんし。。
 だから、遥さんと連絡を密にしろと仰ったのだと思います」
 
「そうかな。。?」と美和が呟いた
それは違うのではないかという意味に聞こえた
美和は、腕組みをして考えてから、口を開いた
 
「アフターフォローって、和製英語なの
 その意味は、顧客からの問い合わせや相談などを受け付けたりする企業のサービスなどを言うのよね
 それに対して、アフターケア(aftercare)は。。
 疾病の回復期の患者等への健康管理および社会復帰のための指導や後療法のことだし。。
 アフターサービスと同義だという意見もあって、商品の維持や修理等のサービスの意味を持っている
 さらに考えれば、アフターケアは個人に対して行われるのに対して、アフターフォローは包括的意味を含んでいると思います」
 
美和の言葉に、真帆が「包括的。。ですか」と聞き返した
それに美和が頷いた
 
「それは。。」
 
「それは、片倉二三子さんのみを指すものじゃないということよ
 彼女と共にある神使も含めてということじゃないかな」
 
「え。。?
 神使も含めてって。。」
 
「リスク管理委員会で協議された上で考えられた言葉だと思う
 それならば、現状を徹底的に検討された上での言葉だということよ
 それに係わる以上、その覚悟で行えという意味でもあるし。。
 そうする以上、今後の憂いをなくすように処理しろという意味だと思う」
 
「憂いをなくす。。
 それは。。」
 
「一番、確実な方法は。。
 その存在を消すということなんだけど。。
 それは、その片倉さんを含めてということになる
 そんなことは、できる事じゃないし、現実離れしすぎている
 だって、それは殺人という意味も含めた犯罪だし。。ね」
 
「は、はい。。」
 
「すると、それ以外の方法ということになる
 最大の問題は、解離性同一性障害をどうするか。。ということだと思う
 真帆さんの言うとおり、それを治す必要があるかという考え方もあると思う
 だけど、それはその場しのぎでしかない。。
 だとすれば、沙矢ねえさまの条件を満たしてはいない
 遥さんの言うとおり、将来への危険因子を残したままだから。。
 その理由は、今の片倉さんの人格が本来のものではなく、仮初めのものだということ。。
 つまり、13年前の事件の時に生み出された人格で、本来の人格は隠れている
 その人格は、その惨状に怯えた状態で過ごしていたかも知れないということ。。
 そして、神使はその人格とともにいる」
 
「共にいる。。?
 遥さんは、取り憑いていると言っていました」
 
「そうね。。
 それは共にいるということと同義だと思うわ
 そして、それは片倉さんを守っているのじゃないか。。と思う
 だが、ともにあったとしても、その力が放たれることがある」
 
「それが殺人に繋がったと。。?」
 
それに美和が、頭を横に振った
 
「いいえ、それは違う
 彼女の証言の中に、朝、目を覚ますと足が汚れていたというものがある
 それは、仮初めの片倉さんが眠っている時に起きたと思っていいと思うわ
 本来の人格が目覚め、神使とともに行動した
 つまり、素足で山野を駆け回った。。ということじゃないかな
 その鬱憤を晴らした結果、翌朝は清々しい気分で目覚めた
 。。そんな感じじゃなかったのかな?」
 
「では、殺人のほうは。。」
 
「それは、片倉さんに危機が訪れたと解すべきだと思うな」
 
「危機って。。
 どんなものでしょう?」
 
「さあ。。
 それは私には解らないわ
 だって、危険の基準なんて、人それぞれでしょう
 他の人には埒もないことであっても、その人にとっては最大の危機かも知れないもの」
 
「そ、そうですよね。。」と応えながら、真帆は美和を見つめた
彼女は、自分より若いはずなのに、それほどの理解力と説明能力を有している
真帆の説明とそれまでの報告書を読んでいるに違いない
その中から導き出す洞察力は、真帆の比ではない
名探偵の素質とは、これほどまでに優れているのだ
 
美和との話の中で、新たな問題が浮上してきた
真帆が考えなければならないのは、片倉二三子だけではなく、彼女とともにある神使の扱いである
神使というなら、それだけではなく、その兄妹であろう三狐神を含めてのことであろう
 
「美和さん
 神使とは、何だと思いますか?」
 
真帆の問いに、美和が問い返した
 
「真帆さんは、どう考えているの?」
 
それに真帆は自分なりの想定を応えた
 
神使は、神道において神の使者または神の眷族で、神意を代行して現世と接触する者と考えられる特定の動物のことである
時には、神そのものと考えられることもある
その対象になった動物は哺乳類から、鳥類・爬虫類、想像上の生物まで幅広い
その後、神使とされる動物は、神話の記述や神社の縁起に基づいて固定化されるようになった
その固定化が、1つの概念となって具象化したものではないか
。。と考えていると応えた
 
それに美和が「それは的を射ていると思います」と、頷いた
そして、書棚から「ゴッドバレー」を引き出して、テーブルに写し出して見せた
重厚な装丁である
これも見星イブの趣味である
それをパラパラと開いて見せた
 
「これは。。?」
 
真帆が尋ねると、美和が応えた
 
「真帆さんは、ここにあまりいないから知らなかったのね
 これは教授が書いた『研究序説集』のインデックスよ
 まあ、百科事典の索引というところかな」
 
教授とは、神谷真人のことである
 
「サイエンス・アカデミー・プロジェクトの存在意義の1つかな。。
 教授がメモと言っているものなの
 まあ、教授はその存在自体が気にくわなかったようだけど。。
 最近は、これに追記するようになったの」
 
そのページは、「宗教学」のカテゴリにあった
そのカテゴリの中の「神道」のカテゴリに「神使」の項目があった
それに指で触れると、新たな1冊が出現した
神使に係わる研究序説である
 
「教授は伝承系や説話系も得意だから、結構踏み込んで考えているみたい」
 
そう言いながら、その本を開いた
論文というよりは、物語的構成になっている
 
それによれば。。
神使とは、常世(とこよ)の神と現世(うつしよ)の人を繋ぐものとして考えられた使者である
神の意志を伝えるために仕える者ということから、神使と呼ばれる
神使が認められたのは、特定の動物が神の意志を伝えるという説話が、日本神話にあったからである
日本書紀に、その記述がある
「伊吹山」の荒神が大蛇に化身して現れた
猿が「伊勢大神の使」として吉凶を判じた
大物主神自身が蛇の姿で妻問いに訪れる
。。等々くだりがある
 
それらが元になり、神使とされる動物は、その神の神話における記述や神社の縁起に基づいて固定化されるようになる
それにともない、神社の境内で飼育されるようにもなった
中には、稲荷神社の狐のように、本来は神使であるものが神そのものとして祀られるようにもなる
また、神使そのものが神とは無関係に、その動物自体が何らかの霊的な存在と見られたことによるものとも考えられる
 
神使となる動物の著名なものを上げると次のようになる
 
鹿=春日大社・鹿島神宮・厳島神社
兎=住吉大社
猿=日吉大社
鴉=熊野三山
鶴=諏訪大社
鳩=八幡宮
鶏=伊勢神宮
狐=稲荷神
牛=天満宮
亀=松尾大社
龍=水神
 
また、狛犬や奉納される馬も神使と捕らえることができる
特に絵馬は代表的なものと言えよう
 
神使の形態は様々であるが、大部分が擬人化されている
それは固定化された部分が具象化したものと考えていいだろう
だが、その元はそれらの動物の残留思念である可能性が強い
 
それは人々には見えないし、認知されることもない
それが見え、話すことができるのは、具象化した人の血脈を後継する者だけというのが通説である
ただし、魍を認識できる者は認知できるようである
 
神使の話しによれば、その存在期間は1000年とも言われる
その境内に現れ、その境内で生涯を終え消滅するとされる
認知する者がなければ、その存在意義を無くして、消滅するとも言われる
そのことから、神使はその血脈とともに存在している考えられる
神使は、その血脈を守ることも、その存在意義であるともいえる
 
 
それを読んだ真帆は、深い溜息をついた
それは論文の形態を取っているわけではない
神谷本人が、メモと言っているのも頷ける話しである
だが、その内容は、具体性を帯びている感じがする
その内容は、どこぞの神使にインタビューしたものがあるのだろう
 
「これが。。」と言いながら、真帆は目を上げて、美和を見た
 
「神使が共にあるという意味の根拠になっているのですね」
 
それに美和が頷いた
それに真帆が自分の意見をまとめるように話した
 
「二三子さんの解離性同一性障害には、神使が大きく関わっている
 それが守護という意味合いをもっているなら、神使を消滅させることは、二三子さんの人格崩壊に繋がる可能性がある
 片倉二三子の家系は、巫の家系であり、その血を受け継いでいる
 そうであるなら、彼女と神使の縁は切り離さない方がいい
 神使は、生きる場を失い、今、再びその地が犯されている。。
 人の二三子さんと神使が生きられる場所も。。探さなければならない
 。。ということですね」
 
「そうね」
 
「場所。。
 そんなところあるのでしょうか。。?」
 
「私に当てがある
 だが、問題は彼女達を説得する方法だ」
 
「はい
 話す以外にないと思います
 声が届かないならば、届くまで声をかけ続けます
 そのために戦いが必要な、届くまで戦い続けるだけです」
 
 
 
20130605
 
 
 
鵺が鳴く夜は恐ろしい(Night is terrible on the day when NUE calls)
 
 
第6章 科学者の品格(Dignity of Scientist)
 
 
Chapter 21
 
 
折笠真帆は、宮崎真琴の言葉に絶句した
 
ニホンオオカミを作ることはできる
だが、作ったとして、そのニホンオオカミは、ここでは生きて行けないというのだ
その様子に真琴が続けた
 
「それはニホンオオカミに限らない
 イヌワシだって、絶滅危惧種とされる稀少動物に指定されているのよ
 ボクは行動範囲のことを言ったけど。。
 これは、そのままテリトリーという言葉で置き換えることができるの
 そのテリトリーというのは、広大な範囲になる」
 
そう言って、真帆を見つめた
真帆は、真琴の言葉に愕然とした
それは彼女や捜査陣の想定を逸脱したものだからだ
 
「そ、そんな。。」
 
「そうだ」と真琴が頷いて続けた
 
「真帆の報告書は、ボクも目を通したよ
 片倉家がその地に来たのは、その拠点を失ったからだろうと思った
 ボクと同じように、丸森さんも目を通したのだと思う
 だから、あのような助言に繋がった
 それでボクも考え直して見たんだ
 あの集落の人々は、片倉家を除けば皆、県内に留まっている
 なのに片倉家だけがNN県を出た。。
 あの地には、もっと広大な土地があるのじゃないか。。とね
 でも、違っていたんだよ
 片倉家の神使達は、拠点を失っただけじゃないんだ」
 
「それは。。」と真帆が応えた
そして、思い出したのだ
あの稲荷神社の屋根から見た景色を見た時の感覚だ
ダムに破壊された自然の姿に愕然としたはずだ
そして、その山林はダムと道路によって分断されていた
 
「だとすると。。
 神使は、テリトリーの中心を失った上に、そのテリトリーも分断されてしまったということになりますね」
 
「そのとおりだ
 だが、山奥に逃れればいいという訳ではない
 なぜなら、神というのは、人があって初めて存在しうる概念だもの
 神使は、神と人を繋ぐものだもの
 神は人がなければ存在しえないし、人は神がなくとも存在しうる。。
 神社は詣でる人があって神社と呼べるし、詣でる人がなければ祠になってしまう
 そして、祠は自然に埋もれ、都市化に埋もれ、その姿を消していく。。
 だからこそ、巫だった片倉氏は、その地を離れて北上したのだと思う
 やがて、この地に流れ着き、全財産を投じて広大な山林を買い上げた。。」
 
それに真帆は頷いた
それを見取った真琴は、「ボクの推論に過ぎないけどね」と言った
それに真帆が応えた
 
「真琴さんの推論は正しいと思います
 それに論理的に妥当だと思います
 そのことから考えれば。。
 片倉家が巫の血筋だとするなら。。
 片倉二三子さんは、その末裔と考えれば、巫女たる資格を有する人となります
 だとるなら、二三子さんに取り憑いているのは、三狐神(みけつしん)の1柱(ひとはしら)ではないでしょうか。。」
 
「柱(はしら)」は、神を数える場合の助数詞である
例えば、人であれば「人(にん)」、本であれば「冊(さつ)」というように、数の後ろにつけて、その事物を表現しようというものである
 
「ただ、遥さんは、管狐(くだきつね)と呼んでいますが。。」
 
真帆が首を傾げた
 
「クダ。。か
 まあ、管狐は、憑きものとか祟り神の側面をもっているからな。。
 片倉氏は、その三狐神をこの地に運んできた訳だから。。
 管に封じて運んだのではないかな。。
 遥からしてみれば、管狐も三狐神もさほどの差はないのよ
 悪さが過ぎれば、神だろうが物の怪だろうが、祓ってしまうもの」
 
真帆が溜息をついて言った
 
「神も物の怪も同じですか?」
 
「どちらも同質と考えているのよ
 単に呼び名が異なるだけなのよ」
 
「そうですね。。
 でも、なんか解ったような気がします
 居るべき場所を追われ、新たな地でも、そのテリトリーが犯された。。
 それであれば、動機としてはあり得るかも知れません
 ただ、どうして二三子さんに取り憑いているのか。。」
 
「そうだよね〜
 それなりの理由(わけ)があるのだとうけど。。
 本人に訊くしかないんじゃない?」
 
「そうでしょうか。。
 遥さんは、三狐神に会ったようですよ
 あの話しぶりだと、話しもしているのじゃないでしょうか
 七ツ森にいると言ってましてけど。。」
 
「はるか。。
 そのように言ったの?」
 
「はい」
 
「それは、会いに行けと言っているのよ
 そして自分で確かめろと言っている
 だから。。尋ねても教えるなんて、サービス精神はないわね」
 
「そうですか。。
 会いに行った方がいいですね」
 
「うんうん
 その時は、ボクも誘ってね
 その三狐とやらが、どんなものか見てみたいな」
 
「はい
 その時は、お願いします」
 
真琴との会話で、片倉氏がNN県からMG県に移転してきたのか。。
丸森が言ったヒントは、それを補完するに充分なものだ
片倉氏は、神使を守るために、この地にやってきたに違いない
そして、この地を神使の居場所と定めたに違いない
住みやすい場所として、提供したのではないだろうか
だが、この地は住みやすい地なのだろうか?
 
そう思った時、神谷真人の言葉を思い出したのである
ある日、山の木々が切り倒され、丸坊主の山が出現した
そうしている内に、山が姿を消した
気付いてみると、そこにはいらかの波が広がっていた
いらかとは「瓦」のことである
すなわち、山が姿を消して、団地と化していたというのである
そして、その団地を歩いた時、ぞっとしたというのである
魑魅魍魎が跋扈していたという
つまり、行き場所を失った魍達が蠢いていたという
感の鋭い人なら、頭痛に悩まされたに違いないと。。
 
それはSD市を中心として、急激に開発が進められたという意味である
その結果、団地に熊が出没し、道ばたでカモシカが草を食む事態が現れた
そのため、TY町では、旧来の人口より流入する人口が上回る事態になった
そして、TY町は住民の平均年齢が若い町となった
その開発は、未だに続いており、TY町を飲み込み、隣接するTW町へと広がっている
 
このような急激な開発は、神谷にしても想定外だったようだ
自然は破壊され、環境が激変している
そして、それは神使の森をも脅かしている。。
 
 
宮崎真琴のラボを辞した真帆は、高城遥のラボを訪れた
遥は、朝と異なって、にこやかに迎えてくれた
それに真帆が礼を言った
 
「今朝は、ありがとうございました
 おかげさまで、自分の中にあるもやもやが晴れたような気がします
 今後は、進退も踏まえて考えて行きたいと思います」
 
「あら、急な話ね」
 
「はい
 思い立ったが吉日ですから。。」
 
真帆はそう応えてから、来訪の趣旨を話した
今、真帆が気にしているのは、片倉二三子のことである
今後、捜査を続けて行く上で、彼女の過去に触れなければならないからである
 
現在までの捜査で判明したことは。。
今回の吉村修一殺害事件と13年前の事件に、片倉二三子が何らかの形で関与していた
。。のではないかということである
そして、13年前の事件が、彼女の解離性同一障害を生み出したのではないかと考えている
 
真帆は、そのように説明して続けた
 
「私の想定では。。
 13年前、当時3歳だった片倉二三子さんは、あの現場にいたのではないでしょうか。。
 そして、あの惨状を目の当たりにしたのではないでしょうか
 そのために、その記憶を封印するために、もう1人の人格を生み出した
 それが今の二三子さんではないでしょうか」
 
それに遥が応えた
 
「私も、そう考えている
 おそらく、それが起因だろう」
 
「はい
 それならば、彼女が封印している記憶をそのままにしておく方がいいと思うのですが。。
 如何でしょう?」
 
すると、遥が目を細めた
 
「真帆。。
 貴女は、優しいな」
 
「そうでしょうか。。
 ですから現状では、その弊害も出ていないのですから、そっとしておきたいと思うのです。。」
 
それに遥が、真帆を見つめて言った
 
「確かに、外見はそう見える
 だが、弊害は出ている」
 
「そうでしょうか?」
 
「真帆がいうように、あの惨状を目撃したが故に二三子さんは、新た人格を生み出したと考えるべきだろう
 だが、今の二三子さんの人格は、現実から逃避した仮初めの人格だということだ
 そして、仮初めの人格は、本来の人格の存在を認知していない
 だから人格が入れ替わった時の記憶を有しない
 その本来の人格が、吉村修一を殺害した
 しかし、彼女はその事実の記憶を有しない」
 
「ですが、それをなしたのは彼女ではなく、彼女に取り憑いている者の仕業です
 死体を検分しましたが、それは一般の女性ができることではありません
 それに記憶がないということは、心神喪失の状態でなされた。。ことになります」
 
「確かに法的には、そのように考えることはできるだろう
 しかし、それは法的に、そのように処理できるということに過ぎないということだ
 本人にとっては、もっと深刻な問題なのだ
 専門的には、交代人格というのだが。。」
 
交代人格の現れ方は多様である
例えば。。
弱々しい自分に腹を立てている自分
奔放に振る舞いたいという押さえつけられた自分の気持ち
堪えられない苦痛を受けた自分
寂しい気持を抱える自分
。。などである
 
そして、「切り離した自分(主人格)」は「切り離された自分(交代人格)」のことを知らない
そのため、普段は心の奥に切り離されている別の「自分」が表に出てきて、一時的にその体を支配して行動すると、「切り離した自分」はその間の記憶が途切れる
戻ってきたときには、その間に何があったのかを知らない
 
交代人格は「元々の自分」が切り離した主観的体験の一部、あるいは性格の一部であるので極めて多様である
事例によく現れるのは次のようなものである
主人格と同性の、同い年の交代人格であるが、性格が全く異なる
その他、受け持つ事件が起こったときの年齢の交代人格が現れることもある
子供の交代人格もよく出てくる
他の交代人格の存在を知らず、別の交代人格が表に現れているときの記憶を全く持たない交代人格がある
逆に主人格や、他の交代人格の行動を知っている交代人格もある
怒りを体現する交代人格や、絶望、過去の耐え難い体験を受け持つ交代人格
男だが女の交代人格を現し、逆に女だが男の交代人格なども現れる
危機的状況で現れて、その女性の体格では考えられない腕力で、その子を守る交代人格もある
 
それらの交代人格は表情も、話言葉も、書く文字も異なり、嗜好についても全く異なる
そのため、絵も年齢相応になる
また、心理テストを行うとそれぞれの人格毎に全く異なった知能や性格をあらわす
同じ顔ではあるが、表情の違いで全く別の顔に見える
 
多重人格と言うが、1つの肉体に複数の人格が宿った訳ではない
あたかも独立した人格のように見えても、それらは一人の人格の「部分」なのだ
例えるなら人間の多面性の一面一面が独立したようなものである
そのため、各人格は「感情」が薄いことが多いとされる
 
遥は、そのように説明して続けた
 
「このような離人症状等でやり過ごしたり、その記憶を切り離すことは、本能的な防衛反応とも言える
 一時的なものであれば、障害とはいえない
 しかし、それが恒常化するとなれば、抑圧し切り離した記憶もまた自分の一部なのだ
 そのため、何らかの形で自分を縛ることになる
 それが更に進んで、切り離した自分の記憶や感情が、表の自分とは別に心の裏で成長し、それ自身が意志をもったひとつの人格となる
 つまり、ひとりの人間の記憶と感情が、区画化され、壁で隔てられた状態にある
 そのようなことが尋常ではないことは解ろう
 このまま放置しておけば、彼女の人格崩壊に繋がることになる」
 
それに真帆は息を飲んだ
 
「それでは。。」
 
「現実を知らせる必要がある
 そうすることで、壁を取り除いてやる必要がある
 それを知ることは苦痛だろう
 そして、その苦渋の中にあって、見いだせる未来もあると私は信じたい」
 
 
 
20130531
 
 
 
鵺が鳴く夜は恐ろしい(Night is terrible on the day when NUE calls)
 
 
第6章 科学者の品格(Dignity of Scientist)
 
 
Chapter 20

 
 
自分のラボに戻った折笠真帆は、椅子に座り、デスクの肘を置いて考え込んでいた
周囲には、愛由が表示してくれたディスプレイが取り囲んでいる
 
どうやら愛由は、この建物の中の方が居心地がよさそうだ
反応は早いし、処理能力も外とは違うようだ
本体がここにあり、ストレージの余裕も充分となれば、居心地もよかろう
それに、ここはYAKUSHIの防御結界に中なのだから。。
 
これまでの事件のデータを見直し、分析し、彼女なりの推測を加えて整理していた
それらの整理がつくと、口を開いた
 
「愛由
 真琴さんに繋いでくれないか?」
 
『了解』
 
まもなく、新たなディスプレイが切り出され、宮崎真琴が顔を出した
 
「はい、はーい♪」
 
相変わらずの脳天気な真琴だった
それに真帆が言った
 
「これから、お邪魔してもいいでしょうか?」
 
「いいよ〜
 ラボにいるから〜」
 
真帆は「はい!」と応えると、スクッと立ち上がった
ディスプレイが次々と重なっていく
そして、1つになると、その姿を消した
それを尻目にデスクを迂回して、出口へと向かった
 
 
真琴のラボには、デスクも応接セットもない
床一面に白い絨毯が敷かれている
部屋の中心には、簡易タイプのテーブルと折りたたみ椅子が置かれていた
椅子はテーブルを挟んで、向かい合うように置かれている
 
いつもは椅子が1つしかなく、真琴はそれに座って考え、作業をしていくのだ
大体はチップの回線を描いたりしている
しかし、2mm四方のチップの回線も描くとなるとこの部屋でも手狭なのだ
そのチップのマスクは、それほどまでに詳細なのだが、それを手と指で描いて縮小するのである
それが数十枚重なって、CPUの基板となる
その設計図面が、回線図なのだ
 
その図面に従って、チップ用に特化された「オートマタ(全自動ファクトリー・オートメーション・システムの略称)」が作成するのである
当然として、その過程にはそれに基づく基本理論やアルゴリズムが存在し、それが仕様書となるのである
真琴は、そのようなアルゴリズムを生み出す能力に長けているのだ
それで優れた「アルゴリトミ」と呼ばれているのだ
 
真琴の専門は、このような電子工学の世界だけではない
国文学、特に古典においても優れた造詣を持っているのである
それは彼女が、アルゴリトミであることが起因している
 
その結果が生まれるためには、その原因がなくてはならない
その優れたアルゴリトミの能力は、因果を遡ることができるのである
特に短歌などがそれである
短歌は「五七五七七」の文字で表現する歌である
真琴は、それを「三十一文字(みそひともじ)」と呼ぶ
それは「5+7+5+7+7=31」であるからだ
 
そして、彼女は言うのである
このように歌が詠まれた背景には、その人の事情や環境、そして風景があった
それを見た人が、それを心に刻んで詠んだのだと。。
それならば、その歌のアルゴリズムを遡ることで、その時の人の姿が見えてくると。。
しかし、それは歌の解釈という意味ではない
そんなものに解説をつけるなど、無粋の極みだ
時に、そのような人を思い浮かべるのもよいのではないかと。。
 
それを三麒麟たちは、「因果の逆転」と呼ぶ
結果が生まれるためには、原因がなければならない
逆から言えば、その結果を生み出すためには、その原因を作ればよいということである
そう考えることで、その結果を生み出すための原因とその過程を考えればいいことになる
つまり、結果を構成する原因とその過程で干渉される要件を捕らえるというのである
その中で、その結果を遡及することで、それらの要件を拾い上げ、基となる原因を突き止める
そのアルゴリズムを元に、原因を作り、その過程を余すことなく加えることで、同等に結果が生み出せるというのである
その作業が、「因果の逆転」と呼ぶのである
 
例えれば、日本刀を考えてみる
日本刀の元は、「砂鉄」にある
砂鉄が原因となって、結果として日本刀を生み出す
砂鉄から「鋼(はがね)」が生み出される
その鋼も4種類が必要で、それを組み合わせて鍛えられる
その過程には、熱して叩き、焼き入れする作業が繰り返され、研ぎによって完成される
それに鍔をつけ、柄をつければ良いことになる
 
優れたアルゴリトミは、それを見ただけで、それがどのように作られたか理解できるとされる
そして、それをトレースすることで、その原因と過程のアルゴリズムを作り上げる
その原因となる砂鉄を生み出すことによって、アルゴリズムに従って作り上げるのである
だが、その過程の要因には、ある程度の仮定が入るため、綻びができ完璧なものではないという
そうであっても、90%以上の確率で作り上げることができるという
確かにそれは「紛い物」ではあるが、「真に迫る」ことはできるという
 
これが「因果の逆転」と呼ばれる一形態でもある
 
 
真帆は、真琴のラボの扉の前に立った
すると扉が音もなく開いた
 
その部屋は、床が白い絨毯で覆い尽くされていた
ただ、入り口の部分には、絨毯が敷かれていない
そこの部分だけが、本来の床が顔を出している
 
その床にスニーカーとスリッパが綺麗に並べてある
スニーカーは、出勤や退社、そして社外に出かけるためのものである
スリッパは、社内の移動用に使われている
 
真琴はラボにいる時は、素足で過ごしていた
だが、絨毯の上には、一足のスリッパが綺麗に並べて置いてあった
それは来客、つまり真帆のために用意されたスリッパである
真帆は、そこで靴を脱ぐと、スリッパに履き替えた
 
「おじゃまします」
 
「はーい」と応えた真琴は、キッチンで作業をしていた
キッチンには陶製のポットがあった
その様子を見ながら、そこに立っていた
 
「どうぞ、座って♪」
 
中央にある簡易テーブルと折りたたみ椅子を指した
 
真帆は「はい」と応えると、折りたたみ椅子に座った
そこに座ると、キッチンの真琴の姿が見えた
真琴は、楽しそうにポットを見ていた
 
まもなく、用意していたティーカップの湯を捨てると、それに紅茶を優雅に注いだ
それをトレイの上のソーサーに置いた
それを手にすると、テーブルにやってくる
 
紅茶を真帆の前に置いて、次の紅茶を自分の前に置く
それから、テーブルの中心にクッキーが入った菓子入れを置いた
真琴は「どうぞ」と言って、トレイをキッチンに戻して、真帆の向かいの椅子に座った
彼女は、ティーカップをソーサーごと手に取ると、カップを右手に取ると一口飲んだ
それに応えるように、真帆もソーサーごと手にとって、同様に飲んだ
 
「真帆、ゴメンね」と、真琴が始めに口を開いた
 
「は、はい?」と、真帆が聞き返した
それに真琴が応えた
 
「遥の言葉、きついから。。
 落ち込んだでしょ?」
 
「いえ」と真帆が俯いて応えた
 
「前は、そんなにきつい娘(こ)じゃなかったのだけど。。
 回りが馬鹿ばっかりだから、あのようになってしまうのね
 遥の目標は、沙矢さんだから、似てしまうのかな。。」
 
「いいえ
 遥さんの仰る通りだと思います
 遥さんの言葉に目が覚めたような感じがしました
 私は、鑑識官という仕事に胡座をかいていたのです
 鑑識官は、専門の1つに過ぎないのに。。」
 
そう言って、真琴を見つめて続けた
 
「今は、進退を考えないかんと思っています」
 
「そうなんだ。。
 だったら、海石榴さんに相談しておいた方がいいよ
 進退を考えるにしても、相手のあることだし。。
 その手続きや手順もあるから
 海石榴さんなら、上手くしてくれるし、助言もしてくれるから」
 
「はい♪」と、真帆が頷いた
続いて、相談の趣を話し始めた
 
 
今回の事件は、13年前の8人斬殺事件が発端となっている
その時、片倉二三子を除く亜流片倉家の面々が犠牲になっている
現在のところ、亜流片倉家の生き残りは、二三子だけになっている
 
その事件は、吉村修一という二三子の後見人が斬殺されたものである
凶器は、鋭い鎌のようなものと真帆は推測していた
 
ところが、捜査が進展するにつれ、NN県にいた亜流片倉家がMG県に移転したことに疑問が持たれることになる
その中で調べられたのが、その片倉家と吉村家の関係である
 
吉村家そのものは、代々、稲荷神社の宮司たる家系だった
その一方で片倉家は、神使とともにある家系だった
 
神使たる家系とは、神使的なものを使役する家系ではなかったかということである
その昔、管狐と呼ばれる物の怪を使役する家があった
管狐は憑きものの1つで、使役するのものに恩恵を与えてきた
それが託宣だったりするのだ
 
その片倉家が移転した理由なのだが、それは調査により明確になった
片倉家があった集落が、ダム湖のそこに沈んだからだ
だから、その地を離れなければならなかった
だが、移転するにしても、その地は村内だったり、県内でもよかったはずだ
その集落の人々は、村内や県内を新たな地として選んだ
ところが片倉家だけが、県外に移転し、MG県にやってきたのだ
 
次に気になるのが、助言と思われる丸森悟の「ニホンオオカミが絶滅した理由」である
それが何を意味するのか、真帆には理解できなかった
情報技術や鑑識技術の熟達した彼女であっても、それについては認識の範囲外だった
そうであっても丸森の言葉は重かった
それには大いなるヒントが含まれているように感じるのである
それに片倉家が移転した理由が含まれているのではないかというのである
 
それに真琴が尋ねた
 
「生きとし生けるものは、与えることで死に、与えられることで生きる」
 
。。という言葉を知っているかというものである
それに真帆が応えた
 
「はい、知っています
 食物連鎖を表現した言葉です
 自然循環理論の究極の言葉です」
 
「そのとおりよ
 その自然循環理論が示しているのは。。
 自然界には、捕食するものがあれば、被食されるものがある。。ということだ
 それを図で示すとピラミッド型になる
 そのピラミッドは、被食される側と捕食する側の数を示す形でもある
 それは下部の被食される側の数が多く、上位に当たる捕食する側の数が少ないことを意味している
 その循環理論のピラミッドは、上位に進むにつれ、個体数が少なくなることを示している
 また、被食される側も数が多いとはいえ、その場に集まっているわけではない
 そして、被食されないことは、自分を守るということだけでなく、その子孫を残すことが本能して義務づけられている
 また、捕食する側も、生き延びるためには、被食生物を狩らなければならない
 自然界とは、そういうものであり、被食生物も補食生物も、そのDNAを残すのに必死なのだ
 だとすれば、捕食生物も被食生物の個体数に比例するように、その行動範囲は広くなるということだ」
 
「はい
 それにどのような意味があるのですか?」
 
真帆の言葉に深い溜息をついた
 
「真帆。。
 アンタは、ホントに専門馬鹿だね
 物事をそんなに狭視眼的に見ていたら、道を誤るよ」
 
「は。。はい」と、応えたものの、納得がいかないらしい
自分はマルチ鑑識官だし、広く見ているからそうなれた
そんな真帆を捕まえて、真琴は専門馬鹿と言った
 
「丸森さんの『ニホンオオカミが絶滅した理由』というのは、それを指している
 丸森さんは、生物学者であることは、知っているよね
 生物学というのは、生物を構成する細胞やDNAから始まり、病理学や薬学のみではなく多くの分野の知識が必要だということだ
 特に生命工学となれば、その生物の進化、退化という長い歴史と、その環境というものを見なければならない
 例えば、丸森さんならニホンオオカミのDNAから、クローンを作ることはできる
 だが、その後は。。ということになる
 ニホンオオカミは、この国土の環境では生きて行けないということだ」
 
 
 
20130530
 
 
 
鵺が鳴く夜は恐ろしい(Night is terrible on the day when NUE calls)
 
 
第6章 科学者の品格(Dignity of Scientist)
 
 
Chapter 19

 
 
その日、折笠真帆が休暇をとったことから、特別科学捜査研究所の森真一研究員も休暇を取得していた
真帆の助手を自負している彼にとって、彼女が休みである以上、することがないという思いがあったのである
だから、休暇を申請した
 
彼は1度研究所に出向き、真帆が休みであることを確認してから、休暇を申請して出かけて来たのだ
だから、この時間になった
 
彼はTY町にある13年前に事件があった屋敷跡にいた
自家用車である虚像を奥まで乗り入れ、それを隠すようにしてから、その地に立っていた
チノパンにTシャツ、その上にブルゾンというスタイルだった
足下はスニーカーである
 
昼であっても、山林は鬱蒼としていた
屋敷跡の地面に立ち、深呼吸する
森の香りである
その精気が満ちあふれているように感じる
だが、それとて序の口なのだ
 
これから分け入る山林には、そのような精気で満ちあふれているのだ
森は、はやる心をおさえ、周囲の気配を探った
森は静かで平穏であるかのように思えた
 
タンと地面を蹴ると、ふわりと跳び上がった
最寄りの木の枝に立って、森の奥を見つめた
今のところ異様な気配は感じない
 
森は頷くと、森の奥へと枝から枝へと跳んで行った
上天気の光が、葉の間からもれ、美しい光の文様を生み出していた
 
その中を森が進んで行く
やがて、その光の文様の中に魍の姿を見た
奥に進むにつれ、その数を増やしていくのだ
 
魍とは、魑魅魍魎のことである
山や川に棲む物の怪とされている
だが、魍そのものは、色もなく、意志もない
かつては、山に生きた生物や植物の気である
姿を失いその気だけが残ったもの、それが魍であるとされる
 
ところが無色であるが故に、他の意識に影響されやすい
気持ちよいと感じるならそのようになるし、恐怖があればそれに染まって写し出す
しかし、それを心得ていれば、大きな味方となる
 
魍を認識するということは、その山を認識するということである
そして、魍を受け入れるということは、その山を受け入れるということである
それとともに、その山に受け入れられたということである
自然に同化することで、その山の全てを知る権利を得ることになる
 
森は、それまでいた枝から地面に降り立った
そして、その場で両手を広げるて目を閉じた
魍の気配が身体に染みいってきた
心が自然の気配に満たされるのを感じた
 
山の気配を身体全体で受け止めていた
 
「うーん」と、思わず息がもれる
清々しい気分に、伸びをしてみた
周囲の気配に安堵した時である
山が爆発のような気配が伝搬してきた
 
それは、怒りと恐怖の気配である
何かが起きている
 
森は、その気配に向かって走った
木々の枝が作り出す道である
それを走り抜けて行く
その気配に向かって、走り抜けて行く
 
やがて、森は足を止めた
山の下り斜面である
その奥から恐怖の声を上げて、男が飛び出してきた
 
その様子を、森は高い枝から見下ろしていた
それを追って来たのは、熊だった
ツキノワグマである
 
普段はおとなしいはずの熊が、人を追い、襲おうとしている
何があったのか。。
男が転倒した
それに熊が襲いかかろうとしている
 
森は、熊と男の間に舞い降りた
突然の新手に、熊は動きを止めた
しかし、怒りにまかせて前足を振り上げ、森を払おうとする
 
森はそれを両手で受け止め、そのまま左にいなした
その反動で熊は、宙を舞い、そのまま背中から落ちた
 
「逃げろ!」と、森は男に叫んだ
 
「ここを去れ!」
 
その言葉に、男は逃げ去った
それに「2度と、この山に入るな!」と、男の背に叫んだ
 
そうしている間に熊は、体勢を立て直して、森に襲いかかってきた
彼の背から襲いかかってきた
前足を振り回してくる
 
森がザッと地を蹴って、跳び上がって躱した
宙で身体を翻して、間合いをとって着地する
そして、熊と対峙した
 
熊と目があった
その目は怒りに燃えていた
何があったというのだろう
 
熊が突進していくる
その熊に向けて、右手を開いて突きだした
その手で、熊の鼻を捕らえた
 
それで熊の動きが止まる
それとともに、熊の鼻の先を指で弾いた
熊は驚いたように怯んだ
そして、後退し始めたのである
 
熊の怒りが消えたのだろうか
それよりも、命の危険を感じたのだろう
じりじりと後退し、森に尻を向けると、そのまま藪の中に走りさった
その時、熊の尻に傷があり、僅かだが出血があった
 
それは、何者かが熊を傷つけ、煽ったのに違いないのだ
そうすることで、人を襲うように仕向けた
森は、そう考えた
 
 
一瞬、冷たい気配が伝搬してきた
右の藪の中からである
疾風のような鋭い気が向かって来る
 
森は後方に飛び退くと、疾風が彼の前を走り抜けた
森は、地を蹴って、高みにある木の枝に舞い降りた
そして、走り抜けた方角に視線を向けた
 
その直後、別に冷たい気配を後方に感じた
左方に飛び退いて、その疾風を躱すとともに、別の木の枝に飛び移っていた
それに続いて、前方から疾風が向かって来た
 
「早い。。」と思いながらも、それを右に飛び移って躱していく
そして、木の枝の道を山の奥に向かって走り始めた
 
それを追ってくる気配がある
あの疾風の気配だ
その気配を感じながら、走り抜けて行く
 
今、森が知っている情報といえば、追ってくる者が彼に敵意を抱いているという事だけだ
なぜ、それが自分に敵意を抱いているのか。。は、知ることはできなかった
今の課題は、それを探ることである
そのためには、その正体を把握しなければなならない
それがなくては、話すことすらできないだろう
 
そのためには、相手の攻撃の手を止めなければならない
そうしなければ、認知する時間も、話す時間も得られない
それには、それを一時的でも止めるためには、即効性のある一撃だ
それを実現するためには、相手の足を止める必要がある
対峙するか、後ろを取るかである
その上での一撃が必要だ
森は、そのタイミングを狙っていた
 
その時である
追ってくる気配とは別に、新たな気配が右方から飛び込んできた
 
「なに。。?」と、思いながら、森は上方に飛び退くことで躱した
それと共に、追ってくる気配が飛び込んでくる
空中の森を狙った攻撃である
 
宙に浮くと制御ができない
それが一般的常識である
だが、毎日の鍛錬がそれを可能にしている
身を翻すことで、重心を移動させて、それを制御する
それで相手の攻撃から逃れるのだ
 
「ふたりか。。」と、森は呟いた
それで、相手が思いがけない方向から攻撃してくる理由を悟った
 
空中での軌道修正をした森が、枝に舞い降りる
それを狙って、もう一方の攻撃がやってくる
それが彼に向かって飛んでくる
その手には、大きな鎌のようなものが握られている
それが振り上げられ、彼に振り下ろされる
 
森は、枝に降りることをやめ、そのまま下に落下した
そのため、彼を狙って振り下ろされた鎌は、空をきることになった
 
地に着地した森は、そのまま後方に飛び退き、藪の中に姿を隠した
それで息を潜め、周囲の気配を探った
その中で考えていく
 
「敵はふたりだ
 狙いは確実で、動きは想像以上に速い
 武器は鎌で、扱いに精通している
 それに見事な連携だ
 ちょっと、荷が重いかな。。。」
 
『救援を求めますか?』
 
フォレストの言葉に森が応えた
 
「まだだ」
 
『しかし、状況は芳しくありません』
 
「確かにな
 だが、まだ負けていない。。」
 
『それでは、手遅れになります』
 
「そうだな
 そうならないようにがんばろう
 オレが指示するまで、通信は遮断だ」
 
『了解しました
 しかし、その判断はシステムに任せてください』
 
「だめだ
 オレが許可するまで待て
 その時は、システム判断だ」
 
『了解しました』
 
その返事を聞きながら、森は舌打ちした
1つの気配は捕らえている
だが、もう一つの気配を見失ったからだ
 
藪の陰から、森はその気配に視線を向けた
それに彼が息を飲んだ
 
そこに立っているのは、女性だったからだ
白い肌の女だった
目鼻立ちが整った女だ
細い目があり、その中に黒い瞳がある
 
髪は白銀を思わせるように白い
美しいなで肩で、胸には美しい形を乳房がある
乳首が微かに肌色に染まっている
 
形のいいへその下には、白銀の毛で包まれた部分がある
足はスラリと伸びている
素足で草地に立っているのだ
 
その女は、若く二十歳前に見える
そして、その女は着衣もつけずに、その場にたっているのだ
その笹のような目を森が潜む藪に向けているのだ
 
その姿に森は釘付けになっていた
 
そんな時、頭上に気配が出現した
それが真上から、直線的に落ちてくる
それに風を切る音がした
 
森は反射的に左方に飛び退いた
身体を丸めて、転がるようにその場を離れた
 
その場には、白い男が立っていた
白銀の髪に白銀の陰毛である
生殖器はない
ただ、尻に尾があった
白銀の毛に覆われた尾である
狐のような毛の豊富な尾だった
手には、黒光りのする鎌を持っていた
 
森は身体を起こし、立とうとした
右の太ももに痛みが走った
 
ふと見ると、チノパンが切り裂かれている
その切り口から見える肌に、赤い直線が見えた
斬られたようだ
傷口から、僅かに出血していた
 
『負傷しました
 出血を確認しています』
 
「ふん
 こんなもの負傷に入らないよ
 紙で指を切ったようなものだ」
 
『しかし、報告は必要です』
 
「報告は、後でまとめてするさ
 ここにだって、無断で来たんだ
 ならば、全て事後報告だ」
 
『了解』
 
「よし、いい子だ
 しかし、2対1か。。
 これは。。
 ちょっと、荷が重すぎるかな。。」
 
『防御だけでは進めません』
 
「そうだな
 オレ様の本気という奴を見せてやるか」
 
『はい
 有限ゲームであれば、勝率は100%
 ですが、それが相手が1人であればの話しです
 2人であれば、勝率は60%になります』
 
「ほう。。
 負ける確率は、40%ということか。。
 そいつは分がいいな」
 
『しかし、安全は保証できません』
 
「ふん
 喧嘩に安全もへったくれもないだろう
 殴り合いに変わりはないんだ
 リスクはつきものだよ」
 
『了解』
 
フォレストの返事を聞くと、森は立ち上がった
その上で仁王立ちになって深呼吸をした
大きく息を吸い込む
まるで周囲の気を体内に取り込んでいくようだ
 
そして、「ウォー!」と、吠えて構えた
右手を上に掲げ、左手を腰の下において下に向ける
その上で、右足をドンと踏み出した
 
彼の身体に力が漲る
それと同時に強力な気が溢れ、周囲を包んだ
それが強大な戦う意思となって周囲に伝搬していった
 
それに白い男がビクリと身体を震わせた
そして、鎌を構えた
その威圧感に押されている
 
「虎形拳!」と、森が呟いた
 
 
 
20130524
 

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