|
すぐにN響定期乗り番のため、少しでもオーボエを吹く時間を取りたいといろいろ工夫し、結局金曜日に宇部入り。金曜日の朝練習してからのぞみで夜入った。土曜日は最終リハーサルが17時からなので、昼間ホテルでゆっくりさらう。すでにこのホテル(全日空)にも都合4回目の宿泊。今回、いつも山向きの部屋であったのが、始めて反対側に。
カーテンを開けると、目の前に素晴らしい光景がひろがっていた。港。
タンカーや貨物船がタグボートにかしずかれて入港、出港するありさまが一望で、午後は逆光で極めて美しい。夢中で望遠撮影を繰り返した。練習後、大急ぎでその港まで行ってみる。保安庁の小型巡視艇などをアップで撮影できるうえ、海の風がさわやかな印象深い時間だった。
5時から最終リハ。翌日は昼間の本番であり、展覧会などは金管もキツイので通さない事、そのかわりこの日に一度全部を通しておく事を話してから練習にはいる。
実はここからが自分としては不得意な局面に入ってくる。まず、立ち慣れていないことから、立って振るときに極端にお散歩(指揮台を歩き回る事)が多くなり、棒がみづらくなってしまうこと。座ってリハをしているので、立って振るのは不得意なのだ。よく自分の映像などを見るとあまりにも重心に安定が無いのでみっともないこと甚だしい、それをなんとか避けようとすると動作が硬くなる。
また、通しリハではいちいち停めて問題点を話したりできないため、オケにとってはついにおれのおしゃべりに惑わされず音楽に集中できる時が来たわけだが、こちらは必要情報をすべて動作で表現しなくてはならないこと、どうしても話さなければならない事は曲が終わるまで覚えておかなくてはならない事など、頭脳の使い方がこのあたりからかなり変化してくるのだ。
モーツアルト「後宮からの逃走」を始めるが、どうも自分が怖く、スコアにかじりつくようになる。いまごろになって、スコアの読み方の甘かった事や作品の理解方法が違っていた事などがどんどん噴出してきて怖くなる。目が使えない(オケを見る事がなかなか出来ない)状態になって、見た目にもスケール小さく陰気になっていることだろう。
自己嫌悪と反省と、このオケはいつも広上さんや田中良和さんなど一流指揮者を見慣れているわけで、そういう方に比べて自分のやっていることが徹底的に素人であった事などを(当然だが)今更に思いつめる。いつでも停めて、問題点を直して進めてゆくリハではスコアをじっと見ながらでもよかったのが、本番のシュミレーションに入った以上、もっともっとオーラを出さねばならないのだ。
いつも陥る「練習弁慶」(本番臆病)の症候群があらわれたのだった。
落ち込むのだが、進むしかない。
フルートとハープの協奏曲。ハープの調律が狂いがちだ。ソリストの御手洗さんは日常をタイのハープ学校(!)講師として送り、実家は下関で、楽器はそこから運ばれてきている。狂いやすいのも無理は無いのだ。
この曲は、相当熱心にリハーサルを重ねてきた。清廉で、上品で、活気と幸福にあふれたこの音楽像をできるだけ理想に近づけたいという思いが強かった。それを可能にしてくれるほど宇部オケの弦楽器は優秀だったのであり、先週は自分は管楽器の個別指導をして、弦楽器は団員さんの自主分奏をお願いして、さらに進歩をみていた。
茂木オケでハイドン等をやる場合にも同じだが、古典の弦楽器主体の音楽の場合には、まず刻みの方法、種類、積極性、正確さを整える。指揮ではなく刻みが全員の音楽の心臓になって支配するところが必要だからだ。刻みは低音にもあるし、第2ヴァイオリンにあることもあり、ヴィオラにもある。つぎにバスの動きを整理する。ここに、音楽にふさわしい強弱、演奏法、長さ(短さ)などが徹底していないと音から意味が消えてしまう。最後に旋律などの声部の音色や表情を整頓、イメージ化する。
こうしたことで、一見単純な古典のパート譜の演奏は非常に彩りに富み、すっきりとして、しかも楽しみに満ちたものになる。
まだまだ、大き過ぎてしまう場所や雑になる部分があり、この曲だけで途中休憩(調律)も挟んで1時間も使ってしまった。
ソリストもお疲れになったでしょう・・・
休憩後、中央アジア。この曲は難しかった。構成のバランスが見えないからである。冒頭と最後が非常に静かなので、中央にあるたった一度だけのTuttiがクライマックスで、シンメトリーなのかと思っていると、曲の後半には2つの主題が重なって作る美しい場面があり、ここに感情を持ってくるのがよさそうにも思える。もしそうするなら、中央のTuttiはその序のような意味になるのだが、すると前半で主題を提示し続ける部分があまりにも長く感じられる。イングリッシュホルンのソリストは「後宮」でもオーボエを吹いていてとても優秀でおまかせ可能。チェロセクションも高音域にもかかわらずしっかり弾けている。後半で重なってくるヴァイオリンの美しさはアマオケ離れしている感動的な音色。クラリネットの冒頭のソロはこの演奏会のひとつの見せ場になっただろう。エンデイングのフルートの最後の終わり方等を相談し、終了。いろいろ迷いながらも、解説演奏を含めたリハは、迷いを消せないうちに終わっていた。こういう絵画的小品をきちんと価値ある演奏できないと音楽家とは言えないのだろうが、自分には構成や様式の分析から演奏プランを作る癖があり、色彩性を才能で描いてしまうような音楽作りが出来ない。また落ち込む。
展覧会、初めて全曲を通す。
ここの金管セクションはプロのようであり、素晴らしい。その金管をばっちり振るのがこれまた不得意。カラヤンが指揮レッスンの最初の課題にしたというカタコンブなどで、自分の迷い棒がせっかくのメンバーにかける迷惑に思いをいたし、また落ち込む。
棒の上げ方、下げ方なのだ。画一的な速度で振り下ろすからマズイ。落とし方に迷いが有ると絶対に打点が合わない。いろんな指揮者にくらべて自分がまったく素人なみっともない仕事をしていることを思い、落ち込む。
夜はホテル向かいのインド料理で、開演前にもぎぎの「鳥尽くし」を演奏してくださるというメンバーにご馳走し、ビール1リットルのみ、早く休む。
翌朝10:30GP.後宮は暗譜で振る事にしたが、これで随分目を使えるようになった。
中間部分がまだちょっとコワイ。始めから覚えるつもりでなくてはダメだ。先日来た山下君が吹奏楽の小品やマーチまで全部暗譜していたすごみを思い、自分の卑小に落ち込む。曲を勉強するときに、大きな流れでつかんでいない、こまかいことと全体の構成は見ていても、部分部分の連続性のようなこと、時間と一緒に起きる変化に実感がない。勉強のしかたが間違っていた。先の課題をひとつ見つけた事になるだろうか。毎度思う事でもあったような気がするが。
12:20までリハ、すぐ楽屋でオーボエを吹き始め、1時半までさらう。
2時本番。思い通りにはならない。オケはすごく成長しているが、自分がそれに見合うインスピレーションとオーラを出せないこと、棒の技術のあれこれに思い悩み、迷い、おびえると言う状態が続く。いつも写真で靴の底とつま先があがっているので、絶対にそれをやめようと決意して、ピッタリ足を付けて振ってみるのだが、そうすると猫背になりますなあ。
難しい。
しかし、展覧会はこれもほとんど暗譜で振って、リラックスできた。音の良いホールなので、やわらかで美しい展覧会の絵になった。それぞれのソリストも、打楽器も、オケ全体も非常に出来がよく、今までで一番よかった。感動的なキエフだった。
アマオケは練習期間が長いので、毎週週末になったら展覧会を練習し、いつまでも終わらないような気がしているが、本番はやはり2時間であっというまに終わってしまう。
半年前に、初めて展覧会のスコアを開いてその複雑さに絶望したときから、こうして本番一度を振って終わってしまってみると、ずいぶん時間がたったもので、自分も随分変化したものだと思う。もっと勉強すべきだったという気持ちはいつもの事だが、少しづつ前に進むしかないと納得するのもいつものことだ。
アンコールのサンダーバードがとても受けて、会場販売の本やCDもサイン会も好調だった。
最近、振るときにはほとんどなにも食べないのだが、空腹で打ち上げに行き、かけつけ3杯ビールを飲んだら思考能力が無くなり、スピーチでいきなり落語を始めたり、弦楽器の皆さんは管楽器奏者の指揮で演奏するのは嫌でしょう、などと(いや、たぶん少しはそうではあるのだが、このオケではとても温かく歓迎して下さっていた)謙遜のつもりが僻みに聞こえるような馬鹿を言う。チェロの栗林さんが心配して駆けつけてきたくらいだった。スイマセン。全く、ここの皆さんの温かさに対して自分の人間性は貧しい。小さな表情ひとつでも指揮者はすぐに貧相な本質の馬脚を現す。自分は今回毎秒そういう愚を繰り返していた。
それでも、低弦、打楽器、セカンドヴァイオリン、ヴィオラは自分が非常にこだわりを持っている楽器であり、そうしたイメージのお願いをこのオケは面白がって、演奏に反映して下さった。感謝したい。余裕もあり、知的好奇心もあり、熱意もある。優れた指揮者たちを迎えている事でもあり、数年後にはかなりの名門に成長するのではないかと思います。
こっちも、はやく、リハーサル弁慶を卒業して、リハも面白く、本番も爆発!奇跡!という指揮が出来るようになりたい。そのためには暗譜だろうな。まもなく振るブラームス1番を暗譜できるか、挑戦しなくてはならない。
二日酔いでのぞみにのり帰京、楽器をさらい、明日からの楽隊生活に備える。それがツライとも、いやだとも、もう言っている場合ではないくらい、時間がない。マーラー9の第1楽章の終りのeが頭に鳴り響く。
|
本当に楽しい時間をありがとうございました。なかなかオケがご期待に添えなくて茂木さんをなやませてしまったようですね。今回、オケにとって特に木管にとってとてもいい経験になりました。いろいろとありがとうございました。これからのますますのご活躍を期待しています。
2006/9/4(月) 午後 9:58 [ まな ]
ありがとうございました!中央アジア名演奏でしたね。素晴らしい透明な音色で安定感もあり、絵画的でよかった。オケは本当に素晴らしくて、さすがはもっとも尊敬する広上さんの振ったオケです。いま外山先生に習っているのも広上さんのアドバイスによるものですからね。 展覧会、実は「ビドロ」の隠れた意味を、圧制に黙々と従う民衆、というニュアンスでムソルグスキーが扱っていたことを知り、この音楽の中核にあるもっとも本質的な歌として捉えていました。弦楽器のユニゾンはここしかない!とか絶叫して(GP)しまいましたが、直後に「シュミレとサミュエル」があったので、あら〜〜〜〜〜〜〜まちがえた〜〜〜と、恥ずかしい思いでいっぱいでした、というスピーチをするつもりでしたのですが。 生きているうちにまた呼んで下さい。涼しく、上品で優しい皆様に再会できるのを楽しみにしております。
2006/9/5(火) 午後 8:12 [ 茂木大輔 ]
あっ!教えてもらった裏技で書き込み出来ました。やった〜。
2006/9/5(火) 午後 8:12 [ 茂木大輔 ]
HNじゃわからないですね。上の相方のほうです。この度は、一生懸命オケを引っぱって良い演奏会にしていただきありがとうございました。もっと、茂木さんの描きたい絵に近い演奏がしたかったのですが、録音を聞き直して自分の実力の無さに落ち込んでます。次こそは...デス。宇部オケはもっと古典派の曲をどんどん取り上げていってほしいので、茂木さんの好きなハイドンの交響曲などで演奏会をしたいですね。たのしい企画があれば、是非お願いします。
2006/9/6(水) 午前 0:38 [ ばかぼん ]
ありがとうございました。ハイドンも英雄もトロンボーンないので、幻想やボレロや春の祭典なども交えつつ、一部古典派交響曲、というプログラムがよいでしょうね。またぜひなごやかなご夫婦の多い宇部オケにお邪魔できる事を夢見ております。お疲れさまでした。もぎぎ
2006/9/6(水) 午後 10:37 [ 茂木大輔 ]
茂木先生、この度は私達のために貴重な時間割いて頂きありがとうございました。先生にご指導頂いた時間は私にとって至福の時でした。特に先生のモーツァルトの解釈は私の心に新鮮に響きました。今回は先生とお話しすることがあまりありませんでしたがまた機会がありましたら先生とお話ししたく思います。本当にありがとうございました。
2006/9/7(木) 午前 2:52 [ ふじの ]
いや〜、本当に素晴らしい演奏ありがとうございました。ご主人様ともども、いつも非常にしっかりご覧になって下さっているのでとても安心で嬉しかったです。会話たしかに足りないので、是非またお願いします。都会に戻り、すっかり多忙な時間の中でむしろ退屈しています・・・皆様にくれぐれもよろしく!
2006/9/8(金) 午前 8:15 [ 茂木大輔 ]
知りませんでした・・次回は是非!(宇部市民より)
2006/10/29(日) 午前 0:56