もぎぎの日常雑感
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(前半を先にお読み下さい)
*「オイリュアンテ」序曲
ウェーバーは生涯におびただしい旅行をしており、同時代のハイドン、(ウィーン定住後の)モーツアルト、ベートーヴェンなどがほとんど旅行らしいものをしなかったのとは強い対照を為している。プラハ、ドレスデンと楽長職だけでも次々と転職しているが、ウィーンにさえも来てオペラを書いた。それが「オイリュアンテ」。序曲は素晴らしいとしか言えない出来映えで、開始の興奮を司るアドラール(主人公)の愛の誓い、第2主題に当たる「愛のアリア」、静まってから出て来るワグナー「ローエングリン」風のヴァイオリンだけの合奏による「墓場と夢の主題」。このあと、長い時間をかけてテンポを上げて行く指示が、指揮者ウェーバーの姿を垣間見せる。クライマックスの第2主題はまさにワグナーの「教科書」になっただろう。驚くべき事は、このワグナー的・前衛的な楽器法を持つ音楽は、ベートーヴェンの「第9」より1年前に初演されたものだということ。ウェーバーの早熟の天才が際立つ。N響の永峰さん(本日のコンサートマスター)、銅銀さん(セロ)を始め、弦楽器の見せ場が満載です。
なお、初演でオイリュアンテ(大変な役である。)を歌った若きソプラノ、ヘンリエッテ・ゾンタークは、翌年に「第9」の初演も歌う事になる。
*シューベルト「ロザムンデ」より2曲
「オイリュアンテ」の台本作家は女流のシェジーで、このオペラの仕事をしたことから、間髪を入れず同じウィーンにおいて、あのシューベルトと協同で「ロザムンデ・キプロスの女王」という劇音楽を作っている。せっかくなので、少し立寄りをしてこのロザムンデを2曲聴きましょう。間奏曲と舞踏音楽を選びました。
いいですね〜。ひなびた風情、心にしみ込む静けさ。シューベルト好きですか?
じゃ、来年もお越し下さい!来年はこのシリーズはシューベルトを特集します。(2012年・9月29日)
*「オーベロン」序曲
ウェーバーの人生の終着点はこの「オーベロン」だった。ベートーヴェンの死より1年早い。当時不治の病であった結核に苦しみ、死を覚悟したウェーバーは、愛妻と子供たちのために遺産を残すため、ロンドンからの依頼に応えてこのオペラを英語で書き、病中なのに現地に出かけ、沢山の演奏会に出演し、初演を指揮し、数日後に亡くなった。39歳。
音楽史天才早世は多く、モーツアルト、ウェーバー、シューベルト、ショパン、メンデルスゾーンなど、本当に惜しまれることである。今一般的に入手できるこのオペラの録音はみなドイツ語なのが、ドイツ人たちがウェーバー最後のオペラをロンドンに渡した悔しさを表しているように思えてしまう。
序曲は、妖精の王オーベロンがうたた寝をする情景を、「魔法の角笛」の呼び声から描き、最終幕での凱旋の行進曲もまた弱音で。主部に入ってから盛り上がる音楽は、主人公二人が「海に出よう!」と歌う航海の歌。第2主題「愛の歌」は、またしてもクラリネットに。
なお、オペラ自体は、全曲を聴いて見ても、ちょっとイマイチ。せっかく「魔笛」のかわりの魔法のホルンを主人公ヒュオンは海で無くしてしまったりするし、大事な物語の転換点をなぜか語り手が話してしまう(舞台もなく、歌われない)などが不満になる。しかし、この序曲は本当に名曲で、ウェーバーはもしかしたら「史上最大の序曲書き」だったのかも知れない。
まるで短く充実したその人生と多くのドイツ語オペラ創作が、シューマン〜ブラームス、そしてワグナー〜リヒャルト・シュトラウス、マーラーへと繋がって行くあの巨大な「ドイツ・ロマン派」への序曲であったように。
ウェーバーの遺体は後任の楽長となったワグナーがドレスデンまで引き取った。ワグナーは4歳のときドレスデンで、ウェーバーの指揮で天使の役を歌ったが、ここでは本当に埋葬の役目を負う事になったのだった。
*メンデルスゾーン:真夏の夜の夢
オーベロン王は、シェークスピアの「真夏の夜の夢」にも登場し、それを劇音楽にしたメンデルスゾーンの名曲がある。ここでは、美しい「ノクターン」と、「結婚行進曲」を聴いて、音楽会を終りましょう。
すべての貴重な資料、御講義を頂いた音楽学の西原稔先生には格別の感謝を申し上げます。
皆様、ありがとうございました。
茂木大輔 |
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プログラム・ノート
今回の企画のメインであるウェーバーの音楽の魅力に気付いたのは、今勉強している東京音楽大学の指揮科で(2009年から学生)、指揮者コンクールに備えて「オーベロン」序曲が課題となっていた時期だった。
聴いていれば単に耳障り好く通過して行ってしまう、ほんのりしたムードの序奏部は、弱音のホルン・ソロに開始されるという緊張感のなか、繊細かつ大胆極まりない管楽器の組み合わせや複雑に入り組んだ弦楽器の書法、頻出するフェルマータ(一時停止)や極端なまでの強弱の幅広さによって、まさに指揮者殺しの難しさに満ちている。その緊張の序奏部が過ぎても、猛然と推進するオーケストラの響きは、常に上品なエレガンスと、意表をつく様々なトリック、大きな変化の振幅に満ちていて、「ただ拍子を振っているだけ」ではこの音楽のエッセンスが表現できない事は確実だ、と、専門的に指揮の勉強を始めたばかりの自分にも、よく理解できた。それゆえに世界中でウェーバーの序曲は指揮コンクールの、また指揮科音楽大学のレッスンの課題曲になっているのである。後で解った事だが、ウェーバーは、「オーケストラの前に立って、棒を振る事でオーケストラを指揮した、史上最初の人物、少なくともその一人。」だったのだ。
フィリアホールのコンサートでは去年、モーツァルトの歌姫を取り上げて、妻コンスタンツェの4姉妹を中心に企画した。この4姉妹の「実家」はウェーバーという苗字であり、実はカール・マリア・フォン・ウェーバーは彼女たちの従兄弟(父親同士が兄弟)に当たる。
しかし、幼いウェーバーがウィーンで夏休みにモーツァルトを訪れて一緒にセミを取りに行ったりお風呂に入ったりしたという事実はなく、ウェーバーは作曲上モーツァルトの直接の人間系図や影響下にはない。しかし、ウェーバーがのちに時代の空気とともに強く目指して行く事になった「ドイツ語によるドイツ人たちのための文学的(ロマンティック)なオペラ」の創出にあたって、モーツァルトの「魔笛」が最大の道しるべであったことは疑いない。
*モーツアルト:「魔笛」より序曲とアリア
今日はこの「魔笛」のこれまた偉大な序曲と、モーツァルトの作曲技法、表現技法の究極の一つである、パミーナのためのアリア「ああ、私は愛の終りを感じる。」から、音楽会を始めます。民謡を普通の役者(パパゲーノ)が歌うような、あるいは高い音を名人芸的に歌わせるような歌芝居であった「魔笛」に、この深刻高潔なアリア1曲が加わっている事は極めて重要で、役としてはただの純真なお姫さまに過ぎないパミーナは、突然「魔笛」の作曲家が深遠な芸術家そのものであることを(今も、全世界で)聴衆に思い知らせるのである。
本場ドイツの歌劇場で、たくさんのブラボーを浴びてこられた可憐な市原愛さんに御登場いただけることは、その意味でも最高の喜びであります。
*交響曲第1番
ウェーバーに交響曲がある、ということも、恥ずかしながら知らずにいた。
このシンフォニーはほとんど演奏されることがなく、きっと駄作か退屈(同じ意味だが・・・)なのだろうと勝手に思っていた。しかし、この企画のためにCDを入手して聴いた瞬間に、すでに数小節でこの宝石を拾い上げたという確信を得た。そっとポケットに入れて、ほかの有名な指揮者などがどんどん演奏しないうちに、ぼくがやってしまおう!とほくそ笑んでいたら、後に知った事だが、同じオーボエ奏者指揮者のシェレンベルガー(もとベルリン・フィル首席)がとっくに見つけてCDまで出していた。ヤツもやるなあ。
なにしろ世界でウェーバーを専門に研究している学者は一人もいないという状況だそうで、資料も本当に少なかったのだが、この曲がまだ10代のウェーバーによって、「オーボエ奏者が領主である」または「領主の貴族がオーボエの名手である。」宮廷楽団のために書かれた事がわかった。そのためなのか、この曲には全ての楽章に美しい、表現力に富んだ「美味しい」オーボエ・ソロが鏤められている。第2楽章の悲痛なアリア、第3楽章の、(メヌエットもスケルツオも飛び越して、とっくに新しいワルツを先取りしている!)舞踏会でイタズラが見つかったように逃げ去る子供、あるいはフィナーレの、フルートと替わり合うベートーヴェン風の第2主題。
今回、日本フィルの若き名手である杉原由希子さんにこのオーボエを吹いてもらえる事になってとても嬉しい。メータ指揮「第9」で急遽一緒に吹いて、その才能に驚いた。すでにファンも多い、日本オーボエ界期待の星です。
同じくフルートにはN響アカデミー出身でフリーランサーの宮崎由美香さん、ファゴットにはN響で最近は1番も吹いて素晴らしい演奏を続ける佐藤由起さん。いずれも若手木管界の才媛です。
*魔弾の射手
音楽の教科書にも載っていたような記憶があるが、ドイツ国民歌劇の嚆矢はこのオペラである。「魔笛」から「魔弾」へ、狩人たちの深い森、谷の奥にいる悪魔や素朴なドイツ娘アガーテやエンヒエン、やがてワグナーの「マイスタージンガー」につながって行く豊かで質実なドイツ音楽は、この序曲にあるホルン4本の分厚い響きと、クラリネットの澄み切ったソロ(アガーテの愛の祈り)によって幕を開けて行く。そういえば、ウェーバーはクラリネットやファゴットに沢山の協奏曲を書いた管楽器書法の達人だった。そのクラリネットには、N響の先輩で、つい最近退職された磯部周平さんをお迎えしている。この音楽会のスペシャル・ゲストと言えるでしょう。胸をお借りするつもりで指揮いたします。ホルンはわが最愛の旧友丸山君(日本フィル客演首席)が率いてくれる。こちらもお楽しみに。
*エンヒエン
続けて、もう一度市原さんにお願いして、その可憐なエンヒエンがおしゃまな娘心を歌うアリエッタを。
ここにもオーボエの助奏があり、ドイツの歌劇場ではオーディションに出る。
なぜかこれを聴くと、戦時中の潜水艦(Uボート)乗組員が、士官室の蓄音機から戦前の名歌手の録音を繰り返し聴いて遠い故郷の娘たちを懐かしんでいた情景が目に浮かぶ。ウェーバーが創造したのは、まさに、「良き国、故郷としてのドイツ」を象徴し、音にして持ち運び出来るようにした愛すべき音楽だったのだ。「第9」なんか聴いていたとは思えないわけですよね。
休憩
(続きます)
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フィリアホールのもぎオケシリーズ、第2回がまもなくです。
昨年はモーツアルトの歌姫たち、と題して彼の生涯を彩った多くの歌手たちにちなんだ音楽を特集しました。
そのなかでも、妻コンスタンツェ、かつての恋人アロイージアを含むウェーバー家の4姉妹は重要な役割を演じていました。この4姉妹と従兄弟にあたるのが、作曲家カール・マリア・フォン・ウェーバーです。
今年はこのウェーバーに注目し、彼がモーツアルトの「魔笛」を出発点とするドイツ語オペラを、より大きな、力強いものとして、ロマンティックに発展させようとした業績を、彼の知られざる人生を追いながら聴いて行きます。
まず、スタートにはそのモーツアルトの「魔笛」序曲と、ドイツ語歌詞によって深い心情を描いた傑作であるパミーナのアリアを演奏します。
ソプラノは、本場ドイツの歌劇場で活躍する可憐で知的な市原愛さん。
「のだめコンサート」での出会いから数年、やっとスケジュールが取れて再会することができました。ドイツ国民歌劇としての魔弾と、本場歌劇場の舞台経験を持つ市原さんのコンビネーションは本当に楽しみです。 さて:すでに少年時代からオペラを発表し、宮廷楽長にさえ就任していた早咲きの天才ウェーバーが16歳で作曲した交響曲第1番は、ベートーヴェンの4番よりも前の創作でありながら、すでにシューベルト、シューマンの響きに届く斬新な、しかも大胆きわまりない名曲です。めったに聴くことのないこの曲には、依頼主であった貴族がオーボエの名手であったことから多くの美しいオーボエ・ソロが織り込まれています。今回は、もぎオケに、日本フィルの期待の新人:杉原由希子さんをお招きして、これらのソロを演奏していただきます。お楽しみに!
ウェーバーがしかしヨーロッパ全土を一夜にして魅了したのは、歌劇「魔弾の射手」の成功でした。
ドイツ語による台本、森、狩、伝説、魔法、恋人の救済の祈りなど、この後の19世紀ドイツ・オペラを一気にワグナーまで導いて行く方向性が、このオペラによって確立されたのでした。
ここから序曲と、再び市原さんによってかわいらしいエンヒェンのアリア(ここにもオーボエ・ソロがあります。)を聴いて頂きます。
以後、ウェーバーの傑作オペラ「オイリュアンテ(ウィーン)」と絶筆となった「オーベロン(ロンドン)」それぞれの画期的で楽しい序曲を追いながら、音楽会を進めます。
台本や題材を共有し、「ドイツ・ロマン派」の音楽を「魔法」というキーワードのもとで創り上げていったシューベルト(ロザムンデ)、メンデルスゾーン(「真夏の夜の夢」)の音楽にも立寄りながら、秋の午後の一日を素敵な音楽で過ごして頂こうと思います。
なお、演奏会に先立つ日程のなかで、学術的な御教授を頂いている音楽学の権威であり、桐朋学園音楽部長である西原稔先生の御講演も予定しています。(10/20:午後6時よりフィリアホールリハーサル室)
カール・マリア・フォン・ウェーバー
モーツアルトの従兄弟として旅芸人の家に産まれ、ベートーヴェンと同じ時代を生き、ベートーヴェンよりも先に世を去ったことが信じ難いほど、そとの音はロマン派の新しい夢と響きに満ちています。
少年時代にオペラ作曲、宮廷楽長を歴任、2つの交響曲を数週間で書き上げ、ピアニストとして世界を回り、プラハ、ドレスデンなど超一流歌劇場の監督に就任。「魔弾の射手」をはじめ、多くのドイツ国民歌劇を創作し、結核に苦しむ。最後は、家族のために死を覚悟し、遺産を残すためロンドンからの招聘に答えて英語で「オーベロン」を作曲、ロンドンで初演直後に客死した。ワグナーは4歳のとき、ドレスデンで楽長ウェーバーの指揮で天使の役を歌ったことがあり、終生ウェーバーを深く尊敬していた。ロンドンからウェーバーの遺体を引き取って埋葬したのはワグナーである。
19世紀ドイツを深く彩った魔法、妖精、伝説、変身、楽器などを含む「魔法オペラ」の時代に、「ドイツ・ロマン派」はその芳醇な世界を花開かせて行ったのである。
みなさま、ぜひお越し下さい!
もぎぎ
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