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ごあいさつ 本日はようこそいらっしゃいました。 ヨーロッパの街では、クリスマス(イエスの生誕)を待ち望むこの季節(アドヴェント)に、普通の日常とは少し違ったコンサートが沢山開かれます。 少し違った、というのは、日頃のマーラーやチャイコフスキーなどの大きなシンフォニーに代わって、バッハ、ハイドン、モーツアルトたちの小さな編成のオーケストラを中心に、いろいろな楽器のソロを楽しむ「室内オーケストラ」のコンサートが盛んになるということなのです。 実は、音楽の歴史的には、この季節(待降節)と復活の前の時期(四旬節)は古来、断食なども行われたそうで、オペラの上演が禁止されていました。 そのため、空いている歌劇場のステージを使って、歌の入らない、オーケストラのコンサート(チャリティー・コンサートなどの慈善目的)のみが許されて、それが次第に、オペラ中心の音楽生産からシンフォニー・コンサートという新しい習慣を作ったきっかけともなっているのです。 ハイドンに多くの交響曲を依頼したパリの「コンセール・スピリチュエル」というオーケストラもこうした劇場閉鎖期に活躍しておりましたし、ベートーヴェンのほとんど全てのシンフォニーはこの時期(12月)に劇場で初演されているのです。 そうしたオーケストラ・コンサートの歴史が、21世紀の今日まで受け継がれているのがヨーロッパの面白いところだと思います。 もちろん、教会では多くの「クリスマス・オラトリオ(バッハ)」や、「メサイア(ヘンデル)」などこの時期のための音楽が上演されていますし、放送交響楽団、フィルハーモニー管弦楽団、歌劇場管弦楽団などのメンバーは、大忙しで楽器を持って駆け回る、という時期にもなります。ちょうど日本で「第9」がそうであるように、文字通り音楽家の「書き入れ時」になるんですね。 常設で15人くらいの「室内管弦楽団」はヨーロッパにも数が少なく、演奏は、こうした種々のオーケストラのメンバーたちが「祝祭的」に、一夜限りのオーケストラを作って行うことが多く、メンバーたちの交流の機会にも「なっています。 今夜は、ぼくが留学中に数多く聞いて来たそういうコンサートを、是非日本でも行いたいという想いから、N響の同僚の皆さんや,「もぎオケ」での活動を通じて力になって下さっているソリストの皆さんにお願いして、長年お世話になっているリブロ・コーポレーションのお力を借りて、一夜限りのオーケストラを編成して行うものです。 バッハ、モーツアルト、ハイドンなど、限りなく美しい音楽を、家庭的サウンドとともにお届け出来ることをとても楽しみにしています。最後までごゆっくりお楽しみ下さい。 茂木大輔 曲目解説 ・バッハ:カンタータ第147番より・コラール変奏曲 “「主よ、人の望みの喜びよ」”として、ピアノ編曲などでも知られるバッハの名曲です。原曲のカンタータは、イエスがマリアの胎内にいる時に、同じく胎児であった預言者ヨハネを感じて踊った、という奇跡を中心に歌われるもので、バッハはライプツィヒでの改作のおりにこの合唱曲を追加しました。今日は合唱部分を管楽器に、オルガンのように編曲してお届け致します。 ・モーツアルト:ホルン協奏曲第1番・ニ長調 K412+514 ホルン独奏:福川伸陽 モーツアルトには4曲のホルン協奏曲があり、いずれも、ザルツブルク時代からウィーンでの晩年までの親友であったホルンの名手、ロイトゲープのために書かれています。この第1番は最後に書かれたものであり、モーツアルトが完成したのは第1楽章のみ。第2楽章の残されたスケッチを弟子ジュスマイヤーが完成したのは、あの有名な「レクイエム」と同じ経緯であるばかりか、ジュスマイヤーが中間部に「エレミアの哀悼」という悲しい賛美歌を挿入していることから、「ホルン協奏曲のレクイエム」のような位置づけになっています。 いみじくもモーツアルトの命日(12月5日)も最近でしたね。 先年より、日本フィルから移籍してN響の首席ホルン奏者となった福川さんは、現在、管楽器という枠を大きく超えて,日本で最も活躍する演奏家の一人になっています。この演奏会の当日もマチネーのリサイタルをしてから到着するという超絶スケジュールです。美しい音と妙技、ご期待下さい。 ・クライスラー:「愛の喜び」「美しきロスマリン」 ヴァイオリン独奏;礒絵里子 19世紀後半の天才的ヴァイオリニスト・作曲家であったクライスラーの有名な小品を、ヴァイオリンと弦楽オーケストラでお聴き頂きます。 クライスラーはブルックナーに作曲を習ったそうですが、あの1時間を超える交響曲を連発したブルックナーと、数分の愛らしい小品が今も世界中で演奏されるクライスラーの対比が面白いですね。親交のあったラフマニノフはこの2曲をピアノ曲に編曲しているそうです。ベルギー留学から帰国されたデビュー当時から親しい共演を重ねてきた礒絵里子さんのソロがとても楽しみです。 ・モンティ:チャルダッシュ ヴァイオリン独奏:Duo Prima(神谷未穂・礒絵里子) 仙台フィルのコンサートマスターという重職にもありながらソリストとして世界的に活躍される神谷さんと、礒絵里子さんは従姉妹同士で、2重奏ユニット「Duo Prima」として活躍されています。クライスラーと同時期に活躍したイタリアの指揮者モンティの名曲、超絶技巧が炸裂する、ハンガリー風舞曲の「チャルダッシュ」を弦楽オーケストラとともにお聴き頂きます。 ・ハイドン:交響曲第43番変ホ長調「マーキュリー(水星)」 第1楽章:Allegro(快活に) 第2楽章:Adagio(心地よく) 第3楽章:Menuett(メヌエット:フランス風宮廷舞曲) 第4楽章:Finale,Allegro”Merkur”(フィナーレ・快活に:「水星」) 「交響曲の父」として、なんと106曲もの交響曲を残し、このジャンルの形式や音楽的内容を、をあらゆる試行錯誤を経て完成に導いたのがハイドンです。 実はハイドンの初期にはそのオーケストラ(エステルハージ宮廷楽団)は15人くらいの編成で、その人数のために非常に多くの曲が書かれましたが、今夜のオーケストラはまさにその編成を再現しているものです(フルート1、オーボエ2、ホルン2、弦楽器数名づつ)。この時期のハイドンには隠れた名曲がおびただしく残されていますが、現在のオーケストラ演奏会(60〜100人くらい、ホールは2千人くらい)には馴染まないため、演奏されないのが残念です。今夜はその中でもとびきり美しい、可愛らしく、輝かしく、どこか温かみのある「水星」交響曲を聞いて頂きます。「音楽の大理石」と呼ばれるハイドン交響曲、15人のオーケストラ。皆さんはどうお聴きになるでしょうか。 休憩 ・モーツアルト:フルートと管弦楽のためのアンダンテ・ハ長調 K315 フルート独奏:竹山愛 「神童」としてヨーロッパ中を席巻したモーツアルトですが、20歳のころには人気が落ちて、就職活動のために旅に出なくてはならなくなりました。その途次のマンハイムで恋に落ちて行き足の止まったモーツアルトに舞い込んだのは、裕福なオランダ人医師(アマチュア:東インド会社)からのフルート協奏曲作曲の依頼でした。お金のためにイヤイヤ取り組んだにしては、あまりにも素晴らしい、成果中のフルート奏者が今日でも宝物にしている協奏曲や4重奏曲がこのときに生み出されました。東インド会社には感謝ですね。メセナは大事です。笑。 おそらく、そのなかでト長調協奏曲K313の第2楽章が(彼には)難しかったために、新たに書き直されたのがこの「アンダンテ」です。これまたほんとうに珠玉の名曲であって、ドジャン先生がヘタクソで良かった・・・・笑。 日本音楽コンクール1位ほか輝かしい経歴で、N響は勿論全国のオーケストラでも活躍する竹山愛さんに美しい音で独奏して頂きます。 ・アイブラー:(伝;ハイドン、またはレオポルト・モーツアルト); ベルヒルガルテンの木製児童楽器を伴うカッサシオン(「おもちゃ交響曲」) ザルツブルク近郊の山岳地帯にあるベルヒスガルテンという村は、ヒトラーが山荘を作っていたことでも有名な、風光明媚な高地です。ここでは18世紀当時、豊富な材木を背景として、子供たちのための木製楽器(教育用、玩具用)が多数生産され、ヨーロッパ中に輸出されていました。アオシマ、タミヤ、ハセガワ(50音順)日本のプラモデルのようですね。 ちょうど今のようなクリスマスシーズンには、これらの木製楽器は、楽譜などとセットになって、ヨーロッパ中に出荷されました。このための曲も、楽器会社から依頼されてザルツブルクの音楽家たちが作曲していたものと考えられています。通称「おもちゃ交響曲」は、その愉快なおもちゃ楽器の使い方や、作品が実は大変良く作られていることから、長い間ハイドンの作品として出版され、信じられて来ました。最近の研究から、まずモーツアルトの父レオポルト、ハイドンの弟ミヒャエル、と推測が変遷し、それぞれに楽章の数や調性も違いますが、今では無名の音楽教師アイブラーの書いたものというのが定説になっています。 ラッパ(木製)太鼓、うずら、水笛、カッコーなどを、本日の出演者である一流音楽家の皆さんが真剣に演奏いたします。クリスマスシーズンのザルツブルク、送られて来たプレゼントを開けて喜んで家庭で合奏する光景などを想像しながらお聴きになって下さい。 ・バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番ヘ長調・BWV1047 独奏: ピッコロ・トランペット:多田将太郎 フルート:竹山愛 オーボエ:坪池泉美 ヴァイオリン:神谷未穂 演奏会の最後には、本日の「総力戦」であり、かつ、クリスマス期の音楽にはつきものである高音専用トランペット、「ピッコロ・トランペット」(独奏:多田将太郎)という最終秘密兵器投入により、輝かしい音楽の喜びを味わって頂けたらと思います。 バッハは宮廷音楽家として勤務していた時代に作曲した数多くの協奏曲から、異なる独奏楽器の組み合わせによる6曲を選んで浄書し、ブランデンブルク辺境伯に寄贈しました。これは就職活動の意味もあったと思われます。この6曲は演奏されないまま綺麗に保存されていましたが、元の宮廷での創作は全て散逸してしまったことから、不思議な運命によって「救出」されたことになりますね。このうち第2番にはこの高音トランペットの、精神にも官能にも最大の興奮をもたらすソロがあり、その妙技に組み合わせたフルート(リコーダーが原曲)、オーボエ、ヴァイオリンという弱音の楽器が、見事にバランスを保ちながら美しい綾なす音楽を紡いで行く魔法のような魅力があるのです。 クリスマス期にはバッハの「クリスマス・オラトリオ」がありますが、ここで活躍する楽器たちは、トランペットは神を、オーボエは羊飼いを、そしてフルートは天使(精霊)を、さらにはヴァイオリンは(おそらく)「人間」を象徴しています。イエスの受胎告知・静かな生誕・東方3博士の礼拝などの喜びになぞらえて、この3楽章からなる音楽をお聴き頂くのも佳きことかと存じます。N響オーボエセクションの新人、坪池泉美のソリストデビューでもありますので、今後ともお引き回しのほど、よろしくお願い申し上げます。 では、皆様によいクリスマスと,よいお年が来ますように! 茂木大輔 |
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2015年12月04日
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